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序章


 夏の日差しが皮膚をじりじりと焼く。暑い。


 ・・・ここはどこだ?


 「高久(たかひさ)、お前はここに残れ」


 ・・・鈴木警部・・あなたは・・・もう・・・。


 「それと、これを持っていてくれ」そう言って警部はカフスボタンを俺に渡す。


 「娘から初めてもらったものなんだ、なくさないでくれよ」そう言うと拳銃を手にして突っ込む。





 何発もの銃声


 鈴木警部は防弾チョッキを着けているがそれでも何発か貫通している。


 木造家屋の中に鈴木警部が突っ込んでいき、そして6歳くらいの子どもを担いで高久の元に戻ってきた。


 「あんまりいい役じゃないな刑事なんて」そう言いながら顔は笑っていた。


 その言葉が鈴木警部の最後の言葉となった。





 目が覚める。


 またあの夢か・・。


 高久琉鬼(るき)


 警視庁の巡査長で今年で27歳になる。


 高校を卒業してすぐに警察官になり今年で9年目だ。


 独身寮に住むのも居心地が悪いと去年から東京北区にある滝野川というところで1Kのアパートを借りた。月の家賃が35000円という破格だけあって女の子を呼べるような部屋ではない。


 脂汗をかいているようだ。


 「鈴木警部・・・」


 鈴木とは刑事課に所属したばかりの頃に相棒になった。捜査のいろはも教わったし鈴木の家族にも紹介してもらった。


 テーブルの上からタバコを取り出して一服する。


 琉鬼が独身寮を出たのは自由にタバコを吸いたいというのもあった。独身寮では喫煙室でしかタバコが吸えなかったからだ。



 スーツに着替えて池袋に向かう。通勤はバスだ。


 琉鬼が所属しているのは警視庁池袋警察署


 場所は東京都豊島区にある池袋駅西口から徒歩5分といった所にある。


 池袋署に着くと同僚に挨拶をしながら更衣室に向かう。


 あちこちから視線が飛んでくる。


 決して人気者のそれではない、かといって軽蔑というものでもない。


 一番近いのは(あわれ)みだろうか。





 「よ、死神!」琉鬼に声をかけてくるのは同期の佐藤巡査部長だ。


 「死神はやめてくださいよ部長」


 「しかしなあ...、まあ、そうか、悪かった...」


 「いえ、否定はできませんので」


 


 制服に着替え終わった琉鬼が向かったのは遺失物を取り扱う部署だ。


 琉鬼は警察官になった後その資質を見抜かれてすぐに刑事課所属となった。そこで数々の凶悪事件を解決したが、琉鬼の相棒になった警察官が立て続けに3人殉職(じゅんしょく)した。


 そこから“死神”とあだ名が付き誰もが琉鬼の相棒を断った。


 琉鬼は刑事課から外され今は遺失物係となっている。


 


 遺失物取り扱いの実務は外部委託され民間業者が窓口対応してくれている。


 琉鬼は何か判断を必要とする事案が発生した場合の調整役だ。


 一言で言えば暇だった。


 窓口業務をしている女性の愚痴を聞くことが仕事と言えばそうなのかもしれない。


 27歳の警察官で髪の毛はウルフカットにしている、顔立ちも悪くない。それに加えて独身だ。


 窓口業務をしている女性からはそれとなく誘われることもある。


 その度に「大切な人がいるので」と言っていた。


 「もしかして涼葉(すずは)ちゃんのこと?」


 「涼葉は大切な人の娘さんですから・・」


 そう言うと事情を知っている人は何も言えなくなる。





 「高久おじさんいますか?」夕方の6時を過ぎるころに少女が池袋警察署を訪れる。


 身長は151センチくらいだろうか、髪型はボブにしていて眼鏡をかけている。制服は国立大学付属高校のものでスカートではなくスラックスを履いている。


 「おじさんはやめてくれよ」


 「あ、いた!」


 「今日はどうしたの?」


 「高久おじさんのことだからどうせろくなもの食べてないと思って」


 そう言うと涼葉はかわいらしいお弁当箱を渡す。


 「そうか...」窓口業務の時間は終わっているとはいえ女子高生と警察官がもめていると思われるのも気が引けるので琉鬼は素直に受け取った。


 「ちゃんと食べてね!それと明日は非番(ひばん)でお休みなんだから私に付き合ってよね」


 「ああ」


 それだけ伝えると涼葉は風のように池袋署から立ち去った。

琉鬼の勤務のシフトは当番(朝から翌朝までの24時間勤務)→非番(勤務なし)→日勤(朝から夕方まで)→当番→非番。というような流れで組まれている。


 拘束時間の長さと仕事内容の過酷さで警察学校の同期は何人も辞めていった。



 夜の8時からの休憩時間に涼葉の作ってくれたお弁当箱を開ける。


 たこさんウインナーや海苔で笑顔が描かれたおにぎりなど食べている人をほっこりさせるお弁当だった。


 ただ、見られるとちょっと恥ずかしいので琉鬼は急いで胃の中に詰め込んでいく。



 「彼女からのお弁当だからもっと味わって食べたら?」


 琉鬼が声のする方を見る。


 小津源花蘭(おづみなもとからん)巡査長、刑事課所属だ。 


 「花蘭さん、冷やかさないでくださいよ」


 「どうもね、琉鬼みたいな後輩見ていると何か言いたくなるんだよ」


 「涼葉ちゃんは・・・」


 「分かってる鈴木警部のご令嬢(れいじょう)だってこと」


 「そうですよ」


 「でも、あんたらの仲はそれだけじゃないんじゃないのかい?」


 「え?」


 花蘭が手に持った電子タバコを咥える。


 「本当に大切なら何もかも奪っちまいなよ、琉鬼」


 「参考にさせていただきます」

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