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第四話 恋占い

 人は想いに惑うとき、占いに頼る。

 占いは人の心を映し出す鏡。

 けれど占いはけして決めたりはしない。

 決めるのはあくまで、人の心なのだ。






            【恋占い】





 王城の中庭に集められた人数を見て、シークは眉をひそめた。

「なんじゃこりゃ」

「すごい人だねぇ、シーク」

 すでに定位置となったシークの外套(ローブ)のポケットから顔を出すと、ユマが代弁する。

「少なく見て、30人は居るな」

「さすがだねぇ。やっぱり、王族を送り届けるともなると厳重なのかな?」

「……それだけじゃねえな」

 ユマの問いに否定で返すとシークはその一団の中心へと近づいた。

「よぉく見てみな」

 小声でユマにだけ聞こえるように呟く。

「? なぁに?」

「誰も顔立ちが似ていない。こいつら寄せ集め…ってのは言葉が悪ぃな、皆傭兵だ。俺と同じ」

「それは、どういうこと?」

「まぁ元々カルセリオには軍隊はいねぇんだ。神殿騎士も名ばかりで、本当に戦には向かねぇ国なんだよ」

 そう言われてユマはくるりと周りを見渡した。

 確かに誰も顔立ちは似ていない。カルセリオは北方に位置するから、北方の特色である透き通る白い肌と淡い色の髪や瞳をした人間が多いかと思いきや、そうでもない。

(あれが……)

 ぼそぼそ、と交わされる声がする。

(あれが……緋焔神官の……)

(不死身の……だろ)

 なんとなく嫌な空気だったので、ユマは顔をしかめてシークを見上げる。

 見上げられたシークも同じような表情をしていた。

「まぁ、神官なんてそうそう会える人間でもねぇから。特に北方は、どちらかと言えば蒼水男神の土地だからな、珍しいんだろうさ」

 それだけではない感じもしたのだが、ユマはそれは言わないでおいた。

 なんとなく、言わない方が良いだろうと思えたからだ。

「シーク!」

 白い厚い毛皮を着込んだリマが駆け寄ってきて、それは確信に変わる。

聖王妃(ギメル)の覚えもめでたいとは……)

(なんてうらやましいこと……)

 それは、明らかな羨望。

 そしてそれに混じる嫉妬という名の悪意。

 シークはそれにまるで気付かないような顔をして、リマに答えた。

「なんですか、聖王妃殿下」

 慇懃無礼な態度のシークに、リマは困ったように微笑む。

「ユマちゃんをお借りしたいなぁ、って思って」

「ユマを?」

「なんで?」

 二人して問うとリマは少し寂しそうな顔になった。

「わたくしだけ、馬車を使えというのです。わたくしとて、聖地巡礼の折には徒歩で巡った身ですから大丈夫です、と申しましたのにね」

「なるほど。一人きりじゃあ、何だな。……どうだ、ユマ」

「え? あ、……あたしで、よかっ、ごほん。よろしければ、リマ様」

「ありがとう」

 本当に、あどけない微笑み方をする、とユマは思う。

 年の頃は17歳程度であろうというのに、どこか幼い印象を受ける。

 それは俗世間から隔絶して育てられたせいなのかもしれなかった。





「ユマちゃんは占いってしたことある?」

 馬車に揺られる途中、突然リマにそう言われてユマは首がちぎれそうな勢いでぶぶんと首を横に振った。

「ないわ、あ、違う、ありません」

「いいのよ。誰も聞いてないから」

 にこにこと笑うリマは、本当に警戒心が薄くて、こんなんでいいのかなぁ、とユマが心配するほど。

 立場が上の人にありがちな絶対的なプライドの高さはないし、とても気さくで話しやすい。

「え、と、リマ様、は」

「それもなし。リマでいいから」

「じゃ、リマは、ある?」

「あるわ」

 少し悲しそうに、リマが呟いた。

 その表情の変わりように、ユマはあたふたとする。

 ユマの慌てようにリマはその悲しそうな雰囲気を打ち払って、笑顔を作ると手にカードを取り出した。

「占いっていうのはね、自分のことは占えないの。占っても、上手くいかないのよ。さて、じゃあユマちゃんの占いをしましょうか」

「えっ」

「大丈夫よ。一番簡単な占いしか、わたくしには出来ないから。恋の行方を占うのよ」

「恋占い?」

「そう。運命の人との恋を、占ってみましょうか」

 ばら、と伏せて広げられたのは3枚のカード。

「これはね、太陽と星と月が描かれているの。星ならば未来に出会うひと、太陽ならば現在出会っているひと、月ならば過去に出会ったひとなのよ」

「へえ」

「さぁ、選んで」

 透明な羽をはばたかせて、カードの上を行ったり来たりしていたユマは、うーんと唸った後、これ!と一枚のカードを選んだ。

「さて、何が出るかしら」

 リマがそう言って伏せていたカードを開くと、そこには星の絵があった。

「まあ。ユマちゃんの運命の人は、これから出会う人のようね」

「そうなんだぁ」

「じゃあ、もうひとつ。今度は違うカードを使うわね」

 そう言って、今度は5枚のカードを並べる。

「これはね、出会う人がどんなひとかを占うの。一枚選んで」

「うん」

 そうして選んだカードをリマは手にして、ユマに見えるように置いた。

「これは風の紋章。翠風女神は東の土地を司どるわ。東の土地で出会うひとか、風の属性を持った人を意味するわね」

「他のカードはどんなのが書いてあるの?」

「それぞれ地水火風と白紙よ。白紙は定まらないものにして、中央を示すの。地は西、火は南、水が北なのよ」

「漠然としてるんだね」

「はっきり決めつけられるよりはいいじゃない。いろいろ想像出来るでしょ?」

「そうかも」

 それからとても他愛のない話をして、時間はあっという間に経ってしまった。

 例えばリマは神殿の暮らしや、カルセリオの土地独特の風習について話してくれたし、ユマもリマが知らない小妖精たちの暮らしや今まで見聞きしてきたことを話した。

 ユマもリマも、今まで気軽に話の出来る同性がいなかったせいか、その数刻の間で随分仲良くなってしまったのだった。





「霧の森を抜けるらしいな」

 野営を組む合間。

 シークがぽつりと言ったので、ユマが振り返る。

「霧の森?」

「ああ。カルセリオとミリテールの間の深い森のことだ。しかもどんな季節でも濃い霧が発生しやすい場所でな。目が行き届かないから、どちらの国もそこは中立地帯と見なしてる」

「そぉなんだ」

 黙々と自分の天幕を組むシークの周りを飛び回りながら、へぇ、と言ったきり喋らないユマに、どこか痺れを切らしたような態度でシークは問いかけた。

「お前、リマと仲良くなったのか?」

 その言葉に、きょとんとしてユマが首をかしげる。

「なんで?」

「馬車の中、あったかいだろ。火焔石積み込んでたからな」

「あ。うん」

「あいつなりの気遣いだな。昔っから自分より小さいやつには甘いんだ」

「リマに話しかけたいんなら、自分からそうしたらいいのに」

「うるせぇな。そうはいかねぇんだよ」

 少し拗ねたようなその顔を見て、ユマは唐突に理解した。

 シークは、リマのことが好きなのだ。

 でもユマは前ほど胸が痛まないことに驚いていた。

 きっと、リマに会う前に、リマと話をして打ち解ける前に、それを聞いていたら、もっとずっと胸は痛んだに違いない。

 でも、今は違う。

 リマの人となりを少しでも理解している今なら、分かるのだ。

 リマは人に好かれて当たり前だと思う。

 ユマでさえ、守ってあげたいと思うのだから、他の人間ならもっとだろう。

「ふぅん」

 にんまりとユマが笑うと、

「なんだよ」

 とシークは少し嫌そうな顔をする。

「べっつにぃ?」

「何か言いたそうだぞ、その顔」

「そんなことないよぅ」

「そうかぁ?」

 少しだけ、しあわせになれたらいいのに、と思った。

 どこか寂しげで悲しげな顔をするリマも、不器用でリマに気持ちを伝えられずにいるシークも。

 しあわせに、なれたらいいのに、とユマは思っていた。





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