1-『起』
初めて女性器を見たのは春の暖かな日差しの中。
スカートをたくしあげた姉を僕は下から見ていた。
これはセクシャルな甘酸っぱい記憶なんかじゃない。
なにせ当時の僕は精通さえきていない子供だったし、ボコボコに殴られて地面に叩き伏せられていたからだ。
スカートは日差しで透けて、薄暗いピンク色の視界。
まだ毛すら生えていない姉のアソコをみて、あるものがない。変だ。おかしい。
そういった感想しか僕にはなかった。
姉は、そんな僕に向けて放尿した。最悪の記憶。
ついでに言うと、僕をボコボコにしたのも姉だ。
姉は当時から傍若無人で、ことあるごとに僕を殴った。大事なおもちゃを壊されたこともある。顔に落書きされたことや、目にわさびを塗られたこともある。
僕が大学生になってからは、姉も大人になって酷いことはなくなったけど、それでもコンパだの飲み会だの男遊びだの、夜遊びのあとに何時だろうと起こされて“足”に使われることは珍しいことではない。
車内でゲロをされたときは最悪で、翌日好きだった女の子を、助手席に乗せるところまで漕ぎつけたのに、車内が臭くて臭くて、やむなくこちらからキャンセルの電話を入れた。
先々月彼女は結婚した。お相手は社会人でいい人らしい。
一度、着信を無視してしてやったこともあった。
最悪すぎた。それ以後は哀れな忠犬だ。
そんな嵐のような姉が、泣いている。
初めて見た姉の涙。
姉はスカートをたくし上げて僕をまたぐ。
女性器を見るのは、二度目だ。