第一章第四節
喧々諤々ーーというほどでもないの議論の末、今日は拠点にしている宿の定食にしようと落ち着いたところでーー
「ディー」
「……うん」
『門』の前に先ほどの二人の姿を見つけ、ディーターとエレンは繋いでいた手を離した。
こちらに気づいて軽く手を上げた若い男の額には包帯が巻かれており、無事ここまで逃げてきたあと応急手当をしたようだった。
男が担いでいる自身の身長ほどの長さと、体の横幅ほどの長大さを持った鉄板のようなものは、どうやら巨大な剣とか鉈に類するもののようだった。柄から垂れ下がった玉虫色の紐にはきらきらと輝く鉱石らしきものが複数連ねられていた。
真紅の炎の装飾が施された大型の弩を背負った女の方もそうだが、これほどの重装備でよくアラクネーから逃げきれたものだと、ディーターは感心する。
「やあやあ、先程は助かったでござるよ!」
「……感謝、する」
「人助けこそ、騎士の本懐。ともかく、大事なかったようで重畳だ」
微妙に前に出たエレンの体で自分の視線を隠すようにして二人の姿を見つめ、ディーターはそれぞれの役職に見当をつける。
男の方はその独特の方言と黒い着物という出で立ちから察するに『ニノ太刀不要』をその旨とする侍だろう。となれば担いでいるのは『豪刀』と呼ばれる侍特有の特大武器か。
一刀を放った後は自分か敵かが死んでいるという『一撃必死』の役職だ。
前髪が鼻の半ばまである、ディーターよりも背の高い女の方は弓兵で間違いないが、背負っている巨大な弩が特殊だった。
魔石使いの関係でディーターは見たことがある。搭載した二つの魔法石の魔力を極太の鉄杭に注いで発射する、取り回しと燃費は度外視して破壊力重視という極端な設計思想で作り上げられた、対大型魔物用の機械弓『ラインラント』だ。今、魔法石の充填魔力は空のようだが、正直、一介の探索者が扱うような武器ではない。『対大型魔物用』と銘打たれているものの、実際は国同士の戦争に用いられる類の、高い殲滅力を持った武器である。
女の長い前髪の隙間からのぞいた瞳がディーターを捉え、静かに細められた。ディーターは慌てて視線を逸らす。
気づかれた。こっそり観察していたことだけでなく、多分、自分がラインラントを知っているということも。
だからどうということもないだろうが、どこか、女のこちらを見る目の質が変わったような気がして気持ち悪い感じだった。
「ところで……ううむ、その、他のお仲間はどちらに逃げおおせたのだろうか?」
言いにくそうにエレンは男と女を交互に見やる。おそらくはエレンも二人の役職を察したのだろう。
いくら放棄街区とはいえ、どちらも一撃必倒などという超偏重な少数編成で迷宮に潜ってくるはずがない。少なくとも盾役と露払い役をこなせる戦闘職の仲間がいたはずだ。だが、この場にいないということは……
エレンの言葉に男と女は一瞬顔を見合わせ、同時に柔らかく微笑んだ。
「ご心配には及ばぬよ。拙者たちは二人で組んでおるのだ」
「……そう、だから心配無用……」
二人の言葉に、今度はディーターとエレンが顔を見合わせた。
「む? いや、しかし……お二人が熟練の探索者であるのは所作を見ればわかるが……」
「そうそう、ゴブリン相手に豪刀振るったりラインラント撃ってたんじゃ……」
言いかけて思わず口をつぐんだディーターに、男と女の視線が一斉に向いた。知らずディーターが一歩後ずさるほどの勢いだった。
怪訝に思ったエレンが口を開こうとしたところで、男が手を掲げてそれを制した。
「色々と説明いたす前に……まだ、自己紹介もしておらんでござったな。拙者、侍のカイと申す。先刻は危ういところを救っていただき、かたじけのうござった」
カイは眼前の地面の上に、豪刀の柄をきき手とは逆の方に向けて横たえて敵意がないことを示してから、着物の裾を正して深く頭を下げた。
「弓兵のラウラ……危ないところを、ありがとう……」
ラウラも機械弓を地面に置き、膝の上で両手を揃えてカイに倣う。
「私は、騎士のエレオノーラ。無事で何よりだった」
腰に長剣を携え、堂々たる態度でエレンは頷いた。
「あと、だな……こっちは弟のディーターだ」
そして、一瞬口ごもってから、探索者同士の名乗りの際の常識である役職を省いてディーターを紹介する。
「ディーターです。どうもよろしく」
ぺこりと頭を下げたディーターを一瞥し、カイとラウラは目配せを交わしたようだったが深く突っ込んではこなかった。
「さて、ラウラは口下手でござるから、拙者の方から話をさせていただこう。拙者たちは元々は八人組でござった。しかし、迷宮の探索をすすめるうちに、理由は一様ではないが一人減り、二人減り、今は拙者とラウラだけになってしまったのでござる」
迷宮の深部で探索者たちが必ず遭遇する問題がある。
それが、仲間の減少だ。
戦いの中で命を落とした。それぞれの事情から引退を決めた。
そうなった場合、当然新しく仲間を探すことになるのだが、これがうまく行かないことが多い。
相性の問題もあるし、実力の乖離の問題もある。
「新しく仲間を募ることも試しはしたのでござるが、新人が多くて成果は中々捗々しくなく……そういう事情で、普段はエデルガルド殿の『隊』に所属して虚数教会を探索しているのでござる」
カイの言葉にディーターとエレンは納得して頷いた。
手っ取り早く近い実力を持った仲間を増やすために、同じように戦友を失った探索者たちが寄り集まって探索隊を結成し、普段は昔からの仲間と行動、迷宮攻略や難敵の討伐の際に必要に応じて集まる。
情ではなく実利重視の集団なので、多少の性格の不一致にも目をつむることができる。無論、馬が合って正式な仲間になる場合もある。
迷宮深部の探索者たちはほとんどがどこかの隊に、場合によっては複数の隊に所属している。
歴史上、迷宮の『主』を倒し『王』となった者達の多くは隊の長だった。この場合、所属員たちは新たに出来た国の重鎮となることが多い。
「む。エデルガルドというと……『疾風怒濤』のエデルガルド殿か」
「さようにござる」
疾風怒濤(役職名)のエデルガルドの名前はディーターも知っていた。
クラウゼンに存在する迷宮の一つである虚数教会を中心に活動する探索者で、最大火力を一気に叩き込んで相手を短時間で殲滅する作戦を得意としているらしい。
カイやラウラのような超火力の武器を携えた探索者たちが揃い踏みしている光景を想像して、ディーターは思わず苦笑した。
壮観だろうな、きっと。ちょっと怖いけど。
ちらりとカイがディーターを見、前髪の向こうからラウラの視線も感じたディーターは誤魔化すように口を開いた。
「いつもはさ、虚数教会で探索してるんでしょ? なんで、放棄街区にいるの?」
ディーターの言葉に、カイがぱんと手を打った。我が意を得たりとでも言うように何度も頷いて、勢い良くまくし立てる。
「そこでござる! さて、話はちょっと変わるでござるが、ディーター殿はどうやら、ラウラの武器のことを知っておるようでござるな?」
「あ、うん……」
カイの勢いに飲まれて、思わずディーターは頷いてしまう。
「……やっぱり……」
「ふむ? その機械弓は何か特殊な武器なのか?」
一人だけ事情が飲み込めていないエレンに、ディーターはラウラが装備している機械弓が対大型魔物用の武器でラインラントと呼称される特殊なものだと説明する。
「なるほど。カイ殿の武器と同じように、いかにも大仰だとは思っていたが、そういう用途なのだな」
「さよう、さよう。して、ディーター殿はこの機械弓の威力を見たことがあるでござるか?」
「いや、ラインラント自体を見たことはあるけど……」
ディーターは首を横に振った。
魔石使いの養成校にいた頃、どこか遠方の国の軍人の要請で、ディーターは課題として数十のラインラントの魔力充填をさせられたことがある。
後に、『危険すぎて近くの国では誰も魔力充填を引き受けてくれない武器』だということ、あれは正規の課題ではなかったらしいこと、底意地の悪い担当教官の羽振りが急に良くなったと伝え聞いて、ディーターは匿名で校長に密告した。迷うことなく即座に密告した。もちろん養成校側の聴取の際に、自分は完全に善意の被害者だと主張した。
結果、担当教官は養成校ーーどころかクラウゼンから姿を消し、ディーターたちの学校生活は快適なものとなった.。そう考えると、確かにラインラントの威力は凄まじいとと言える。
「そりゃあ凄まじいんでござるよ! まさに切札の名に相応しいんでござる!」
「……凄い、よ……」
興奮した様子でカイはまくしたて、ライラも誇らしげに微笑んだ。
「ただ……魔力充填するにもそれなりの才能と経験が必要なのでござるが、これまで魔力充填をしてくれていた魔石使いが、諸事情により取引してくれなくなったんでござるよ……」
「……残念……」
『諸事情』が何かをある程度察することができるディーターは、自分の役職を伏せてくれたエレンの機転に心から感謝した。
「そんなわけで新しく取引をしてくれる魔石使いを探しているんでござるが……」
「そうなんだ。大変だね」
いかにも同情するような面持ちでディーターは呟いた。
「うむ。協力できずに申し訳ないな。魔石使いの知り合いに心当たりはないのでな」
性格的に腹芸が苦手なはずのエレンもすぐに追随して頷いた。
カイが一瞬だけ、怪訝な表情を見せたところで、
「それで? それが、放棄街区にいた事とどう繋がるのだ?」
話題をそらすためだろうか、エレンが問いかけた。
実際のところ、ディーターが魔石使いであることは調べればわかることだ。だが、この場でそれが明らかにならないのは大きい。
あとは、フェルケ探索者組合クラウゼン支部長リーゼロッテに全て丸投げしてしまえばいい。
それはそれで、ディーターにとってはそれなりに危険度が高い選択ではある。
だが、二人が今この場で『実力行使』に及ぶ可能性をーーたとえエレンが二人に負けることはないと確信していても、減らせるに越したことはない。
「……つまり、でござるな。ラウラのラインラントの超火力に代わる何か……必殺技が必要だと、そう思ったんでござる!」
必殺技。ディーターは思わず心の中でカイの言葉を繰り返す。
必殺技。なんと、心惹かれる響きだろうか。
「拙者、悩んでいたのでござる! そうしたならば、昨晩の夢でかつての仲間から啓示を受けたのでござる! 『豪刀をぐるぐる振り回してばーんって叩きつけたらきっと強いよ!』と! それを試すために放棄街区に来たのでござるな!」
ぐるぐる、ばーん! 強い、きっと強い! だって必殺技だもの!
知らず憧憬の眼差しで見つめるディーターに気づいて、見せつけるように豪刀を掲げてみせたカイだったが、
「……でも……ぐるぐる、目が回って……アラクネーの目の前で転んで、あのざま……」
思いやりの全く感じられない機械的なラウラの言葉に、がくりと膝を折った。
「そうなんでござる……拙者、ぐるぐるに気を取られて、あのざまでござる……」
「……すごい体勢で、転んだ……」
その時のことを思いだしたのか、ラウラがふふっと笑った。苦笑しつつ、カイも頭をかく。
「そのアラクネーはラウラが処理してくれたんでござるが、続けざまにもう一匹に襲われ……拙者たちは兎にも角にも先手をとることが全ての役職でござるから……あのざまでござる」
自身を恥じるように言って、カイはがっくりと肩を落とした。
「第一階層だとアラクネーが出ること自体が稀だし、そんなに気にしなくてもいいんじゃない?」
「うむ。新たな技の習得には困難がつきものだからな」
小さくなったカイの姿があまりにも哀れに見えて、ディーターとエレンはそれぞれに言葉をかける。
「情けをかけて頂いてかたじけのうござる。ああ、しかし、ラウラのラインラントに魔力を充填してくれる魔石使いがいれば、このような苦労は必要ないんでござるがなぁ」
大げさな動作で顔を覆いながらカイはちらりとディーターを見た。
疑われている。
そういえば、ラインラントはごくわずかしか生産されていないと、あの軍人は言っていなかったか。制式採用を争う試作品だった、と。加えて、カイもラウラもラインラントの名前をディーターより前に口にはしていない。
「魔石使いといえば都市部で魔法石に魔力を充填するのが主な仕事と思われているようでござるが、迷宮探索でも求められている役職なんでござるよなぁ」
「……実は、不可欠……」
「迷宮深部で武器に込められた魔力が尽きた時の、あの絶望感は魔石使いが仲間にいれば解消されるんでござるがなぁ。魔石使いの多くは安寧だけを求めるものが多いが、どこかに、迷宮探索をしたいという高い志を持った魔石使いがいればいいんでござるがなぁ」
「……とっても、大事……」
ちらちらとカイとラウラはディーターの様子をうかがう。
疑われている、というディーターの認識の一方で、カイとラウラはディーターが魔石使い、それもラインラントに魔力充填したことがあると半ば以上確信している。
希少な魔法武器を用いる探索者は常に情報の網を張っている。だから、北方から密かに持ち込まれた複数のラインラントが魔石使いの養成校の生徒によって『違法に』魔力充填されたことを、カイとラウラは知っている。
その生徒を特定・確保しようとしたところでフェルケ探索者組合から邪魔が入ったため、接触を諦めた。だが、当時養成校に在籍していた魔石使いの『名簿』に記載された名前を全員暗記しているし、そもそも極小数しか生産されていないラインラントの名前を知っている人間というのは限られる。
さて……どうやって籠絡したものでござるかな。
カイは、まだまだ子供のような雰囲気を残したディーターを細目で見つめて思案する。
金は有り余っているでござろう。となれば、探索か、女か、でござるかな。酒と薬は……仮にも命の恩人。あまり気乗りがしないでござるな。
同じ東部出身の騎士と比べて、侍は『盤外戦術』を得手とする。『一撃必死』ならば、その一刀を放つ前に勝負を決めておかねばならないという思想からだ。
しかし……女は、難しいでござるかな。
先ほどから自分とディーターを直線上に入れないように微妙に位置を変えつつ、仁王立ちしているエレンを見つめてカイは結論する。
ラウラは北方では美徳とされている長身と美貌を兼ね備えているが、フェルケ探索者組合が手配したのであろう『籠絡要員』であるエレンと比べてディーターの好みがどちらかはわからない。中途半端に手を出せば藪蛇になる可能性すらある。エレンは護衛としての実力も確かだから、最終手段である暴力の行使も難しい。
とりあえずは、探索の方で引っ張るべきでござるな。
今、この放棄街区にいること、そして会話した感じからして、ディーターが迷宮探索を志向しているのは明らかだ。
となれば、エデルガルド殿に任せたほうがいいでござるか? まあ、とりあえず今この場は、顔を繋げたということで満足しておくべきでござるな。仕込み次第で『堕とせる』可能性は十分ある。
希少役職の常で、初対面ではこちらに役職を明かさなかったディーターだが、『次』の出会いではそうもいくまい。こちらに調べる時間もあるし、顔を合わせる回数や会話が増えただけで、人は親しくなったと勘違いしがちだ。
ここはとりあえず引いておこうとラウラに目線で指示しようとしたところでーー
「……カイ、そろそろ、隊の会合の時間……」
相棒であるラウラが横目でカイを見た。
「ああ! そうでござったな!」
本来は予定されていない会合を口にしたラウラの言葉にカイはうっかりしていた、という表情を作って頷いた。
攻める。退く。このあたりの感覚が一致しているからこそ、カイはラウラと長く組んでいるのだった。今後のことを考えれば、『カイはうっかり者』だと思わせておいたほうがいい。
「かたじけない。今日はこれまででござるが、いずれ返礼をさせていただきたい所存でござる。ゆえにお二人の宿を教えてござらんか」
「あ、うん。あのねーー」
いかにも無防備にディーターが口を開いたところで、
「フェルケ探索者組合、もしくはローゼンクランツ工房に、今日のことと私の名前を出して問い合わせてもらえばいい」
遮るようにエレンが言葉をかぶせた。
ローゼンクランツ工房はディーターが馴染としているクリスタが所属する工房で、魔法石への魔法回路刻印の大手である。
フェルケ探索者組合とローゼンクランツ工房の名前を出せば、ディーターの役職は自ずと確定される。だが、それでもエレンがその名を出したのは、どちらかを介してディーターに接触しようとするなら、必ず『審査』が入るからだ。
単なる猪騎士であれば、面倒はなかったんでござるがな。
心中で舌打ちしつつも、カイは表面上はにこやかに頷いた。
「かたじけのうござる! すぐに、とは約束できぬが、今回の返礼は必ずさせてもらうでござる!」
実を言えば、エレンは単にリーゼロッテから押し付けられた手順書に従ったに過ぎないのだが、流石にそこまでは部外者であるカイには類推できない。
「ラウラ、行くでござるよ」
長居するのも不自然ではあるし、基本的に侍は気が短い。カイはさっさと『門』へと向かうが、
「……ちょっと待って……」
呟いたラウラは、立ち塞がるエレンの横をするりと抜けてディーターの服の裾を掴んだ。
「……今後とも、仲良くしよ……?」
裾を引っ張りつつ、ディーターの耳元で囁いた。というか、ディーターの耳たぶを甘噛んだ。
「ぅひわっ?!」
妙な声を上げてディーターが飛び上がったところで、
「……また、ね……」
柔らかな微笑みを残して、にやにや笑いのカイとともにラウラは『門』の向こうに消えた。
「……あー、びっくりした」
突然ああいうことをしてくる性格とは思っていなかったから油断した。
普段のリーゼロッテの行動で免疫ができていなかったら、色々と大変なことになっていたかもしれない。
と、まあ、それはともかくとして。
次からは、ディーターが魔石使いだということを知った状態でカイとラウラは接触してくるだろう。
おそらく、二人はディーターにラインラントの魔法石の魔力充填をさせたいはずで、さて、彼らはどこまで『踏み込んで』くるだろうか。
ラインラントのために渡れると、そう彼らが判断する『危ない橋』はどの程度か。
基本的にはリーゼロッテに丸投げになるが、それが、ディーター自身が無防備でいていい理由にはならない。
人助けをしたはずなのにーー助けたのはディーターではないがーー余計な厄介事が増えてしまった。
嘆息して、でも、とディーターは心中でつぶやく。
カイやラウラの言葉に心が動かなかったといえば嘘になる。
『魔石使いといえば都市部で魔法石に魔力を充填するのが主な仕事と思われているようでござるが、迷宮探索でも求められている役職なんでござるよなぁ』
『……実は、不可欠……』
実際問題、魔石使いの迷宮探索での需要は深部でこそ高い。理由は、カイが口にしたとおりだ。
これまでにもディーターのように迷宮探索を志向する魔石使いはいた。だが、結局は多くが安寧を求めたり、やむを得ない事情によって都市部で魔力充填を行うに留まる。
探索者とは名ばかりで、ただ、魔法石に魔力を補給するだけ。
そう自分の限界を決めつけて、そこから先に進もうとはしないことが多いし、魔石使いに探索者としての行動を求めないフェルケ探索者組合の妨害工作もある。
初期の登録試験で魔石使いの才能を見分ける手法、及び囲い込む手法が確立されて以降、迷宮の深部に潜った魔石使いは記録上に存在しない。
でも、とカイの言葉を聞いたディーターは思う。思ってしまう。
『主役』でなくても、『ある程度重要な脇役』として迷宮に潜る。そういう道もあるのではないかと。
「ディーター」
名前を呼ぶエレンの声に、常にない剣呑さを感じ取ってディーターはびくりと肩を震わせた。
「エレン?」
これまでディーターが見たこともないような険しい渋面を浮かべたエレンは、
「私は、ああいうのは、感心しない」
一節一節区切るように、まるで、言葉をディーターの心に刻みつけようとするかのように言った。
「え? エレン、何、どういうこと?」
「ディーター」
「は、はいっ!」
「私は、感心しないと、そう言った」
「あ、うん」
面食らっていたディーターだが、思考を巡らせてようやくエレンの言わんとすることに思い至った。
『主役』でなくても、『ある程度重要な脇役』として迷宮に潜る。
そういう考えは感心しないと、そういうことなのだろう。
エレンからすれば、ディーターに迷宮深部を探索したいなどと思われては困るのだ。
家族のように錯覚してしまっているが、フェルケ探索者組合からディーターの護衛と監視を依頼されているのだから、エレンにも立場がある。
それに……その程度か、と言われてしまいそうではあるが、こうしてエレンと二人で迷宮に潜るのもこれはこれで悪くないと思い始めている自分がいるのも確かだった。
「ごめんね、エレン。うん、やっぱり俺は、エレンと二人がいいよ」
ディーターの言葉にエレンの表情はみるみる緩んでいく。のみならず、
「む。そうか。そうなのだな……うむ、そうか、そうか。ディーはお姉ちゃんがいいのだな。困った奴だ。ふふふ」
誇らしげに頬を染め、むふー、と鼻から息を吐いた。
いつもの調子に戻ったエレンに、ディーターも微笑んだ。
「さて、少し時間を取られてしまったが、そろそろ戻らねばカミル殿やリーゼロッテ支部長殿が心配するだろう」
「そうだね」
どちらからともなく伸ばされた手を握り合って、ディーターとエレンは『門』に入る。
「ディー、今日の探索は、どうだった?」
エレンの言葉にちょっとだけ考えてから、ディーターは応えた。
「とっても、充実してたよ」




