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新ログ・ホライズン  作者: 東の外記・しげき丸
17/36

王達の屹立(6)

 早いモノで今年も前半戦終了。

 いよいよ暑い季節がやってきます。皆さん体調管理にはお気を付けを。

 またお会いできて感謝感激の東の外記です。初めましての方もどうか宜しく。

 色々悪戦苦闘しながら書いて参りましたが、ぽてふれ様から「ちゃんとログホラだ」の有り難い一言を頂戴し、たくさんある肩の荷の一つをようやく降ろせてホッとしております。

 これからも皆様のご期待に応えるシロエと新ログホラを描けるよう、精進致します。何卒ご贔屓を。

 それでは典災首魁狂王ダノーブの宣戦布告を受け、風雲急を告げる本編をどうぞ!

m(--)m

 ―第17話:王達の屹立(6)―

 

 -1-

 

 アキバの街、水楓の館。

 イセルスとマインバッハとサリーシャが、セルジアッド大公の待つ、エターナルアイスの古宮廷に旅立つ時が来た。

「風邪ひかないでね、生水には気を付けてね」

「ミカカゲは心配し過ぎだよ」

「うっさいアオモリ」

「まあまあ喧嘩せんで~」

「そうです。折角の晴れの日ですわ」

 そう言うマリエールとヘンリエッタの眼も涙ぐんでいる。

「大丈夫です。心配しないでください、アイザック君もついてくれますから」

「僕もいます」

「私もです」

「ううっ、マインバッハやんモサリーシャちゃんも、なんちゅー健気な」

「マリエールさん泣き過ぎですよ」

「うう、せやかてミノリ~」

「それにしても急だったね」

「ミス五十鈴、民の危機を救うのが貴族の義務だ。仕方あるまい」

「分かってるよ~、ルディ」

「それでも急なもんは急だよねえ。僕もびっくりだよ」

「俺もだよ、てとらぬぇー」

「トウヤ」

「何かな、イセルス?」

「僕は〈冒険者〉にずっと憧れてきました。だから最後に聞きたいんです。冒険者って一体何でしょう?」

「アイザックさんが教えてくれてないのかよ?」

「『俺は気に喰わねー奴をブッ飛ばすってヤツだな。だがまあ、人それぞれだな』って。だから、この街の冒険者のリーダーであるトウヤさんならどうかなって思いまして」

「……。目の前の困った人を助けれる人かな」

「やっぱり。吟遊詩人の詠う冒険者ってみんなそうですよね」

「オレはまだまだだけどね」

「ええ? だってサファギンやワイヴァーンに襲われた大地人を助けたって聞きましたよ」

「そうだけどそうじゃないんだ」

「??」

「オレがシロエ兄ちゃんと同じくらい、全部の冒険者を助けるつもりでいたら、目の前のテツロウさんって人も助けられたんだよ。

 テツロウさんを、いいや、みんなを地球に還す力になるって約束できてたなら、テツロウさん達もワイヴァーンと戦ってくれて、もっと多くの大地人を救えてたかもしれない。でも、そこまでの勇気も覚悟も持ててなかったんだ。オレにできたのは、ただテツロウさんを詰る事だけだった。

 全然だよ」

「うーん、難しいです」

「そうか、ゴメンな」

「でもひとつわかった事が有ります。冒険者って、王様を目指す人なんですね!」

「ええっ!?」

「だってそうじゃないですか。目の前の人を助ける事と、みんなを助ける事が同じ人って、王様を目指す人ですよ。僕、やっぱり冒険者と同じ生き方をしますっ!

 トウヤやアイザック君が自慢してくれる友達になりたいんですっ!!」

「イセルス………」

「競争ですよ、トウヤっ!」

「ああ、イセルス。ああ」

 二人は、長い長い握手を交わした。

 

 -2-

 

 中国サーバー。

 自分の心は奇妙だとクラスティは思う。

 普通の人は何気ない日常に幸せを覚え、その幸せの中で生きて行き、退屈などしない。

 みんな幸せを手に入れる為の困難を乗り越えるのに大変な時間と労力をかけ、退屈する暇など無いのだろう。

 自分で言うのもなんだが、自分は何でも出来過ぎる。他人程困難など感じない。

 だから退屈なのだろう。

 そんな自分はいつからか、特撮の悪役に感情移入するようになった。

 生きるのに退屈して退屈しのぎに人を襲う悪役。

 新世界や新秩序を築くために、今の世界を破壊しようとする悪役。

 それが退屈を持てあます自分と重なったし、他人より新しい考えやシステムを提案しても、古いやり方に固執する人々にそれを受け入れてもらえない自分と重なった。

 だが実際に物語の悪役のような行為をするのはリスクを伴うし、幾ら〈サド眼鏡〉と呼ばれていても、他人の幸せを壊す程の悪趣味にはなれなかった。

 だからだろうか、悪い事に味を占め、何も学ばず同じ事ばかりを繰り返す、新しい事に挑む勇気の無い者には正直嫌悪を感じる。

 〈典災〉はまるでそんなタイプの生き物に見えた。

 そして、クラスティは戦闘の時だけは『特撮の悪役』の自分を解放できる〈狂戦士〉でいられたのに、〈典災〉はそれすら奪った。

 これは正義ではない。

 自分の嫌悪であり、わがままだ。

 必ずその喉に牙を突き立てる。

 中国サーバー平定〈封禅の儀〉はその為の儀式であり、最高の遊戯だ。

 それは昏き野望の王の物語。

 

「クラスティ―――」

 洋上の船〈シュツルム・リッター〉の船室で、レイネシアは丸い舷窓に差し込む陽の光に祈る。

 どうか独りぼっちのクラスティが自暴自棄になりませんように、と。

 それまでに自分が彼の心の支えになりに行く事が、どうか間に合いますように、と―――。

 

 -3-

 

 アキバ広場。

 かつてレイネシアが演説をし、今は時折てとらたちがライブにいそしむそこで、櫛八玉は頭を抱えていた。

「ああああ、演説なんてガラじゃないのに」

「そう思ってるのはクシだけなのにねえ」

「うっさいヤエ!」

「ひっどーい! 紙コップ投げて来るなんて! 中身残ってたら大惨事よ!」

「まあまあ、落ち着いてください」

 そう穏やかに声をかけるのはヤエの彼氏、〈武闘家〉のユウタ。

 正直櫛八玉はその言葉に感謝を覚えるどころか、リア充爆発しろ。と呪う。

「結構人が入ってますわよ、お姉さま。〈レギオン戦闘〉経験者だけに絞ったのに、やっぱりお姉さまの知名度は流石ですわね」

 舞台袖から戻ってきたリーゼが嬉しそうに言う。

 くそう、なんだかリーゼにも殺意が湧いて来た。と歯噛みする櫛八玉。

 ムカつくムカつくムカつく。

「時間です、どうか宜しくお願いします」

 アインス先生が深々と頭を下げてくる。

 畜生、仕方ない。やるしかないんだと自分に言い聞かせる櫛八玉。

 深呼吸深呼吸、深呼吸。

 冷静に冷静に、冷静に。

 意を決して壇上に上がる。

 聴衆達はざわついているがとりあえず無視。

 ここはやはり冷静に〈円卓会議〉の窮状を訴えるべきだろう。

「えー皆さん、〈レギオン〉に参加して下さい」

 増えるざわめき。だが無視だ無視。

「さもないと〈円卓〉は大地人貴族から投資を引き上げられて破産しかねません。事態の緊急性をどうかわかって下さい」

 ますます増えるざわめき。

「あちゃー、全然らしくないわ。駄目かも」

「しっかりして、お姉さま」

 ヒヤヒヤと見守るヤエとリーゼ。いや、関係者みんな。

「馬鹿野郎! こうなったのもアインスのバカが見境なく金を低レベルの連中にばらまいたからだろうが!」

「そうだそうだ!」

「自業自得だ!」

「政治は〈互助会〉が引き継げばいいんだよ!」

「増税なんかハナから気に喰わなかったんだ!」

「〈円卓〉なんて破産すればいいんだ!」

「〈突貫〉て伝説の名だからどんな奴だとか思えば、とんだヘタレじゃねえか!」

 次々と飛ぶ野次。

 ぷっつん。

 何故かその場にいた誰もが、その切れる音が聞こえたと言う。

「ふふふふふふ」

 地獄の底から聞こえるようなその笑いに、散々野次を飛ばしていた聴衆の熱がさーっと引いて行く。

「ざけんじゃねえ!! お前等!!!」

 その一喝に、会場は一瞬で静まり返った。

「逆切れしてんじゃないよっ! いい大人がみっともないッ!!」

「ぎゃ、逆切れだと」

 一人の男が呻くように溢した。

「ああ、逆切れだよ! 本当は自分がみっともないってアンタら分かってんだろう!?」

「「「「…………」」」」

「アンタらの言う事ももっともだよ! 人間誰だって自分が可愛いし、自分達の幸せを守るのに手いっぱいだよ。低レベル冒険者の面倒を見るのなんか、他の誰か偉い奴がやるもんだって、他人任せにしてきたっ! それは分かるよっ!」

 聴衆の多くが気まずさに黙り込み項垂れる。

「でもやってくれる誰か偉い奴、それがアインス先生だったんだよ。そりゃやり方は不味かったかも知れない。それでも、間違いなく先生は、アタシたちみんなが負うべき負い目をたった一人で背負ったんだよっ! そこから逃げてキレて見せるのなんて、逆切れ以外の何だって言うのっ!!!!」

 ヤエが口笛を吹く。

「勝ったわね、これは」

「いつもの〈突貫〉。これこそお姉さまですわ」

 うっとりするリーゼ。

「アンタらはそれどころか低レベルの奴らを馬鹿にする事で、その負い目から逃げてたんじゃないの!? 自分の胸に手を当ててみなよ!?」

 あちこちから鼻を啜る音が聞こえる。

「それでもアインス先生を馬鹿に出来るなら、それはトウヤ達やハラ黒みたいに、自分たちなりに低レベル冒険者問題に立ち向かった奴だけなんだよ! でも言うよ、そんな彼等は先生を馬鹿になんかしてないっ! なのにアンタらはどうなのさっ!!?」

 櫛八玉もうっすらと涙を浮かべていた。

「分かってよ。負い目を返すなら、今がそのチャンスなんだよ。でないときっとご飯が美味しくなくなるよ。折角現実になったゲームが楽しくなくなるよ。今日も楽しいゲームをしたって、美味しい夕ご飯をみんなで食べるアキバがいいよ。みんなで美味しいご飯を食べようよ」

 櫛八玉はもう駄目だと思った。

 ああ、また切れてしまった。オマケに最後の方は全く理屈になってない。ただの感情論だ。

 だが―――。

「おい、〈黒剣〉の居残り組共!」

 アイザックが助け船を出す。

「聞いたか、これで気合い出さなきゃテメエら漢じゃねえぞ!」

「〈D.D.D〉の居残り組も、見たでしょう、これが〈突貫〉ですわよ。こんな情の深いお姉さまに率いられたいと思うでしょう? 出来る事なら私が代わりたいくらいですわっ!」

「練度の低さなんざ気にするなっ! 俺とこの縦ロールが大急ぎでしごきあげてやらあっ!」

「あー、〈海洋機構〉は〈レギオン〉参加者に一割引きのセールを実施する」

「狡いでしょ、それなら我が〈ロデ研〉は一割半!」

「じゃあ、〈第8〉は2割ですね」

「ぬ、ぐぐぐぐ」

「えーい、持っていきなさい、泥棒ども」

「ウチも」

「私共も」

「「2割引き」」「だっ」「ですっ」

「〈西風〉も他の仕事で抜けられない人以外は参加するわ~。久しぶりね~、〈レギオン〉のみんなに呪歌をかけるのも。お姉さん張り切って応援しちゃう~」

「やめろドルチェ」

「せっかくいい雰囲気だったんだぞ」

「失礼しちゃう~」

「あー、兎に角だ、やるぞテメエら! エイエイオウ!」

「「エイエイオウ!!!」」

 〈黒剣〉が一斉に鬨を上げる。

 その熱が確かに他の者に伝わり、どよめきが始まったのを感じる。

「何をボーっとしてんだ〈突貫〉!ここは手前が『エイエイオウ』の声を掛けっ時だろうが?」

「え、ええええ?」

 櫛八玉は目を白黒させたが、ためしに拳を構えてみる。

 すると、会場中のほとんどが、同じように拳を構えた。

「え、え、え、えーい! エイエイオーウ!!」

「「「「「エイエイオーウ!!!」」」」」

 会場を割れんばかりの歓声が包んだ。

 アインスは舞台袖でそれを聞きながら、手で顔を覆い、さめざめと涙を流していた。

 

 そして〈レギオン〉志願者は〈円卓〉〈互助会〉併せて実に500名弱、5部隊分に届く事になったのである。

 実際にはそれ以上に、後に噂を聞いた者も加わってさらに膨れ上がったのだが、流石に〈レギオン戦闘〉未経験者には泣く泣く辞退してもらい、補助の一般部隊に回ってもらったのであった。

 

 -4-

 

 ミナミ、プラントフロウデン。

 以前インティクスは、〈放蕩者の茶会〉解散後、、自分のギルドを立ち上げた事が有った。

 それは丁度シロエが〈幻想戦士団〉に関わる失敗をしでかしたのと同じ一年前の事である。

 彼女はそのギルドにおいて、加入者が自ら良い行いをしたくなるようなシステムを導入したと、宣言した事が有った。

 それは当時の彼女にとって皆に好意的に受け取ってもらえると思っていたものだった。

 だが実際に返ってきた反応は―――

『良い行いを強要されるなんて窮屈だ』

『それってマインドコントロールじゃないの?』

『そんなの真っ平だ』

 控えめに言っても炎上であり、彼女のギルドは瓦解した。

 失意の彼女を拾ったのが濡羽と〈フロウデン〉である。

 インティクスのシステムは炎上したシステムだとは公表しないまま〈フロウデン〉のシステムとして採用され、人々に受け入れられた。

 同じシステム、同じマインドコントロールでも、濡羽の『お嬢』としての名声が有れば、人々にまるで別物に捉えられ受け入れられる。

 濡羽の方がよほど他人をマインドコントロールする醜い化け物だと言うのに。

 インティクスは濡羽と〈フロウデン〉に深く依存しながらも、その憎しみにも似た昏い感情を抱き続けざるを得ないのであった。


 -5-

 

 ウェストランデ、コウベ近郊上空。

「どうしましたにゃ、シロエち、ボーっとして」

 グリフォンの背に乗ったにゃん太が、同じくグリフォンに乗るシロエに声を掛ける。

「何か考え事ですか?」

 シロエの後ろに相乗りするテツロウも心配げな声を掛ける。

「ああ、うん」

 シロエは素直に認める。

「インティクスの事を考えてた」

「ほう?」

「一年前、彼女が大変だった時、僕は彼女を何も助けれなかった。友達だったのに」

「……それは仕方ないですにゃあ。一年前と言えば、シロエちも大変な時だったですからにゃあ。それにそう言うのならば、吾輩も同罪ですにゃ」

「いや、御免、そんなつもりで言ったんじゃないんだ」

「ならシロエちも気に病む事は無いにゃ」

「うん……。でも、決着を付けたいんだ。何かの形で」

「彼女は今は敵ですにゃあ。シロエちを憎んでいるかもしれませんにゃ」

「分かってるけど、それでも今でも友達だよ」

「……なら我輩も協力しないわけにはいきませんにゃあ。二人は我輩にとっても可愛い後輩ですからにゃ」

「―――有難う、班長」

「やっぱりにゃん太さんは優しいですね」

 にゃん太の背に相乗りするセララも笑う。

「当たり前だろ! それに確かにインティクスは悪い奴だけど嫌な奴じゃないぜ」

 ワイヴァーンの背に乗る玲央人。

「それって褒めてるんですか?」

「褒めてるよ、セララさん。なまじ自分の事を善人だと思ってる奴の方が、無神経だったり人を爪弾きにしたりとか、余程残酷な事をするじゃん」

「あー、なんとなくわかります」

「セララさんや班長は別だけどな」

「セララちはそうでも、吾輩はそうでもないですにゃ、意外と狭量ですにゃ」

「班長が狭量なら、他の奴なんか心がミジンコ以下だっての」

「そうとも玲央人。俺は心がミジンコ以下だからな。お前に小言を云うのが大好きなんだぜ」

「いやいやいやカズ彦、そんな意味で言ったんじゃないからっ! 勘弁してっ!」

 これにはみんな笑いだす。

「まあ、インティクス殿は所謂美学を持った悪党ですな。クズ悪党とは違う」

 玲央人の後ろに乗るヴァディスがうんうんと頷く。

「悪党になる度胸も無いくせにクズな店長とは大違いですね」

 ナズナの後ろから突っ込むミカサ。

「やかましいわっ!」

「はははっ。確かにな。インティクスはクズなんかじゃねえぜ」

 ソウジロウの後ろで肯くマヒル。

「インティクスさんはインティクスさんです~」

 カズ彦の後ろで笑うアヤメ。

「ただまあ、結局先輩と同じで、思い詰めすぎる所があるんですよねえ」

 苦笑いするソウジロウ。

「言えてる言えてる」

 こちらもインティクスとは古い馴染みのナズナ。

「そうですにゃ。インティクスの事はこうしてみんなで考えるのが良いですにゃあ。シロエちが一人で抱え込む事は無いですにゃ」

「………有難う、班長、みんな」

 大きく息を吐き、肩の力を抜き、皆に微笑み返すシロエ。

 その時、彼の元に念話が入る。

 アカツキ? それともインティクス?

 だがそれは期待した人からの物では無かったが、ある意味、そろそろ来るだろうと思っていた予想通りの相手からだった。

『時間はいいですかね? シロエ君』

 落ち着きのあるその声はアインスの物。

「グリフォンに乗って移動中でしたので、時間が有ると言えばありますよ」

『そうですか』

「礼ならいりませんよ。謝ってくれなくてもいいです」

『――――っ?』

「礼なら櫛八玉さんとトウヤに言ってください」

『それは勿論言ったとも、だがしかし――――』

「僕はこの件に関して櫛八玉さんに何も言ってませんから」

『何故彼女に任せれば上手く行くと分かったんだい?』

「あの人カナミの同類ですからね」

『こう言ってはなんですが、彼女はカナミさんほど無責任でも奔放でも無いですよ?』

「同じですよ。自分のやりたい事しかやらない人達ですよ」

『やりたい事ばかりやるなど、無法では無いかね?』

「違いますよ。そう言う人は、自分が無力な事に怯える不安屋だったり、さもやりたい事をやっていると自分を大きく見せかけたい見栄っ張りです。本当に自分がやりたい事ばかりやり続けた人は、自分が美しいと思う事、格好いいと思う事しかやりたくなくなるんですよ。まあ、美しいって言っても、それは着飾った美じゃなくって、転がる石に苔はむさない、そんな美しさですけどね」

『……美学ですか』

「義って言う言葉は、美しい我が儘って書くんです。ここはもう一つの現実だけど、それでもやっぱりゲームの世界なんです。冒険の世界なんです。ゲームや冒険は人に命令や強制されてやるモノじゃない。例え遠回りでも、みんなには自分が美しいと思う事、格好いいと思う事を、その人自身の心でして欲しかった。美しい景色を自分の脚で赴き自分の眼で見る。それが冒険でしょう」

(いやだ、楽しくない)

(みんなして眉間に皺寄せてイライラしてさ、そんなのなんにも楽しくないじゃないか)

 櫛八玉は〈大災害〉直後、ギルドごとに対立し合うアインス達を見てそう言った。

(分かってよ。負い目を返すなら、今がそのチャンスなんだよ。でないときっとご飯が美味しくなくなるよ。折角現実になったゲームが楽しくなくなるよ。今日も楽しいゲームをしたって、美味しい夕ご飯をみんなで食べるアキバがいいよ。みんなで美味しいご飯を食べようよ)

 アインスは、やっと掛け替えのない友人が、その時何を思ってそう言ったのか分かった。

 自分は秩序と平等を追い求めるあまり、人の心を見失っていたのだ、と。

「まあ、〈円卓〉を無理やり設立した僕が言っても説得力無いかもですけど」

『…………それが君のやりたい事だったんでしょう?』

「そうですね。みんなに美しい物を美しいと思ってもらえる心の余裕を取り戻して欲しかった。後悔はしてません。だからアインスさんの言う通りにしたら、またギスギスしたアキバに戻る気がして、従えなかった」

『私たちはもう一度一つのアキバに戻るべきなんでしょうね』

「いえ、そこまでは求めません。強者が弱者に施すのが正しい、美しいと思う人だっています。いつだって人に選択の余地はあった方がいい。〈円卓〉と〈互助会〉は助け合いこそすれ、安易な馴れ合いまでしなくていい。きっとそれは後に不満が残ります」

『……………』

「もし一つになるなら、それは〈円卓〉と〈互助会〉は独立し合ったまま、アキバ市長なりを投票で選出すればいいと思いますよ。政治を僕達だけで運営する時期は、そろそろ卒業すべきかもしれません」

『わかりました。なら私も私が美しいと思う事をしますよ。そして判断はアキバの皆に任せましょう』

「ええ」

 対立が終わった訳では無い。

 だがこの日確かに、二人の反目は終わったのである。

 

 シロエはカナミの言葉を思い出す。

(言葉にしちゃ駄目な事も有るんだよ)

 確かに自分もそう思った。言葉にするよりも行動で示す方が格好いいと思った。

 心の中に確固とした形で在る物が、言葉にすると陳腐な嘘になる事だって良く有る。

 でも今は思う。

 言葉にしなくちゃ駄目な事も有るんだ、と。

 理論と言う新たな言葉を見つけ出さなければ駄目な事も有るんだ、と。

 もうカナミの後を追いかけていた自分ではない。

 〈記録の地平線〉のギルドマスターなのだから、と。

 シロエは深い思索に入る。

 沈黙の中、シロエは思う。

 いつかまた、この沈黙を昔の様に、アカツキと心地よく共有したいな、と。

 

 ―第18話に続く―


筆者(以下:筆):「今回のテーマは『当然と普通』でーす」

アイザック(仮名、以下:ざ):「それはいいんだがよ、俺が言うのもなんだが、何だこのむさ苦しい面子は?」

ソウジロウ(仮名、以下:そ):「えー、カズ彦さんはともかく、僕はむさ苦しくないですよ」

カズ彦(仮名、以下:か):「おまいな」

筆:「まあ、女っ気は無いですよね。そういや、ソバージュヘアの人とはどうなりました?」

ざ:「ノーコメント」

か:「やる事やってんじゃねーか」

ざ:「うるせえ、オメェのも色々晒すぞ!」

筆:「そこ行くと俺なんかある意味曝されまくってるので、いっそ清々しいものです」

一同:「「「………………。」」」

筆:「まあそれはそれとしてテーマに戻りますが、当然と普通って、よく調子いい男子とか女子が使いますよね。それもあんまりよくない意味で」

そ:「あー、こんなの出来て当然でしょ。とか、普通じゃないよねー。とかっ言って、不器用な子や個性的な子が良く苛められるんですよね。僕のギルドに居るのはそんな子が多いですから、守ってあげてるんですよ」

ざ:「俺はそりゃあ、どっちも褒め言葉や格好いい言葉だと思ってたが?」

か:「あー。本当はどっちも武道武術の言葉でな。本来の日本語ではアイザック(仮名)の言ってる方が正しい」

筆:「本文中で当たり前についても言いましたが、当然とは、弓が『当』たるのが自『然』なほどその人は努力した、もしくは天稟、才能が有ると言う意味で、そんな人は素直に尊敬しましょう。そうすれば自分の努力や才能も尊敬されるから。と言う意味の褒め言葉なんですよ」

か:「普通も『普』遍(いついかなる時も)に『通』すべき物事の筋。またはそれを通す立派な人って意味で、まあ褒め言葉だ」

そ:「ディスで使う方が間違ってるんですよ」

ざ:「それが普通じゃねえのか?」

筆:「ヤンキーが特殊なんですよ。武術家と同じで、欧米化された両親世代に逆らって、爺ちゃん婆ちゃんから教えられた日本文化を大事にするツッパリ集団が元々のヤンキーの源流ですから」

ざ:「人を生きた化石みたいに言うな」

一同:「「「それ言ったら俺達なんかどうなんの?」」」

ざ:「まあ、苦労してんだな?」

筆:「なのでどうか、これを読んでる人たちは、この言葉はディスの意味で使わないでね。アブノーマルな子や劣ってる子を苛めるための言葉じゃありません。やむを得ずディスる場合は愛あるディスをお願いします」

そ:「格好いい人になって下さい」

か:「まあ、ソウジロウ(仮名)ぐらいモテたきゃそうしとけ」

ざ:「ケッ、俺ぁ、気持ち良く生きたいからそうすんだよ」

一同:「「「それでいいと思う」」」

筆:「それではまた来月初旬もよろしく! じゃあっねえー(^^)/」


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