日向ぼっこ
教室の後ろの扉から静かに入室する。
去年から引き続き同じクラスの結衣が、むすっとした顔で手招きをする。
どうやら私の座席は廊下側から2列目かつ後ろから2番目という好立地のようだ。
「陽菜、またジャージ履いてるー。もう女クラじゃないんだよ」
後ろの席から身を乗りだし怒った顔の結衣は、昨年の女子クラス時代から変わらず、女子高生の可愛さを全て凝縮したような完璧さだ。
「いいよ。結衣じゃあるまいし、誰も見てないから」
何の嫌みも込めず結衣に言い返す。
結衣はまだ何か言いたそうな顔だったが、羽田先生がキンキンとした声を発しながら、教室に入って来たので、大人しく自分の座席に収まった。
机の右側のフックにスクールバックをかけようと、ふと右側を向いたとき、私の足元を見ながら、ゆるっとした笑みを浮かべてる男子と目が合った。
決して窓から柔らかく射している日差しが届く距離にはいない私達だったけれども、彼の周りだけは、春に日向ぼっこできるような陽気な温かさがあった。
人の容姿をランク付けする色々な言葉が溢れ返ってるけれども、そんな沢山の言葉のどれにも当てはまらない。
何秒間か目を合わせてたのだろう。我に帰った私は、「何かありましたか」と自分の中で出せる一番低い声で彼に話しかけた。
彼はきょとんとした顔をして「スカートの下にジャージ履く人ってホントにいるんだ」とあっけからんに応えた。
ムッとした私は「あなたがどれだけお上品な女の子をみてきたかは、知りませんけれども、スカートの下にジャージを履くのは機能的だからです。
まだ肌寒いのに、この学校はタイツを履くことすら認めてくれないじゃない。
それにスカートだって私は、校則通り膝の長さにしてますよ。
それでも寒いからジャージを履くんです」
と支離滅裂な反論を彼にする。
すかさず羽田先生が「高崎さん!あなたは去年から機能的だか、なんだか理由をつけてジャージはまだしも、夏には靴下を脱いでたわよね!今年は許さないわよ」と割り込んでくる。
教室中がわっと笑いに包まれる。
変わった奴はどんな顔なのだろうと恐る恐る後ろを振り向く男子もいる。
上手くいった。この1年も平和に過ごせそうだ。
結衣もいるし、最後の学生生活を誰に邪魔されず楽しんでやろうと思う。
右横を睨み付けると、彼は既に何の興味もなくなったのかのよう机に伏せていた。