英雄ができるまで。
杏翔です。
今回が初投稿作品になります。
稚拙な物となっている気がしますが、どうぞ見てやってください。
——英雄。
それは、この世で最も人に忌み嫌われる職業である。
というのも、それはこの世に目立った悪というものが、無いからこそ起きることなのだろう。
それに加えて、英雄達はそれぞれ独自の『正義』の価値観を持っているので、英雄と一口に言っても、悪党と言うべき人間も生まれてしまう。
——それに、英雄気取りの人間が小悪党に返り討ちに遭う、なんてことは日常茶飯事だ。
故に、正義を掲げる者が増えたとて、死亡する人間の数は、減っていない。むしろ増えたくらいだ。
よって、世界は英雄のおかげで平和になった、なんて一昔前のアメコミのように明るく言える訳が無い。
むしろ荒れた。
とりあえず、英雄が一般人に忌み嫌われる職業だということは、分かって貰えただろうか。
いや、誰も納得できないだろうと思う。
——なぜかって、そんな風に言っている俺は今、英雄業を行っているんだから。
1章 英雄は遅れてやってくる?
俺は英雄が嫌いだ。
どうしようもなく、嫌いだ。
彼らは、人を救い賞賛される。
だが、その過程で絶対に犠牲がでてしまう——。
それは仕方の無いことなのかもしれない。いや、そうなのだろう。
その犠牲のことなど、気にかけてすらいない。
奴らの大半は金目当てだから、だ。
そんな奴等のせいで。
あの娘が。
「————くん? ……季くん? 鈴宮明季くーん?」
はっと我に返る。俺はまたあの時のことを……。
「一体どういうつもり? さっきからずっと話しかけているのにシカトだなんて……わざとじゃないよね?」
——っと、出たな学級委員長を小学校5年生の時から途切れることなく続け、当然のように成績優秀、性格はクールだが、見た目も美人と評判が良く、スタイルも申し分ない、そんな非の打ち所のない完璧人間、灰木 霞!!
「長たらしい脳内人物紹介は終わったの?」
そんな彼女が不服そうな目でこちらを見る。
ちなみに幼馴染みポジションでもあるのだ。
「なぜ分かった」
「なにせ頭の先からつま先まで舐めるように凝視されたもんだからね」
「それは仕方ないだろ、説明しなきゃ始まらないんだし」
「そもそも説明する意味がわからないんだけれど……」
「必要な過程なんだ」
「はあ、そうなのね」
納得はいかなそうだが、これ以上疑問を呈されることは無さそうだった。
——にしても。
「……なぁ」
「ん、何?」
じっと目を合わせてくる霞。
「もう少し……離れて歩いてくれないか」
「ん?」
聞こえないふりをしている。わざとらしいなおい。
「とにかくもう少し離れてくれ。歩きにくいったらありゃしねぇ」
それに周りの視線もだ。
こいつは人気者なんだから、尚のこと。
いつも言っているのに何故こうも懲りないのだろうか。
普段は鉄面皮のくせして、そういうところは無防備というか、なんというか。
「だいたいお前はな——」
刹那、火山が噴火したかのような火柱と、大気を揺らすかの如く巨大な轟音が響き渡った。
「っ!?」
見ているだけで眼球が熱く、ちりちりと痛い。
爆発が起こった。
この比較的平和な市街で。
『あの時』のような爆発事件が——。
「……」
「ねえ! 何やってるの!? 逃げよう!」
珍しく表情を変え、腕をつかむ霞をよそに、考える。
犯人を捕まえることが出来れば、あるいは。
あの時の事件との関連性を聞き出すことが出来るかも知れない。
「……ごめん、霞。」
「……え?」
「俺、ちょっと用事出来たから。」
「ま、待って!」
行かないわけにはいかない。
どうしてもだ。
先程の爆風で舞い散る砂埃に目を細めながら、がれきの中を進む。
「……」
わずかに火薬の匂いがする。
爆弾の爆発した位置が近いのだろうか。
「……!」
砂埃の中に人影のようなものが見える……?
(誰かいるのか……?)
「お、おーい! そこに誰か居るのか?」
返事はないが……いた。割と軽装の……若い男。
————返事はないが、こちらにふらふらと近づいてくる。
「だ、大丈夫ですか——」
男が急に後ろに下がった?
いや違う。
俺の身体が後方に吹き飛んだんだ。
視界が揺らぐ。
やっと思考が追いついたと思えば、壁に激突した。背中に鈍い痛みが走る。
「ぐはッ!」
そのまま気絶していたいくらい痛いが、うかうかしてられない。
たった今、男は警戒対象になったのだ。
「……♪」
一方男は上機嫌である。実に不愉快だが。
「ヒィャハハハ!! また一つ平和ボケした町に刺激を与えてやったぜ!」
「……何ッなんだよ……っ」
「へぇ? あれをもろに喰らってオチないなんてねぇ……ヒーローさんかよ?」
「……っ……違うわ」
それに今の、本当に気絶するほど大した一撃でもなかったと思うのだが。
「こんなこと……っ何が目的だ」
「んー、あんま深ぇとこまでは言えねえが……まぁ強いて言うならこの呆れかえっちまうほど退屈な世界に『刺激』を与えて——」
ん?
また視界から消えた?
男にまた吹っ飛ばされたかと思ったが、今度は逆だった。「ぐはぉっ!?」
遅れて遠くで男の声がした。
いや待て。
今度はなんだ。
と思った矢先、
ふわり、と。
小さな女の子が降りてきた。
小学生くらい……だよな?
「よっ……とと」
とん、と軽い音を立てて着地した少女。
その少女の手には、大槌。
俺から見ても大仰なそれは、その小さな手にはあまりにも不釣り合いに、そして無骨に見えた。
少女はきょろきょろと辺りを見渡すと、こちらにずんずんと歩いてきた。
「一般市民…だよね?」
俺に話しかけてるんだよね、これ?
「そ、そうだ…、です」
言い直したのは、幾ら年下だからといっていきなり上からというのは失礼だと思ったから、である。
「ふーん……にしては随分な立ち回りだったよ?」
「お褒めに預かりまして誠に光栄の限りです」
「なにその喋り方」
「お気になさらず」
食い気味で言ってみた。
「……まあいーや。とりあえず、出口はどっちー?」
顔をしかめてはいたが、それほど苛ついてはないみたいだ。
「えっと……瓦礫を避けていくルートだったら、こっちの道を——」
どむっ、と脇腹の辺りに鈍い痛みが走る。
「うっ…ぉえ」
薄れる意識のなか後方を振り向くと……なんとまあ、俺が一般人だのなんだのと先程まで話していた少女が武器の柄(?)で僕の脇腹を突いていたのだった。
——なんだこれ。
ふざけんな。
そこで景色は吐き気を覚えるほどに回転し、暗転した。
「————っはぁ!!!」
一体全体なんだ……この疲労感と吐き気は……
「おぉー! やっと起きたねぇっ!!!」
とたとたと駆け寄ってくる見慣れない女の子……みたところ10歳ぐらいだろうか。
でもどこかで見たことある……
あぁそうだ思い出したあの爆発したビルの瓦礫でってうわぁぁぁぁあ!!!!!!!!
こいつに気絶させられてたよ俺!!
なんか色々変な男とかにやられたのもあるとしてもこいつの一撃がネックだった。
完全なる決め手だった。
「人のことをお化けを見たみたいな目で見ないでよー……もぐもぐ」
動物をかたどった形状の可愛らしいビスケットをぱくつきながら、少女は言う。
「……俺をここに連れてきて何を一体したいんだ。そしてここはどこだ」
「んー? ここはね、僕のアジトだよー」
「あ、アジト……?」
「うん! ここでお仕事を受けたり、事件のニュースとか観て出動するの!」
「出動……? お仕事……?」
まあ……なんとなくこの少女が何をしている子なのかは分かりつつあるんだが…
「そう!僕はねー……!」
腰についていたポシェットから布を取り出すと襷のように肩からかけた。
その布には、『碧龍ふぁふにー』と威勢よく書かれていた。
「僕は、ヒーローやってるんだよ! 日向水鳥っていうんだ! よろしくね!」
「……へぇ」
よろしくねって。ヒーローって……職業的に言うと英雄なんだろうな。
俺が嫌ってる、英雄という職業だ。
「でねでね、お兄さん!」
ぐっと顔を近づけてくる少女。
うおぉ近い。
いや待て、この子は俺のことを気絶に追い込んだんだぞ。
「僕と一緒にヒーローやってよ!」
うっわー。
うわー。
予想だにしてなかったお誘い。
「ちょちょ、ちょっと待って……あ、そうだ、さっきの爆薬男は?」
「あの男の人は逃げちゃった」
なぜかはにかむ少女。
「そうかそうか……残念だな……じゃなくて! なんで俺のこと気絶させたんだよ」
やっと聞けた。
「んー、なんでかって言うとー」
「お兄さん、ほっといたらまだあの男の人を追いかけるだろなー、と思って……ヒーローが優先しなきゃなのは人を助けることだからねー……はぐはぐ」
今度はスナック菓子の袋を新しく開け、頬張りながら言う。
……そうか。まあそうだよな。
結局助けられたってことか。
「いいぞ。俺もやってみたくなった。お前の言うヒーローってやつ」
「ほんとに? やったーっ!!」
ぴょんぴょん嬉しそうに飛び跳ねるふぁふにー。
……これから俺の活躍?そんなもの無いかもな。英雄譚を語るなんて、柄じゃないし。
というわけで、明季くんが英雄になることを軽く決めてしまったところで一話終了となります。
ふぁふにーはボクっ娘ロリキャラ…個人的には気に入ってます。
キャラの見た目とかはまた後ほどちまちまと…。
かなり1話に長い時間をかけた気がする(というかかけた)のですが…小説って大変ですね。
そんなわけであとがきでした。『英雄譚を語るなんて柄じゃない。』読んでいただきありがとうございました。