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革命軍

 デュアトスが要求を出さなかった理由を、カイルはようやく理解した。

 要求が通ってしまったら、トゥルーフレアが下まで降りてこないからだ。

 そもそも、デュアトスの目的は交渉などではなかった。トゥルーフレアを下まで呼びつけ、油断したところに毒を盛って、弱らせて捕獲して人質に使う。それが目的だったのだ。


 毒を飲んでしまった者は床に倒れて、そうでない者も壁際に集めて座らされた。

「そいつに首輪をつけろ」

 デュアトスが言うと、レドヒルはメリレイアを引きずるように起こして、その首に何かを取り付けた。金属製の頑丈そうな首輪だ。

 首輪には鎖がついていて、その先端はレドヒルが握っていた。

「こ、こんな金属、魔力が回復したら焼き切ってやるわよ」

 メリレイアは強がっているが、それを聞いたデュアトスは嗜虐的な笑みを浮かべる。

「中には火薬が入っている。鎖を強く引っ張るとピンが抜けてドカンだ」

「なっ……」

 メリレイアの動きが止まった。

 レドヒルが、チャラチャラと鎖を揺らしてみせる。

「もちろん、加熱しても爆発する。爆発すればお前の頭は木っ端みじんだ。炎なんか使わない方がいいぞ」

「ハッタリよ」

「人質が二人いるなら、一人死んでもいいかな? 自分の身で試したらどうだ? ま、自分の頭が吹っ飛んだ後で何を確認するのかって話だが」

「くぅ……」

 メリレイアは悔しそうに黙った。

 レドヒルはリアムの首にも同じ首輪をつける。

「だっ、大丈夫だよ。なんとかなるから」

 リアムは気丈にカイルの方に笑いかけるが、毒のせいか、全身がカタカタ震えていた。


 カイルは苦々しい思いで、視線をめぐらす。

 ここから抵抗するとしたら、勝利条件は、最低でも自分、リアム、メリレイア、それとアバックの安全の確保だろう。

 リアムとメリレイアが魔力欠乏症になっていると、逃げるにも戦うにも難しい。

 行動を起こすには、それが回復するのを待つ必要がある。


 メリレイアは、未だに心がくじけていないのか、デュアトスを睨みつける。

「私に酷いことをして見なさい。お父様が許さないわよ。お父様はトゥルーフレアの中でも、すごく偉いのよ!」

「へぇ? トゥルーフレアの中にも、さらに細かい階級があるんだ? おまえらは、いつもそんな事ばっかりやってるのか……バカみたいだ」

「そんなこと言っていられるのも今の内よ。あなた達がまとめてかかったところで、トゥルーフレア一人倒せるわけないわ」

 メリレイアが言うと、レドヒルが下品な笑みを浮かべながら鎖を引っ張る。

「おい、おまえ小娘のくせに生意気だな。今、自分がどういう状況になってるのかわかってないなら、その体に教え込んでやろうか? はしたない胸をしやがってよ」

「なっ? どこ見てるのよ!」

 メリレイアは汚らわしい物から逃れようと、床を這うが、その動きは遅い。

「見てくれはいいのに態度は悪いな。ちゃんとした言葉遣いができるように、教えてやろうじゃないか。まずは服を脱ぎな。それとも脱がされる方が好きか?」

 レドヒルは、そんなことを言いながらメリレイアの服に手をかける。

 デュアトスが呆れたように止めに入る。

「おい。それは後にしろ。一段落したら好きなだけやらせてやる」

「ちっ……わかりやしたよ」

 レドヒルは口先ではそういうが、あまり納得していないようだった。デュアトスもそれを察したか言葉を重ねる。

「革命が成功すれば、もっといい相手を選ぶことだってできるんだぞ。それまでは我慢だ」

「革命はもう成功じゃないんすか?」

「バカ言うな。まだトゥルーフレアを二人、人質に取っただけだ。この程度では、状況が変わったとはいえない。ここからが本番だ」

「次はどうするんで?」

 デュアトスは上を指さす。

「決まっているだろう。上を抑える」

 デュアトスは、レドヒルを含む十人ほどの名前を呼ぶ。

「とりあえず上に行くメンバーは、そんなところか。あまり増やすとエレベーターに乗れないからな」

「このトゥルーフレアは?」

「二人とも連れて行く。ここに残しておいても、上に対するメッセージにならない。それと……カイルと言ったか?」

 デュアトスはカイルの方を見る。

「おまえも来るんだ。ネクロマンサー」

「俺も? ……ネクロマンサーって何の事だ」

「知らないのか。まあ、今は黙ってついてくればいい」

 カイルは、デュアトスに立たされ、手錠をかけられた。

「よし、行くぞ。残りのやつらはここを防衛しろ。上のやつらがここの様子を見に来ても、適当な話をして時間を稼ぐんだ。頼んだぜ」

「あ、あの……」

 アバックが急に声を上げる。

「僕、僕も……一緒に行っても、いいかな?」

「ああ、おまえか。おまえは……、必要ないな!」

 デュアトスはアバックを蹴り飛ばした。

「はははっ、俺たちが戻ってくるまでここで大人しく待ってな。なに、どうせバルカム仲間だ。後でおまえにもいい思いさせてやるよ。楽しみにしてな」


 ぞろぞろとエレベーターホールに移動する。

 こんな事をしておきながら、エレベーターで移動するのは危険が伴うのでは、とカイルは思ったが、デュアトスは気にしている様子がない。

 上の階の扉の前で待ち伏せされたら全滅してしまうではないか。

 とはいえ、階段で最上階まで登るなど体力が持つとは思えない。情報が上に伝わる前に決着をつける気なのだろう。

「なあ、おまえら腕章はいいのか?」

 ふとカイルは思いついて聞いてみた。わずかでも時間を稼げればいいと思ったのだが。

「はぁ? 腕章……何の事だ?」

 デュアトスは驚いたような眼でカイルを見る。

「だから、上の階層に行く時は、腕章をつけなきゃいけない事になってるだろ?」

「はっ……はぁ?」

 デュアトスは目玉が飛び出しそうな顔になった。

 カイルは、別におかしな事を言ったつもりはなかったのだが、テロリスト達はそうは思わなかったらしい。

「っぶははははははっ……やっべぇ! やべぇよ、こいつ。腹痛てぇ……」

 デュアトスは笑い出した。

 他のテロリスト達も多かれ少なかれ笑っている。


 なぜ自分が笑われるているのか、カイルには見当もつかない。

 この塔の中に、腕章のルールをしらない者がいるわけがない。

「いや、でも規則では、そうしないといけないって……」

「おまえ、それマジで言ってんの? うけるわー、もはやマジメちゃん通り越してただのバカじゃん」

 デュアトスはひとしきり笑った後、息を整え、カイルを正面から見る。

「で? 腕章を付けないで上の階に行くとどうなるんだよ? ルール違反? 確かにそうかも知んないけどさ、それってどんな重罪なの? トゥルーフレアに首輪つけて引き回すよりもヤバいの?」

「……」

「何度も言うけど、これは革命なんだよ。もう殺すか死ぬか、それしかない。上のやつらが俺らの移動を制限するために作ったルールなんかに縛られてどうすんの? 少しは頭使えよ」

 カイルは何も言い返せなかった。

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