幸せへのチケット(5)
忙しすぎて師も走る12月、慌ただしい中皆様如何にお過ごしでしょうか? 寒さも本格的になる頃なので、お体にはお気を付け下さい。
今月もまた本作で御眼通りが叶い、感謝感激の東の外記・しげき丸でございます。
さて、物語はソウジロウのみならず、登場人物の過去と現在の行き来が本格化致します。
筆者の記憶と情報収集と推理の限りを尽くして書いておりますが、無論フィクションなので、大幅に脚色いたしております(当たり前だ)。
しかし、物語上どうしても必要な処はそのままかもしれませんが、ここでもまたネトゲ番長のコネ権力を行使してます。
悪しからず。
まあ、みんなには、彼等って親しみやすいんだね。と思っていただければ幸いですが、侮辱誹謗中傷はお控えくださる様伏してお願い致します。
それでは本編をどうぞ。
新ログ・ホライズン
―第5話:幸せへのチケット(5)―
-1-
やたら広いキャンバス、無駄に豊富な学部学科。
幼児教育学部などと言う学部も有った、4年制の某私立大学。
普通なら保母教育には2年の短大過程で充分だったが、文部省の幼児教育指導員になるための専門教育も受けれるという事で、昨今の最強の勝ち組で有る所の上級国家公務員になる事が出来る。と言うのは家族親戚に対する建前で、単に楽しい大学生活をたっぷり4年間楽しみたかっただけだ。その後の国家公務員試験にはワザと落ちた。
園児と一緒にエンドレスにバックグラウンドビデオに特撮作品を流し観ると言う、私の野望を捨てるなど愚の骨頂。
さて、当時新入生だった私は、ある噂を耳にする。
この学校には本物の王子様がいると言う。どこぞやの財閥の御曹司で、アメリカ留学帰りの帰国子女。他の凡百でがさつで幼稚な男共とは違う、完璧で洗練された物腰。スポーツも勉強もすべて優秀。
女子の多くは彼の事を遠くからマイ・ロードと呼んで崇め奉った。
だが、当時の同級生は誰も信じないだろうが、私はそんな他人が有り難がるアイドルよりも、お前は少年か? と高校時代の友達によくツッコまれるほどゲームだの特撮だのの趣味に夢中だった。いや、失礼、今も夢中である。むしろ大人買いする今の方が廃人。
ある日、私はおもちゃ屋に居た。
特撮のロボットとゲームを買う為である。
そこで俄かには信じられない光景を目にする。
噂の王子様、みんなのマイ・ロード先輩が、最近最終回を迎えたばかりの特撮番組の合体ロボ、ファイナル豪華全部乗せ究極合体仕様と、その後番組のシンプルな最初形態ロボを迷う事無く二つともカートに入れる所を。
私は彼と目が有った。普通ならば、こんな裏の顔を見られた隠れヲタクはお互い狼狽えるところだ。
だが、やはり彼は凡百の男では無かった。眼鏡を光らせ、傲岸不遜に鼻で見下ろしこう言ってのけた。
「高山君、だったかね? 本当はこれも欲しかったんだろう?」
「尊大かよ」
そう、私の手には新番組のシンプル最初ロボの箱のみが有った。無論全部乗せなんて神の如き贅沢に庶民の小娘に手が出ようはずもない。ここに戻って来たのは未練の為と一瞬で見抜く、悟りの妖怪と後に言われる洞察力は流石だった。
「今のは冗談です。ツッコミをするのが生まれながらの習性で悪気は有りません。所詮私は悪代官程度の小物。賄賂の前にはあっさりと膝を衝きます。マイ・ロード」
「マイ・ロードか。本当はミ・ロードの方がいいんだけどねえ」
「時空戦隊メビウスレンジャーのライバル、空間破壊王ベルゼビュートの仇名ですね。分かります」
「アメリカに渡る前に最後に生で見たシリーズさ。忘れようも無い」
「ビバ同志」
「ビバ同志」
ちなみに、彼は実は大学入学前に飛び級で向こうの大学を卒業しており、こちらの大学に再入学したのは『ここの教授からでしか学べない特殊な経営理論が有るから』の建前で、『向こうの大学は暇が無くて遊び足りない。やっぱ日本の大学、それも私立最高』との本音だった。
我々は魂の友と飲み明かしたのは言うまでもない。でもなんか自分に似過ぎてて逆にエロい仲にはならなかった。
お互い見た目はいいから相手には不自由しなかったし。
その後、就職して、その後お互い『はよ結婚せい』と周りにせっつかれる歳にもなった現在までも、友情は続いた。
-2-
そして現在。
「これが私の自信作、アガートラーム改、その名もシュヴァルツフィンガーです」
ロデリックはドヤ顔で語った。
「ちゃんと前の代用品の十徳ナイフ機能も組み込んでくれたんですね」
「ええ。苦労しました。そして無論語るべくも無いですが、この厨二で暗黒面に堕落したデザインには、持ち得るすべての技術と神経を注ぎこみました」
「ナイスです。ドイツ語と英語を無駄に織り交ぜた所もお分かりでいらっしゃる」
「いえ、何の、お代官には敵いませぬ」
「またそれですね。越後屋様」
これには僅かばかりの昔への感慨が込められていたのだが、当然ロデリックが気付くはずも無い。
「ただ、その他はオリジナルイベントアイテムと同じ、若干の能力補正と演出効果が有る他は、只の動く義手です」
「いえ、いいのです。元のフレーバー同然のアイテムだった当時と同じ、僅かに命中力を上げれば攻撃力が大幅に下がり、その逆もまた同じという、無駄に高い代償を払う所がいいのです。一番大切なのは無駄に湧き出る演出透過光です」
そんなアガートラーム自体も貴重な期間限定アイテムなので、奇跡的に入手してくれたこの場に居ないカラシンにも頭が上がらない。普通のユーザーからはそんなモノをわざわざ魔改造するなど、気が狂っていると思われるだろう。
「女性なのに、漢の溢れる浪漫を実にお分かりでらっしゃる」
「貴方こそ。機会が有れば我等特撮厨二連は、いつでも歓待しますよ。ただのマッドサイエンティストにしておくのは非常に惜しいですね」
ニヤリと笑みを交わし合う両者。ここにもまた別の意味で我が道を往く修羅共がいた(笑)。
「いやお前ら、それよりどう考えても俺達の作った精霊力石炭燃料複合使用蒸気快速艇『シュツルムリッター』の方がすごいだろう? シロエが図面に起こした排煙圧でタービンを回して発電するシステムも組み込んで、その電力を酸素取り込みや舵のアシストに使う事によって大幅な性能アップをだな、って聞いてるのか?」
ミチタカがこれから我々が乗り込む船を自慢し損ねてむくれる。大人気ない(お前が言うな)。
「あーハイハイ」
「そうですね」
「…………」
額に青筋を浮かべ始めたのでこれくらいにしておこう。
適当に保育園児をあやす要領で褒めちぎると途端に機嫌を直す。単純。D.D.D最高管理官なんて楽勝。面倒臭い事は基本リーゼに押し付け丸投げ。その方が彼女も喜ぶのでWIN-WIN。
「それではミ・ロードをお願いします。高山さん」
「ま、こんな事情だから、私も久し振りに私も古巣で代役するよ」
リーゼと櫛八玉が笑って私達を送り出す。リーゼのには、僅かに強がりが有ったが。
「それよりいいんですか、前の大鎌より性能のいい鎌も入手したのに、使い慣れていない得物で大丈夫ですか?」
リーゼが心配する。いい子だ。
「いえ、あの鎌は私にとって唯一無二のものでした。他の大鎌を使うくらいなら、この短剣と鞭で充分です」
リーゼは涙ぐむ。多分ミ・ロードとの思い出の品なのだろうと思っているのだろう。
それは違う。悪の女幹部役に浸れるアイテムなら何でもいい。他の鎌がファンタジー寄りで気に入らなかっただけ。
その点新たに入手した今の得物は、その暗黒面なデザイン、性能共に失った鎌を大きく凌駕する。ビバ厨二。
ロデリックは分かっているが、転移前に放送中だった神話戦隊オリンポスジャーのライバル女戦士、メデューサ大佐が持っているのに非常によく似ているのが最高にいい。シュバルツフィンガーのデザインは、その女戦士が片腕にごつい籠手を嵌めているのに、わざわざ似せてくれたのだ。
「それでは行きましょう。ミ・ロード救出部隊出発です」
高山を先頭に精鋭が船に乗り込む。何の精鋭って、厳選された特撮廃人共と言う名の精鋭だった。
かくて、D.D.Dクラスティ救出チームは、中国サーバーを目指して、一先ずシロエが向かったナゴヤと同じ西へと出発したのである。
何でも『特撮ガ●ガ万歳! ディメンション・デストロイ・ドミネイター、空間破壊王ベルゼビュート陛下救出乙!!』と、彼等は他に誰も聞く者が無くなった船内で謎の鬨の声を揚げたそうな。
うん。某悪魔の斧は、一番陛下の持ってた大戦斧に似ているからでつ。乙。詰将棋の様な斧捌きで無理矢理命中させている(フェンシングの達人が良く持つ技術)だけで、本当はゲーム中では剣より命中しにくい不利な武器なんですよねー。
きっと、一般のギルド員は、一生真実を知らない方が幸せだと思います。デ・デ・ド………なんて酷いオチ。
非常に遅ればせながら特撮●ガガドラマ化おめでとうございました。
こんなん書いてクラスティ(仮名)さんと、高山(仮名)さんに後で怒られないか心配である。
それを言ったら、一番カズ彦(仮名)からの報復が恐ろしいのだが、是非文句は原作者のままれさんに言って欲しいものである。俺がここら辺のお話を描くと、どうしてもアヤメ(仮名)さんのエピソード抜きには書けなかったんだよおお。
えー、大変お見苦しい筆者(達)の姿をお見せいたしました事を、心からお詫びいたします。
-3-
ハママツの夜の街を、ソウジロウとシロエは、男二人肩を並べ歩いていた。
なぜかシロエの両手には、名物ウナギの蒲焼の串がたくさん詰まった袋。
ソウジロウの手には、ビールだのジュースだのの瓶がこれまたたくさん詰まった袋。
「ゴメンね、ソウ。重い方持たせちゃってさ」
「前衛職の方が体力有りますから気にしないでください。それより、僕の方こそすみません」
ソウジロウとシロエは、なんとなく視線を向け合った後、それぞれ戻した顔を俯かせ、とぼとぼと歩く。
「「はあ」」
その溜め息は、エンシュウナダよりも深かった。
ハママツの高級宿、女子大部屋。
そこではサバトが繰り広げられていた。
「マヒル~、あれとって~」
「自分で取れよ、まったく」
そう言いながらも氷を入れた冷蔵箱からビール瓶を取り出し、床の上のクッションに座ったままのダリエラに渡す。
「はー、やっぱりマヒル男前ー。愛してる~。マヒルがタカラジェンヌだったらブロマイド百枚買っちゃう~」
「ま、いつもみんなそう言ってくれるな」
「マヒルみたいな少女漫画の理想の王子様、男にはまずいないのよね~。やんなっちゃう。あ、あそれとコルク抜きも」
「ほらよ」
「瓶ビールってムカつくわよね~。せめて王冠タイプを大地人にも早く普及させなくちゃ。面倒臭いッたらないわ~。いちいちドンペリかよとキレたくなるわ。やっぱ缶ビール最強。よっと」
お馴染みなりつつある光景なのだが、大学生であるアヤメやアカツキはともかく、セララは何度見ても慣れない。
「プは~、この一杯の為に生きてる~。たまんねーわ、モクも喫いテー」
マヒルがじろりと睨む。
「ハイハイ、高校生もいるから喫煙場所ででしょ。でもあっちは女一人じゃ居辛い上に、ビール持ちこんだら白い目どころかアル中女扱いしかしてもらえないのよおおぉ!」
「あーハイハイゴメン、言い過ぎたな」
「あ~ん、マヒル、結婚して~」
「そんな事言ったらマヒルちゃん困っちゃいますよ~」
「アヤメも結婚して~。オッパイ揉みたいの~」
「も~、冗談ばっかり~」
いや、時々マジで言ってる時あるよな。とマヒルは思うが口にはしない。
とまあ、見ての通り、毎夜オバハン空間が繰り広げられる。
『あいつリアル地球でも社交界のまとめ役みたいな事してんの。社交界って、今でも日本でも世界でもまだあんだぜ。漫画だけかと思ったわ。その続きをこっちでもやる羽目になったせいでさ、表で猫被ってる反動が、こんなんなる訳』
そのマヒルの説明を聞いた後、レイネシアは蒼い顔で自室に戻ったと言う。
何でもエリッサに、『御免なさい心を入れ替えます。ああはなりたくないです』と縋ったとか何とか(合掌)。
そして本来ならば、真っ先に意気投合するだろうと思われたナズナは、シミズでの宴会以降、ずっと燃え尽きた灰だ。
何故なら、
『ねえ、ソウジロウ。ひょっとして………、アタシも酔ったらあんなん?』
ソウジロウはそっと目を逸らし、
『ナズナにはナズナのいい所が沢山ありますから』
と告げた。ナズナは核の炎に包まれ燃え尽きた(おい)。
彼女が灰の中から不死鳥のように復活を遂げるのはいつだろう?
「セララ、にゃん太老師に嫌われたく無くば、分かるな?」
「……ハイ」
「女性には慎みと言うものが必要不可欠だ」
「分かります。とてもよくわかります」
白い顔で何度もアカツキの言葉に肯くセララ。
「おーい、そこジュース減ってねえぞ! 遠慮すんな!追加はパシリが買いに行ってんだからよぉ! じゃんじゃん飲め!おごりだ! ただし奴らのだがな! ゲハハ!」
ほら、インティクスの言葉にウソは無かったでしょう? なんだかなあ。
いえ、筆者は濡羽(仮名)さんの事ちっとも恨みに思ってこんな事を書いた訳でも、報復でも無いですよ。ソウ(仮名)とマヒル(仮名)さんの件が原因でストレスで胃とか壊れかけ、当時よく病院に通ってた位で。ええ、お気になさらず。
それ以前に、これらはソロモン(仮名)さんが、既に某作品で描写済みの事なので今更(以下略)。
-4-
一方、男子部屋のカズ彦と事にゃん太。
「アッチは相変わらずサバトだな」
「隣のこちらに聞こえるだけならいいのですが、他に聞こえないか心配ですにゃあ」
「まあ、この階全部借り切ってるから大丈夫だろ」
「シロエっちとソウジロウのお財布でですがにゃあ」
「まあ、ソウジロウの自業自得なんだがよ」
「言ってやるなですにゃ」
「それより、聞きたい事が有るんだが」
「何ですにゃ?」
「何で玲央人の面倒なんか見てんだ?」
「いけませんかにゃ?」
この時、玲央人は先に寝ていたのだが、偶然起きてそれを耳にした。
息を呑み、布団の中で身を固くする。
「あいつはお世辞にもいい子なんかじゃねえ、糞餓鬼だ」
今すぐカズ彦の口を塞ぎたかった。
だがそれは無理な話だ。実力が余りに違い過ぎる。決して敵わない事は身を持って知っている。
ただ震えて耐えるしか無かった。
実はそれは、マリエが面倒を見ている〈三日月〉の子達が、PKや搾取や監禁と言う理不尽で、同じ目に遭っていた時の心境と同じだったと、後になって聞かされた。
「例を上げれば―――」
嫌だ、やめてくれ、それ以上言うな、この人にだけは聞かれたくないんだ!
決して声に上げる事の出来ぬ叫び。
以前はそんな事に罪悪感など感じなかったのに、身を切るように辛い。
「カズ彦」
カズ彦は、にゃん太の眼光に思わず居竦む。それには彼時自身さえ驚いた。
「まあ、それより先に我輩の話を聞くにゃ」
「――――」
「かつてススキノに、デミクァスと云う男がいたにゃ。PKは勿論、乱暴狼藉、揚句は人身売買とやりたい放題の男だったにゃあ」
「人間のクズだな。班長とシロエと直継とあの暗殺者の娘で退治したって話は聞いたぜ」
「その男は、シロエっちがもう一度ススキノに訪れた時、今度は手助けしてくれたそうにゃ」
「そりゃあ、叩いて躾けりゃ、言う事も聞くだろう」
「違うにゃあ」
「?」
「幸せになったからにゃ」
「………」
「彼には、いいお嫁さんが出来たそうにゃ。掛け替えの無い幸せが出来たのにゃ。掛け替えの無い宝物にゃ。きっと、それまでのデミクァスの人生には宝物なんて無かったのにゃ。だから他人の命も、そして自分の命さえも大切に出来なかったのにゃ。全部無価値だったのだからにゃ。そんな人間が他人を虐げるのは、ある意味、当然の事にゃ」
流石にカズ彦も神妙に聞く。
「ましてや、玲央人はまだ子供にゃ。何より愛されると言う幸せが無ければ生きて行けないのにゃ。マリエっちから、その事は朧げながら聞かされましたにゃ。愛されないから、そのストレスを周りにぶつけ、周りに嫌われるからまた嫌い返す。そんな子に愛情を与えずに、ただ叩くだけでは、畜生にも劣る行いとは思いませんかにゃあ?」
「ああ」
カズ彦は頭を振る。
「アンタの言う通りだ」
「まず愛する事が、本物の躾にゃ。『男とは強くなければ生きて行けない。だが、優しくなければ生きている価値が無い』 有名なセリフにゃ。カズ彦も知ってはいたにゃ? これからは心に強く深く刻んで置くにゃあ」
「………俺の負けだ。無念」
にゃん太はそんな項垂れるカズ彦の姿にまた優しく笑むのであった。
そして、ベッドの布団の中から、やがて嗚咽が漏れ始める。
男達は、それを聞かぬふりをして、黙って見守った。
-5-
アカン、飲み過ぎた。タダ(酒)ほど高い物は無いってホントよね。
ダリエラはバルコニーテラスの手すりにもたれかかってぐったりする。
食べ過ぎたウナギの串も胸やけの大フィーバーを起こしている。
懐からキセルを取り出し、葉を詰め火を点ける。喫煙場所では無いが、これくらいはマヒルも見逃してくれるだろう。
ぷはーと紫煙を吐いていると、背後の硝子戸が開く。
アカツキだった。
「具合はどうだ?」
その手には水の入ったコップ。
「アリガト」
受け取り飲み干す。
「あー、生き返った」
「そうか」
「―――何か聞きたくて真昼に代わってもらった?」
「鋭いな。流石主君が認める戦闘指揮官だ」
「で、何?」
「私は実は妾腹の子だ」
「………。私と一緒って訳ね。私の母はいわゆる京舞子よ」
「だから娼姫なのか」
「そう。貴方は?」
「父が何でも欲しがる人でな。貧乏だが、家格の高い武家の母を言わば、『買い取った』」
「どこも似たようなものね。ありがと、楽になった」
「私の方こそだ」
「聞きたい事はそれで終わり?」
「いや、ここから先はセララも聞きたがっている。彼女もいいだろうか?」
「うーん。まあ気分がいいからいいわよ」
アカツキがセララを呼びに行く。
結論から言えば、ちっともよくなかった。と、ダリエラは後に語る。ええ、それから先はマジ拷問でつた。いっそ殺して。と叫びたかったでつ。ハイ。と。
編集者達が『はよ辞めて嫁に行け』と言ってくれていた親愛が、この時ほど身に染みた事は無かったと。
アカツキがセララとともに再びダリエラの元に戻る。この時気付くべきだった。その瞳がキラキラと輝いている事を。
「ダリエラ殿は、『お嬢』の愛称で知られる小説家なのだろう?」
「私も大ファンなんです!」
「さ…………さあ、何のコトカシラ?」
「とぼけないでください」
「マヒルがそうだと断言した」
この時ばかりは、マヒルの気風の良過ぎる男前ぶりが、心底恨めしい。
「まさしく『お嬢』と言うヒロインが出てくる作品は素晴らしかった」
「主人公の『泥棒』が、口や態度は悪いのに、中身は少女漫画の王子様なのも、なんだか逆で面白かったですよね」
「ああ、『お嬢』もお姫様だが、中身はやたら人が良いだけの、普通の小娘市民ヒロインなのも、良く有る少女漫画の身分とは逆な感じがかえって良かった」
うん。まあ、裏返せば良く有る話である。
「やっぱりマヒルさんがモデルなんですか?」
「あの、では、二人は実は?」
「流石にあれを書いたのは知り合う前よ」
まあ、ここまでは良かった。
「『のほほん』さんと『すり』さんのお話も面白かったですよね」
「うむ。『のほほん』の悲惨な生い立ちには少し共感してな。あと、『すり』さんの家が、貧乏なのに、子供を引き取って育てていると言うのが、まるで主君の祖父君が、昔そうされていたという逸話と同じで、大変良かった」
ぎぶぎぶぎぶ。タップタップ。降参でつ。
心の中で泡を吹くダリエラ。まさか、『のほほん』のモデルがソウジロウで、『スリ』のモデルがカナミとシロエ(おまけに男らしい面がカナミで、女らしい面がシロエ(涙))だなどとは、もう言えなかった。御免なさい。もう、パシリにしないから、ばらさないでぇぇぇぇええ!
(残念ながら、今ここでばらしました:筆者)。
「大作、『不幸王子』もよかったな」
「ええ、たくさんの個性的なキャラが出てきてよかったです」
「まあ、色んな知り合いもモデルにしたから」
「それなのだが、『スリ』と『万能さん』が、共に酒を呑む外伝エピソードが有っただろう?」
「世界を飛び越えてのギャグ短編でしたね」
「そこで『スリ』が『万能さん』の事を理想のタイプと言っていたのだが、女の勘で言うのだが、ダリエラ殿自身の理想のタイプの事ではないか?」
「あ、私も思いました」
あたしぴーんち! そうダリエラは心で叫んだとか何とか。
「デビュー作だったか、最初の人気作の主人公も、あの人に似ている」
「そうですよね。あの人気アニメ『もっこりさん』に」
「そう言う人がタイプなのか? やはりそうなのだろう?」
「気になります~」
「い、いやねえ。『もっこりさん』には女の子なら一度は憧れるじゃない? でもあんなセクハラ星人が実際に目の前に居たら幻滅するわよ」
うん、したのよー。そうダリエラは(以下略)。
「そうですね。実在しないからいいんですよね」
「うむ。濡羽のキャラネームと作家でのペンネームからそうかと思ったのだが、やはりまあ、ただの二次元へ憧れか」
「ソウソウ」
痛い。お腹が千切れるように痛い。胃薬を飲むソウとシロとにゃん太を見て情けないだなんて思ってごめんなさいっ。
やぱし、ファンサービスなんかするもんじゃないわ。そう心に誓うダリエラ。
「後、大作と言えば忘れてはならないのは、『へらへら』さんと『ドラ猫』さんだな!」
「わたし、『へらへら』さんのファンなんです~。にゃん太さんに似てますから」
「それを言うなら。『ドラ猫』さんのひたむきな処は主君に似ていて好きだな。生憎、頭が良くないのが残念だが」
うん。頭良くなかったのよ、あいつ。オマケにへらへらしてたし。結構二重人格よね。卑怯。
「そう言えば、ヒロインは結局『ドラ猫』さんと結ばれるような終りだったな。……では実は濡羽殿のタイプは?」
不安げな上目づかいでダリエラを見上げるアカツキ。
「生憎ね。頭の良さを自慢するようなタイプは好きじゃないのよ。そんな男うんざりするほど見て来たから」
「本当だな?」
「本当、本当」
お調子者だったけど、それだけが取り柄だったわね。
遠い目をするダリエラ。
それにつられて、アカツキと、セララも、街の灯と、どこまでも続く月明かりの夜の海原を、しばらく眺めていた。
『作品を読んでくださいっ!』
『うん。じゃあ、そこで待ってて』
『どうでしたかっ?』
『面白かったよ。ただまだ君高校生でしょ。デビューは就職してからにしなさい。悪い事は言わないから』
『作家なんてヤクザな職業なんだから』
『手に職持ってからの方がいいよ』
『今ならまだ間に合うから、普通の高校生活に戻りなさい』
『駄目なのよぉっ! うちのゴッド婆に、大学の学費は婚約者と結婚しなけりゃ出さんって言われたのよっ! この歳でそんなのって、好きでも無い奴と結婚するなんてあんまりよっ!』
『ようこそヤクザ稼業へ』
『我々は君の入隊を心から歓迎する』
『さあ、今すぐ出版契約書に判子を』
-5-
次の日、ダリエラは、ソウジロウ達をパシリにするのはもうやめると言った。
「どういう心境の変化かな?」
「さあ、僕にもさっぱりです」
顔を見合わせるシロエとソウジロウ。
「ま、でも、いつかは言わなきゃいけないんだから、今の内に覚悟は決めといた方がいいわよ」
「うっ」
顔を青くするソウジロウ。
そうなのだ、結局問題自体はちっとも解決していないのだ、と、溜め息を吐くシロエ。
だが、それでも、
「有難うございます、ダリエラさん」
シロエは礼を言った。
「別に」
「ご、御免なさい、僕こそがお礼を言わなきゃでしたね」
慌てるソウジロウ。
「いいんじゃない。私だって、昔は力になるなんて風な事言ったのに、逆に邪魔してゴメンナサイだしね」
「………じゃあ、次は僕が濡羽さんの力になりますね」
「その時は僕も手伝いますよ。お互い乗りかかった船ですし」
「好きにすれば。当てにはしないわよ」
彼女の後姿は、何故か清々しかった。
あともう一つ、なんだか、玲央人の顔から、以前のとげとげした雰囲気が消えていた。
にゃん太やカズ彦やセララやアヤメと無邪気に笑い合う顔は、年相応の、いや、まるで今幸せ盛りの小学1年生の子供の様にも見える。
その訳を班長とカズ彦から聞かされたのは、暫くしてからだった。
―第6話に続く―
おまけ。
※キャラクター設定
●にゃん太班長(猫人族、盗剣士、料理人)
基本設定は公開済みなので、プレイヤーネーム補足のみ。
名前がジョージ(譲治)である事だけは既に決定していた。英国と日本両方で通用する名前と言う、班長(仮名)本人の設定?を踏襲しての事である。問題は苗字であった。班長(仮名)の希望で、料理人や食品メーカーなど、兎に角料理に関係した何か、という事だけは仮に決定したが、梅宮、梅沢、周、道場、山崎、谷田、果ては北海道だから雪印や明治など、兎に角迷走した。ひょっとしたらままれさんがすでに決定していたかもしれないが、その資料が手元に来ていない事と、何より以下のネームを班長(仮名)本人が気に入ってしまったので、ここに決定する。
江崎譲治。
「やっぱり、エリザベス元陛下と響きが似ているからですよね?」
「当然ですにゃ」
「子供に不祥事が多く、人の親としては品格に欠け、正当な血筋でも無いとリアル英国円卓に退位を迫られましたが?」
「まあ、それはその通りなのですが、勇猛果敢で民に愛された女王な事も確かなので、構いませんにゃ」
「………『女法陛下のユリシーズ号』なんて架空戦記小説も書かれる位、愛された人なのは確かですよね。班長(仮名)が望むのであれば、それで」
「GOですにゃあ」
※口伝設定
●〈固ゆで〉
セットアッププロセスに使用する。射程は3Sq。対象に[萎縮]のバッドステータスを与える。ヘイトコストは1。
既にバッドステータス取得済みの対象には、[萎縮]でなく[惑乱]を与える事も可能。その時のヘイトコストは2。
その鋭い眼光は、全てを射すくみ上がらせ、時に恐怖にも陥らせる。タフでハードボイルドな男のみ使える口伝だ。
筆者:お疲れ様でーす。今回もご愛読ありがとうございました。
アカツキ(仮名、以下『あ』):うむ。感謝する。
セララ(仮名、以下『せ』):いつもお世話になってまーす。
筆者:さて、見ての通り今回のゲストはこのお二人です。
せ:ホントは『に』さんとほぼ同時収録だったのに、放送月が別なんて変ですね。
あ:しかたあるまい。大人の事情だ。
筆者:『せ』さんは遠方からですもんね。
せ:『あ』さんだって以前は遠方だったでしょう?
あ:一時期、東京から父元で無く母の実家方面に帰っていたからな。
せ:ご家庭、複雑ですもんね。
あ:はあ(溜め息)。
筆者:それはそうと、綺麗どころお二人が今回のゲストなのには理由が有ります。
あ:何だ? 主君。
背:何ですか?
筆者:ちょっとロリコン問題について話したかったからです。
あ&せ:あ~~~~~。
筆者:もう、お二人に関してはもうそれが問題になる御年で無いのは、皆様も御承知でしょうが、現在もそれに関して偏見が有る事に関して言いたかったんですね。『か』の件も含めて。
あ:何と危険な(汗)。
せ:でも、あれって合法ロリって言うんですよね。
筆者:まあそうですね。基本見た目が幼い人が好みであろうが、他の性的嗜好であろうが、相手の合意と、実際の年齢倫理基準を守る事が恋愛やヲタク趣味のマナーとされています。所謂『紳士』ですね。
せ:所謂ロリコン紳士ですね。『に』さんは本当に紳士でした。ほわわ~。
あ:合意無視や法律を破るのは犯罪だし、何よりひどい場合は被害者の女性を自殺にまで追い込む。
筆者:例えば交通マナーを守らない人は、殺人者に等しいって、有名ユーチューバ―のカーボン鳥様も仰ってますが、性的マナーを守らない人も、一線を越える人は、ガチで殺人者に等しいです。
あ:伝説の五人レンジャーは、それで不埒モノを取り締まっていた訳だな。
せ:どうやってですか?
筆者:『せ』さんは知らない方がいいです。ちょっとお恥ずかしい昔気質のバイク乗りや走り屋の風習ですから。
あ:(大爆笑)
せ:???? 『あ』さんは知ってるんですか?
あ:実は私も少しバイクに乗るのでな。
(アレ、マジでドラキュラ公の伝説ですよね(ガクブル):轟沈提督クォ・ヴァディス(仮名))
筆者:ロリ紳士やSM紳士などの愛称は、どんな性的嗜好の人でも、きちんと合意とマナーを大事にする人は、ネット民やヲタク界で尊敬されると言う事ですね。むしろ、自分の趣味を否定される人間の方が、犯罪に走り易いのは紛れもない事実ですしねえ。
あ:過剰な抑圧こそ、犯罪の温床と言う奴だ。
せ:ストレスがたまると、わーっと暴れたくなるって事ですよね。
あ:その通り。
筆者:さてここからは少し専門的な話になるので、読み飛ばしたい人は飛ばしてもいいですが、所謂ロリコンの精神構造について知りたい人はお聞きください。
ロリコンは、所謂精神疾患における依存症の一種と言えます。幼児期、幼少期にしか幸福体験を持たず、10代半ば以降に、外見などの理由から、周りから虐待を受けた人間、性的差別(主に女性から男性に)を受けた人間などが、なり易いです。つまり、成熟した女性を恐怖の対象としてしか見れなくなり、幼い女性(男性)としかコミュニケーションをとれなくなったり、興味の対象としてしか見れなくなった人達ですね。だから女性の場合のショタコンも同じです。
せ:普通、それってどこからどう聞いても被害者じゃないですかっ!
あ:だが、見た目気持ち悪いと言われる人間に多いのだから、差別されやすい訳だ。
筆者:これが実は同じ依存症に近いのに、初恋の人は優しくしてくれたけど、他の人は優しくしてくれなかったとかで、似たような性格の人ばかり求めてしまうタイプの人は、性格依存で年齢依存で無いから、差別されない訳ですね。実は、同じロリコンなんですが。精神構造的には。
せ:うわー。飲み屋でよく聞くタイプです~。アイツのこと忘れられないとか、似たような人ばかり好きになるとか~。
あ:同じロリコンなのにな。
せ:…………人間って、身勝手ですね。
あ:まったくだ。
筆者:と云う事を、せめて心理歴史学者(笑)ネトゲ番長としては、皆様に知っておいて欲しかったのです。
せ:治す方法ってあるんですか?
筆者:実はあります。ガチオタだけど、彼女が出来た人達の成功体験を分析した結果、多分これで間違いないですね。だから話題に上げたんです。
あ:うむ。流石主君だ。
筆者:つまり、性格依存なら非難されない、差別されない訳です。オマケに言えば、食い散らかさない誠実な人、浮気をしない人と言えるので、理想の恋人になり得ますね。
せ:いや。それはさっきも聞きましたけど?
筆者:ロリならロリキャラばかりいるアニメを観、ゲームとかをひたすらやる訳です。
せ:はああ?
筆者:そうすると、人間我が儘身勝手なモノですから、いずれ好みのロリキャラばかりを相手したくなる訳です。
せ:それってより駄目になってません?
筆者:ところが、逆に、今度は好みのタイプの成長した姿に興味を持ち始めて、好みのタイプの年頃キャラや大人キャラにも興味を持ち始めるんですね。
あ:(大爆笑)
せ:あー。好きな人を丸ごと好きならないと気が済まないって訳ですね。私分かります~。
筆者:ハイ、御馳走様。てな訳で、結局、言ってしまえば自分の好みのタイプ、つまり自分自身の心の形をより詳しく知る事が、依存症の解決になる訳ですねえ。
あ:ヲタクならいっそ突き抜けてしまえと(爆笑)。
筆者:そーゆー事。ストレス解消にもなって犯罪抑止にもなりますし、鬱抑止にも、ひょっとしたら引き籠り抑止にもなるかもしれません。自分を幸せにする事が、人を幸せにする事にもなると言う、昔ながらの言葉通りですね。
あ:まあ試してみても良いのではないか?
筆者:反論のある方、御意見のある方は、活動報告にて随時メッセージ受付中でーす。
それではまた来月、次回次話にて。
まったね~。