表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。

もしかしたら本当にあったかも!?裏・桃太郎

作者: 詩織・詩絵

 昔々ある森にイヌとサルとキジが仲良く一緒に暮らしていました。森では他にも数多くの動物たちが暮らしていましたが、とくにこの3匹は小さい時から一緒で、とても仲が良かったのです。ある朝の事。いつものように3匹で食事を済ませるとイヌは日課の散歩に出かけようとしています。

イヌ

 「じゃあ行ってくるね。」

サル

 「おう。猟師には気を付けろよ。」

イヌ

 「大丈夫。猟犬は友達だもん。」

キジ

 「それでも急に牙を剥くのが猟犬だからな。」

サル

 「そうだぞ。食われるなよ。」

イヌ

 「分かったよ。ありがとう。いってきます。」

こうしてイヌは森の散策に出かけました。よく晴れた気持ちの良い朝でした。

イヌ

 「今日は何が見付かるかなぁ。」

イヌは上機嫌でどんどん歩いて行きます。里の近くまで行くと遠くから1人の男の子が歩いて来るのが見えました。旅人におにぎりを分けてもらった事があるイヌは今日も何かもらえるかもと男の子に近付きました。するとイヌに気付いた男の子が言いました。

男の子

 「僕は桃から生まれた桃太郎。今から鬼ヶ島に鬼退治に行くんだ。きびだんごをあげるから一緒に行こう。」

イヌは聞いた事のない言葉ばかりで理解できません。でも目の前に差し出された物は自分が食べて良いのだという事は理解できました。イヌは3個のうち1個だけを食べて、残りの2個はサルとキジに持って帰ってあげることにしました。森に入る時に後ろから

「山の麓で待ってるからね。」

と桃太郎の声が聞こえた気がしましたが、これも意味が分からなかったので、そのまま森に帰りました。

イヌ

 「ただいま。お土産だよ。」

サル

 「おう。今日の収穫は何だ?」

イヌ

 「お団子だよ。美味しかったから食べなよ。」

サル

 「団子かぁ。よく見付けてきたなぁ。」

 「えっ?これ、絶対服従のきびだんごじゃねーか!こんなもんどこで拾ったんだよ。」

イヌ

 「ぜったいふくじゅう?」

 「拾ってないよ。もらったんだよ。」

サル

 「誰にもらった?」

イヌ

 「モモタ。男の子。」

サル

 「モモタ?桃太郎か?」

イヌ

 「そうそう。モモタロだった。」

サル

 「なんで桃太郎がいるんだよ。」

 「おまえ食ったのか?」

イヌ

 「うん。美味しかったよ。」

サル

 「今すぐ吐き出せ!」

イヌ

 「無理だよ。おなかの中だもん。」

サル

 「いいから吐き出せ!大変な事になるぞ!」

イヌ

 「痛いよぉ。やめてよぉ!」

キジ

 「騒がしいな。ケンカか?」

サル

 「違うんだよ。きびだんご食っちまったんだよ。」

キジ

 「絶対服従のアレか?まずいな。」

サル

 「だろ?どうするんだよ。あの婆さん、きびだんご作りの達人だぜ?呪いよりも逆らえないって話だし。」

キジ

 「それは噂だが、このままじゃイヌが危ないかもしれないしな。」

イヌ

 「なんで怒ってるの?ちゃんと持って帰ってきたよ?食べていいんだよ?」

サル

 「ちょっと黙ってろ!」

2匹はイヌから情報を聞き出しました。しかしイヌが覚えていたのは桃太郎が島に向かっている事、きびだんごを大量に持っている事、麓と言っていたような気がした事だけでした。この事から2匹は桃太郎が家来を増やして、どこかに行こうとしていると推測し作戦を立てました。イヌには「きびだんごを食べたら逃げられないが必ず助けてやる」とだけ伝えました。

キジ

 「まず、これ以上きびだんごの被害者を出さない事だな。」

サル

 「分かった!森の仲間には俺が言ってくる!」

キジ

 「オレも行くよ。時間が無いからな。」

こうしてサルとキジのおかげで森の動物はきびだんごを食べずにすみました。

サル

 「仲間には伝えたけど残りのきびだんごはどうする?」

キジ

 「撒き散らしたら厄介だな。オレたちで食うか。」

サル

 「はぁ?正気かよ?食ったら服従だぜ?」

キジ

 「もちろん食ったフリだよ。隠し持ってて後で捨てる。」

サル

 「焦ったぁ。」

イヌ

 「ねぇねぇ。オニタイジって何?」

サル

 「そんなもん鬼を退治する事に決まってんだろ。」

サル・キジ

 「ん?鬼退治?桃太郎が言ったのか?」

イヌ

 「うん。一緒にオニタイジ行くんだって。」

サル・キジ

 「鬼ヶ島だ!」

サル

 「アイツそんな危険な場所にイヌを連れて行く気か!」

キジ

 「いや、でも目的が分かったから作戦が立てやすいよ。」

頭の良いキジは作戦を語り始めました。

キジ

 「まずサルが偶然を装って桃太郎と出会う。その間にオレはイヌを連れて山の麓に向かう。サルはきびだんごを食べたフリをしてカバンに隠し、桃太郎と共に行く。山の麓でイヌと合流したところでオレも偶然を装って登場。きびだんごを食べたフリをして羽に隠す。この時点で実際にきびだんごを食べて家来になったのはイヌだけ。サルとオレは桃太郎に従うフリをしながらイヌの食べたきびだんごの効力が切れるまで見守る。隠したきびだんごは移動中に安全に捨てられれば捨てる。鬼退治は鬼の力が未知数だから戦い方は現地で決めるが最初から強めに当たって早期決着を目指す。最悪の場合は桃太郎だけを残して舟で帰る。まぁ、ざっとこんなもんか。」

サル

 「さすがだなぁ。じゃあ俺きびだんご貰いに行ってくるわ。」

キジ

 「あぁ。くれぐれも食べるなよ!」

サル

 「分かってるよ!じゃあ後でな。」

サルは桃太郎を探しに森の外の道に出て行きました。キョロキョロと見回していると道の先に桃太郎の姿が見えました。サルは急いで追いかけました。

サル

 「おや?そこにいるのは桃太郎さんじゃないか。」

桃太郎

 「なんだサルか。」

サル

 「なんだなんて言わないでよ。1人で散歩かい?」

桃太郎

 「まぁサルでもいいか。そうだな。こいつに仲間を集めさせよう。このままじゃヤバイ。」

桃太郎は1人で何か言っています。

サル

 「桃太郎さん?」

桃太郎

 「お前にきびだんごをあげよう。」

サル

 「(来たな)おぉ!俺にくれるのか?美味そうだな。」

サルはきびだんごを受け取ると作戦通りに食べるフリをしてカバンの中に隠しました。きびだんごを食べたと思った桃太郎がニヤリと笑ってサルに言いました。

桃太郎

 「どうだ美味いだろ?」

サル

 「あぁ。これは美味いな。」

桃太郎

 「そうだろ。まだまだあるぞ。仲間も呼んでこいよ。」

サル

 「仲間?俺は1人が好きなんだよ。だから仲間なんかいないさ。」

桃太郎

 「チェッなんだよ使えねえなぁ。さっきの犬も役に立たなそうだしよぉ。この森には狼とか猪とかいないのかよ。」

サル

 「イヌ?狼?猪?何の話だよ?」

桃太郎

 「まぁいい。鬼ヶ島に鬼退治に行くところだ。お前も来い。」

サル

 「鬼ヶ島?よく分かんないけどケンカだな?一緒に行けばいいのか?」

桃太郎

 「そうだ。来い。」

こうしてサルを家来にした桃太郎はイヌとの待ち合わせ場所に向かうのでした。山の麓に着くとイヌがポツンと待っていました。イヌはきびだんごの効力で忠犬になっていて桃太郎を見付けるなり尻尾を振って駆け寄ってきます。

イヌ

 「モモタロさんモモタロさん待ってましたよ。」

桃太郎

 「よしよし。じゃあ行くぞ。」

イヌ

 「はい。モモタロさん。行きましょう。」

そこへ空からキジが舞い降りて来ました。

キジ

 「これは珍しい光景ですね!群れを好まないサルさんがイヌさんと一緒にいるなんて。世の中には犬猿の仲なんて言葉もあるんですよ?それに桃太郎さん。あなたは里に住んでいるはず。それがなぜ森の動物達と一緒にいるんです?」

桃太郎

 「うるさい鳥だなぁ。これでも食っとけ。」

桃太郎はキジにきびだんごを投げつけました。キジはバサバサと翼をはばたかせて飛び回り、きびだんごをつつきました。もちろん食べてはいません。桃太郎の目に砂ぼこりが入った隙にきびだんごを羽の中へと隠しました。

桃太郎

 「食ったら行くぞ。」

キジ

 「え?どこへです?」

サル

 「鬼ヶ島で鬼退治だとよ。」

キジ

 「え?鬼退治?皆さんがですか?」

桃太郎

 「お前も来るんだ。」

キジ

 「そうですか。お団子もいただきましたからね。お供しましょう。」

桃太郎はイヌとサルとキジを家来にして鬼ヶ島へ向けて歩きだしたのでした。山の麓から隣の山へ向かう途中に大きな川があり、川沿いに歩くと海に辿り着きました。海の向こうには真っ黒な島が見えます。なんとも不気味な煙を吐き出す島でした。

桃太郎

 「あれが鬼ヶ島だな。」

サル

 「ここから泳ぐのか?」

桃太郎

 「いや、舟が必要だな。お前たち舟を盗んで来い。」

イヌ

 「盗むの?借りるんじゃなくて?」

桃太郎

 「うるさい!誰もいないから盗んで来い!」

イヌとサルは仕方なく漁師小屋から小さな舟を盗んで来ました。「島に渡るんなら舟ぐらい用意しとけよなぁ」とサルは思いましたが服従するフリをしているので盗むしかありません。舟を手に入れた桃太郎はイヌとサルを舟に乗せ、海へと漕ぎ出すのでした。

桃太郎

 「いざ鬼ヶ島へ!キジは空から見張っとけ。」

キジ

 「それでは先に行って偵察して来ましょう。」

桃太郎

 「結局こいつらだけかぁ。強い動物は手に入らなかったなぁ。いざとなったら3匹をエサにして交渉するかぁ。どうせ爺婆どもの目当ては鬼の財産だしなぁ。そんなやつらの為に戦うほど俺の命は安くないぜ。」

サル

 「ん?桃太郎さん何か言いました?エサとか聞こえた気が。」

桃太郎

 「いや、こっちの話だ。気にするな。」

キジ

 「報告します。今は寝静まっているようですね。鬼は夜行性と聞いた事がありますし、きっと動き出すのは夜でしょう。」

桃太郎

 「そうか。今のうちに奇襲をかければ勝てるかもしれないな。よし急ぐぞ!」

桃太郎は一生懸命に漕ぎました。頼れる動物がいないので1人で舟を進めました。なんとか鬼が起きる前に辿り着く事ができましたが、もう夕暮れです。すぐに鬼たちも動き出すでしょう。桃太郎は3匹に作戦も伝えず、特攻隊として鬼の拠点を攻めるようにと命令しました。サルとキジは躊躇(ためら)いましたが忠犬になっているイヌが走り出してしまったので一緒に拠点を攻めるしかありません。桃太郎は安全な場所で戦が終わるのを待つつもりでした。しかし頼りない3匹のこと、きっとすぐに負けて鬼に食われてしまうと考え仕方なく自分も攻める事にしました。3匹を心配したわけではありません。食われてしまってはエサとして交渉に使えなくなってしまうからです。桃太郎より一足先に拠点に入った3匹は、とにかく暴れまわりました。

イヌ

 「鬼たちブチギレてるよ!」

サル

 「お前が無駄に騒いで起こすからだろ!」

イヌ

 「どうするの?怖いよ。」

サル

 「とにかく殺されない事だけ考えろ!」

イヌ

 「こんなの勝てないよ。」

サル

 「うるさい!さっさと噛みちぎれ!」

キジ

 「外のやつらにも気付かれた!囲まれるぞ!」

3匹は必死に戦いましたが鬼の数は増えるばかりで減る気配はありません。奇襲に怒った鬼たちは3匹に襲いかかります。イヌに噛まれてもサルに引っ掻かれてもキジに目を潰されても屈強な鬼たちは倒れません。それどころか次から次へと、どこからともなく集まってきます。

サル

 「クソ!これじゃどこかのゾンビゲームだぜ!」

イヌ

 「こいつら強すぎるよ。」

サル

 「マジで強いな。作戦も無しに勝てる相手じゃねーよ。」

キジ

 「ヤバイ!桃太郎が囲まれた!」

サル

 「あいつは知らん!ほっとけ!」

イヌ

 「モモタロさん待ってて下さい!助けに行きますからね!」

サル・キジ

 「おいイヌ!そっちに行くな!」

桃太郎と3匹は絶体絶命。負けを覚悟しましたが囲まれていて逃げる事もできません。そんな時でした。キジの羽から何かが飛び出して鬼の口に入りました。すると鬼は優しい顔になり攻撃の手を緩めたのです。

キジ

 「そうか!きびだんごだ!」

サル

 「はぁ?今は団子より鬼だろ!」

キジ

 「持ってるきびだんごを鬼に投げろ!食わせるんだ!」

サル

 「分かった!くらえー!」

サルとキジは隠し持っていた全てのきびだんごを鬼の口めがけて力いっぱい投げました。きびだんごを食べた鬼たちは、みるみる優しい顔になり残りの鬼を説得して攻撃を止めてくれたのです。

 「私達は貴殿方(あなたがた)(しもべ)です。」

サル

 「じゃあ外の鬼も止めてこい!」

キジ

 「桃太郎がきびだんごを持ってる。外のやつらにも食わせろ。」

サル

 「俺達も行こう!イヌが心配だ。」

鬼は桃太郎に駆け寄りきびだんごを奪うと仲間の鬼に食べさせました。桃太郎を囲んでいた鬼たちも大人しくなり攻撃する者はいなくなりました。こうしてキジの機転で戦は終わりました。自分の強さに鬼たちが観念して屈服していると勘違いした桃太郎は調子に乗りました。

桃太郎

 「よし。財宝を残らず持って来い。お前らの財産は全て俺が貰う。それから船もだ。財宝を乗せられる頑丈なやつを用意しろ。」

鬼たちは次々に財宝を運び始めました。桃太郎の前には見たことのない財宝が山積みにされました。宝の山を見た桃太郎は上機嫌で3匹に小さな宝石を渡しました。

 「これで全部です。船は港にあります。」

桃太郎

 「これだけあれば遊んで暮らせるな。爺婆どもには必要ない。命をかけたのは俺だからな。」

そう言った桃太郎の顔は目の前の黄金に反射した朝日に照らされてメラメラと不気味に光っていました。財宝を船まで運ばせ全てを積み終わると、次に桃太郎は鬼の子供を1匹だけ差し出すように要求しました。鬼が攻めて来ないように人質にしようと考えたのです。絶対服従の鬼たちは逆らえるわけもなく、嫌がって泣き叫ぶ子供を袋に詰めて桃太郎に手渡しました。桃太郎は袋を乱暴に船に投げ入れ、イヌとサルにも船に乗るように言いました。

桃太郎

 「よし用事は済んだ。鬼たちはアジトに戻れ!俺は帰る。また来るからな。それまでに財宝を集めとけよ。」

鬼を遠ざけた桃太郎は船に乗り込み、里へと帰って行きました。船が遠く離れて見えなくなっても高らかに笑う桃太郎の声だけは鬼ヶ島に届いていたといいます。


 里では宴の準備が始まっていました。桃太郎は役に立たないくせに生意気な暴れん坊でした。その桃太郎を追い出したのですから爺さまも婆さまも踊り出したい気分でした。

婆さま

 「やっと消えてくれましたねぇ。とんだ拾い物をしたもんですよ。」

爺さま

 「あいつのせいで寿命が縮んだわい。それにしても婆さん、鬼ヶ島に行かせるなんて妙案よく思い付いたなぁ。」

婆さま

 「あの子は負けず嫌いですからねぇ。鬼退治と聞けば、怖くて行かれないとは言えないと思ってましたよ。」

爺さま

 「さすがは婆さんだ。今頃は鬼の元で下働きでもさせられてるだろうよ。なにしろ婆さんのきびだんごは最強だからなぁ。あの桃太郎でも鬼に服従するしかあるまい。」

隣の婆さま

 「でも、もう桃なんか拾わないでおくれよ?」

爺さま

 「そうだぞ婆さん。桃は拾うな。わしが買ってやる。」

婆さま

 「もう、こりごりですよ。」

近所の爺さまも婆さまも集まって賑やかに宴の準備は進んでいました。そこへ聞き覚えのある声が聞こえてきました。誰もが顔を見合わせて声のするほうを向きました。

爺さま

 「桃太郎!お前なんでここに居る?鬼退治はどうした?行く前から逃げ出したのか!」

桃太郎

 「はぁ?鬼退治?そんなもん、とっくに終わってるよ。お前らとは違うからなぁ!」

爺さま

 「終わっただと?そんなはず無い!ぜったい無い!」

婆さま

 「嘘はいけないよ、桃太郎。怖かったんだろ?そりゃあ誰だって怖いよ。だから帰って来たんだろ?」

桃太郎

 「はぁ?お前ら調子に乗るなよ?俺は鬼退治した英雄だぞ!」

近所の爺さま

 「それなら証拠を見せてみろ!わしらを騙せると思うなよ!」

桃太郎

 「証拠?めんどくせえなぁ。」

そう言って桃太郎は爺さまに袋を投げました。爺さまが袋を開けると、中にはぐったりとした鬼の子供が入っていました。

桃太郎

 「こいつは人質だ。死なせるなよ。死なせたら怒った鬼が攻めて来るからな!それから、俺は里を出る。こんな年寄りだらけの里にいても面白くないからな。」

爺さまたちが呆気に取られていると桃太郎は笑ながら言い残し、去ってしまいました。

婆さま

 「どうしましょう。鬼の子なんて育てられるのかしら。」

爺さま

 「育てるしかあるまい。桃太郎よりは真っ直ぐ育つだろうよ。」

隣の婆さま

 「桃よりも大変な拾い物をしたねぇ。間違っても凶暴な子には育てないでおくれよ?みんな食われちまう。」

近所の爺さま

 「まぁ何にせよ勝手に出てってくれたんだ。めでたいじゃないか。宴を始めようや。」

里の宴は翌朝まで続きました。そして爺さまと婆さまは仕方なく鬼の子を育てる事にしました。


 船に戻った桃太郎はイヌとサルに手伝わせて財宝を岩場の洞窟に隠しました。実はこの時イヌはきびだんごの効力が薄くなっていたのですが、サルとキジに言われて忠犬のフリをしていました。横暴な桃太郎に仕返しをするためです。財宝を隠し終わると桃太郎は少しの金貨を持って街に遊びに行ってしまいました。

イヌ

 「もうフリしなくていい?」

サル

 「あぁ。大丈夫だ。」

イヌ

 「あいつムカツク!お団子くれたから友達だと思ったのに。」

サル

 「なんでもかんでも食うからだよ。」

イヌ

 「だって美味しかったんだもん。」

サル

 「俺達みんな死んでたかもしれないんだぞ!」

イヌ

 「ごめんなさい。」

キジ

 「もういいだろ。さっさと片付けるぞ!あいつが戻る前に終わらせるんだ。揉めてる暇は無いんだよ。」

3匹はまず始めに桃太郎が鬼ヶ島に行かれないように船を沖のほうへ流してしまいました。

サル

 「よし!これで船は使えない。」

次にキジが拾ってきた紙と筆でサルが財宝のありかを示した地図を書きました。それをイヌが咥えて里に持って行きました。もともと拾い物が好きな婆さまです。すぐに地図を拾って家に持ち帰りました。地図を見た爺さまと婆さまは、それが何を示すのか分かりませんでしたが、鬼の子にはそれが鬼ヶ島から盗まれた物だとすぐに分かりました。

鬼の子

 「これ島の宝。」

爺さま

 「島?鬼ヶ島か?」

鬼の子

 「うん。」

鬼の子は鬼ヶ島での事を爺さまと婆さまに話しました。爺さまも婆さまも鬼の子の話を信じました。そして里の者を集めて財宝を奪う計画を立てました。爺さまは知り合いの漁師に事情を説明し、漁船を出せるだけ出してもらう約束をしました。その間に里の者で協力して財宝を他の場所に移しました。漁船が集まると財宝を全て積んで、知り合いの漁師の船には爺さまと鬼の子が乗って、鬼ヶ島へと出発しました。海を埋め尽くすほどの数の漁船を見送る婆さまたちの顔は、やりきった満足感で輝いていました。

爺さま

 「いざ鬼ヶ島へ!」

漁船が鬼ヶ島に着くと怖い顔をした鬼が集まってきました。また人間が攻めてきたと思ったのでしょう。迎え撃つ準備ができていて殺気立っています。漁師たちが襲われそうになった時、鬼の子が叫びました。

鬼の子

 「ダメー!助けてくれたの!」

鬼の子の声で鬼たちはピタリと止まりました。

爺さま

 「うちの桃太郎がとんでもない事をした。謝りに来たんだが話せるだろうか?」

そこで鬼たちは爺さまが財宝と鬼の子を返してくれる事を理解し、島へ入れてくれました。鬼の子は優しい爺さまと婆さまに大切にされた事、爺さまと婆さまが自分を育てようとしてくれた事、3匹の動物は敵ではなかった事を説明しました。鬼たちは目に涙をうかべて爺さまと漁師に感謝しました。財宝を返し終わって帰ろうとすると、お礼にと島に伝わる秘伝の酒を持たせてくれました。

 「疑って悪かった。俺達も悪い事をしてきた。だから人間は俺達を憎んでいるものと思っていた。また来てくれ。」

爺さまが酒を一舐めすると、たちまち船旅の疲れが消えました。

爺さま

 「これは凄い!ありがとう。」

爺さまと漁師たちは大喜びで帰りました。漁師小屋では婆さまたちが待っていました。もしかしたら鬼に食われてしまうかもしれないと不安でいっぱいになりながらも爺さまたちを信じて食事の用意をして待っていてくれました。

爺さま

 「帰ったぞ。」

婆さま

 「おかえりなさい。無事で何よりですよ。」

爺さま

 「あいつら、そんなに悪い奴らじゃなかったぞ。土産まで貰ったしなぁ。」

漁師

 「でも俺達の船は商売道具だからな。もう鬼だの財宝だのを運ぶのは勘弁してくれよ?魚専用だ!」

爺さま

 「分かってる。もう鬼ヶ島には行かんよ。でも今回は本当に助かった。ありがとう。」

爺さまは漁師としっかり握手をしました。そして皆で婆さまたちのご飯を食べました。爺さまたちを見届けた3匹も満足そうに森へ帰って行きました。

キジ

 「めでたしめでたしだろ。」

サル

 「面白かったしな。」

イヌ

 「お爺さん嬉しそう。あれ?そういえばモモタロは?どうするの?」

サル

 「あいつはほっとけ!」

イヌ

 「怒られない?」

キジ

 「財宝が消えて大騒ぎだろうが森に来たところでオレたちの事は探せないから心配すんな。仲間には言ってある。仲間たちが追い出してくれるよ。」

イヌ

 「じゃあ大丈夫だね。きっと僕のパパが追い出してくれる。」

サル

 「パパ?おまえ親がいたのか?」

イヌ

 「うん。ウルフって名前なんだけど聞いた事ない?けっこう有名みたいだけど。」

サル

 「は?一匹狼の?おまえ、アイツの子?」

イヌ

 「やっぱり知ってた!そうだよ。」

サル・キジ

 「おまえ狼だったのかよ!?」

サル

 「俺達のこと食うなよ!」

キジ

 「なんで狼が犬のフリをしてんだ?」

イヌ

 「フリ?違うよ。イヌってのは僕の名前だよ。」

サル・キジ

 「は?紛らわしいんだよ!」

3匹はいつものように笑い合いました。3匹の絆はたとえイヌが狼でも変わりません。そして、街で遊んだ桃太郎は洞窟に戻って来ました。でも洞窟からは財宝も家来も消えていました。無一文になってしまった桃太郎は洞窟の前で発狂しました。

桃太郎

 「何も無いじゃねーか!なんなんだよ!わかんねーよ!なんなんだよ!イヌ!サル!キジ!てめーらどこ行った?マジで許さねー!」

しばらく叫んで落ち着きを取り戻した桃太郎ですが自分から里を出ると言ってしまったので戻るに戻れず、行き場をなくしてしまいました。桃太郎はフラフラと力の抜けた足で歩き出し、街に消えて行きました。今どうしているかは誰も知りません。


 里の者と漁師と鬼たちは今でも交流があり、爺さまに助けられた鬼の子は今では立派な赤鬼になったということです。


おしまい。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ