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ReNew ~void spec~  作者: 俯瞰視天
Chapter 1 辺境騒動編
4/18

003 クロエの異世界講座(オリエンテーション編)

お久しぶりになります。実はまだ書いてました。

サブタイトル変更しました。(2023/8/28)



「で、いつまでここにいるの?充実した一時を過ごさせると誓ったのだから、さっさと行動しなさい」


 ………おかしい。

 さっきまでお互いに握手を交わし友好を高めていたはずなんだが。

 そんな宣誓はしてないぞ、そもそも。期待をされただけだ。


 俺はまだ現実の、あの温室には戻っていなかった。

 戻り方が分かっていないため、当然なんだが。


 そもそもだ。


「お前の正体ぐらい気になっていたんだけど、ここドコ?」


 俺たちが立っている無彩色の公園。

 辺りの遊具や園外の建物、見上げた空や立っている地面さえにも色、陰影が無く寂しい印象を持つ。それなのに唯一この世界で色がある自分やクロエにはちゃんと影がある。

 空に太陽が無いにもかかわらず、だ。

 そんなとんでも現象が起きてるってことは、ここは夢の中だとも推測できる。


 かといって夢の中という割には、地面の感触や空気の匂いはしっかりと感じられる。

 ダメだ……。頭が痛くなってくる。


「………そうよね。魂獣になってから三日しか経ってないもの。それに、あそこの家にはまともな書物も無いんだったわね」


 エンリィの家で見かけたのは絵本しかなかった。棚の一つ分のスペースがぎっしりと埋まっていた光景を思い出す。

 ジャンルとしては例えば、英雄の冒険譚や騎士物語、各国に愛人がいる王子のハラハラしっぱなしのラブロマンスなどなど。

 ……最後のは本当に幼児向けか? アイツはちゃんと意味わかって読んでいるんだろうか?


 いかん、話が脱線してきた。

 ともかく何も知りえなかった状況の中、ここで異世界の知識について触れるチャンスがやってきた。素直に教えを乞うことにしよう。


「頼む。色々と教えてくれ」

「………………」

「…教えてくださいませんかクロエさん」

「…………………」

「この哀れな私めにご教授ください!クロエ先生!!」


「うるさいわね! さっきから聞こえてるわよ」


 ……だったら反応ぐらいしてみてほしいものだ。

 まぁ情報欲しさに、急ぎすぎたのは事実なんだが。


「先生だってね、授業の段取りをあらかじめ考えてるものなの。……多分」

「記憶ないくせに……」

 俺もだけど。


「………しょうがないわね。それじゃ迷える子羊のために、先生が導いてあげましょう」

 あぁそれは嬉しいんだが……なんだか妙に乗り気になってないか?

 なんて事を思ったが、あえて言葉にはしないでおいた。

 ともかく、なるべく優しく解説してもらうことを祈ろう。無駄だと思うが。



================================================


 さて、クロエ先生の授業が始まってやったこと。

 それは公園の外に出て一緒に歩き回る、ようするに散歩だ。


 黒猫の散歩のようだが、もちろん俺たち以外に人の気配はない。

 辺りは変わらず色の無い世界。

 生気も活気も無いというか。


「なぁこの街、お前にはどう見えてる?」

「自分の目がおかしくなったと思ってるならそれは違うわ。私にもこの街に色が無いことは分かってる。」

「……えーーっと他には?」

「他? そうね……特に見当たらないわね。何か気になってるの?」


 なるほど…見当たらないのか。

 つまり、コイツは影のことも、上空に太陽が無いことも、異世界ファンタジーには似合わない高いビルやセメント整備されている道路も気にしてないと……。


「この景観って、異世界じゃ当たり前なのか?」


 単純な疑問を彼女に投げかける。

 もしもこういう場所が異世界にも存在してるのなら、まだ自分にとっても馴染みやすいかも―――


「いえ全く」


 だよね~。期待の程を微々たる程度(くらい)に留めておいてよかった。


「そもそも貴方の前に現実(そと)で活動していた時は、建物に差なんて無かったわよ。猫の視点なんだから」


 なるほど。

 cat's viewだと大体どれも高いって印象か。それはそうだ。


「けど変ね。その様子だとこれが普通って思ってる? いったい何処の出身なのかしら?」

「日本っていう島国」


 首を傾げてるクロエ。

 あぁそうだろう。この異世界に日本なんて存在しないだろうさ、多分。

 ()()()()()()()()()こちらの世界で「日本」っていう名称がつくとは思えない。


「………え、ちょっと待って。もしかして記憶が残ってるの?いや篭魂術は失敗してるはず。でもこの≪世界≫の再現を苦も無く説明出来てそう。…そんなに賢そうには見えないのに?まさか………そういうこと?」


 そして理解できないことを自信満々に返答すれば戸惑うだろう。いま必死に頭を働かせてる彼女のように。

 ……ただ戸惑いすぎじゃないか?立ち止まって考えてるみたいだけど、頭の声が漏れ出てるぞ。


「私からもひとつ質問いいかしら」

「サラッと無視されてるようだからもう一度言おうか? ここはドコなんだ? こっちの質問に答えてからじゃないとフェアじゃないぞ」

「その言い分だったらこっちも私が何者なのかって質問に先に答えているのだけれど………まぁそれはいいわね。稚拙とはいえ、名前を授けて貰ったんだし」


 この数分で何回も暴言を吐かれてる気がするが、徐々に慣れてきてる自分がいる。

 ともかく先にこちらの質問に答えてくれるみたいだ。


「ここは≪世界≫と呼ばれる場所。人間のだれもが保有してる魂の揺りかご」

「ゆりかごって、まるで赤ん坊みたいに……」

「そうね。でも、ある学者は魂というのは出生から死に至るまで変質することは無いという持論を持っていたわ。その考えだと産まれた時から私たちの魂はずっと、揺りかごの中で静かな日々を送っているのではないかしら」


「≪世界≫の風景(かたち)はその人物の心象風景。記憶(イベント)はターニングポイントになった事象記憶。魂と≪世界≫、あとはそれを保管する肉体が合わさって初めて自己意識を持つ生命が存在してる」


 なんとか話についていこうと必死に頭を回す。さながらディーゼルエンジンのように。

 おそらく「鶏が先か、卵が先か」みたいなものだ。

 魂は生きるために必要なエネルギー。無から生まれた宇宙ぐらいのパワー……はあるか分からないが、そういう感じで生まれてくるんだろう。

 ≪世界≫は自己唯一の特徴の集合体、人生を送ることで精度が変わる作品みたいなものか。


 魂だけではただのエネルギーでしかなく、≪世界≫だけでは殺風景のまっさらな空間ってことになるんだろう。

 二つが互いに作用しあって、その時に人は生きていると言える。


「……こんな感じか?」

「ま、そういう認識で大丈夫よ。なかなか上手くまとまってたわね。はっきり言ってナメてたわ」


 ………貶されているのに褒められたことを嬉しく感じてしまっている。

 徐々に変なものに目覚めてきていないか、俺?


 一方、そんな女王様ならぬ女王猫は嬉しそうにこちらに顔を向けてきた。

 ただし、その目は俺という獲物をピタリと捉えて放さない。

 ネズミにでも見えてるのか。


「さてと、なら次は私の番よね」

 まったく俺は勘違いしていた。こちらが上手く考えを纏めて賢さアピールをしたところでコイツが見直すはずがない。そもそも見直したなんて口にしていない。

 というか、質問をさえぎったことをまだ根に持ってたのか。心が狭いお嬢様だ。


 心の中で深くため息をつく。その過程でもう一つ疑問が浮かんだが、ここはクロエを優先しておこう。ほったらかしのままだと、もっと恐ろしい結果になりそうだ。


「はいはい。答えるから、その監視する姑みたいな鋭い目を直してくれ」

「爪立てるわよ」

「スミマセンデシタ」


 こちらのジョークも通じそうにない。ここは、おとなしく質問だけに答えよう。


「で、質問ってのはなんだ。もしかして俺が記憶を持っているのか、とか?」

 こちらの推測に、ほんのわずかにクロエの瞳が揺れる。


「……そうよ。貴方、さっき自分の出身を即答してたじゃない。そんなこと普通ならありえない」

 目の前のクロエから何となく察する。コイツは俺に対していくらか警戒心を抱き始めている。いや、もしかしたら公園で顔を合わせた時からそれはずっとあったのかもしれない。


「正直な話、私は貴方が記憶を持っていると確信してる。だから……教えて。一体何者なの、貴方?」


 何者と問われても、俺が保持してる記憶はそこまで多くない。

 それに信じてもらえるのかも分からない。


 だが、クロエもかなり覚悟を決めて質問をしてきたのは見た雰囲気、声からも分かる。

 こっちもそれに真摯に応えるべきなのかもな。


「分かった。こっちも憶えてる限りのことを話す」


 言葉に出して、改めて決意を固めた。


「門沢恋、それが人間だったときの名前だ。俺はこの世界とは別の世界にある日本ってとこで生きていた。そこでの知識も多少ならある。憶えてることは大体このぐらいだ。どんな境遇で過ごしたのか、どんな人間だったのか、他のことは本当に分からない」


 目を逸らさずに自分を語る。

 たったこれだけの情報だが、彼女にとってはまさしく激震が走る状態だろう。

 いまにも取り乱して―――


「………………」


 あ、あれ?


「驚いて…ない?」

「えっ……いや驚いてはいるんだけど……なんというか、その……拍子抜け?」

「おいコラ」


 おっと、いけない。つい荒れた口上が出てしまった。

 反省反省……いや出来るか。


「し、仕方ないでしょう!もしかしたら前世の記憶をそのまま保持して魂獣になる初の検体にもなってたかもしれないんだからっ!」

「いやいや、こっちもお前の覚悟をだな……それに検体って、物騒すぎるだろ…」


 そうぼやくと、再び教師然とした黒猫はこちらの発言を見逃さずに、


「そんな感覚で過ごしてたら、命ないわよ」


――そう指摘した。



~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~



「……~………~~…… ………~……… …~………~……~~~…」


 ……何か、聞こえてくる。

 幼い声。優しい歌。凪いでいく心。


 うろ覚えなのか、所々に間奏のような部分を生んでいる。

 決して完成されている曲ではない。にも関わらず妙に心地いい。


 次第に肉体の感覚も戻ってきた。やはり黒猫の体に戻っていた。

 あの自分の≪世界≫から現実に帰ってきたという訳だな。


 にしても不思議な感覚だった。

 夢を見ていたのとは違う。実際に自分の意思で動いたり喋ったりしたからな。

 それでも、疲労は感じない。


(もしかしたら“明晰夢”っていうのもこんな感じなのか? でも、あれも夢なわけで疲れは溜まるはずだし。)


(ねぇ、明晰夢って?)


 明晰夢っていうのは寝てる時に夢だと自覚しながら見る夢のことだ。

 ……っておいおい。


(そういえば、あそこで会わなくても会話出来るんだったな。)

(まぁね。ちなみに≪世界≫に行けるのは眠ってる時だけ、なんてこともないわよ。魔術師だって研鑽のために行ったり来たりしてるし)


 ……魔術師。また色々と聞きたいことが出てきたんですが。


(ってそれより、明晰夢って何なの? 教えなさいよ~)


 なるほど。こっちが心に思ったことを言葉にしない限りはクロエには伝わらないと。

 良かった~。ひとまずプライベートは守られそうだ、多分。


「あれ? レンってば起きてる?」


 おっと、こっちでも話しかけられたな。

 もう目は開けてバッチリ覚醒はしていた。


 俺はエンリィに抱きかかえられていた。

 辺りは変わらずあの温室の中のようだ。


「おはよう。なんかさっきまで歌ってなかったか? 子守歌、みたいな」

「子守歌なんて歌ったら、レンまたねちゃうでしょ」

 …確かに。普通に納得させられた。


「なら、何だ? 妙に心地いい歌だったんだが」


 エンリィは目を丸くし、そして赤くなりながら顔をほころばせた。


「そか~。心地よかった、かぁ。エヘェ、実は自分で作ったんだぁ。しかも今」


 今度はこっちが丸くなる番だった。

 え、あれ自作なの? あんな良い曲なのに? しかも即興で?


(まぁ確かに聴いてると心が落ち着くような感覚だったけど。篭魂術しか取り柄がないようなお嬢様かと思ってたけど、これに関しては評価されるべき才能だと思うわ)


 なんとあの毒舌お姉さんのクロエにも好評だった。


「お前凄いな。あんな良い曲………」

 ここでふと気づいた。


「あれ? どんな曲だったっけ?」

「え~~!? すごいって言ってくれたのにぃ!そりゃ、わたしだってちゃんと作ったわけじゃないけどさ……」

「いや確かに良い曲だったんだよ!心にもちゃんと響いたし。けど………」


 メロディもフレーズも、まるっきり覚えてない。

 あんなに心に残るような印象を受けたのに……。


(クロエは覚えてるか?)

(……確かに、良い曲だって思ったのにどんな曲だったかよく覚えてないわ。ま、忘れてたとしても別に大して問題ってわけじゃないんだし)


 大して問題じゃない? どれだけ心が広く出来てるんだ、コイツ……。


(もしかしたら鎮魂歌の一種かしらね。そんなことより小っこいお嬢様の相手をした方が良いんじゃない?)


 そう言われ視線を向けると、幼子特有の膨れっ面をしたエンリィがまだ愚痴をこぼしていた。

 やれやれ。こういう所はまだ子供っぽい、ってそりゃそうか。

 まだ自分のやりたいことにひた向きに取り組んでいる女の子だったな。


「ならまた今度聴かせてくれよ。即興でもいいし、ちゃんと一から作ったものでもいいし」

 本当はそんな暇なんて無いはずだ。この世界の社会がどんな仕組みかは知らないが、この齢なら学校に通って勉強するなり、友達と遊ぶなりで勤しんでいるはずだ。

 その過程を充分に経ていないなら、その分のツケはどこかでやって来る。


 本来なら、今からでもやらせるべきなんだが………。


「うん!まかせて!」

 俺自身がもっと知るべきだな。

 この家の外のこと。エンリィのこと。今の俺やクロエのこと。


「ねえレン。ほしいものってある?」

「……急にどうした?」

「レンがこの家に来て何日目かでしょ? そういえばまだ何もプレゼントしてないなって」


 大体エンリィが俺たちを甘やかしすぎるんだろう。子供なら普通はたくさん与えられるもんだろうに、逆に与える側に自分からなっている。


「いや特には。それよりも自分の為に何かしたらどうだ? ご褒美でもなんでも」

「エヘヘ。やっぱりそうきたか~」

「?」

「わたしね、ピーちゃんたちにもこの家に来た時に同じこと聞いたの。答えはみんなレンと同じだったんだ」


 ひとつ追加。俺以外の魂獣のことについても知らないとな。

 今日のペカン先輩みたいに、少しずつ交流してみよう。


「で、結局プレゼントはどうしたんだ?」

「あげたよ。わたしがず~~っとくりかえし聞いたらみんな話してくれた」


 なるほど。つまり俺も何か要望を言わない限り、ずっとしつこく聞かれるというわけだ。

 ならせめて、俺にもエンリィにも得になるような物にしよう。


「……プレゼント、本とかどうだ? 出来れば絵本よりも教養書のようなもので」

 これなら外の世界のことも少しはこの家で学べそうだ。

 しかも一人+一匹が一緒に。


「……うん。うん!分かった!」

 元気な返事をしてくれた。

 その後、別に無理はしなくていいと念押ししつつ一緒に夕餉に向かうのだった。



(……ちょっと、私の質問忘れてない? だから明晰夢って…)


ここまで読んでくれてありがとうございます。

物語はまだまだ続く予定です。また次話もよろしくお願いします。

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