別れ道
始業式も終わり、いつも通り結衣と自転車を並べ急勾配の坂を下る。
春の陽気と冬の寒さが丁度良い風になってスカートの裾が広がった。
「陽菜、初っぱなからやっちゃったね。」
「え、なんのこと?」
「もう靴下のこととか羽田先生大声で話しちゃったでしょ。」
「あれね、別にいいの。逆に好都合だから」
結衣は不可解な表情を示したが、1から100まで話す必要はない。
「別にね、どう思われてもいいの。男子にはね」
「何それ!陽菜彼氏欲しくないの?」
「大人になってからでも出来るでしょ。今は平和に学生したいの。」
結衣は一瞬考えるようにうつむいた。
「でもさ、私高校に入ってからずっと彼氏いるけど平和だよ」
不思議と全く苛つかなかった。結衣はそれはそうだねと誰もが頷く一般人離れした容姿なのだから。
もし仮に恋人がいたとして結衣のことが好きになったと告白されても、納得してしまうだろう。
「あははっそれは結衣だからね。彼氏いま何人目なの?」
「もうそれ聞かない約束でしょ」
そんな話をしているうちに坂を下り終えた。
「また明日ね!」
何も後ろめたいことがない様な笑顔で結衣は言った。
「またね」
ここからは帰り道が違う。
帰り道が違うと同じ高校に通っているのに生き方まで違う。
これから結衣は帰宅したら流行りのルームウェアに身を包み、8畳もある自分だけの部屋で、彼氏とメールをしたり、ファッション雑誌を読んだり、それはもう理想の女子高生らしい生活をするのだろう。
私は、考えたくもない。あと15分もしたら現実なのだから。
なぜ別世界に住んでいる結衣が、私と親しくしてくれているのか分からない。
考えればプラスの理由もマイナスの理由もいくらだって出てくるから、敢えて考えないようにしている。