幸せへのチケット(1)
ログホラファンの皆様、大変長らくお待たせいたしました。
ピンチヒッターとしてこの度バッターボックスに立ちました、『東の外記・しげき丸』です。
お初にお目にかかり恐縮です。これからどうか拙筆を、宜しくお願い致します。
豊福しげき丸の方のPNで御存知の方はお久しぶりです。まあ、同日アップした『八枚の翼と大王の旅』第27話からの告知見てすぐの人もいるかもしれませんが。そこはそれという事で。
俺が何者かって?
この度名乗らざるを得なくなったPNを見てお察しください。
どうもそうらしいですよ?(この期に及んで逃げようとしている)
ログホラとその登場人物達を愛する皆様の、ご期待に沿えれば幸いです。
そして、第2話以降はこちらもお待ちかね、ログホラTRPG口伝データをおまけとして解禁して行きます。お楽しみに
さて、兎にも角にも、ままれさんが書ける状態にないので、とりま続きを書き始めたのでした(ガクブル)。
前述の自作『八枚』の連載が終わりに近付いて(クライマックスです)、書かない理由が無くなるので、プレッシャーに負けまつたのでつ。
正直に言います。
胃が痛い(爆)。
公開自爆プレイとも言うよね、これ(核爆)。
まあ、少し古くなりつつありますが、今時は開き直って、俺TUEEEEEEEEEE!!!! と雄叫びを上げなら、執筆するのが流行らしいです。
でも、ままれさんはその自爆ダメージに耐えられなかったそうです。
なにぃ? あの伝説のウォーク(この呼び名スターウォーズの主人公みたいだよね)でさえもぉ?
駄目だ。俺なんかじゃ敵いっこないのに、俺がやるしかないのか?
はあぁ(ド溜め息)。
でも、俺には最後の必殺技が有ります。
「書き始めた第1話が不評なので、残念ながら、書くのは他の誰かにお任せします」と言う技が!
その時はその誰かに、シロエの全行動予定プロットだけ渡して「俺の屍を越えて行けえ!」と叫びます。
その技が敗れた時は、しくしく泣きながら頑張って続き書きます。
すべては第1話をご覧になられた皆様の温かいご要望、御声援次第です。
いっそ冷たい罵りでも良くってよ(おい)。だってそうしたら俺が書かずに他の人に(以下検閲削除)。
暗転。
はっ、一体俺は何を、ここはどこ? 何故記憶が途切れて?
一人漫才もそろそろ虚しくなってきましたので、呆れた御方もそうでない御方も、お試し版第1話の本編をどうぞ。
新ログ・ホライズン
―第1話:幸せへのチケット(1)―
-1-
嵐の前ならぬ、嵐の後の静けさのアキバの街―――
記録の地平線、ギルドホーム。
そのお茶の間には、先日解散したばかりの、旧円卓会議の主要メンバーが集まっていた。
とは言え、流石に現円卓会議主催のアインスの姿、及び、古くからのしがらみを切り難い年長組である、茜屋とウッドストックの姿は無い。
「そんで、結局〈三日月〉はどうすんだ?」
テーブルの上にどっかりと足を投げ出して、アイザックが口火を切る。
「なんですか、会議中にその態度は?」
「うっせえ、縦ロール。ここはシロエんちで円卓の会議場じゃねえ。プライベートだ、プ・ラ・イ・べ・-・ト!」
「それを言うなら、私だって縦ロールじゃありません! リーゼです! リ・ー・ゼ!」
「じゃあ、言うがな、リーゼ。話の邪魔すんな」
ギロリと睨む。
「っ」
「まあまあ、ここはうちの顔に免じて、な。な」
マリエの精一杯の笑顔。
「じゃあ、その代わりに答えてもらうぜ」
「あー、うん」
「マリ姉には、円卓会議と新たに発足するギルド互助会の両方に席を置いてもらいます」
シロエがコーヒーを啜りながら口を挟む。こちらもお行儀悪い。
「お、おい、ハラ黒。確かにそういう立場の人間が一人は必要だが」
珍しく狼狽えるミチタカ。
「そうですよ、何もマリエさんでなくてもいいでしょう。そんなのはお調子者のカラシンに任せればいいんです。ずっと適役ですよ」
ロデリックもさすがに彼女には甘い。
「そ、そう言う扱いですか? 否定しきれないのが自分でも悲しいですけどっ!」
「そう言う訳にはいきません。アインスさんが大地人との強力なパイプを構築している以上、こちらにも大地人との強力なパイプ役が必要です。それにはカラシンさんに、その役に専念してもらわないと」
「僕に?」
首をひねるカラシン。
「ええ。大地人の間では結構有名ですよ。その右手で握手して交わした約束は決して違えない。大地人なんかその気になれば、いつでも簡単に殺せる腕利きの冒険者なのに、どんなに悪どい相手だろうと、その右手で頬を張ったり殴ったりする以上は決してしない。ちょっとした伝説の、『右手の人』だそうですよ」
「そ、そんなの日本人だったら普通って言うか、普通のサラリーマンだったら頬を殴ったりもしないでしょう?」
「ヤマトは、中世暗黒時代ヨーロッパとまでは言いませんが、日々冒険者への依頼が絶えない程度には、治安がしっかりしていない社会なんです。日本人の普通を貫いただけでも立派ですし、やっぱりこれも人伝ての噂ですけど、カラシンさんの取引は、いつも相手の生活を思いやってるって、いいお話を聞きますよ」
一同の視線がカラシンに集まる。
「……お父さんお母さん。僕はディスよりも褒め殺しの方が怖いです。何を押し付けられるのか怖いです。マジ勘弁して下さい。誰かツッコんでください。容赦無く。お願いします」
「まあまあ、カラシンのいい所がみんなに認められたっちゅう事やん」
「だーかーらー、おーねーがーいーだーかーらー、ほーめーなーいーでー!」
頭を抱えうずくまるカラシン。
そんな事言ってると、今度はその内、日々ツッコみまくられて、褒め言葉が恋しくなると思いますwww
「それよりも、本当にいいのか、マリエ?」
眉根を寄せるミチタカ。
「うん。うちはまあ、両方に籍を置いても、スパイとか疑われんし、仮に疑われても、大したことは出来ひんて、甘く見られると思うねん」
「ッ、全部終わったら、一発殴るぞ! ハラ黒!」
「どうぞ」
涼しい顔でまたコーヒ-を飲むシロエ。
「なので、マリ姉は苦しい立場になるんで、この際、直継を〈三日月〉に長期出向させて、ずっと補佐に付けようかと思います。財務面の切り盛りも、帳簿仕事が2倍になるから、ヘンリエッタさん一人じゃあ厳しいと思うんで、〈西風〉からも財務担当のオリーブさんをお借りしてして付いてもらおうと。いざと言う時、護衛として戦闘面でも頼りになりますし」
「まあ、シロ先輩の頼みですし」
涼しく日本茶を啜りながら受け応えるソウジロウ。
だが、涼しくはいられない男が一人。
「お、おい、シロ! 聞いてないぞ!?」
席から立ち上がる直継。
「お前、タネガシマを目指すんだろう? メイン盾の俺がいないでどうするんだ祭り!?」
「ソウジロウに頼むよ。それにアカツキも口伝のお蔭で短時間なら盾が務まるしね」
「うむ。お前は必要ない。馬鹿継」
やはり涼しく日本茶を啜るアカツキ。
「それにマリ姉の精神的メイン盾は誰に務まるの?って、僕の口からそれ以上言わせたい?」
「~~~~~~~っ!!!!!!」
顔を赤くして悶絶する直継。いと哀れ(合掌)。
他の面々は礼儀正しくマリエと直継からさりげなく目を逸らし、口笛を吹いたりはしなかった(大人)。
「まあ、それならいい。だがな、互助会立ち上げるのはいーが、財布はどうすんだ? 税も大地人からの収入も、ギルド会館使用料も、全ッ部アインスが持ってっちまったじゃねーか!」
「参りましたよねー。敢えて再度空白にした権利料を、アインスさんが大地人貴族からの寄付金で賄うとは」
「あの値段設定を力ずくで達成できるのは、うちとD.D.Dだけと思ったんだがな」
「ホントに」
揃って溜め息を衝くロデリックとミチタカとリーゼ。
「フーン。――――の割には、ハラ黒。お前、ちっとも困った顔してねえじゃねえか?」
アイザックがやっと自分のコーヒーに口を付ける余裕を取り戻す。
「まあ、アインスさんが会館使用料だけじゃ足りない財源を、クラスティさんが組み立てた税金システムを弄ってどうにかする気でしょうけど、正直、あのシステム自体は、いくら弄った所で、改悪にしかなりませんね。それくらい完成したシステムです。その内所属ギルドから不満が続出するのは目に見えてますね」
「当然ですわ! ミ・ロードの傑作ですもの!」
鼻高々のリーゼ。
「なので、うちは別のアプローチで行こうかと」
「「「???」」」
「冒険者らしい、ゲーマーらしいシステムを作ろうと思っています。そもそも画一税制社会保障なんて、冒険者に似合わないでしょう?」
-2-
アキバの街、各所。
「互助会サービス、利用チケット?」
ある中堅冒険者が、レジ横に置かれたチケットを手に取って眺める。
それはアキバ中の、円卓会議を抜けたギルドや各個人の店舗において、見られ始めた光景だった。
この場合、焼肉屋『とんすとん』の店主が説明を始める。
「ああ、まあ、早い話が課金だな」
「課金?」
「ああ。税じゃ無いし強制でも無い。ただの良く有るゲームの課金サービスだ。レベルに応じた金額を払えば、誰でも購入できる」
「レベルに応じて?」
「そりゃ、低レベル冒険者が解決できないトラブルと、高レベル冒険者が解決できないトラブルと、どっちが互助会にとって難しいトラブルか、考えなくても分かるだろう?」
「ああ。そりゃ確かに」
「筋は通ってるし、公正だよな」
「今の円卓の訳わかんない税より、よっぽど分かり易いし納得できるわ」
そして、チケットを緊急時に破ると、互助会に位置情報の付いた緊急シグナルが送られる仕組みだ。破られたチケットはその後丸一日シグナルを出し続ける。
「俺も円卓抜けようかなー」
「税高くなったしなー」
「ま、強制はしないがな、お勧めはするぜ。アンタらが上手く立ち回れば、必要で無い税まで払う必要も無い。持ってりゃ安心の一回払いの御守りで済む。逆に高難度クエストとかに挑む時は、チケットさえ必要分買っておけば、何度助けを借りようと、ちゃんと料金払ってるんだから、税の無駄遣いと後ろ暗く思わずに済む。
大きな声じゃ言えないが、円卓に『飼われてる』奴らが、どれだけ後ろ暗い思いをしてるかと思うと、ぞっとするね」
「あー」
「なんだかなー」
「俺やっぱ円卓抜けるわ」
「確かに。気分わりー」
「オヤッさん、チケット頂戴」
「俺もー」
「毎度ありー」
このようにして、資金調達の目途が立ち始めた(如何に課金チケットが便利かをアピールする為に、サクラ(やらせ)も活用した)互助会は、本格的に看板を立てて活動する事となった。
今までは、ただ参加各大手ギルドの存在自体が看板だったが、ちゃんとリーダーを立てる事にしたのである。
噴水広場に設置された演説壇。
大統領選でも始まるかのような物々しさに、多くの人が足を止める。
待機室として設置された天幕の中で、本日の主役は――――
「兄ちゃん、やっぱ無理だよう」
隅っこで震えていた。
「ト、トウヤ」
「頑張れ!」
「にゃん太さんが、美味しいご褒美を用意してくれてますから!」
「セララの言う通りだ、ファイトだぞ、トウヤ!」
「なんとかなるって~」
ミノリが、五十鈴が、セララが、ルンデルハウスが、てとらが励ますが、余り届いた様子は無い。
「そもそも何で俺なんだよ~。マリエさんか師匠がやればいいじゃん」
「せやから、うちらは円卓にも所属しとるから、アカンゆうたやろ」
「今こそ漢の魁祭りだぜ!、少年!」
前歯をやたら爽やかに光らせる直継の頼もしい笑みも、今はひたすら恨めしい。
「兄ちゃ~ん」
トウヤは縋るような眼をシロエに向ける。が。
「生憎僕達は、これから指名手配の犯罪者にならなくちゃいけないから、無関係でいなくちゃならないんだよねえ」
「うむ。独り立ちの時だぞ、トウヤ」
とまあ、アカツキともどもあっさり突き放す。
「何で俺なんだよ?」
「それは、トウヤが一番よく知ってるんじゃないかな?」
「?」
「僕なんかが、低レベルで人生に絶望してる人間に何か言った所で、上から目線の嫌味にしかならない。人生に一度絶望した人間からじゃ無けりゃあ、届かない言葉も有ると思うんだよ」
「?!!」
トウヤは目を見開く。
自分は、打ち明けた事など、一度も無いはずだ。ミノリしか知らないはず。
「まあ、ただのカマかけ。でも、無理して笑ってる時があるのは、なんとなくわかるし、何かを叫びたがっている時も、なんとなくわかる。だから―――」
「だから?」
「自分を救う為と思ってやって見なよ。自分が無力な子供じゃないって、他のみんなも無力な子供でなくていい、一歩踏み出せるんだって、自分の為に、自分も勇気をもらうためにさ」
「――――――――っ!」
そう言い残して、シロエは後ろを振り返りもせず、待機室から出て行く。
あっさりと。
アカツキはいつもの如く当然と従い、それをセララが追いかけて行き、天幕の外で待っていた、にゃん太班長とソウジロウ、ナズナとともに、アキバの外へとさっさと去って行くのだ。
ソウジロウは、置いて行くイサミ、オリーブ、カワラに微笑む。
「それじゃあ、カラシンさんと、マリエさん達と、トウヤ君達を頼みます」
「何でうちがあんな奴の護衛なん?」
「はー。まあ、ソウジロウの頼みならねー」
「二人なんかまだいいよ。あたしなんかガキどもの御守りだよー」
「ま、安心して行っといで。アタシが言い付けを守せてあげるから」
まとめ役のドルチェがウィンク。
「さっさと行け、ウジ野郎」
舌を出すくりのん。
「フーン。妙なことしたら、後で分かってんだろうね?」
くりのんにガンを飛ばすナズナ。
「ま、それもアタシに任せなさいって」
ドルチェがもう一度ウィンク。そしてくりのんの首をホールド。
「ギ、ギブギブギブ」
泡を吹き、ドルチェの腕をタップ。
一同は笑い合う。
「さて、それじゃあ、折角円卓も無くなった事だし、僕達は、本当にしたい事を好き放題やる事にしようか」
「食い散らかしましょう、にゃあ」
シロエがマントを翻し、新たに結成された6人のパーティーは、枷から解き放たれ、自由の野へと旅立つ。
一番後ろで、セララは決意にまなじりを固くしながら、にゃん太の後を付いて行く。
-3-
旅立ちの前日。
シロエとにゃん太は、テラスでうららかな陽射しを浴びながら、のんびりとお茶を飲んでいた。
の○太と御隠居と言った風情で、後は膝の上に猫でもいれば、そのまま置物になりそうな位ハマっている光景である。
「いよいよ明日ですにゃあ」
「うん。高い塔に囚われた御姫様を、好きな殿方の待つ自由の野へと解き放つんだ。これほど冒険者らしい冒険も無いでしょう?」
「ですにゃあ。まさしく美味しい処ですにゃ。食い散らかさぬ訳にはいきませんにゃ」
「うん。それに、この旅で解き放つお姫様は、レイネシアさんだけじゃないしね」
そう言ってシロエはかすかに頬を赤くする。
「ほほお」
にゃん太は目を丸くしてから、また細め、笑う。
「ついに決心しましたか。応援しますにゃあ」
シロエの背を叩く。
「ごほっ!? 強すぎるよっ班長?」
「ああ、これは失敬。嬉しくてついにゃ」
「それはそうと」
「?」
「回復役なんだけど、もう一枚をマリ姉に頼む訳にもいかないから、セララに頼むよ」
「――――きつい旅ですにゃ。耐えられますかにゃあ?」
「班長が一番近くで見て来たでしょう? 大丈夫だよ」
「……友達とも離れ離れになりますにゃ」
シロエは、予想していたその答えに、内心で固くなりながらも、表面ではのほほんと継ぐ。
「でも、そうすると、今度は班長と離れ離れになるよ」
「……………」
そして心の片隅で、セララに勝手な事して御免!と、両手を合せ謝りながらも、次の言葉を告げる。
「彼女は、班長の事、慕ってるしね」
「―――――それはまあ、父親代わりとして慕ってくれているのは、分かりますし、嬉しいですけどにゃあ」
「――」
シロエは、そのあまりに自分の推理通りの答えに内心で呻く。
班長の、余りに鈍すぎる態度の、その理由の。
そして、推理の最後のピースを確かめるための、問いかけを放つ。
「こんな事聞いて御免。班長。やっぱりいたの? 奥さんが亡くなった時に、お腹の―――」
「生きていれば、小学生ぐらいですかにゃ。――――だから、シロエっちに、年少組の面倒を見るよう頼まれたのは、実は嬉しかったですにゃあ」
二人は、それからしばらく黙っていた。
班長は、慕われている事自体に気付いてない訳では無かった。
ただ、彼自身の強烈なトラウマの所為で、その好意に対して、フィルターがかかっていただけだったのだ。
異性では無く、保護者、父親への好意だと。
この沈黙も、班長は、同情ゆえの優しさと勘違いするだろう。
それも全くの間違いではないが、それ以上に、このままでは余りに救われない。
セララも。
そして班長自身も。
「小学生か」
「?」
「それならそろそろ、大きくなったらお父さんの御嫁さんになるって、言い出す年頃だね」
「ああ、そう言う頃ですかにゃ――――」
「言い出したら、どうするの?」
「……。まあ、有り得ないですが、そうなるとお嫁に出すのが辛くなりますにゃあ」
にゃん太はそれを冗談と受け取り、冗談で返す事を選んだ。
だが、笑いながらも、微かに、心に小さな棘が残る。
シロエも、その微かな棘が刺さったのを、うっすらと感じる。
その棘は、楔であった。
登らなければいけない高い山の断崖に打ちこんだ、最初の楔。
どうか、セララがその楔を足場にして、この難攻不落の山を登れるようにと願い、打ちこまれた楔であった。
高い塔に囚われているのはお姫様達だけではなく、王子様達もなのだ。
クラスティも含めて。
-4-
噴水広場。
集まった群衆。
トウヤは震えながらも壇上に立つ。
大丈夫だ。
もうこれは武者震いだ。
そう自分に言い聞かせながら。
言葉を発する前に自分の頬を両手で叩く。
その行為と、リーダーとして紹介された人物が、余りにも子供である事を見て、群衆から不安のざわめきが起きる。
だが、そのざわめきは、次に見開いたトウヤの、余りにもまっすぐな決意に満ちた、瞳の輝きの前に消える。
「皆さん」
微かに震えながらも、朗々としたその声に、人々は固唾を呑み引き付けられる。
「僕が余りにも子供なので、皆さんは不安に思われた事でしょう。
そりゃそうです。ついさっきまで他ならぬ僕自身も不安だったんですから」
聴衆が軽くどっと沸く。
「僕が皆さんと同じ様に、このヤマトに飛ばされてきた時は、リアル年齢でも見た目通りの中学生の上に、初心者に毛の生えた程度の、低レベル冒険者でした。
シロエ兄ちゃんたちに、記録の地平線のみんなに、互助会の大人たちに面倒を見てもらわなければ、きっと今でも、街の片隅で、円卓から出る支援金を頼りに暮し、最低限の低レベルクエストをこなす以外は、街から冒険に出る事も適わない、無力な子供のままだったかもしれません。
でも、それが、それこそが、僕なんかがこの互助会のリーダーなんて神輿に選ばれた理由なんです」
広場が静寂に包まれる。
沈黙を時折破るのは、幾人かが微かに鼻をすする音。
「僕は、リアルでも無力な子供です。
交通事故で脊髄を損傷し、おそらくは一生を車椅子で過ごさなければいけない、無力な子供でした。
大好きだったサッカーは、多分もう二度とできない。
ゲームの世界には、文字通り、辛い現実から逃げてやって来たんです」
そして幾人かから、涙が頬を伝い地面にこぼれる。
もう、目を潤ませていない者の方が少なかった。
「でも、さっき決心がつきました。
もし、現実の地球に戻ったら、学校の先生を目指そうって。
自分の脚でボールを蹴れなくても、大好きなサッカーの事を勉強し続けて、子供に教え続ける、大好きな事を自分の仕事にできる道を、選ぼうって。
考えてみれば当たり前の事だったんです。プロの選手になれるのなんて一握りなんだから、そう言う道を選ぶ人の方が、現実にはずっと多いのに、自分で勝手に絶望してたんです。可笑しいですよね」
でも、誰一人嗤う者はいない。
居たとしても、それは泣き笑いだった。
「だから、だから……………。
僕に、どうか勇気を下さい。みんなも自分のために立ち上がって見せて下さい。低レベルになんて負けないでください。地球に還る事を望んでいるのなら、身勝手に絶望した行為をせずに、互助会のみんなと力を合わせて下さい。地球に還る事を望んでいなかった人も、地球に戻ってもいいと思える自分の道を見付けて、どうか僕らと力を合わせて下さい。
その姿をどうか見せて下さい。
僕も、地球に戻るのは、偉そうな事を言ったけど、すごく怖いです。
だから、僕に勇気を下さい。みんなが夢を、自分を諦めずにいるんだから、前に進むんだから、僕だって前に進んでいいんだって、その勇気を下さい。
どうか、おねがいします」
トウヤは、深々と壇上で頭を下げる。
やがて、まばらに、そしていつしか、割れんばかりの拍手が起こり鳴り響く。
トウヤは祈る。
どうか、この言葉が人伝てに、ダリエラにも届きますように、と。
彼女は自分と同じだったのだ。
自分の望みを押し殺して、無理して笑っていた自分と。
彼女の本当の望みも、どうか叶いますように。
どうか、その一歩を、彼女自身も踏み出せますように。
-5-
その裏で、ミカカゲやアオモリ達は、15レベル以下の冒険者を対象に、無料お試しチケットを配っていた。
「ハーイ。ならんで並んで。一人一枚ね」
「冒険だけでなく、生産職ギルドで技術講習を受けてもらうのにも使えまっす」
「この分だと、たくさん弟子が出来そうよね―」
「どうかなー?」
「何ソレ、ムカつく!」
「いや、悪気が有ってケチ付けたんじゃ無くって、ついほら、なんとなく」
「なんとなくって何よ?」
「いや、それが、自分でもよくわかんなくってさ。でもこう、フィーリング?」
「呆れた。あんたアレでしょ。水楓の館についぞ招待してもらえなからって逆恨みでしょ。このスケベ」
「いや、それはだな、友達に紹介して欲しかったのは、ほら、なんていうか………」
「何よ?」
「…………何でもありません」
もしこの場にシロエがいたら、きっと涙を流してアオモリの肩を叩き、その気持ちわかるよと言ったかもしれない。
肝腎な時にヘタレちゃうの。だって男の子だもん(爆)。
そして、アオモリの懸念は現実となる。
トウヤの言葉に背を押され、互助会に所属し直し、前に進む事を選んだ者もいた。
だがやはり、かなりの数の低レベル冒険者が、それでも円卓に『飼われ』続け、無為の日々を送り続けたのである。
―第2話に続く?-
と言う訳で、お試し版の第1話です。
ここから先は厳密にはあとがきになるのですが、読み飛ばされる訳にもいかない告知でもあるので、本編内の文章としてここに書きます。
まず、第2話以降を掲載するかどうかは、今だまったくもっての未定です。
それには幾つかのハードルが有るからです。
当たり前ですが、ログ・ホライズンと言うタイトルは、皆様の大きな支持を受けてきました。
故に、このお試し版の第1話が、皆様の期待を裏切るモノ、「こんなのログホラじゃない」と、言われるモノであれば、続ける意味は全くもってありません。
今までの読者、アニメ視聴者様が、「これが僕達の見たかった続きだ」との支持を下さって、初めて『なろう』に続きを掲載頂ける許可を得られたと、判断せざるを得ないのです。
第2話以降は、本話掲載からのおおよそ100日後、9月中ごろまでに、活動報告へのコメント、感想、ポイントの形として寄せられた、皆様の同意の数を持って決めさせていたく事に致します。
自分の他の作品は、ポイント低くても自分自身とわずかな読み手の為に書けばいい。と開き直って書けるのですが、本作ばかりは、ポイントが低いイコール、皆様の期待を裏切ったとして、開始即打ち切りとせざるを得ません。悪しからず。
支持以外の問題は、本作を自分独りで書くのはほぼ不可能だという事です。
ままれさんとあっちゃんは勿論ですが、他の多くの方々にも協力を仰がねばばりません。
と言うか、シロエ達6人のパーティーの冒険は当然自分が書きますが、アイザックやカラシンやトウヤ&ミノリを始めとする主要キャラクターそれぞれの物語は、いっそモデルとなられた現役作家さんや編集者の相方作家さんに、書いて貰おうと企んでおります。
うわあ。全力戦闘管制のし甲斐が有るわあ(苦笑)。
いえ、単に自分の執筆スピードだと、基本、最終目的地タネガシマを目指し、各地の宇宙開発研究施設や大学が所在する場所に有るであろう古代宇宙遺跡探索に、ヤマト各地を巡る、シロエ達の旅だけを書くので精一杯なんですよ(苦笑)。
なので、それらの方々に協力して頂けなければ、やはりアキバ全体の続きの物語としては成立しません。
エンターブレインさんとの兼ね合いもあるでしょう。NHKさんはまあ、あれ以来、ログホラとは無関係のスタンスを取られているので、この際気にしません(苦笑)。
これらのハードルを全て越えて、初めてこのお話の続きが書けるのです。悪しからず。
さて、最後に今後の物語展開に興味を持って投票して頂くための、姑息な若干のネタばらしを。
ネトゲにも、まず『交流型ゲーム(PBM)』と呼ばれたゲームでプレイヤー達が遊んでいた、黎明期が有りました。
『台風と黎明の時代』です。
そう、カナミ(仮名)さんたちが主役の時代、某ロボノベ作品のモデルにもなったあの時代です。
ええ、わたしゃ陰気なゲーム博士で、容貌を『教頭先生』と揶揄される、学生なのに若年寄でしたよ(涙)。
敏腕バスガイドですよ、副艦長(と言うか、実際にゲーム中でもある船の船長だった)ですよ、班長と一緒に子供たちの引率役ですよ。俺が目付きのコワい痩せた眼鏡教頭で、班長が温和な校長先生ですね(爆笑)。
そのン年後、丁度俺が劇中のシロエと同じ年齢の時に、現実で『あの人』と初めて顔を合わせました。
『夜明け(暁)の時代』です。
まさしくネトゲの夜明けの時代でしたし、ログホラの今までのお話のモデルは当時からのお話がメインですね。
更にその後、俺にも皆にも当然いろいろあったのですが、ソウジロウ(仮名)にもいろいろありました。
今回6人パーティーの中にソウジロウもいるのは、あるゲームで同行中でのその事件もネタにするからです(酷い)。
その事件の背景には、とあるはからずとも〈予言〉となってしまった某作品が有りまして。
かな(仮名)「ソウジロウ(仮名)が特定の彼女を持つとしたらどんな人だと思う?」
しろ(筆者)「かなさんに似た人なんじゃないですか?」
かな「えー、しろに似た人だと思うよ」
しろ「………せめて中間とか足して割る位にしてクダサイ」
某作家「それ、小説にしたら面白そう!」
しろ「ええっ? 本人の了解は?」
その後、呆れるほど素早い確認作業。
某作家「是非書いてって。僕も絶対読んで見たいってお願いされました」
しろ「ええええっ?」
某作家「もしそんな理想の人が実在したなら、その人の◎や△×になってもいいとも言ってました」
突っ伏すしろと腹を抱えて笑い転げるかな。
しろ「……もし、その作品が原因でソウにお嫁さんの来手が無かったら、アンタ責任取ってお婿にするんですか?」
某作家「絶対に嫌です(脊髄反射)」
かな「いいじゃん。他ならぬ本人がそう書いていいって言ってんだからさあwwwww(性格丸く?なってる)」
その某作家は、その後読者に同様のネタを振られた時も、同じ脊髄反射しましたとさ(おい)。
『真昼の空の時代』
ネットゲーム黄金期。空を見上げれば、そこにはいつだって真昼の太陽が有った時代。
そこには、数々の伝説と逸話、そして、今までネタが余りにもあまりに過ぎて、封印されてきた大惨事も有った。
正直誰も手を付けかねるくらい――――――なのだが、まあいいか。
流石に描くと洒落にならない事以外は、書いてもいいとの『マ◎×』さんからの許可も出ましたので、この際ネタとして面白い部分は全部書こうと思っています。
なので、某作品と似たような展開が随所にある事になりますが、史実を元にしておりますので仕方ないんです。ええ。
嘘からでた真。瓢箪から駒。
ソウジロウのファンの方、イメージを壊す事になるかもしれませんが御免なさいっ! 史実を(以下同文)。
兎に角、大惨事(爆笑&滝涙)です。
某作家のファンの方もスイマセン。大惨事(酷い)です。あの頃の読者も、もう大人になったからいいですよね!?
それが原因でどれだけ西風の旅団(仮名)に筆者が(カオス過ぎて以下略)。
あの悪ガキのレオすら可愛そうになるくらいの被害者として振り回される、無茶苦茶な展開です。
まあ、勿論シロエとアカツキとにゃん太とセララ。そして濡羽と、彼女がどうしても地球に還りたくない理由であり、それでいて彼女の本当の望みでもある、未だ本編未登場(だってまだ地球に居る設定だもん)の人。これらの男女のドラマも織り成されていきます。
ナズナのストーリーは? うーん。彼女にどうどれを書いていいか悪いか聞いてみないとね(苦笑)。場合によっては、本編中では触れないかも知れないし。
そして某ロボットラノベ作品創作秘話ネタばらしともなっております。
あれ? こんな厄介な展開、ままれさん以外には俺しかやっぱり引き受ける奴いねえ?(核爆)
全力戦闘管制を一歩間違えれば大参事? 只の小説執筆でしょうこれっ!?
と言う訳で、今後の展開に興味をくださったお方は、清き一票&活動報告へのコメントをお願い致します。
いや、ちゃんと『典災』だの『共感子』だのの問題にもきっちりケリを付けますよおお!
実際、俺がその問題を当時ある程度解決した実話を元に、ログホラは書かれ始めたわけですし。
『虐殺器官』なんて、俺の持ちネタの一部のパクリですよパクリ(言っちゃった)。
伊藤さんが俺と本当に関係の無い人で、自分で独自にあれを考え付いたんだとしても、それより随分先に俺がそれを発見して対処した事は、ままれさんをはじめ、賀東さん、三木さん、榊さん、鏡さん、雑賀さん、冴木さんと言ったお歴々が、先刻ご承知の事なので、悪しからず。若手(と言っても今や中堅以上)の数え切れぬ方々も御承知の事実です。ええ。
それでは、今度こそ『実在の虐殺言語』にとどめを刺しましょう。
お楽しみに。
ああ、遂にあぷしてしまいました。。
もう引き返せないのでしょうか?
それは全て皆様の温かいお声、励まし次第です。
いっそ何の声も無ければ、全ては無かった事に(おい)。
それはそうと、次回予告。
寝心地が悪い。
いつでもどこでも寝られるのが、貴族らしからぬ自分の自慢の特技では無かったか?
寝心地が悪くて、胸がむかつく。
むかむかする。
そう。なんだかんだ言って、もう少し水楓の館の生活を楽しみたかったのだ。
そう、次回次話の主人公はレイネシアです。
彼女の物語が気になる方は、活動報告にコメントを下さい。
それでは次の機会(未定)に。
まったねー。