1-『承』
泣いている姉はこういった。
「かき出して、なんでもいいからかき出して」
僕は自室のベッドで寝ていて、珍しく姉は自力で帰ってきたということになる。
泣いている姉を見て、強姦されたのかと思った。僕はまず訊いた、無理やりされたのかと。
姉はそうだといった。僕は相手は誰なのかと聞いた。僕は訊きながら想像した、交友関係の広い姉のことだ、僕の知らないところで、どんな相手と知り合っているかわかったもんじゃない。
ところが姉の口から出た言葉は意外な人物だった。
アオイユウキ、何度か家に遊びに来たことがある。両親も気に入っていたし僕も挨拶をしたことがある。
いわゆる、結婚を前提に。みたいなアレなのかもしれない。
よくもまぁ家の姉みたいなのを選んだものだ。僕の印象としては真面目で穏やかそうな人で、とても酷いことをするような人には見えなかった。
「ねぇ早くなんとかしなさいよ!」
ヒステリックに叫ぶ姉のバッグから、なじみのメロディが流れる。
予感のようなものを感じた僕は、姉を無視してベッドを降り、部屋の入り口に置き捨てられたままのバッグからスマートフォンを取り出した。
アオイユウキ。画面にはくだんの人物の名前が表示されていた。