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第7話「アリルは聞いた」

さて、邪魔な奴はしばらく帰ってこないだろう。

今のうちにあの薬の出所を突き止めるとしよう。

あれだけの量をたった3人で回してるとは思えない。おそらくあの3人以外にもいるはずだ。そうであれば奴らが絡んでいる可能性は高い。今度こそ尻尾を掴んでやる。


顎に指を添え、段取りを考えながら元いた広場へと戻ってきた。

リュカは片付けを始めていたが、こちらに気付くと笑顔で手を振ってきた。


「リュカ、早々に片付けてこれから急遽別の仕事を手伝ってもらう」


「了解ですのん!」


ビシッと直立し気合の入った敬礼だった。

屈託の笑顔に敬礼が合わさり何時もに増して幼さが際立っている。


際立ちすぎている......


咳払いを一つ


「先ずはこいつの出所を調べてくれ、くれぐれも慎重にな」


そう伝え、先程アリルの奴に薬を渡す直前にこっそりくすねてきた袋を一つ手渡した。

リュカは一礼すると直ぐに走り出した。


さて、あの少年の様子を見に行くか。

あの後憲兵にアリルを任せ、少年を逃した訳だが、その直後に情報屋から西側の貧困集落に住んでいると情報を得た。

このまま泳がせておけば奴等が現れる可能性は高い。


準備を整え、街の西側へと向かう。


***


街の西側へ着くと一線を引いたように別の村が存在していた。

窪地がありその狭い土地にひしめくように家が並んでいる。

廃材や布を使って作られた簡易な建物ばかりで、家というより部屋といった方がしっくりくる。部屋を繋ぎ合わせ材料を節約し、強度と暖かさを保っているのだろう。

俺はその村に入り、狭い通路を迷路のように進んで行く。一定の速さを保ったまま、一部屋ずつ中を確認していった。

こうして部屋を覗こうとも、特に住民は気にした様子もなく自分の作業を黙々と続けている。

村の中央付近に来たところで少年を発見した。

バレないよう壁に張り付き様子を伺う。

少年は水を溜めた器に手を入れ布を軽く絞ると、横で寝ていた女性の額へと運ぶ。

会話などはなかった。時折聞こえる女性の咳き込む音だけが部屋に響いている。


女性はやがて目が覚めたのか、激しい咳をしながら上半身を起こした。


「エル、帰ってたのね。どうしたの? その傷……」


「うん、僕は大丈夫だから無理しないで寝ててよお母さん」


不衛生な生活のせいだろうか、母親らしき女性は病気のようだ。


「ごめんお母さん、今日お薬を買って来れなかったよ」


「良いのよ、そんな高価なもの無理をして買う必要はないわ。エルが働いた稼ぎは自分の為に使いなさい」


「でも、今日失敗しちゃったからもう次はないかもしれない……」


「そうなのね、失敗は誰でもするわ。依頼主には私から手紙を出しておくから。気にしてはダメよ」


「ありがとうお母さん。次は成功させて見せるから!」


母親は笑顔で答えた。

その笑顔はどこか寂しそうに感じる。


「僕は水を変えて来るね」


そう言って少年は部屋の外に飛び出して行った。

俺は物陰でやり過ごし再び部屋を覗く


咳き込みながら立ち上がり簡素な机の前に座り、何かを書き出した。

腰の鞄からマネクールの瓶を出し、親指で蓋を弾いて中身を喉に流し込んだ。

清涼感が喉を刺激する。

すぐ効果を発揮し、集中すると自分の腕が女性の動きと同じ動作を始める。


紙とペンは無いので動きで文字を読み取る。


その内容を理解し俺は急いで街へと戻る。

(早くリュカと合流し次の手を... )


だが道中で思わぬ邪魔が入ってしまった。


***


「ぶっ殺すぶっ殺すぶっ殺す......」


あいつ次にあったら絶対に


「本当にぶっころぉ!!」


ブツブツと恨みを晴らしているとつい大声で叫んでしまった。


「うるさいぞ罪人、大人しくしていろ!」


私は舌打ちしつつ簡易ベッドに横になった。

利用されてこんな所に閉じ込められ言い逃れのできぬ状況でお先真っ暗だ。このままでは死罪になってしまう。

それでもこうして取り乱さず居られるのはなんだかんだでシギルが助けに来るのではないかと期待しているからだろうか。

あいつの事だ、助けて欲しければギルを出せと言って来るに違いない。そこまで考えている......そうあいつは!


怒りが再沸騰し、壁をガスガスと殴る。


「うるせぇ!!」


憲兵がキレた......


落ち着きを取り戻し、天井の染みを眺めながら状況打破の策を練っていると、看守の交代時間らしくもう一人がやってきて話し声が響いてきた。


「なあ聞いたか、桃源郷の件」


「ああ、最近流行ってる薬だろう。今日も一人所持者を捕まえて投獄中だぜ」


「そいつはガキか?」


「いや、顔はそれっぽいが子供じゃないな」


もしババアという言葉を発していたらあいつの命は無かっただろう。やれやれ命拾いしたわね。


「そうなのか。実はな薬の売買ルートに子供が使われてるらしい事が分かった」


「物乞いどもか?」


「そうだ、街の外れに集落があるだろう? あそこが密輸の起点になっているらしいぜ」


「子供を騙して利用しているのか、腹立たしいな」


「近時間調査団が派遣され徹底的に調査を進める予定らしい」


あの少年もその集落にいるのだろうか。

あの場は私に矛先が向いたので無事だったが、次に少年が薬を所持していたら大変だ。

もちろん許される行為では無いがだからこそ足を洗ってもらいたい。


「んで、お前は調査団に志願するか?」


「そうだな。特別補助金が出るだろうし」


「子供二人目が生まれてギルが必要なのは分かるが、あんまり汚い仕事して奥さんを不快にさせないほうがいいぜ」


足と腕を組みながらどうしたものかと考えていると、看守の会話に気になる点があった。


「あ、あのう...」


私は看守に声をかける。

二人の看守がこちらにやって来てニヤリと応える。

先程まで看守を務めていたのは短髪細目の男だ。その隣に交代でやってきた長髪の男が立っている。


短髪細目の男が答える


「ん、なんだ今更命乞いしても助からんぞ」


「お子さん二人目が産まれるのは本当ですか? そこのあなたはなんで二人目だと思ってないんですかね?」


「「は?」」


二人で素っ頓狂な声を上げる。


「いえいえ、ちょっと二人目って発言が嘘だと思っただけです。お気になさらず……」


興味はないので適当に流して、再びここから出る方法を考えよう。

二人は私が離脱した後も会話を続ける。


「な、何言ってやがる意味がわからねぇよ。」


長髪は落ち着かない様子で言った。

短髪細目は記憶を思い出しているのかしばらく遠くを見てから表情を徐々に険しくさせ、「まてよ」と呟く。


「妻と夜を共にしたのは遠征前だがその後はしばらく体を壊していたんだ。そう考えると微妙に期間が合わないんだよな......」


「多少の期間ずれることくらいあるだろう」


嘘をつく発言に状況を察した私はふと思いつく。これ、うまく使えばここから出られるかも。


「あのぉ...もし良ければ本当にあなたのお子さんか調べてくれそうな人を知ってるんですが...…」


「いやいや、罪人が何を言っている。戯言だろう。それに誰の子かなどどうやって知り得るものか!」


「多分お金さえ払えば調べてもらえますよ」


今度はあいつをこっちが利用してやる。


私の発言に対し、細目の男は顎をさすりながら考えだした。


「子供が出来た時は嬉しさのあまり妻と二人で喜んでいたが、後に違和感はあったんだ。ただ覚えていないだけだと思っていたのと、妻に聞くわけにもいかず気のせいと思っていたが......今になって不安になってきた」


「何を言ってるんだ、酒でも飲んでて忘れてただけだろう? あの子はお前の子に決まっている」


「あら、どうしたのかしら? 妙にこの話題に対して否定的ね。調べて見たらどうだ?くらい言えないのかしら?」


「そりゃあギルかけてまでやる事かよって思ってるだけだ。」


「逆にギルではっきりするなら良いじゃない」


「それとも何かしら、調べられたら困ることでもあるの?」


「あるわけでないだろう!調べられるならやってみろ。ただしもし間違っていた場合は即死罪としてやるからな!」


「じゃあ私が合っていたら無罪冤罪で釈放してもらおうかしら」


「いいだろう!」


「おい!そんなこと勝手に決めていいのかよ」


「かまわねぇさ。んなこと調べようもないしあの子は間違いなくお前の子だ」


「交渉成立ね。じゃあ私の指定する人物を呼んで来てもらえるかしら。準備が必要だからあなたが行った方が早いわ。それと紙とペンを用意して」


短髪細目の男を指差し、目で急かした。


***


しばらくしてーー


鉄格子の前でシギルがゴミを見るような目で私を見下していた。


「さあ連れて来たぞ」と憲兵が興奮を抑えられず叫ぶ。


「シギル、指定の道具は勿論持っているのよね?」


「俺を誰だと思ってる」


手に持っていた手紙を私に向かって投げて来た。これは私の書いた手紙だ。ちゃんと読んで持ってきたという返答である。

相当忙しかったのか、憲兵を仕向けた原因が私と知ってもう目がヤバイ......

憲兵に呼ばれて同行しない場合は執行妨害として罰せられる可能性がある。逆にこれを利用した憲兵による悪事も発生はしているが、今は置いておこう。


私は聞いたことがあった。時折街で発生する不倫騒動向けに作られた道具のことを。だからシギルなら持っていると思った。むしろこういった商品を持っていそうな陰湿さを感じる。


これでシギルへの嫌がらせをしつつここから脱出することができる! 私天才


「商品代金は彼が払うから、早速確認をお願いするわ」


私は短髪細目の男を指差してシギルへ念を押す。商品代を請求されてたまるものか!


シギルは深いため息をついて商品の説明を始める。


「これは結紙(ゆいかみ)と言われるものだ。使い方は簡単で奥さんの髪の毛一本と夫の髪の毛一本をそれぞれ子供を模した紙人形に結びつける。その紙人形に火をつけ、炎の色が赤なら身籠っている子供は夫婦の子。炎の色が青の場合は別の男の子となる。原理は知らん。」


事前に必要な準備は済ませてある。まるで公開調理時の「これがその結果です」を思い起こさせる。

シギルは早速紙に火をつけた。


「お、おいお前はそんな怪しいものを信じるのか?」


「俺はどんなものだとしても安心したいだけさ。それに炎が青くなるなどモンスターでもないのにありえないだろう」


人形に火が灯る。




その炎は赤かった......




「あひゃひゃひゃひゃほら見ろお前の子じゃねぇか」


「この道具は信じてもいいんですか?」


「ああ、今まで外れたとは聞いたことがないな」


「そうですか…...」


憲兵はうなだれて肩を震わせていた。


「どうしたよ、安心して泣いちまったのか。奥さんを疑ったみたいで辛いのかもしれんが気にするな」


長髪の男は先ほどの挙動不審は消え去り意気揚々としていた。


「貴様...!!」


我慢の限界といった所だろう。短髪細目の憲兵は長髪に向かって殴りかかった。


「ちょっとお前何するんだ!」


「貴様だったなんてくそっ!くそっ!」


長髪の顔面に二発の鉄拳がめり込む。


実のところ、つけた髪の毛は長髪の憲兵のものだ。

事前に嘘に気づいた私は、依頼の手紙へ事情と作戦を書いておいた。


長髪の男の髪の毛で調べるようにと。短髪細目にはうまく説明しろと。


二人がやりあっているのを尻目に、シギルはやれやれとため息をついて牢獄の鍵を放ってきた。


それいつ奪ったの!?


表情には出さずに平然と牢の鍵を開ける。


「さてシギル。私をこんな所に閉じ込めてくれたお礼をたっぷりとしてもらおうかしら?」


バキボキとはならないものの、指を鳴らす仕草だけはキッチリとシギルに攻め寄る。

うまく鳴らなくて指が痛い。


「まあその件は後でじっくり話そう。まずは今回の支払いを先に済ませておこう」


相変わらず面倒なやつだ。


「ちょっと憲兵さん、そいつもう気絶してるから先に料金を支払って頂戴」


シギルは盛大なため息を吐き出し腕を組みながら私を見据える。


「アイテム料金は先払いでもらっているからそっちではない」


「じゃあ支払いは済んでるんじゃない。この期に及んで私をバカにしてるの?」


「アイテム料金は憲兵からもらっているが、このたびの依頼料はお前が払うのだろう?

手紙で依頼をしてきたのはお前だ。

依頼料は高いぞ。何せ状況に応じた対応も必要になる上に商売を止めてわざわざ出向く必要まであったのだから売り上げ予想分は出してもらわんとな。」


い、依頼料だと!?


「で、一応聞くけどいくらなわけ?」


「500ギルだ」


「ざっけんな、このペテン野郎が!!」







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