密室ははいらない
密室。
この部屋には窓と扉があるのだが、その全てに鍵がかかっている。
しかし、中には誰もいなかった。
外からカギを掛けた者もいない。
家主もいなかった。
ここはアパートの一室で、二階の端にあり、アパートの大家によると三人の入居者がいる。
「ただいまー」
そのうち一人が帰ってきた。
しかし、中に入れない。
大家に言って、鍵を開けてもらった。
一人は首をひねりながら、また出かけて行った。
そのうち、別の入居者が一人で帰ってきた。
しかし、中に入れない。
大家に言って、急いで鍵を開けてもらった。
別の入居者は、わきめもふらずに飛び出して行った。
そのうち、残りの一人の入居者が帰ってきた。
しかし、やはり中に入れない。
陰気な顔をすると、どこかへ行ってしまった。
そのあと、誰一人帰ってくることがないまま、アパートは耐久年数を迎えて取り壊された。
大家は年金暮らしで別のアパートに移った。
それから、その出来事があってから三年くらいが経過して、別のアパートに移った大家の部屋を、あの部屋の元の入居者の一人が叩いた。
「すみません、アパートが取り壊されているんですが、部屋に入れないので開けてもらえますか?」
大家は黙ってドアを閉めて鍵を掛け、布団をかぶった。