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3チート目:これがご都合主義ですか?

 そういうわけでシャロンに連れられて、俺たちはギルド施設へと足を踏み入れた。

 中の様子だが、かなり広い体育館という感じだった。人も多い。すし詰めというほどではなくとも、何処を見ても人がいる。

 奥には一つ繋がりで半円形をしたテーブルと、パーティションで区切られた五つの受付がある。そしてその受付に呼び出されるのに、いろいろおしゃべりしながら待機している人たちを見ていると、ここが銀行か市役所みたいに感じる。

 まあシャロンの話曰く、ここは事務手続きの場でもあるらしいから、その感覚はあながち間違いではないのだろうが。 


「こっちです、ユウヤさん」

 そう言われて案内されたのは左の受付の方だ。そうしてシャロンが小走りで一枚の書類を持ってきた。茶色の紙だ。羊皮紙では無い、目が粗い紙だ。

「これに記入してください。ここのギルドは加入するだけで、自分のステータスやスキルが測れるんです」

 うきうきでシャロンは言うのだけど、なんかこれはそう。美人局というか、女の子に上手いこと騙されて壺を買わされてるような感じだ。

 そんな俺の疑念を感じ取ったのか、シャロンは言う。

「別に登録するだけなら無料ですし、特に不利益は無いですから安心してください」

 正直取られるようなものも何も持っていないのが現状なのだが、ひとまず俺はほっとしつつ、書類を書いていった。こうして現状、謎の言語で会話できているように、書類の文字も難なく読めた上、書くことも出来た。むしろ日本語よりなじみを感じるのが不思議だった。

 設問事項は本当に日本の書類と変わらない。

 住んでいる場所、人種、名前、性別、年齢などなど。ただ宗教を聞かれたり、挙げた功績や、身分などを聞かれるのはもちろん初めてだったが。

 シャロンと二人で分からないところを話しながら書くのは楽しかった。むしろシャロンが隣にいるだけで楽しい。彼女と一緒なら何処ででも。

 明るくて、知的で、笑顔が可愛くて、清らかで、華やかで。

 たった数時間の出会いだというのに、たぶん、もう俺は彼女に恋をしてしまっていた。よくあるヤツだよ。俺みたいな女ひでりの男が、ちょっと関係を作ってしまうとすぐ惚れるって言う。

 それでさんざ痛い目も見たのに、俺は全然()りないんだもんな。


「よし、今度こそこれで終わりですね」

 笑顔の彼女の手元には、俺たちが一緒に書いた書類が。ちなみに不備があったとかで何度か突き返された。そのたびに新しく書き直す羽目になったのだが、シャロンは嫌な顔一つせずにそれに付き合ってくれた。彼女は顔だけじゃ無く、その内面も美しいらしい。

「ありがとう。手伝ってくれて」

「いえいえ。私からお願いしたことですし。それじゃあこれ提出してきますね!」

 そう言って彼女は受付へ再び駆けていった。でも何度目だろう、これ。


「大変長らくお待たせしました」

 そんな慇懃いんぎんなお礼で出迎えてくれたのは、受付のお姉さんである。

 とてもグラマラスで、印象的な長い茶髪の彼女の年は大体20半ばというところだろうか。こういうののお決まりとして、やっぱり可愛い感じ。

 でもきっと現実世界だろうが、異世界だろうが、受付ってのは美人が勤める仕事なんだろうとは思う。

 促されて俺は椅子にかけ、シャロンはその後ろに立つこととなった。


「今回は当クーデアリアギルドへのご登録ありがとうございます。当ギルドの説明は必要ですか?」

「それは、して欲しいですね」

 シャロンとお茶を飲んだときも、書類を書いている最中も、いろいろと話したのだが、まだまだ聞き足りない。何か説明をしてくれるというのなら、それはありがたいことだ。

「かしこまりました。当ギルドは平たく申しまして、お悩み解決所なのです」

「お、おなやみ?」

 思わず俺は棒みたいな声で聞き返していた。

「はい。各所からいただく問題に関して、その解決のため当ギルドが契約する冒険者様たちにクエストという形でそれらを斡旋するという、そういう仕組みです。冒険者様はその能力に応じて、ランク分けされ、その中で割り振られたクエストを受注できます」

「職業安定所?」

「そういった面もございます。また各行政事務も執り行っております。そして今回冒険者としてのご登録に際しまして、ユウヤ様のステータスを計測させて頂きたいのですが、よろしいですか?」


 ようやくこれが本題なわけだ。別に俺もギルドに登録したいわけじゃない。とりあえず俺に与えられた、この世界での素養というのを調べたかっただけ。

「はい。それでどうすれば?」

「こちらを左右いずれかの手首に嵌めていただけますか?」

 そう言って受付嬢が出してきたのは、銀色をした丈夫そうなバングルである。しかも何か細い管というか、線が繋がっている。

「これは何なんです?」

うつし身の腕輪と呼ばれる特殊な魔法具です。装備した方の、その潜在的なものを含めて能力を測れるという」

 俺は頷きながら右の手首にバングルを装着した。すると受付嬢はその手元にあった、水晶のような丸い石に手を触れる。

「それでは通魔つうま致しますね」

 その言葉の後、一瞬きらめいた気がした。だがほんの一瞬のことで、俺の見間違えかとも思った。

「完了しました」

「終わり?」

 あんまりな味気なさに俺は拍子抜けしていた。

 もう少しこう、何かアニメ的な効果が走ると思ったのだ。稲光とかまでは行かずとも、部屋の中が光り輝いたり、轟音ごうおんが響いたり、魔法的な効果がもっと弾けたり。

 これじゃあ血圧測定とそんなに変わらないじゃ無いか。

「ええ。では腕輪を外して、結果をお待ちください」

 そう言い残してから、受付嬢は席を立って後ろに用意されたパーティションの裏へと消えていった。


「どうですかね。ユウヤさんの力」

 ここまでずっと喋らなかったシャロンが嬉しそうに訊ねてくる。

「どうだろう。あんまり自信ないけど」

 シャロンにはそう言ったけど、俺の偽らざる実感としてはむしろ、分からないという感じ。分からない。そう。だって魔法力って何だよってことだ。

 現実世界においてどういう能力の高さが、魔法力に繋がるの?

 例えばオタク気質や臆病さ、学校でのボッチ度とかが魔法力に繋がるって言うんなら、俺は結構最強かもしれないけども。


 いずれにせよ考えてもラチのあかないこと。それに転生に際して俺は何か能力を与えられてるっぽいし、あまり推測の意味は無いだろう。

 じっと待っているとしばらくして、どたばたとカウンターの裏で騒ぎがあったようだった。何かを落としたような音と、そしてさっきの受付嬢やその他事務員の声だ。みんな一様に驚いている様だが。

 シャロンと互いに不思議そうに顔を見合わせた。

 程なくして、少し汗をかいて見える受付嬢が慌てて帰ってきた。ちょっと息も荒い。


「申し訳ありませんが、再度の計測をお願いしてもよろしいでしょうか?」

 計器の不具合と言うことなんだろうか。分からないが、俺はまだ置かれたままだった腕輪を手に取った。

「あ、じゃあ」

「いえ、次はこちらで」

 後ろから現れた事務員が持ってきた新しい計器で、再度俺はその能力の測定を行った。そしてまた受付嬢が裏に消えた後、しばらくして再び帰ってくる。

 今度の彼女は、もうさっき以上にびっしりと汗をかいている。

「……大変申し訳ございません。代わりの者が参りますので、もうしばらくお待ち頂けますか」

「はぁ」

 そう言うしかなかった。これで結構待たされているのだ。事情も話さず、座らされたまま。シャロンなんてずっと立ちっぱなしなのだ。なんだかちょっと腹立たしい。

 そして次にやって来たのは、受付嬢でも無く、事務員でも無い。グレーの紳士服にに身を包んだ、身なりの良いおっさんだ。

 彼はカウンター越しでは無く、俺たちがいる側に現れ、そして深く頭を下げた。


「初めまして、イトウ・ユウヤ様。私、このギルドを任されております、ギルド長エルディン・ロースと申します。ここからは私がご案内させて頂きます。つきましては場所を移したいのですか、構いませんか?」

「ええ、いいですけど」

 言いつつも俺はシャロンを見た。このままシャロンだけここに置いてけぼりとなったら流石に可哀想だ。彼女も待たされているのは同じなのに。

「もちろん。お連れ様もご一緒に。どうぞこちらへ」

 エルディンは真摯らしいさわやかな笑顔と共に、俺たちを先導した。

 案内されたのはこのギルドの二階にあった応接室だ。豪華なソファーに俺とシャロンは隣り合って座る。拳一個分の隙間くらいは空いているが、かなり距離感が近くて自然と心臓が高鳴った。


 そしてエルディンが対面に腰掛けると同時に、彼は持ってきた三枚の紙を俺たちの間のテーブルに置いた。

「それではこちらがですね、ユウヤ様のステータス内容となります。ご確認ください」

 そして俺たちはそれに目を通し、シャロンはうわごとのような口調で言う。

「う、嘘でしょ……」

 隣を見ると、呆然として目を丸くしていた。そしてそのまま全文を読んでいっているらしい。

 俺はまず何よりその驚きっぷりに驚きながら、それに目を通した。

 羊皮紙のような分厚い紙には、それぞれ欄が仕切ってあり、そこにびっしり文字が書かれている。他方でまるでまだ書きたてのボールペンの後を手の甲でこすったみたいに、文字が掠れまくって全然読めない場所もある。

 ともかくその内容だが、まるで俺を賛美しているみたいに「最高」だの「最強」だのの文字のオンパレードだ。反射的になんだこれ、と思ってしまう。

「このステータスシートの説明ですが、これにはその方の常時発動型のパッシブスキルが記載されています。つまりその人の持つ基礎的な能力と言い換えても良いでしょう。……ただ基礎と言うにはあまりに偉大すぎる力ですが」

 エルディンは話しながら苦笑していた。


「しかし私もシャロンさんと同様、初め見た際に唖然としました。何せどのスキルも、その道を究められた方にしか発現しないとされるものばかり。しかも当ギルドの能力不足で申し訳ございませんが、まさかお持ちのスキルが全て解明できないとは……。しかしこのような事態は、私ここに勤めて四十年余りですが、初めてのことで。とても困惑しております」

 いよいよ俺は実感がわいてきた。鳥肌が立ち、総身に震えが来る。


 つまり、疑いようも無く、現実に、俺は、この世界に――


「すごい、本当にすごい! こんなのって信じられないよ!」

「その衣服からして何か神秘的なものを感じるあなたは、おそらく天が遣わした使者……いや、勇者……英雄なのでしょうか」


 ――チートで、転生したのだ。


 一体俺は何が出来るんだ。どういうことが可能なのか。歓喜の海に溺れながら、俺は今すぐにでも持ちうる全てを確かめたかった。これまでの十六年の人生で一度も感じたことの無いような、猛烈なモチベーションが身体の底から沸いてくる。

 俺が頭をしびれさせながら思考を巡らせている中、エルディンは立ち上がり、そして後ろの執務机から何か物を取り出して戻ってくる。

 そして彼は俺の目の前に、小箱を置いた。黒塗りの上等なしつらえだ。


僭越せんえつながら、ユウヤ様はまだこのクーデアリアに越されてきたばかりだとか」

「そうですね、まあ」

「でしたら、是非ともこちらをお持ちください」

 言ってエルディンは小箱を開ける。その中には銀色の鍵のような物が入っていた。

 鍵と言っても見かけがそれに一番近いと言うだけ。持ち手となる部分には、さっき見たあの水晶のような丸い石が象眼されている。石はよどんだ光をたたえており、揺らめいていた。

 これがどういう代物なのかさっぱり俺には分からない。だが今度もシャロンが愕然としていたことで、何かしらとんでもないものなのだろうことは察しが付いた。

「そ、それって……」

「これは何なんです?」

 俺がその鍵らしき物に触れると、石から一気に淀みが取れ、柔らかな青い輝きに満ちる。こう見るとサファイヤのような宝石らしい感じがする。

 というか、俺はさっきからこんな質問しかしてないな。こっちに来てまだ一日も経っていないのだから仕方ないとはいえ。


 質問に対し、エルディンは縷々《るる》と語り始めた。

「これはシルバーモニュメントでございます。

 詰まるところ、これは当ギルドが保証いたします信用の証拠とでも申しましょうか。当ギルドと提携する店舗でございましたら、このモニュメントをお見せ頂くだけで、無料でお買い物をしていただくことが可能です。無論、限度はございまが……。その他にも銀行での借り入れや、個人での捜査活動の許可、禁書の閲覧えつらん、等様々な権利を得られます。ちなみにあなた以外の誰かが触れると、魔法石が先のように濁ります。それで店側が真贋しんがんを確かめるのです。

 その他、詳しい内容に関してはお帰りの際に資料をお渡しいたしますのでそちらをご覧になってください」

 つまり便利なチケットになるということなのか。俺としては今日の寝床や食事さえも怪しい状況だったので、相当助かる展開だ。しかし別に俺はギルド側に何かしたわけでもない。むしろ俺はこのギルドを身体測定に使うくらいの気持ちでやって来たのだ。

「でもいいんですか、そんなすごいものを貰ってしまっても」

「ええ。もちろんですとも」

 エルディンは寸分の狂いも無いようなにこやかな笑顔を見せてくる。

 となれば、貰わないのも逆に失礼だろう。俺はそのモニュメントを自分の首にかけた。

「じゃあありがたく」

「はい。今後とも是非当ギルドをご贔屓に」

 そして俺たちは渡された書類と共に、応接室を退室した。

 未だ醒めないチートな興奮と共に。


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