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3.もっと仲良くなりたい!

「先輩って、無駄に行動力ありますよね」

 ぼそりと言ったさっちゃんに、私はえっへんと胸を張った。行動力があると言われるのは嫌いじゃない。行動して、結果を引き寄せる努力をするのって素晴らしいことだと思うもの。

「これ先輩が作ったんですか? すげぇ!」

 目をキラキラさせて褒めてくれたのは、長谷川君だ。

 どうして彼が工作部の部室で、私をはじめとした部員たちが作った作品たちを見ているのか。理由は簡単。私が誘ったからよ!


 はじめて彼のバイト先に行った日から、私は週に一度はバーガーショップに顔を出すようにした。

 シフトなんてわからないから、さっちゃんに情報をもらいつつタイミングを見て通ったわ。さっちゃんだって長谷川君のシフトなんてわからないけど、「今日はすぐに帰ったからバイトじゃないですか?」って教えてもらえるだけでも十分だ。会えないこともあったけど、会えた率のほうが高い。本当にさっちゃんありがとう。

 そんな感じにバーガーショップに顔を出してから、図書室に向かった時に彼とたまたま(図書室に行くのは長谷川君目当てだけど)顔を合わせた時に「あれ、バーガーショップの!」って驚いてみせた。そしたら長谷川君も私の顔をなんとなく覚えてくれていたようで、「ああ、最近よく見るお客さんですね。こんにちは」って笑いかけてくれたのよ。認識されていたってうれしすぎるわ! 万歳してやったーって叫びたいくらいだった。

 後から、その様子を見ていたさっちゃんに「いつもより三割増しのいい笑顔でした」って言われちゃったよ。いい笑顔だったならよかった。

 それから顔を合わせたら話をするようになったし、バーガーショップに行った時も、今までとはまた違う親しみのある笑顔を向けてくれるようになったの。すごいでしょ!


 で、今日は私が工作部だっていうことを言ったら、よければ作品見せてほしいって長谷川君から言ってくれたの。うれしくてもちろん即OKしたわ!

 私は実用品を作ることが多いから、基本的には家に持ち帰ったり普段使いしちゃってるものが多いんだけど、部室に置いているものもいくつかある箱庭と箒とか。普段持っている、革で作った定期入れを見せたら、それも興味を持ってくれた。先輩がレーザークラフトやってる時に、教えてもらって作って正解だったわね。


「伊藤はどれ作ったんだ?」

「それ」

 聞かれたさっちゃんは、そっけなく自分の作品を指さす。

「伊藤もすごいな」

「ただの趣味」

 そうさっちゃんは言うけど、私もすごいと思うよ。さっちゃんは私みたいにいろんなことはしないけど、ひたすら服を作ってる。うちの高校は手芸部や服飾部がない代わりに、工作部がそういうのまとめて引き受けてるからなぁ。

 ちなみにさっちゃんは日常じゃ着れない派手な服作るの好きだから、演劇部の衣装担当もしてる時がある。私をはじめ、工作部には裁縫が得意な子も多いから、人手が必要ならお手伝いをするよ。あれけっこう楽しいから好き。


「長谷川君って部活入ってないんだよね? 興味あるなら工作部入りなよ。うちは毎日部活に出てこなくちゃいけないわけじゃないし、バイトしてても大丈夫だよ。まぁ、一学期にひとつは作品作ってお披露目しなきゃだけど」

 笑顔でさらっと言ったけど、実はけっこう心臓バクバクしてる。さっちゃんならたぶん、私がちょっと早口になったこと気付いてるだろうな。

 長谷部君はけっこう興味を持ってくれて、悩んでいる様子だ。でも、具体的に何をすればいいかイメージがわかなくてためらっているのかもしれない。だからもうひと押し。

「やってみたいことあったら、そういうの作ってる部員に聞いてみたらだいたい教えてくれるよ。何か作ってみたいなって漠然としてるなら、普段使いできそうなもの提案したりできるし。私の場合は手芸に偏るけど、他の部員にも聞いてみたらもっといろいろんな分野があるよ」

 うちは毎年ある程度新入部員がくるけど、半分はやりたいことがあって、もう半分はなんとなくおもしろそうだから入ったけど何作っていいかわからないっていう子だ。そういうのも大歓迎。人に教えたり、普段作ったりしない子ががんばって作ったものって、けっこう斬新でおもしろかったりするから刺激になるし。


 ちなみに部員数は多いけど、よく部室に顔を出すのは十人前後。別に部室で作業する必要がないことも多いし、あくまで一学期にひとつ作ればいいから毎日来る必要はまったくない。兼部も多いし。

 部室に頻繁に顔を出すのは、たんにここの備品を使いたいタイプと、しゃべりながらちまちま作りたい私とかさっちゃんみたいなタイプだ。備品はけっこういろいろあって、材料持ってきて片付けさえしたら勝手に使っていいからありがたい。個人的にはろくろがあるのがうれしかった。


「というかさっちゃん。他に五組の子ってうちの部にいないの? 長谷川君の友達とか」

 部員数は多いんだし、いそうだけどな。

「うちのクラスは私だけです。長谷川が誰の友達か知らないのでわかりません」

 そりゃそうか。クラス内ならともかく、違うクラスの人との交友関係なんて、仲良くなきゃ知るわけないよね。

「二年の男子って、田中君、斉藤君、川西君、山内君、佐竹君、風間君、山野君、藤堂君、榊原君だっけ」

 あんまり部室に顔を出さない子もちゃんと全員覚えてる。ほとんど出てこないにしたって、ふらっと来た時に他の部員に「誰?」って顔されたら嫌だもんね。

「佐竹と山野は知ってます。あいつら工作部にも入ってたんですね」

 ああ、そっか。佐竹君は陸上部で、山野君はパソコン部との兼部だもんね。主に活動しているのはそっちだし、友達でも気づかないかもしれない。


「佐竹君は部室にはほとんど来ないけど、部のメーリングへの食いつきいいよ。部員がそれぞれ見つけたワークショップの情報を流して、興味ある人が申し込んだりしてるんだけど、部活との都合ついたら結構な頻度でどこかのワークショップに参加してる」

 たぶんあれだ。佐竹君は私と同じ、いろんなことやってみたい派なんだと思う。私も興味を持ったらいろんなワークショップに参加してるけど、佐竹君と二、三ヶ月に一度は遭遇している。

「山野君はパソコン部だよね。そっちでプログラミングとか楽しんで、こっちでは電子工作やってるよ。私の先輩も電子工作好きな人がいて、いろいろ道具とかそろえて置いてったから、何かを作り出したら連日顔出してるかな」

 カクカク歩くロボットをこの前作ってたのをよく覚えている。ロボットの動きってかわいいよね。けっこう気に入っちゃって、部室に置かれたそのロボットをたまに動かしては眺めてしまう。もちろん山野君には勝手に触ってもいいって了承とってるよ。


「佐竹君はいろいろやってるから、長谷川君の好みそうなものを聞いてみたら教えてくれそうだし、電子工作に興味あったら山野君に声かけたら教えてくれると思うよ」

 本当は私が教えたりしたいけど! でも、欲張らない。ひとまずは長谷川君が工作部に来てくれるだけでいい。そして、あわよくばバイトのない日は部室に顔を出してくれたらうれしい。佐竹君は陸上部に行ってるし、山野君は製作モードに入らなきゃ来ないんだけどね。

 長谷川君が私や佐竹君みたいに、なんかいろいろやってみたってタイプだったらいいな。そしたら、こんなのできるよーってアピールしてたら「これやりたい」ってけっこうな頻度で出てきてくれるかもしれないし。

「佐竹に俺でもできそうなものがあるか聞いてみます。あいつとは小学校の時から一緒だし」

 へぇ佐竹君と小学校から一緒なのか。小学生の長谷川君ってどんな子だったんだろう。今度さりげなく聞けないかなぁ。

 あと、せっかくだから佐竹君もこっちに出てくれるようになったらいいな。外部のワークショップでなら遭遇するけど、部室で会うことって少ないし。まぁ陸上部だからほとんど毎日練習あるし難しいかもしれないけど、会ったらけっこう話が弾むから、もっと仲良くなれたらいいなぁって思うのよ。

 そういえば、昨日見つけた活版印刷のワークショップって佐竹君も興味持ちそうだな。定員少ないやつだし、部のメーリングには流さないつもりだけど、佐竹君にはメールしておこう。この前教えてくれたテディベア教室がおもしろかったからお返し。というか、長谷川君が部に入ってくれたらメーリング登録するし、アドレスもゲットできるじゃない! ドキドキしちゃう!

「じゃあ、佐竹君にもよろしくね。時間ある時、部室にも顔だしなよって言っといて。長谷川君も気軽に来てね!」

「はい!」

 ああ笑顔がまぶしいよ。長谷川君の笑顔ってホントかわいいよ。好みだよ。しかもそれが私に向けられているのよ。うれしすぎて顔ゆるんじゃう。その笑顔、もっともっと私に見せてほしいな。


「吹奏楽部が練習してますね」

 ふと、長谷川君の視線が窓に向いた。閉じた窓ガラスの向こうから、吹奏楽部がパート練習をはじめた音が響いてくる。

 中庭に面した部室だから、中庭は放課後になると吹奏楽部がパート練習に使うことが多くて、音がけっこう聞こえてくる。私はそれも気に入っていたんだけど、今回はちょっと困った。だって、吹奏楽部には原田さんがいる。しかも中庭でパート練習をするクラリネットだ。

 ああ、長谷川君の意識が外に向いたってよくわかるなぁ。知らなければ、たんに音に反応しただけって見えるかもしれない。でも、私は知っているから。下駄箱での長谷川君を見ていたから。

 やっぱり、原田さんのことが好きなんだね。少なくとも、二人があれを機に付き合うようになったっていう風には見えないし、原田さんが彼氏と別れたっていう話も聞かない。振られたのか、ラブレターには名前を書かずにいたとかで返事をもらわない一方的な方法をとったのかはわからないけど、今もまだ片思い。


 ――長谷川君がふわりと笑った。


 ぎゅっと私の胸が痛む。どうしてそんな笑顔を浮かべることができるの? 穏やかで甘くて切なくて、悲しくなる。その笑顔を、まなざしを、こっちに向けてよって思ってしまう。

 わかってる。わかってるよ。私はまだ、長谷川君自身への恋よりも、長谷川君が抱く恋自体に恋している。それを向けてほしいと思っている。恋に恋している。長谷川君の恋に恋してる。

 かわいかったの。切なかったの。うらやましかったの。憧れたの。私だってそれがほしい。それをちょうだい、私にちょうだい。


 でもね、長谷川君に一目惚れをしてから、きらきらした楽しい世界が私の前に広がるのは、長谷川君の恋に恋をしたからだけじゃない。毎日毎日、長谷川君のことを知っては彼自身のことだって好きになっていっているからだと思うの。

 きっとそのうち、長谷川君自身への恋のほうが大きくなる。だから今は、彼の恋に恋して楽しみたい。それだって、恋のひとつの形だと思うんだ。

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