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静寂の生彩  作者: 百瀬ゆかり
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13 2人の答え

ようやく最終話を迎えられました。

出会いこそ最悪であれ、2人は恋に落ちました。

そんな2人が選択したのはどんな未来でしょう?

船からは鯨の鳴き声のような野太い汽笛が空気を揺らした、それは出航する合図のものだった。


左手に輝く小粒のルビーが私の瞳のようだと言われたのを昨日のように思い出せる。なのに、それがなんだか遠い過去に言われたかのように感じられてしまうのは一種の諦めが心を占め始めた証なのだろうか。


島から離れてしまえば、彼は私を綺麗な思い出としてしまうのだろう。そしたら私も彼を綺麗な思い出にしてしまうのだろうか。


この美しい曲線と色に包まれた紅が。

この指からこぼれ落ちてしまう日が来てしまうのだろうか、そう思っただけで心が締め付けられるのは。


まだ、諦めていないのだろうな。


「秋羅〜あとで4つの島を旅行で感じたことを教えてくださる?半年先にここで連日デートプランの参考にしたいから」


「わかりました。では後ほどバーの方でアイスティーを飲みつつガイドブックを見てお話しします」


秋穂夫人がよほど御機嫌なのか花を浮かべながら部屋を退室していった。

別れる前に悠一から手渡された土産に手を伸ばすと少し厚めの茶色の封筒。封を切ってみるとなんだかんだ一緒に撮った写真がたくさん出てきた。


「あ、この時は。あの時ね」


教授にアーツ諸島のアブ島に無事着いたという連絡のためだけに撮った写真。この時は音が聴こえない時だったので我ながらになかなかの口元以外が見事に無表情だ。裏面に【A】とマジックペンで書かれているのはなんでだろう。


「これは、イデア島の写真だ」


貴様の理想とはなんだ。という文章から始まったとんでもない場所だった。緑に包まれていても数多の芸術家が作ったたくさんの理想の形が存在感を出していた。こちらには【i】と書かれている。


「次は、メメン島」


いずれ訪れる死を、終を想う。

それはそこの見えない闇のようなテーマ。

それでも想うというのに着眼した芸術家が死を終を深く考察したものが誇らしくそこに存在していた。これには【m】。


「これはエクシトゥスの写真ね」


ここの時は海の写真しか撮っていない。

むしろそれで良かったと思っている。あんな体験はもう懲り懲りだ。人間は感情一つで狂えるというのがよくわかる事件だった。裏面には【e】が書かれている。


「最後は静養するためだけにいたようなレース島での写真ね」


最後らへんは一緒に写っている写真。

互いに笑顔だ。幸せいっぱいの。

複数映るツーショットの写真をめくっていると撮った覚えのない写真が混じっていることに気づいた。


いつ撮ったのだろう、この写真は。

悠一の全身が写った写真が1枚混じっていた。私が撮った覚えがないので私が寝ている間に誰かが撮ったものなのだろう。


一緒に写した写真の一枚、互いにピースをしたありふれた幸せいっぱいの写真の裏面には【r】。


最後に彼からの短い文章が添えられていた。



これが俺の気持ち。

解けるものなら解いてみろ。

答えがわかったらここにメール、あるいは電話すること以上。


mail→light.xxxx0000@xxx.com

call →81+xxx-xxx-xxxx


ヒント、写真



感傷の涙が一気に引っ込んだ。

なんなの。最後の、まるで推理ゲームのようなものは。絶対に解いてやる。

怒りが感傷する気持ちに勝ってしまったのはいささか悲しいものだけど!もう!


悠一のばか!!


しばらく考えた。でもわからなかった。

組み合わせ次第では少し絞れるような気もしたが悠一が伝えたかったものとはなんなのだろう。検討がつく単語が浮かばないからだった。


「あら秋羅どうしたの。頭を抱えて」


秋穂夫人がガイドブックを数冊抱きしめながらこちらへ歩み寄ってきた。


「それが……彼からとんだ推理ゲームを与えられたですがイマイチ検討がつかなくて。わからないから電話して答えを聞くのもなんだか負けた気がして聞けないのです」


秋穂夫人にヒントの手紙と関係している写真の裏面の単語を見せた。すると秋穂夫人はなにか解けたのか口元を押さえてふふふと静かに笑った。


「え?なんで笑われるのですか秋穂夫人」


「あら?簡単じゃない。ふふふ」


「え?え??」


「これは、私の口から語ることではありませんのでこれにて失礼。秋羅、苦戦するあなたに飛びっきりのヒントをあげましょう〜♪」


飛びっきりのヒント?


「ボンジュールと挨拶する国は世界でもロマンチストが多いと言われるわね、ちょっと用事を思い出したから失礼〜♪」


秋穂夫人はスキップしながら教授のいるバーの方へ行ってしまった……おのれ。




ボンジュールと挨拶する国=フランス語?



つまり、この言葉の暗号はフランス語で出来ているというの?そう考えている時にスマートフォンが震え、ディスプレイを見ると教授からのメールだった。



《妻から聞いた。どうやら悠君からの挑戦状に苦戦しているようじゃないか。彼女からのヒントではまだ足りぬだろうから大出血サービスで最初の部分をさずけよう。「Je t’」最後の部分は己の力で解くのじゃよ》


……秋穂夫人っ。

なにちゃっかりと教授に漏らしちゃっているんですか!もう!!


メールの一番下に教授からのヒント。

もう行けるね?頑張りんしゃい( ´罒`*)✧"と年甲斐もなく顔文字を使ってくるこの人には、勝てない……。



もう一度推理し直すことにしよう。


写真通りに言葉を並べてみる。

これに教授からのヒントを頭にして足してみる。



とりあえず文字ができた。

検索エンジンに投げ込めば吐き出された言語がフランス語でAimer(愛する)?


なんのことだろうと思いつつ、鉛筆で汚れてしまった手を拭うためにバッグに手を入れた時に入れた覚えのない冷たく無機質なものが触れた。取り出してみればそれは細い鎖に巻かれた小さな箱だった。


鎖にはアルファベットの組み合わせで鍵が外れる鍵。五桁の文字、写真の組み合わせで生まれたその五桁の部分に当てはめればあっさりと鎖を繋いでいたものは外れてしまった。



中から出てきたのは地球上1番硬いとされる炭素の結晶体であるダイヤモンド。世の女性を惑わす形であるブリリアントカットは本当に美しい。指輪の部分はおそらくプラチナで透かし彫り、幅が狭くてもレース模様として彫られている。あまりのクオリティの高さに目眩がした。



そこに小さな紙に書かれた短い言葉を見てようやく、悠一が遠回しのサプライズを仕掛けてきたことに。

ああ、もう。やっと意図に気づいた。



解けたことによる脱力感によってスマートフォンを落としかける。メモにあった電話番号をダイヤルに番号を打ち付けて……すぐに聞き慣れたあの声が耳に転がってきた。


『やっとわかったか、全く遅いじゃないか』


顔が見えなくてもどんな顔しているかを想像出来てしまうと腹が立って仕方が無い。でも今言いたいことはそういうことじゃない。



「……やっとわかったわよ、ばか」



あーあ、素直じゃない私が顔を出した。

もー!そうじゃなくて!!


『Je t’aime plus que tout(心から愛してる)。

……それで、どうなんだ。答えを聞かせてくれ』


耳に転がるのは声音は真剣そのもの。

甘さを含む、囁き。これだけはからかって返すものじゃない。私の心からの気持ちを。私の。




ギュッとスカートを掴み、ゆっくり深呼吸して。




彼から贈られた指輪を見つめながら。

頬に熱い涙を感じて。胸が詰まる。

嗚呼、あなたって本当に、意地悪な人だわ。











「Je t'aime aussi(私もあなたを愛してます)────」








「静寂の生彩」の詳しいあとがきは

活動報告の方へお話したいと思います!


読んで頂きありがとうございました!!

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