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ReNew ~void spec~  作者: 俯瞰視天
Chapter 1 辺境騒動編
3/18

002 無色の世界での出会い

書き直しました。



 ふと目が覚めた。

 気が付けば俺は仰向けに寝転がっていた。

 木で出来たベンチに身を預けていたため背中が痛い……。


 視界に映っているのは真っ白な天井。

 いや、目を凝らすと彩色を感じさせない空にも見える。

 あまりにも彩度が感じられず、遠近感もよく分からない。


 とりあえず上体を起こしてみよう。

 その途中でようやく気づいた。


 俺の姿が人間になっていたことに。


「おぉ……」

 手をグーパーと何度か開き、その実感を得る。

 手の平に肉球は付いていない。

 皺は見たところ無く、肌年齢は若いと予想される。

 記憶が無いはずなのに、なぜか懐かしく感じてしまう。


 どこかに鏡でもあれば顔も見てみたいところだった。

 「門沢恋」の時の記憶が全て戻るかもしれないし。


 門沢恋という無職の日本人。

 いま憶えてる情報がこれだけなのは、なんとも空しいものだ。


 しょぼついた目を擦りながら辺りを見渡す。

 たくさんの遊具が置かれている公園にいるみたいだ。

 砂場や滑り台、ブランコに鉄棒、…………あの跳んで遊ぶタイヤには名称があるんだろうか?


 ただ、そのどれもに色が無い。

 いや待て。もう一度辺りを注意深く見渡す。


 遊具どころか、地面や公園の外にある道、街並みの全てが無彩色だった。

 まるで、白黒テレビに映し出されているみたいだ。


「やっとお目覚めかしら?」


 すぐ傍から声が聞こえた。

 ツンツンとしている女性の声。

 すぐに分かった。黒猫になった時から自分にだけ聞こえていた声だと。


 そちらの方に目を向けると一匹の黒猫がいた。


 妙に既視感を覚える黒猫だと思った。

 それもそのはず……、


「………俺?」


 その猫は、朝起きた時に鏡で見た自分にそっくりだった。

 顔つき、体格、毛並み、何から何まで。

 そして当たり前のように喋っている。


 俺のアイデンティティが早い段階で奪われてしまって、ちょっと残念な気分だ。


 唯一違う箇所を挙げるなら瞳の色くらいだった。

 猫だった俺の瞳が青みがかった鼠色だったのに対して、対面の猫のは美しい金色で輝いていた。

 目の形も少し細まっているような印象で、この目で見下ろされた時には思わず背が伸びてしまいそうだ。


「……ちょっと。いつまでジロジロと見てるのよ。そんな情けない顔面をなるべく向けないでほしいわね。私、髭を伸ばしてる男の人は好きじゃないの」

「………………………悪い」


 遠慮なくぶつけられた言葉が深ぁく心に刺さって、思わず顎や口周りを触っていた。

 撫でるとザラザラとした感触があり気持ち良……じゃなかった、確かに手入れをしていないのが分かる。

 これが付け髭ならと期待したが、残念ながらそういうわけでもないみたいだ。


 それにしても、意外にもさっきの言葉が堪えているのか、俺の喋る気もかなり失せてきていた。

 色々と質問があったはずなんだが。

 というか言った相手は黒猫なのに、それを感じさせない雰囲気。

 まるで、目の前に座っているのは本当に()()()()()みたいだ。


 はぁ…、と黒猫が息を吐く。

「まぁ良いわ。何年ぶりかの人との会話だから、ちょっと警戒してたのよ」


 何年ぶり。人との会話。

 言葉通りなら、かなりのコミュ障か引きこもりってことか?


「……ねぇ何だか変なこと考えてない?」

「いやいや、そんなことないですよ~」


 ちょっとした意趣返しだ。

 ……ふぅ、何とか調子が戻ってきた。

 今ならいくつか事情を聞き出せそうだ。


「あのさ、お前は一体何者なんだ? 俺にしか聞こえなかったあの声、あれは間違いなくお前だよな?」

「声って例えば? 直近で私はどんなことを言ってたの?」


 最近だと……


『あらあら、やっと拙い頭を回しだしたのかしら?この体たらくじゃ、随分長いことに定評のある私の気もほんの数分で滅入っちゃうわ』


 ……………………うん、この喋り方。

 常にこちらを見下しているような感じ。

 間違いなくコイツだ。


「煩わしいわね。心の内の言葉が漏れやすくなっているのは」

「やっぱりお前だったか……」

 煩わしいとは口にしてるが、その面持ちには小悪魔のような微笑を浮かべていると思う。声の感じからして反省しているようには思えない。


 かと思えば、すぐに表情を正しまっすぐにこちらへ顔を向けてきた。


「もう一つの質問に答えましょうか。と言っても出来る範囲での推測でしかないけれど」

「?」

 ただの自己紹介の前に、そんな風に一言言う彼女。


「だって私も魂獣なのよ。そもそも人間だった頃の記憶なんて何も残ってないわ。だから話せるのも黒猫として活動していた時間分だけ」

「……じゃあ名前とか、無いのか」

「別に大して困らないわよ。あったところで他の誰かに紹介する機会なんて無いんだから」


「いや、現在は俺がいるだろ」

「───────」


 何を驚くことがあるのか。

 別に俺はコイツとのやり取りをこれっきりになんてしない。

 だからこそ、そうだな……名前…………。


「よし!一緒に名前を考えるぞ」

「え、えぇ……?」


 明らかに狼狽えている黒猫。

 さっきまで会話の主導権を握っていたとは思えないほど戸惑っているご様子。


 とは言え、俺も自分がしている事は何だか俺らしくないとは思う。

 こんな風に、自分から何か提案して周囲を巻き込むなんてことはエンリィ達の前でもしてこなかった。


 ただ、


 大して困らない、なんて口にした時。

 コイツが一瞬、哀愁を漂わせていた気がした。


 瞬間。

 “なんかイヤだ”と。

 心の中で呟いていて、気づいた時には勝手に動いていた。


「名前な…てそんな……でも…いのかしら…こんなこと……」

「ん? どうした? なにか案があるのか?」


「……いえ。自分の名前を『レンゲート』なんて決めた、あなたのセンスに任せて大丈夫か考えていたのよ」

「別に良いだろ!?それにこれは元の名前がだな……」


 門→ゲート

 沢→…無視!

 恋→レン


 で、レンゲート。愛称はレン。

 なかなか良いと思うんだが。点数的に赤点は回避していると思う。


 しかし、彼女は怪訝そうな表情を浮かべている(ように見える)。

 そうだな、黒猫だからってペットっぽい名前はナンセンスだから………


「……クロエ」

「………もしかしなくても、それって私の名前?」

「…………ダメか?」


 「クロ」よりも人の名前っぽく、「クロエ」にしてみたんだが、苦しいか?

 ……………さすがに安直すぎ?

 やはりここはもう少し具体的に詰めなければ────


「もぅ……それで良い」

「え?」

「だから。それで良いわ。たった今から私はクロエ」


 いや、考案した本人が言うのもなんだが、ホントにそれで良いの?


 いやいや良くはないか。

 現に彼女、半ばぶっきらぼうな返しをしてきたわけだし。


 だから、そう。

 彼女がどこか嬉しそうな貌をしてるように見えたのは、きっと俺の見間違いだったんだろう。


「オホン。……それじゃ改めて。俺のことはレンって呼んでくれ。よろしくクロエ」

「えぇ。どれくらいの付き合いになるかは分からないけど、充実した一時になることを期待するわ」


 まったく、そこは素直によろしくでいいのに……。

 そう思いながら、俺たちは手を取り合っていた。


 人のように握手とはいかず、猫がお手をするような光景。

 主従なんて関係ではなく、奇妙な同僚としての付き合いがこの時から始まった。



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