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第5話 友達の作り方

 

 休み時間の教室は騒がしい。

 女子はグループで集まっておしゃべりし、スポーツ好きな男子たちは教室の後ろでキャッチボール、オタク男子は携帯ゲームで協力プレイ。

 しかし俺は自分の席でひとりぼっち。

 入学初日に遅刻は痛い。俺が教室に来た頃には既にグループが出来上がっていた。そうじゃなくてもコミニュケーション能力低い上に、頼みのスバルは別のクラスだし。

 またボッチの学園生活が始まるのか……。


 いや、諦めるのはまだ早い。自分から話しかけて友達を作るんだ!

 席に座ったまま、教室を見回す。入学初日なので席はあいうえお順だ。俺は『浦島』なので廊下側前から3番目の席。教室中をよく見渡せる位置だ。

 グループに割ってはいるのはハードル高いから、ひとりでいる奴に話しかけよう。くそ、もう殆どグループになっているな。


 早速、ひとりでいる女子生徒を発見する。

 俺のすぐ前の席、確か「宇佐美」さんだっけ?


 よし、話しかけてみよう。


「あの、宇佐美さん」


 宇佐美さんが振り返る。白い肌のキャンバスに、長いまつ毛にふち取られた大きな瞳。頭の高い位置で結んだツインテールがたなびいてーー。自己紹介の時も思ったのだけど、凄い美少女だ。宇佐美さんは俺を見ると、大きな瞳をさらに大きく見開いた。


「……カピ夫?」


「え?」


「な、なんでもないわよっ! 馬鹿っ!」


 宇佐美さんはふん、と鼻を鳴らすと前を向いてしまった。初対面なのに、いきなり罵られたぞ……。スバルのおかげで女子の友達もアリと思っていたけど、やはり現実には難しいか。

 やっぱり友達といえば同性、男子が好ましいか。改めて教室を見回す。


 いた。


 一番後ろの席、小太り眼鏡の男子生徒が一人で本を読んでいる。大人しそうな男子だし、友達になれそうだ。

 俺は彼の席に歩み寄る。さて、なんと話しかけようか。やはりフレンドリーな方がいいよな。


「よう、何読んでるの?」


 よし、これなら話題を広げやすいぞ。

 男子生徒は顔を上げたが、


「言いたくない」


 ぶっきらぼうに言うと、すぐに本に視線を戻してしまった。

 なんという塩対応。もしかしてフレンドリー過ぎて引かれてしまったか?

 あ、名前も知らない仲だったよな。いきなり知らない奴が話しかけてきたら警戒するのは当たり前か。まずは自己紹介だよな、うん。

 俺はとびっきりの笑顔をつくると、


「俺は浦島俊明。君はなんていうの?」


「……玉手隼人」


「へー玉手君って言うのか。よろしくな。どこの中学通ってたの?」


 しかし玉手君は質問には答えず、大きな溜息をひとつ。


「君、俺が一人でいて大人しそうだからって話しかけただろ」


「えっ、いや」


 図星である。さらに玉手君は続ける。


「俺そういうのは違うと思うんだよ。友達って『つくる』ものじゃなくて自然と『なる』ものだろ? 無理に話して、ソイツに合わせても結局気まずくなって疎遠になるに決まってる。そういうのめんどくさくてさ、俺のことは放っておいてくれ」


 ぐうの音もない正論だ。そういえばスバルともいつの間にか仲良くなっていたっけ。

 しかし俺も黙っていない。


「たしかにそうかもしれないけど……話さないとわからないこともあるだろ。もしかしたら俺と君、共通の趣味とかあって、友達になれるかもしれないじゃないか。だからほんの5分、いや1分でいいんだ。俺と話してくれ」


 我ながらいい返しだ。しかし玉手君は、


「嫌だ」


「何で!」


「君、なんか面倒臭い。絶対気が合わないと思う」


「そ、そんなことないよ。きっと気が合うさ。ほら、なんでも質問してくれ」


「じゃあワン●ース好き?」


「あ、ああ。全巻持っているくらい大好きだ! 毎週本誌でも欠かさずよんでいるし」


 よし、共通点が見つかったぞ!

 しかし玉手君は心底嫌そうな顔で、


「俺は大っっ嫌い」


「え」


「ワ●ピース好きな奴とは絶対友達になれないわ。はいさよなら」


 そう言うなり、玉手君はイヤホンをしてしまった。こうなってしまっては話すこともままならない。自分の意見をズバズバ言う玉手君のこと、嫌いじゃないなかったんだけど。


 残念だけど他の生徒を探そう。俺は玉手君に背を向け、再び教室を見回したーー。


 グイッ!


 突然、襟首を掴まれる。

 振り向くと、さっきの仏頂面はどこへやら、満面の笑顔の玉手君がいた。


「君、『プリンセスファイブ』のファンなのか! それなら早く言えよ!」


「えっ、なんで分かったの?」


 玉手君は、俺の制服ポケットから飛び出した携帯ストラップを指差すと、


「そのストラップ、3thライブ記念の奴だろ! 俺も買ったから知ってる」


「ま、マジで! あのライブ行ったのか?」


「もちろん、いや〜ヒメヒメ可愛かったぁ」


「君もヒメヒメ推しなのか! 実は俺もヒメヒメ推しなんだ」


「マジかよ! すげー偶然だな!」


 はしゃぐ玉手君を見て、思わず俺は吹き出した。


「な、なに笑ってんだよ」


「ほらな、話してみないとわからないだろ」


「それはその……そうだな」


 玉手君は恥ずかしそうに頭を掻く。それから右手を差し出すと、


「さっきは悪かった。改めて俺の名前は玉手隼人。隼人って呼んでくれ」


「よろしく隼人。俺のことも俊明でいいよ」


 俺たちは強く握手を交わした。やった、ついに友達ができたぞ! 100人には程遠いけど、大きな前進だ!


 すると突然、目の前が真っ暗になった。


「だーれだっ!」


 聞き覚えあるハスキーボイスに、これまた身に覚えのある柔らかな感触。こ、これは!


「スバルか」


「へっへ〜、当たり」


 同時にスバルの手目隠しが外れる。スバルは悪戯っぽく笑うと、


「寂しいから遊びにきちゃった〜。別のクラスなんてついてないよね」


「そ、そうだな」


 スバルが遊びに来てくれて嬉しい、嬉しいんだけど……。クラス中の男子から注がれる殺気には耐えられそうもない。後でスバルにベタベタひっつかないように注意しよう。


「『浦島』君、そちらの方はどなたかな?」


 眼鏡の奥から激しい殺気を放ちながら、隼人が俺に詰め寄ってきた。


「えーと、スバルは俺の友達で……」


「友達にしては随分親密だな。本当にただの友達か? 素直に言わないなら絶交だ 」


「ぜ、絶交? 説明するからそれはやめてくれ! スバルは所謂幼馴染で、十年間離れ離れだったんだけど、最近再会したって言うか」


「残念だよ、君とはいい友達になれると思ったのに。さようなら」


「正直に言ったのになんで!」


「なんでも糞もあるか! 俺と同じインキャアイドルオタクだと思っていたのにあんな可愛い子、しかも幼馴染とイチャイチャしやがって! 俺に対する裏切りだ! 爆発しろっ!」


「そ、そんなぁ! 」


 せっかく頑張って友達になったのに。俺はがっくり肩を落とした。新しく友達をつくるにしても、他のクラスメイト達も殺意の波動に目覚めているし。あー、結局ぼっちかよ!


 すると、それまで黙っていたスバルが口を開く。


「2人とも仲いいね〜。もしかして友達になったの? トシの友達ならボクも仲良くしたいなぁ」


「いや隼人……じゃなかった、玉手君は俺の友達じゃな「友達ですっ!」


 俺の台詞は隼人の大声にかき消された。隼人は俺の肩に手を回すと、


「いや〜、会ったその瞬間から意気投合でね!友達って言うか、もう親友的な? 」


「へ〜すごい! トシと気があうならきっとボクとも気があうね!よろしくね」


「ふひっ、ふひひ。よ、よろしく」


 スバルにデレデレの隼人。

 そんな彼の姿を見ながら、友達って何だろう? と少し悩んだ。


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