第6話 スキンシップが激しすぎる!
「うわっ、すごい人だね」
校舎を一歩出たところで、スバルは言った。
今日は入学式、校庭は新入部員を求める部活動の先輩達で埋め尽くされていた。野球部にサッカー部、果ては漫画研究会まで。各部活のユニフォームで身を包み、大声でビラを配っている。
これじゃあ通り抜けるのも一苦労だ。くそ、せっかくスバルと2人っきりで帰れると思ったのに。どうしていつも邪魔ばかり入るんだ!
ちなみに隼人は野暮用があるとかで先に帰ってしまった。残念。
「ねえねえ、トシは部活入るの?」
「いや俺は帰宅部だな。バイトするから」
「えっバイト?」
「ほら俺、一人暮らしだろ。小遣いくらいは自分で稼ごうと思ってさ」
「へえ〜、トシは偉いねえ」
「そういうスバルは何か部活入るのか?」
「ボクはねえ、陸上部! 中学時代から陸上一筋なんだっ」
「もしかして日に焼けているのもそのせいなのか?」
「うん。日焼け止めクリーム塗ってもずっと外で走っているから、結局焼けちゃうんだよ」
陸上部と言えばーー。
ユニフォームがエロいよな。ランニングシャツに丈の短いパンツ。しかもスバルは巨乳。走ったらさぞかし揺れるだろうなぁ。
「はっ!」
何をエロいことを考えているんだっ! スバルは親友だぞ!
頭を振り、邪念を振り払う。
「じ、じゃあ帰ろうか」
「うん」
しかしと言うか、予想通りと言うか、あっという間に先輩達に取り囲まれてしまう。
「ねえ、君バスケット部に入らない?」
「いやいや、演劇部に!」
「この子は絶対水泳部だよっ。水着似合いそうだよね、ふひひ……」
流石スバル、すごい人気だな。主に男子の先輩の食いつきが半端ないぜ。
それに比べて俺ときたら、勧誘する人物ゼロ。部活に入る気はないんだけど、なんだこの敗北感はーー。
「すいません。入る部活もう決めてるんで、失礼します。ほら、トシ行くよ」
「えっ」
スバルは俺の手を引っ張り、歩き出す。
「くそ、彼氏持ちだったか!」
「あんなカピバラみたいな男のどこがいいんだ」
背後から男達の恨み節が聞こえてくる。あー、やっぱり勘違いされちゃってる。
さっき教室でも思ったけど、これはなんとかしなくては。
◇
「なあスバル。その、ちょっと話したいことがあるんだけど」
俺は校門を出たところで話を切り出した。
「なに?」
「その前に、その、手を放してくれないか?」
「別にこのままでいいじゃん」
ニコニコ顔のスバルに対して、俺の心臓は最早爆発寸前だった。
それに周りの目もある。通学路には同じ学校の生徒が溢れていて、手なんか繋いでいたら目立って仕方ない。
「と、とにかく真面目な話なんだ! だから放してくれないかな」
「……わかったよ」
スバルは唇を尖らせると、俺から手を放した。
「歩きながら話すな」
俺たちは並んで歩き出した。
スバルの気分を害する可能性があるから慎重に話さなくては。
「俺たちもう高校生だよな」
「うん」
「高校生といえば異性交遊も盛んになってーー」
「なにが言いたいんだよ。ボクそういうの嫌い。スパッと本題に入ってよ」
「う、わかった。その俺が言いたいのは、高校生になっても男女がベタベタするのは変という話で……」
スバルがふいに足を止めた。
振り返ると、悲痛に歪んだスバルの顔があった。
「……つまりトシはボクに触られるのが嫌ってこと?」
「ち、違う」
「でもさっきも手を離して欲しいって言っていたじゃないか。昔は嫌がらなかったのに……。トシ変わっちゃったんだね」
スバルの目が涙で潤んできた。俺は慌てて叫ぶ。
「い、嫌じゃないっ!!むしろ……」
「むしろ?」
「な、なんでもない」
あぶねー、つい嬉しいって言いそうになっちまった!
「お、俺たちは親友同士だろ? それなのに付き合っているとか勘違いされたらめんどくさいだろ?」
「まあ、それはそうかもしれないけど」
「そんな勘違いを防ぐためにも、これからはスキンシップは控えてくれ。な?」
「むう、わかったよ」
スバルは釈然としない表情をしているが、一応納得してくれたようだ。
よかった、これで一安心ーー。
しかし、次の瞬間にはスバルの手が絡みついてきた。
「あ、あのスバルさん」
「なあに?」
「さっきもうくつっかないって言いましたよね」
「今は周りに誰もいないじゃないか。勘違いされなければおっけーでしょ」
「まあ、そうだけど……」
スバルが俺の手を強く握りしめる。
「これからは2人っきりの時、仲良くしようね」
スバルのいたずらっぽい笑みにドキドキしてしまう。
これからも俺の悩みは尽きなそうだ。