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第一話 はじまり

 その世界は、大神ヴァル・ディークを中心とし、

 太陽女神ライーラ、月男神シィンによって産声を上げ、

 四柱の精霊神によって育まれた。

 精霊神とはすなわち、

 嘆きの風乙女 スュルサーナ

 猛き炎の女帝 グルワァヒンドゥーア

 流転する水の長 エンダルヴァル

 偉大なる大地の王 ダイノドゥインダル

 四柱の神々である。





 そして、これはその世界に息づく人々のお話。

 世界は精霊の息吹に満ち満ち、魔法も夢ではない場所の物語。





           【はじまり】





 男は不死身の傭兵と呼ばれていた。

 どのような戦地へ赴こうとも、必ず生きて帰る。

 故に不死身である、と。





 中央大陸の西北、都市国家ラルム。

 【エンダルヴァルの涙】とも呼ばれる中央大陸屈指の湖の傍に位置する、活気に満ちた街。大陸を渡る街道が交わる場所に自然と出来たこの都市は、どの王国にも属さず、誰でも自由に行き来が出来る。

 物語は、ここから始まる。





「シーク~、お腹減ったよぅ! なんか美味しいもの食べに行こうよぅ」

「うるっせぇんだよ」

 自分の身の回りをくるくると旋回して飛び回る小妖精を邪険に振り払いながら、シークと呼ばれた男はギルドへと向かっていた。

 他の人間より頭ひとつ分ほど高い体躯と背に背負う大剣から察するに、ただの民人ではない。冒険者か、傭兵か。そう思わせるに相応しい眼光と顔立ちをしている。髪は深い紅色、肌は浅黒く、瞳は空のように澄んだ蒼。顔立ちもなかなかであるが、今は殺気のようなものすら纏っているシークに声をかけるものは誰も居ない。

 シークはただ黙って、石畳の道をギルドの方向へと急いでいた。

「いいじゃん! ちょっとくらい遅れたってぇ」

 きゃんきゃんと噛み付くように言葉を続ける小妖精に黙っているのも嫌になったのか、シークは彼女(そう、彼女、なのだ)にびしっと指を突きつけると足を止めた。

「そういう問題じゃねぇんだよ、ユマ」

 ユマ、と呼ばれた小妖精はきょとんとして、それから飛び回るのをやめ、シークの肩にすとんと腰を下ろした。

「どういう問題?」

「ほれ」

 手渡されたシークの財布代わりの皮袋は、小妖精が抱えても何ら問題がない。

 それは何を意味するのか。

 ただひとつしか、答えは無かった。

「……シーク」

 恨みがましく男の名を呼ぶユマに、シークは苦笑いをする。

「はやく仕事見つけねぇと、飢え死になんだぞ」

「なるほど。だから今朝も水だけだったのね」

「だから飯より、仕事。そこの串焼きひとつ買えねぇんだからな?!」

 道の脇に立ち並ぶ、露天の屋台のひとつからただよってくる串焼きの香ばしい、いい香りにぐぅ、と腹を鳴らしながら、小走り気味にシークはギルドへと歩いていった。





 ギルド、というのは体のいい仕事の斡旋場のひとつである。

 依頼が張り出されているので、そこから自分の技量に相応しいものを探すのも手立てのひとつであるし、自分の技量を先に伝えておいて何かいい仕事が入らないか待つのもひとつである。

 ただし、後者はよほど気が長くないと出来ない。

 もしくは名の売れた者でなければ、待っているだけでは仕事にありつけるわけがないのである。

 がやがやと雑多な賑わいを見せるギルドの中に入り込んだシークもまた、前者であった。張り紙をひとつひとつ、見ていく。

 いい仕事はすぐに名乗り出る人間がいるので、自然と残ったものは割に合わない仕事であるとか、危険を伴うものしかない。

「シーク!」

 すぐに腹を満たせるような仕事がなさそうなことに肩を落としたシークに、不意に背後から名を呼ぶ声がした。

「あぁ? んだよ、セイ」

「うわー、目が据わってるなぁ。大丈夫か、お前」

 へらへら、と笑いながら現れたのは、メガネをかけた細身の男。

 薄く青みがかった銀髪に、揃いのような淡い水色の瞳をしている。

 大よそこのような場所に似つかわしくない風体ではあったが、彼こそがこの地区のギルドの統括を任されている男、セイ=サルファン・リムークであった。

「うっせぇんだよ。俺はな、ここ2日水だけで生きててイライラしてんだからな」

「それは君が早起き出来ないのが悪いんだ。言うだろう? 早起きは、3レセトの得、だ」

「俺はお前の説教聞きに来たんじゃねぇんだよ」

「でもほんと、シークは仕事と普段は別人よねぇ。仕事の時はさぁ、ちゃんと早起き出来るのにね」

「うるせぇよ、ユマ。黙ってろ、お前」

 口げんかを始めた小妖精と男を見比べて、相変わらずのへらへらとした笑顔のまま、セイは次の言葉を口に出した。

「そんなしけた面してたらいい雇い主も逃げ出すぞ?」

「余計なお世話だっつんだよ! ……? いい、雇い主?」

 にっこりと笑うと、セイは懐から一通の書式を取り出した。

 それは壁を一面に占領してあるものとはまったく違う、見るだけで分かるような立派な紙の使われた書面であった。

 ちらりと見せただけで、またそれを懐にしまいこむと、セイは顎でしゃくるようにして部屋の奥にある執務室を示す。

「ここでは話せない。あっちでゆっくり話をさせてくれ。……そうだな。軽く食事くらい用意させよう」

「よし、のった」

 その言葉に、シークの肩に乗ったままつまらなそうにしていたユマが

急に活気を取り戻す。

「え? ご飯? ご飯食べさせてくれるの? セイ」

 つまらなそうにしていたのが嘘のような明るい表情になったユマに、シークは「ほんとに現金なやつだよ」とぼやいた。

 それを聞き流す振りをして、セイはにっこりと微笑みかける。

「ああ、ユマちゃんも一緒だったんだね。もちろん、ユマちゃんの分も用意させるよ」

「わぁい☆ セイ、様様だねっ♪ シーク」

「……そう思ってると後でツケがくるんだよ、ユマ」

 仕事するのは大体俺なんだぞ、と呟いて、軽い足取りのセイと、浮かれたように飛び回るユマの後をついて、シークは重い足取りで歩き出したのだった。


10話で終わるお話です。

悲恋もの。メリーバッドエンドとも言えるので苦手な方はご注意ください。

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