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エレベーターのあの二人

 エレベーターの扉が開く。それに全員が乗り込んだ。カイルやリアムは最後の方、扉の近くに乗せられる。いざという時は盾にするためかもしれない。

 カイルは小声でリアムに話しかける。

「大丈夫か?」

「うん、まだ足がガクガクするけど」

「俺につかまってろ」

「うん……」

 リアムは震える手をカイルの肩に乗せて、体重を預けてくる。

「おうおう、仲のよろしい事で」

 デュアトスは笑う。

「君の働き次第では、そいつには酷い事をしないでおいてやってもいいぜ?」

「……従うよ」

 カイルは答えて、それからメリレイアの方を見る。

「あら、お気になさらなくて結構。私に酷い事をできる人間なんてこの世にいないわ」

 メリレイアは不敵な笑みを浮かべた。

「俺はそう思わないけどな」

 レドヒルがニヤついた笑顔で鎖をちゃりちゃり鳴らす。


 エレベーターが止まった。

 高速エレベーターでいける最高階層だ。

「中央塔へのルートは調査済みだ。このエレベーターに乗り込め」

 デュアトスの指示でエレベーターを乗り換える。

 エレベーターが動き出し、十階分ほど登った所で止まった。

 誰か乗ってくるのようだ。

 盾にされるかと思ったら、むしろテロリスト達の数人が立ち位置を変えて、リアム達を隠す。

 デュアトスが低い声で言う。

「人質どもは動かず黙っていろよ。変な事をしたら一人殺す」


 扉が開いて、そこにいたのは、見た覚えのある二人組だった。

 カイルがメリレイアに人形を届けに行った時に難癖をつけてきた二人組だ。

 片方が、わざとらしく鼻をつまむ。

「おいおい、くっせぇやつが芋みたいに乗ってやがるぜ。あれ最下層民のコスプレか何かか?」

 カイルは呆れて言葉も出ない。。

 こいつら、もしかして、ここでバルカムに嫌がらせをするのが仕事なのだろうか。

「……悪いっすね。満員ですよ」

 デュアトスはへらへらと、さっきまでとは別人のような笑顔を浮かべて対応する。

「バカを言うなよ。バルカムの分際で、トゥルーフレアである俺達を待たせようってのか?」

「あーそうですね。それじゃあ、今回は俺達が降りますよ。……ほら、おまえら、降りるぞ」

 意外な事を言い出す。何かの冗談かと思ったが、テロリストたちはぞろぞろとエレベーターから降りていく。訳が分からないまま、カイルたちも最後尾から引きずり出された。


 首に鎖をつけられた少女が二人、明らかにトゥルーフレアらしき服を着たそれを見て、へらへら笑っていたトゥルーフレアのクズ二人組も真顔になる。ようやく状況を理解したらしい。

 デュアトスだけは、あいかわらず奇妙な笑みを浮かべている。


「あ。ちなみに、こいつはお偉いさんの娘だ。おまえらのせいでこいつが死んだらどうなるか、説明はいらないよな?」

「ばっ、バカな事はやめろ。おまえら殺されるぞ!」

「やめようぜ? そんなの良くないって……」

「俺たちの心配はいいんだよ。おまえらが自分のためにどうするか、って話だぜ」

 デュアトスが、促す。

 二人組はお互いに顔を見合わせた後、引きつった笑顔でエレベーターを指さす。

「そっ、そうだな。エレベーターで上に行くんだろ? うん。行けばいいんじゃないか?」

「なんか、急ぎの用事みたいだしな。俺たちは後でいいよ。そういう事だよな? な?」

「そういう事じゃないんだよなぁ」

 デュアトスは獲物を見つけた肉食獣のような笑みを浮かべる。テロリストたちは、いつの間にかクズ二人を取り囲んでいた。

 もしかして、デュアトスもこの二人にいびられた経験があるのだろうか、とカイルはどうでもいい事を考えた。

「おいおい? おいおいおい? どうした? おまえら、俺らがルールを守ってる間はさんざんイチャモンつけてくれたじゃねぇか? あの時の威勢のよさはどうしたのかなぁ?」

 二人組は何も言わない。

「俺らが反逆してるのに目を逸らすのか? ああん? 見ろよ、女の子が人質になってんだぞ? 普段は大人しくてこういう時に勇ましい態度をとるのが紳士ってやつだと俺は教わったんだがね。おまえら、その真逆をやるってのはどういう事かなぁ? なぁ?」

 トゥルーフレアの二人組は目を逸らし、反論すらしない。

 デュアトスはさらに調子に乗り始める。

「何もできないよなぁ? でも仕方ないよなぁ? だって、おまえら、ちょっと炎の扱いが得意なだけで、中身はただのクズだもんなぁ? ほら、どうした? 反論があるなら今言わないとダメだぜ? さもなきゃおまえら、残りの一生、クソザコフニャチン野郎として過ごすことになるんだぜ? いいのかぁ? なあ、いいのかよぉ?」

「お、俺たちは……」

 片方が何かを言おうとした時。


 カシャン、と金属音がした。

 後ろに立っていたテロリストが忍び寄って、二人組に首輪を嵌めた音だった。挑発と拘束、そこまでされれば、流石のクソザコ二人組も怒気を露わにする。

「なっ、なんだ、この首輪。こんな首輪でトゥルーフレアの俺たちを捕まえて置けると思うな!」

「あっ、バカ! 説明を聞け……、伏せろ!」


 デュアトスが叫ぶより早く、カイルはレドヒルの手から鎖を叩き落としながら、リアムとメリレイアを押し倒した。

 爆発音が響き、何かが倒れたカイルの背中に衝撃を与えた。テロリストの誰かが倒れて来たようだ。

 痛む体を叱咤して、どうにか顔を上げる。その場にいた全員が倒れるか伏せるかしていた。

 爆発の中心にいた二人組も倒れている。

 首輪に火炎魔術を当てて爆破してしまった方は、胸から上が焼け焦げていて、真っ赤な血がドバドバと流れ出ている。

 もう片方は顔の半分がぐちゃぐちゃになっていたが、まだ生きているようだった。


 凄惨な状況の中、デュアトスは散歩に出かけるような歩調で、そこに近づく。

「あれ? 意外と人間の体って丈夫なんだな? 首が千切れ飛ぶと思ってたんだが……」

「ひっ、ひっ、ひいいっ」

「まだ通報とかされたくないからな。悪いがおまえも死んどいてくれ」

 デュアトスは何か金属の塊のような物を手に持っていた。

 それで何をしたのか、パン、と小さな破裂音が響いた途端、二人組のもう片方も倒れて動かなくなる。

 驚いているカイルに気づいたのか、デュアトスはにやりと笑う。

「拳銃っていう武器だよ。火炎魔術が使えるなら、こんなのいらないんだがな……」

「どこでそんな物を……」

「倉庫の隅に落ちてた。弾丸の再現には苦労したよ」

 デュアトスは、おもちゃか何かを自慢するように言うと、倒れている仲間を見渡す。

「おまえら、生きてるか? ちょっと遊び過ぎたかもしれないから先を急ぐぞ。自分の足で立てない奴は置いてくからな?」

 デュアトスは冷たく言い放つと、一人で先にエレベータに乗り込む。

 テロリスト達もそれに続くが、三人ほど、置いていくことになりそうだった。

 特に、二人組に首輪をつける役目だったテロリストは、両手が酷い事になっていた。カイルの目には、今すぐ治療しないと火傷と失血で死にそうに見えたが、デュアトスはそんな事をする気はないらしい。

 レドヒルはリアムとメリレイアの鎖を拾い、カイルを睨みつける。

「おまえ、後で覚えていろよ」

「あんたのご主人様は、伏せろって言ったぞ。もたもたしてるおまえが悪い」

「なんだと!」

 激高するレドヒル。

 デュアトスが呆れたように言う。

「おい。おまえら、狭いんだからケンカすんのやめろ。あ、一発だけ殴っていいぞ」

 レドヒルは拳を振り上げると、カイルを殴った。

 思ったよりも強い打撃に、カイルはエレベーターの壁に叩きつけられ、その場に崩れ落ちた。

 リアムが非難の声を上げる。

「ちょっと! 私のカイルに何すんの!」

「トゥルーフレアのお嬢さん。君は人質だから発言権はないんだ」

 デュアトスはリアムを同じぐらいの力で殴り飛ばした。

 リアムはカイルと同じように壁に叩きつけられ、カイルの隣に倒れる。

 声を殺して泣いているリアムの手を握りながら、カイルは心に誓った。

 こいつら後で絶対に殺す、と。

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