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■第9話 ジンマシン


 

 

その日、ケイタは学校に来なかった。

 

 

担任が言うには ”体調不良 ”という事だったがどうしても気になり、放課

後ケイタの自宅であるひまわり保育園へ自然と足が向いていたマリ。


無我夢中で自転車のペダルを漕ぎ保育園のグラウンド前まで来たところで、

そこから先の事は無計画だった事に気が付いた。

 

 

 

  (来てはみたものの・・・ どうしよう・・・。)

 

 

 

グラウンドを囲むフェンス脇に自転車を立て掛け、一人ぽつんと立ち尽くす。


フェンスに指を掛け網目越しに見つめると、そこには親のお迎えを待つ園児

たちの楽しそうに弾む笑い声が遠く響いている。

 

 

すると、

 

 

 

 『兄ちゃんの学校の人ですかぁ~?』

 

 

 

突然背後から声を掛けられた気配に驚いて振り返ったマリ。


そこには、ランドセルを背負った男の子がニコニコと朗らかに笑っている。

背格好からして、5年生か6年生だろうか。

 

 

すると、

 

 

 

 『兄ちゃんなら、ジンマシン出て家にいますよ~。』

 

 

 

マリの返答も待たずに、続けるその小学生。


モゴモゴと口ごもり返事に困っているマリへ 『僕、弟のコースケです。』 

そう言って、思いっきり笑顔を向けたケイタの弟。

 

 

以前、大学ノートに ”弟が一人 ”と記載があったのを思い出す。

てっきりケイタに似た男の子を想像していたのだが、直観で根本的にタイプ

が違うように感じた。


ケイタはクールでキリっとしたタイプだが、弟コースケは人懐こく親しみ易

い根っからの ”善人顔 ”をしている。

 

 

でも、マリは思った。

 

 

 

  (ナナミ君が図書室で思いっきり笑う顔と、


   やっぱり、ちょっと似てるかも・・・。)

 

 

 

思わず、口元を手の甲で隠しクスっと微笑んだ。


ケイタが肩の力を抜いて大笑いする顔をなんだか無性に見たくなって、そう

思った自分に自分で照れまくり、恥ずかしそうに一人眉根をひそめる。

 

 

 

 『ジンマシンって・・・ ナナミ君、アレルギーかなんか?』

 

 

 

マリが訊ねると、『えーぇと・・・ あの・・・。』 慌てて目を逸らして

言い淀んだコースケ。

 

 

『ん~?』 その何かを隠しているような様子に、少し屈んで顔を覗き込み

コースケの二の句を待つと、

 

 

 

 『・・・チョコ・・・ 食べたみたいで・・・。』

 

 

 

言っていいものかどうか悩みながら、小声で呟いたコースケ。


それはまるで小さな体全部で考えて考えて ”言っていいこと ”と ”言わな

くていいこと ”を必死に選別したような、随分遠慮がちな声色でこぼれた。

 

 

 

 『チョコ?!


  ナナミ君、チョコ食べるとジンマシン出るの?!

 

 

  まぁ・・・ でも、あんな数の食べたら、そりゃ・・・。』

 

 

 

紙袋に詰まった大量のチョコレートを思い返し、顔をしかめながらそう言っ

たマリの言葉を、コースケが首を横に振り遮る。

 

 

 

 『いや、あの・・・

 

 

  兄ちゃん、元々チョコ駄目なんです。


  もうずっと食べてなかったんですけど・・・

 

 

  ・・・なんか、今年は食べたみたいで・・・。』

 

 

 

そう言うと、”しまった! ”という顔をしてコースケは眉尻を下げて慌て

ふためく。

 

 

 

 『ももももしかして、兄ちゃんにチョコくれた人ですか?

 

  僕・・・ 余計なこと言ってたらスミマセン・・・。』

 

 

 

そのコースケのうろたえぶりに、小学生なのになんて気遣いが出来る子なん

だろうとマリはある意味感心していた。


まだ少ししか話していないけれど、コースケの純粋さや真っ直ぐな感じは言

葉の端々に溢れ出ている。弟が天真爛漫な分まで、ケイタは必要以上に肩に

力を入れ、本人も気付かぬうちにしっかり者を演じているのかな、なんて心

の中で少しだけ切なく思う。

 

 

『私、ナナミ君にあげてないよ。』 咄嗟にマリは嘘をついた。

 

 

恥ずかしかったの半分、もっとコースケからケイタの事を聞きたい気持ち半

分からの嘘だった。

 

 

 

 『ナナミ君、モテるから毎年チョコ大変だね?』 

 

 

 

コースケへ話を振りこっそり表情を覗き見ると、


『それで食べれなくなったんです。』 ちょっと安心した顔で、屈託なく笑

ったコースケ。

 

 

 

 『だから、毎年


  紙袋いっぱいに貰って帰るチョコは、僕とお母さんで食べるんです。

 

 

  ・・・ぁ、これ内緒にしてて下さいね?


  兄ちゃんにチョコあげた人は、イヤでしょ。』

 

 

 

この気遣いに改めて感心するマリ。

 

 

『でも、今年は食べたの?  あのチョコ・・・全部??』 マリは首を傾げ

何故今年だけ無理をしたのか訊ねると、

 

 

 

 『ううん。


  いつも通り、紙袋は僕が貰ったんで・・・

 

 

  なんか別のやつだけ、自分で持ってたみたいです・・・。』

 

 

 

その一言に、マリは目を見張って固まる。

 

 

そして、あの日の映像を必死に呼び起こす。


あの日、薄暗い校舎脇の道でケイタが自転車を倒し、紙袋から散乱した大量

のチョコを乱雑にそこに詰め込んでいた姿が浮かぶ。

 

 

 

   確か、マリが渡したチョコは・・・

 

 

 

違うかもしれない。

マリの、ただの記憶違いかもしれない。


勘違いかもしれないのだけれど・・・

 

 

急速に鼓動が早打ちをする。

耳元で打ち付けるような自分の心臓の爆音がやけに鮮明で、まるで他人のそ

れを聴かされているよう。

 

 

どうしても、確かめたい。 

確かめずにはいられない。

 

 

 

するとマリは、その場にしゃがみ込み手提げカバンから大学ノートを取り出

すと膝の上にページを広げ、シャープペンシルの頭を乱暴に2回ノックして

おもむろにそこにペンを走らせる。

 

 

急いで殴り書きするとコースケにノートを半ば強引に押し付け、ケイタに今

すぐ渡してもらえるよう頼んだ。

 

 

すると、笑顔でアッサリ引き受けたコースケ。


『ちょっと待ってて下さいね~!』と、駆け足でグラウンド奥の自宅へ消え

て行った。

 

 

 

  (勘違いだったら・・・ バカみたい・・・。)

 

 

 

膝を抱えてしゃがみ込んだまま頭をうな垂れ、ノートの言伝を頼んだ事に今

更ながら激しく後悔しはじめていた・・・

 

 



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