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闇の力

 城壁の上で、シルバーバレットの隊長はゾンビと戦うメリレイアを見つめていた。

 無限の物量を持つゾンビの軍団に、メリレイアが押されている。

 トゥルーフレアとて無敵ではない。

 おそらく保って数分。その後には魔力が途切れて戦えなくなり、ゾンビに殺されてしまうだろう。

「た、助けに行かなくていいんですか」

 バルカムの少年、アバックとか言ったか、に問われる。

「不可能だ」

 本音を言えば、救助に行きたかった。

 だが、自分の部下を送り出すわけにはいかない。メリレイアのいる場所まで到達できる可能性が全くない。


 だからといって、黙って時間が過ぎるのを待っていても、メリレイアは死ぬし、この要塞も陥落する。


 隊長は考える。

 ここで最善の判断を下すとしたら?

 まずメリレイアは、全てを放棄して壁の中に逃げればいい。

 隊長自身も部下を連れて、壁の中に撤退。多少の犠牲は出るかもしれないが、七割は生き残るだろう。

 それが最も犠牲が少ない結果になる。

 もちろん、要塞内にいるバルカムは全滅するが、塔全体にとっての価値を考えれば大した損失ではない。

 理論的にはそれが正しい判断だ、が……。


 隊長は、目の前で、本気でトゥルーフレアの少女の心配をしているバルカムの少年に視線を戻す。

 こういう存在を平気で見捨てることができるようになったら、価値の判断など意味がなくなる。今度はその組織自体に存在する価値がなくなるからだ。


 メリレイアを救助する、隊長はそう決断した。

 自分が正しくない判断をしているという自覚はあった。だが、他にどうしろと言うのか。


「隊長! あれは! あれはなんですか!」


 命令を下そうとする寸前に部下の一人が叫んだ。その指さす方を見る。

 さっきまでゾンビしかいなかった城壁の近く。地面から、白い何かが湧き出してくる。

 白い何かはグニャグニャと形を変えて、骨でできた巨大な人のような形になる。名前を付けるとしたら、ヒュージスケルトンとか、がしゃどくろとか、そんな呼ばれ方をしそうな怪物だ。

 巨大なスケルトンの身長はおよそ二十メートル、要塞の城壁の倍ほどの高さだ。


「敵なのか?」

「ありえん! 骨だけで動いている……」

「攻撃しろ!」

 シルバーバレット達は混乱しながらも、スケルトンに攻撃を始める。だが効果はない。

 死体を焼いても骨だけは残る。骨は炎に強い。


 スケルトンは、シルバーバレットたちを無視して、まとわりついていくるゾンビの群れを払い落すと、遠くの方で戦っているメリレイアの方に歩き出す。

「なんだ、ゾンビと戦っているのか? もしかして味方なのか?」



 カイルは、城壁の上、近くに人がいない場所から、戦場の様子を眺めていた。

 スケルトンはカイルが作成した物だ。

 カイルは昔、炎系の魔術を使えた。だが、ある時からなぜか使えなくなった。その穴を埋めるように手に入った力が、これだ。

 骨でできた召喚獣のような物を生成し、遠隔操作することができる。


 巨大な物を作ると、維持できる時間も短くなる。急がなければいけない。

 ゾンビの群れを蹴散らし踏みつぶしながら、メリレイアの元にたどり着く。

 骨なので視界はない。カイルが自分の目で状況を確認する必要があるので、あまり遠くには行かせることができない。

 が、骨伝導か何かで音だけは伝わってくる。

 メリレイアは疲れた声で「何? これも敵?」などと言っているようだったが、それを無視して拾い上げた。

「ちょっ、何よ! 離しなさいっ!」

 メリレイアは抵抗しているが、カイルは骨を操作し、メリレイアをスケルトンの口の中に放り込んだ。

「食われたぞ!」

「やっぱり敵なのか?」

 騒ぐシルバーバレット達。

 スケルトンは自身の頭をもぎ取り、要塞に向かって投げつけた。

 頭が本体だ。切り離された胴体は、その場で自壊していく。

 スケルトンの頭蓋骨は、要塞の手前に落ち、何度かバウンドしながら転がって、城壁に当たって止まり、砕け散った。

 衝撃を吸収させるため、わざと壊れやすい骨の層を作っておいたので中のメリレイアは無事だ。

 倒れたメリレイアに、近くにいたゾンビが襲い掛かろうとするが、メリレイアを取り囲むように、地面から骨の柱が何本も生えてきて、壁のようになって守った。

「ううう……」

 メリレイアがうめき声を上げている。

 転がされて振り回されて、三半規管にダメージを受けたかもしれないが、生命に支障はないはず。

 あっけに取られていた隊長が我に返って叫ぶ。

「救出に行くぞ! トゥルーフレア様を収容するんだ!」

 シルバーバレットの戦闘部隊が、要塞から飛び出し、付近のゾンビに炎を叩きこんで倒しながら進んでいく。


「……」

 カイルは立ち上がった。

 手の中でボロボロになったコントロール用の骨を投げ捨て、壁の下を見る。

 自分の能力を明かせない理由が、そこにあった。


 メリレイアを取り囲む骨の壁は、畑を守るための骨の壁と同じ材質のように見えた。

 カイルが自分の魔術で出した物だが、その正体は全く分からない。どうして骨壁に似ているのかもわからない。

 もしかして、過去に、カイルと同じ魔術を使える魔術師がいたのかもしれない。


 だが、もしそうだとしたら、これは大変な事だ。

 火炎系の魔術を全く使えない人間が、畑を守る壁と同じものを出せる。

 そして畑を守る壁と、塔の材質も、ほぼ同じ物のように見える。

 だとすると、塔を作ったのは火炎系の魔術師ではないのかもしれない。


 しかし、記録上は、塔を作ったのは火炎系の魔術師であり、それがトゥルーフレアを頂点とする塔の中の階級社会を成立させる根拠となっている。

 それに異を唱える者がどんな末路を辿る事になるのか、想像に難くない。

 だからカイルは、この力を人に明かすつもりはなかった。



 現状は、芳しくなかった。

 とりあえずメリレイアは救出された。

 シルバーバレットにもバルカムにも、犠牲者は出ていない。


 だが、かなりの数のゾンビが骨壁を越えて畑を踏み荒らしている。

 そしてナメクジの群れが要塞の壁まで接近して、体当たりしてくる。少しでも遠ざけようとシルバーバレット達が炎を浴びせているが、効果がない。

 近いうちに城壁は崩れるだろう。



 それから一時間ぐらいした頃に、塔からの増援が来た。トゥルーフレアが四人。

 他のトゥルーフレア達が骨壁付近のゾンビを蹴散らしていく中、一人の少女が要塞にやってくる。

 リアムだった。

 声をかけるシルバーバレットも無視して、まるで位置がわかっているかのように一直線にカイルの所まで走って来た。

「カイル? 大丈夫? ケガとかしてない?」

「ああ、元気だよ」

「私と会えなくて寂しくなかった? うふふ、抱き着いてきてもいいんだよ?」

「何を言ってるんだ。おまえは……」

 人前でそういう事はやめろ、と言いたかったが、それこそ人前では言えない。

 周囲の目線も針のようだ。このバルカムはどうしてトゥルーフレアと仲がいいんだ? みたいな疑惑を抱かれているようだった。

 だがその興味もすぐに薄れた。

 またナメクジが壁に体当たりして、要塞が揺らされたからだ。

「ずいぶん大きいの来てるみたいだけど、あれ放っておいていいの?」

「どうやっても倒せないから放置してたんだ」

 メリレイアでもそれなりに苦戦した巨大ナメクジ。それが五体。骨壁の向こうで戦っているトゥルーフレアも全員呼んで、一人一殺してもまだ足りない。

「どこから攻撃するのがいいかな?」

 リアムの問いに隊長が答える。

「射角を取るなら壁の上ですが、あそこは、もうすぐ崩れると思いますよ」

「それじゃ、崩れる前に仕留めないといけないね」

 リアムは何が楽しいのか、スキップしそうな足取りで、壁の方に走って行く。


 城壁の上から見下ろすと、そこは世紀末のような光景が広がっていた。

 城壁のすぐ近くに巨大ナメクジが五体、その隙間や向こう側をうろついている無数のゾンビ。城壁が崩れれば、これが全て要塞の中に侵入して、ここにいる人間は全滅するだろう。

 しかし、巨大ナメクジが要塞に集中してくれたのはまだ運が良かった。

 もしナメクジが骨壁の方に行っていたら、そのまま乗り越えていただろう。あるいは大量のゾンビを投げ込まれて、畑が壊滅していたかもしれない。


 この状況を一人でどうするのか、とカイルたちが見ていると

「それっ!」

 リアムが手を振ると、空中に五つの炎が現れた。どれも点のように小さい。

 一つ一つが小さな虫の形になって、ハエの羽音のような音を立てながら飛んでいく。

 人間に当たっても火傷を負わせるのがせいぜいと言った感じの、小さな炎。それが五匹のナメクジに一つずつ着弾した。分裂も増加もなく、炎は消える。

「今のは、何だ?」

 横で見ていた隊長が呟く。

 失敗したのかと、カイルも思ったほどだ。


 数秒ほど、沈黙の時間が流れた。

『ピギィェェェェェェェッ!』

 突然、ナメクジが物凄い悲鳴を上げて暴れだした。

 五匹が同時にだ。

 全身をくねらせ、バタバタ暴れまわりながら、滅茶苦茶に転がる。

 ゾンビの群れがブチブチと押しつぶされていく。ナメクジの一体は城壁に激突し、カイル達は吹き飛ばされそうになった。

「うわっと?」

 リアムは足を取られて壁の向こうに転落しかけた。カイルが掴まなかったら落ちていたかもしれない。

「気を付けろよ」

「あはは、ありがと」

 リアムはそのままカイルに体重を預けてくる。

 カイルは、やめさせようかと思ったが、また城壁が揺れたので、しっかりつかんでいる事にした。

 ナメクジ達はしばらくの間、苦しみながらのた打ち回っていたが、やがて動きを止めた。完全に死んでいた。

「あ、あの炎は一体、なんだったんですか……」

 問うて来る隊長に、リアムは得意げに応える。

「エターナル・フレイム・インフェルノ。対象の体力を炎に変換して体の内側から燃え続ける。文字通り、死ぬまで消えない……使うとちょっと頭痛くなるから、あんまり使いたくなかったんだけど」

「そんな魔術があるのですか……」

 そんな話をしているうちに、骨壁の向こうのゾンビは既に討伐が終わり、トゥルーフレア達は、壁近くのゾンビの掃討に入っていた。

 遠からぬうちに、状況は解決するだろう。

「畑、荒らされちゃったけど大丈夫なのかな」

 カイルが呟くと、リアムは気楽に答える。

「あれは、アイアンテックが直すんじゃないかな? 私たちが心配するような事じゃないよ」

「今すぐ直しても、今年の収穫は無理じゃないか?」

「あー。そっか……」

 そんな話をしていると、隊長が答えを教えてくれる。

「塔の食糧事情の話ですか? それなら備蓄してる穀物があるからすぐに影響は出ませんよ。ただ、この辺りは家畜用の飼料なので、肉の生産を絞ることになると思いますが」

 これだけの事態になってもその程度で済むなら運が良かった、とカイルは思った。

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