第7話 突撃! 幼馴染の晩御飯
目を開けると、知らない天井があった。ここはどこだ! まさか謎の組織に誘拐でもされたのかっ!
……しかしすぐに思い出す。ここは俺の部屋だ。引っ越してきてから3日目、まだ慣れない。
俺はベッドから身を起こす。制服を着たままだった。学校から帰宅して疲れていた俺ふは、ちょっと横になるつもりがそのまま寝てしまったらしい。
窓に視線を向けると、外はすっかり暗くなっていた。結構寝てしまったようだな。
そういえば腹が空いたな。夕食にするか。しかし料理なんてできないし、コンビニに行くのも億劫だ。
俺は部屋の片隅にあるダンボールを漁り始めた。たしかこの中にーーおっ、あった!
取り出したるはカップラーメン! お湯を入れて3分待つだけで食べられるなんて、なんて便利なんだろう。
チャイムが鳴ったのは、ヤカンを火にかけた時だった。
こんな時間に、しかも引っ越してきたばかりの俺の家を訪ねてくる人物は、この世界に1人だけーー。俺はドアスコープを覗くこともせずにドアを開ける。立っていたのはやはり予想通りの相手だった。
日焼け肌の超絶美少女、亀山スバルだ。服装は白の長袖シャツに、ジーパン。地味な格好なのだが、かえってスタイルの良さを引き立てる。
「おじゃましまーす」
「あっ、おい!」
止める間もなく、部屋へ上がるスバル。そしてちゃぶ台に置かれたカップ麺を見ると、
「あーっ、もしかして夕飯カップラーメンなの?」
「そうだけど、何か問題でもあるか?」
「おおありだよ! 栄養が偏っちゃう。そんなことだろうと思って、ほら!」
突き出されたスバルの手には、大きな風呂敷包が握られていた。
「まさかこれって……お弁当?」
「当たり〜!一緒に食べよ」
これはラブコメでありがちな、ヒロインの手料理イベントか! かなり嬉しいんですけど。
スバルはちゃぶ台にお弁当を広げ始めた。唐揚げに卵焼きに煮物……などなど。大きなお弁当箱に詰め込まれたおかずたちはどれも美味しそうで、思わず唾を飲み込んだ。
「食べていいか?」
「どーぞ! 召し上がれ〜」
「じゃあ遠慮なくいただきまーす」
まずは唐揚げに箸を伸ばす。
「うん、美味い。外はカリカリ、中はジューシー!」
「よかった〜。口に合ったみたいだね。さ、どんどん食べて」
次は煮物を食べてみよう。
煮物といえば料理の中でも難しいことで有名だ。煮崩れたり、焦げてしまったり、味が染みてなかったり。
しかしこのダイコン、形も美しく、煮汁で綺麗に茶色く染まっている。見た目は完璧だが、果たして味はーー。
「うま〜い! ダシがよく染みていて、味の宝箱や!」
「おおげさだなぁ。普通の家庭料理じゃん」
「いやいやいや! 女子高生でここまで美味しい料理が作れるなんて、なかなか凄いぞ! いや〜、スバルが料理上手なんて知らなかったよ」
「あのー、非常に言いにくいんだけど……。このお弁当作ったのは、ボクのお母さんだよ。料理なんて女の子らしいこと、ボクができるわけないじゃん」
「そ、そっか。そうだよな、はは……」
スバルの手料理だと思ったのに……残念!!
しかしせっかくお母さんが作ってくれた料理だ。残りも美味しく頂こう。
しかしこうもおかずばかりだと、ごはんが欲しくなる。見たところご飯は入ってないようだがーー。
と、ちゃぶ台の隅に未開封のタッパーがあるのを発見する。
「おっ、もう一個あるじゃん。その中にご飯が入っているんじゃないのか?」
「そうだけど……。やめた方がいいよ」
「えっ、何でだよ? 俺ご飯食べたいんだけど」
「……そこまで言うなら仕方ないな。文句は言わないでよ」
なぜか暗い表情のスバル。
なんだ? この反応は。
その理由は、タッパーの蓋を開けた瞬間に分かった。
「これは……おにぎりか?」
俺の問いに、スバルは力なく頷く。
タッパーの中に入っていたのは、到底おにぎりとは言えない、ご飯の塊だった。
上手く三角に握れなかったのだろう、歪な球状をしており、表面全体に海苔がベタベタと貼り付けられていた。
「おにぎりくらいは作ろうと思ったんだけど……上手くできなくて。ごめんね、ご飯はコンビニで買ってくるよ」
「待った!」
立ち上がろうとするスバルを、俺は大声で制止する。
「そんなことしなくていいよ。せっかくスバルが作ってくれたんだ。俺はこのおにぎりを食べる!」
「で、でも」
「俺たち親友だろ! 親友が一生懸命作ったおにぎりを無駄にできるか!」
と、カッコよく言ったもののこれを食べるのは少し抵抗があるな……。いや、これもスバルのためだ!
俺は目を閉じると、おにぎりにかぶりついた!
「うまい……」
自然とそう呟いていた。
口の中に広がるのは、ほんのり塩味に米の甘み、海苔の香ばしさ。俺の知ってるおにぎりの味に間違いない。
しかしスバルは疑いの眼差しで、
「……本当?」
「本当、本当! おいしいよ!」
その証拠におにぎりはあっという間に胃の中へ消えていく。
スバルは微笑むと、
「本当に美味しいんだね」
「だからさっきから言ってるだろ。あー、美味しかった。まだ食い足りないなぁ」
「おにぎり……まだあるよ。食べる?」
「もちろん!」
俺は2個目のおにぎりにかぶりつく。うん、やっぱり美味い!
「……ボクも料理作れるようになろうかな」
何かスバルが呟いた。
「ん? 何か言ったか?」
「ううん、何でもない。ほら、まだまだあるからたくさん食べて」
こうして楽しく、スバルとの夜は更けていった。




