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プロローグ

立比佐町たてひさ


お店といえばコンビニもどき、車屋、喫茶店、床屋しかないド田舎。

レーザーディスクが何者かは知らないが電気やネットは存在している。

そんな辺境の田舎には住める人間と住めない人間がいる。

住めば都とは言うが、田舎では東京に出るためにお金を貯めるやつがいれば。東京からこういった田舎に住みたい人もいるわけだ。

ちなみに俺はこの町は嫌いではない。嗜好品が買いに行くのが面倒くさいが通販を使えばなんでも買える。通販サイト万々歳!注文してから届くのに時間がかかるのが難点だけど。

違いの分かる男「野坂のざか 和明かずあき」は湯の中で舞うコーヒー粉を見つめている。


「兄さん、聞いてるの!?」


さっきから俺の横で、小うるさくちんまい小学6年生がしゃべりかけてくるのは「野坂のざか 蓮香れんか」は俺の妹だ。


「うん聞いてる」


俺の耳は現在ところてん状態なので、妹が何言っていたかは聞いていない。

撹拌してアルコールランプを消す。


「杉乃木のおじいちゃんがぎっくり腰だって!」


あの爺さん、90手前だというのにすばしっこい、害宙を相手に現役で駆除するんだからいかれてる。もちろん褒め言葉だよ。

しかし、ぎっくり腰で動けないとなると。最近なぜか頻発して現れる「害宙」を誰が駆除するんだ?


気圧で下のフラスコへと吸い込まれるコーヒー。


「それは、大変だな」


それをコーヒーカップへ注ぐ。


「今日はいい感じだ」

「で、お爺ちゃんが兄さんにお願いがあるんだって!」

「それは、一大事だな」


これからRPGの無限ループよろしくお願いされるだろう。いつもこんな感じの展開だ。


この間も「狩猟持ってる奴がいないからお前取れ」「いいえ」

「猟銃持ってる奴がいないからお前取れ」「いいえ」の無限ループ。

そして、「はい」と言わされる。

今回も無限ループ確定だ。


「兄さん!さっきから同じことしか言ってない!」

「お願いだからコーヒーぐらい飲ませてくれ……」




「お前アレ倒すのおめぇがやれ。」


ぎっくり腰に負担の掛からない胎児スタイルで布団に丸まった御老人「杉乃木すぎのき 正樹まさき

ツンデレだ。ツンデレとは言っても。俺にツン、妹にデレだ。うん、不公平。


「いや、でもやったことも無いし」

「別に今後もやれって訳じゃぁねぇ。 俺の腰が治るまででいいんだよ。 まだ俺は現役だからな!」


とても貫禄のある顔で現役アピールをする。胎児スタイルなので絵面はとてもシュールだ。


「害宙以前に猪すら実際にしとめたことねーよ」

「んなもん!アレ着て近寄ってしっかりねらって引き金引くだけだってんだ!」


年季の入ったガンロッカーと真新しい馬鹿でかいロッカーを指差す。その中には猟銃とPAWパワーアシストウェアがある。

PAW見た目はウエットスーツみたいだが人口筋肉と高密度繊維と衝撃吸収ゲルが層になって構成されているので、銃で撃たれたり熊にぶん殴られ噛み付かれても平気な文明の利器なのだ!


「しかしなぁ……最近猟銃使ってないし。 しかもこれ、全身に密着してるから加齢臭すごそうなんだよなぁ」

「そう言うと思って綺麗にしておいたわよ」


裏庭で洗濯をしていた正樹の孫で「杉乃木すぎのき 信子のぶこ」高校3年の幼馴染で俺の家の店のバイトをしてくれている。

最初は爺さんに「社会勉強のために雇え、遠くのコンビニにバイトさせるのは不安だ!」と収入も微妙な店に無理矢理雇用させてきた。


この信子さんは器用な上に器量のよい娘で、販促や接客がすばらしく。

老若男女関係無くお客さんが増える増える!

「もうこの子が店長やればいいんじゃねーの?」と思うことがあるくらいだ。

そして妹から「そうなったら、父さんと兄さんは用無しだね!」と笑顔で言われた。

親父は一週間ほど旅に出た。へこみすぎだろ。


「これはこれは、おしんこさんいつもありがとう」


俺は深々とお辞儀をした。


「しんこ言うな。そういうこと言うと和明の時給減らすよ」

「すいません・・・いや、おかしいよね。てか、自分の着ていたPAWの加齢臭対策に孫が綺麗にしておいたと言う発言を聞いて、爺さんが布団かぶって声だしながら泣いてるけど大丈夫?」


爺さんが布団に包まって泣いている。近所の子供やら孫を溺愛してるから、その分ショックも大きいらしい。

俺の加齢臭発言がどうでもよくなるくらいに。


この町の大人たちはどうやらみんなグラスハートらしい。


「え!?おじいちゃん違うの臭いからじゃ無いのよ!ほら、剣道の防具って臭いでしょ?あれは加齢臭じゃないのよ」


臭いと言う単語だけを聞いたのか、布団から嗚咽が聞こえてきた。


「もう放っておけばいいんじゃないか?」

「1度こうなるとご飯食べなくなっちゃうのよ」

「子供か」


この後、信子は爺さんを無茶苦茶説得した。





「つーわけで、和明。おめぇあれをロッカーごともって帰れ」

「あんなに重いの無理だよ」


とてもサイズが大きいロッカーなので男一人で持ち運ぶにはものすごく重い。

「スーツ着て運べば?近所だし。さっき冷蔵庫の下掃除しようと思って試したら簡単に運べるのよこれ」


今のは聞き逃さなかった。


「熊2匹分のパワーだからなぁ」

PAWって下着みたいに着るんだよな。


「分かり難い単位ね」


つまりそれってあれだよなうん。


「スペック表に書いてあった」

いや、でもさすがに洗濯しているか。うん、そうだよな。


「東京ドーム何個分とかよく使うけど、東京ドームに行ったことないからよくわからないよね。

どうしたの?難しい顔をして」

「ああ、クマに匹分のパワーについて考察していたんだ。でも、ダメだな。ツキノワグマとヒグマで相当変わるから」

でも、洗ってない可能性に俺は賭けたい!


「個体差があるもんね」


男には2種類いる。スケベな事を考えておるときに、露骨にスケベな顔をする男と職人の様な顔になる男だ。

どうやら俺は後者らしい。





とりあえず、着てみたがどうやって動かすんだ。


「じゃぁ起動してみて」


信子は腰の部分に指差した。


「引き締まったウエストだ、健康的だと思う」

「セクハラで訴えるよ。じゃなくて、腰にある制御ユニットに電源を入れて。

その制御ユニットが、発電とスーツの制御を自動でやってくれるみたいね。

と言うかこれ何で動いてるんだろ………原子力?」

「ネェウクリア!?」


さすがに原子力は無いだろう。

片田舎の一般家庭に置いていいものじゃ無い。


「こういうのって機械に使われてる気がして気に入らないわね。後でぐぐっておこうっと」


突然、目の前に白黒でPAW-OSと文字が出てきた。


「何これ!?気持ち悪!」

「視神経ディスプレイね。取り扱いの激しい現場なんかで使われるディスプレイだから割れたりしないし、ぶつけても平気よ。試してみる?」

「いいよ、つーか眼球ぶつけたら失明するよ。知ってはいたけど違和感がすごい」

「視覚障害の人にも使えるからすごく画期的な技術よね。まだ白黒しか表示できないけど。変な風になって目の前が見えなくなったら後頭部にあるパッドを剥がしてね。って説明書あるからちゃんと見といてね」

「何それ怖い」


「じゃぁためしにロッカーを和明の家まで運んでみよう」

「いや、軽トラ貸してよ」


外装パーツと整備用品の入ったロッカー、しめて100kg近い重さだ。

回して縛った縄を両手で持ち上げ担ぐ。


「重さを感じない!すごい!これ、仕事で使っていい!?」


近代技術のすごさを知った俺、大はしゃぎ。


「いいけどカートリッジが1本1万円。フル稼働で2時間。省エネモードで20時間動いて。

普通のコンセントでも動くよ。1時間20円、お財布にやさしいわね」

「エアコンクラスか。ちなみに目の前に30%って出てるけど」

「持ち上げるのに10%歩くのに10%重さを感じないのに10%つまり1時間1500円」

「まじかよ、夜勤シフトより高いじゃねーか!」

「カートリッジは身体障害の人達用に優先割り引きあるから個人用は高いのよ。

でも、害宙は1匹しとめると4万円貰えるからお小遣い稼ぎにいいわよ」


その金額を聞いてちょっとわくわくしてきた。






ロッカーを運び終え居間のちゃぶ台でコーヒーをすする。

信子は緑茶、コーヒーが飲めないらしい。


「ほんとすごいねこれ」


信子はスーツを指さしていった。


「犯罪とかに使われたらヤバいんじゃないかこれ?」

「実際に犯罪に使われたことが何度かあるみたいよ?あまりテレビに出ないけど。

管理に気をつけてって手紙がよくくるみたいだし」

「マジか、防犯とか気をつけないと」

「でもそれって警察とか消防とかなら遠隔で電源切れるんだって」


家の廊下を走る音がする。


「兄さんが、害宙!」

「俺は害虫じゃねーよ。実の兄をゴキブリ扱いとか反抗期か?」

「じゃなくて害宙が出たの!」

「あ、Gは俺NGだわ。蛇とかムカデなら俺にまかせろ」

「じゃ、あたしがやろうか?」


信子が立ち上がる


「ヤバい方!死人が出る系の方!」


紛らわしいネーミングだ。あと妹も爺さんもホントマジで声でかい。




妹に言われ目撃場所へ来てみた。


「どこにもいねーじゃねーか」


辺りを見回す。それらしき物は見あたらない。いや、一部変なところを見つけた。


「木がへし折れてる」


害宙は何を食べるとかの基本的な生態が解明されていない。と言うより何でも食べてみるらしい。そして、排泄とかはしないので周囲に生息しているかとかが分かりにくい。

被害は主に小学校高学年ぐらい。と言うよりは同じ身長の女の子が多く被害に遭っている。


蓮香とかそれくらいだし気をつけないとな……。


「そっちのほうに行ってみるか」


途中足跡を見つけたので辿ってみたら。

害宙は中型動物と戦っていた。

害宙は三目で十センチほどの爪を持ち体長はグリズリー以上ある。

こんなのに生身で襲われたらひとたまりもない。


一方中型動物は銀色の毛で覆われ。身長は妹ぐらい。

ひらひらとした襟巻きみたいのが上から下まで、たくさんついている。

見ようによってはドレスにも見える。

二足歩行で害宙の攻撃をうまく避け。隙を見つけては後頭部に蹴りを放つ。


「ドレスザル……うん、ドレスザルと名付けよう!」


これはとてもセンスのいいネーミングだと我ながら思う。


新種発見以前に根本的なことに気がついた。

顔は可愛らしい女の子。


つまり人間の女の子だった!

動きが早くて顔がよく見えなかった。

生身の人間が出来る動きを越えている。


害宙のふるう腕が少女を弾き飛ばし。こちらの方に飛んでくる。


「おい!まじかよ!」


軽く50mは飛んできた。

受け止めようと走るが受け止めたときの衝撃であの子が死んでしまうかもしれない。

でも、考えるより先に体が動いていた。


『緊急パターンを検出しました。L-act(エル-アクト)モードを開始します』


直接脳内にノイズ混じりの電子音声が聞こえる。


気がついたときには俺の腕に少女がいた。


「っん………」

「生きてる!大丈夫か!?」


少女を降ろして木の幹にも垂れかけさせる。

降ろす時に少し重かったがPAW使って重いとかどれだけ重いんだこの子。

猟銃を構えPAWの設定値を変える。

と思ったが……。


「画面が消えている!」


どうやらPAWが使えない状態になったようだ。

PAWがなくても害宙駆除は出来るらしいけど安全性が桁違いらしい。


こちらへ。のそのそと歩き、向かってくる害宙。

やるしかない!出ないと2人とも殺される。


「かかってこい!三流エイリアンがぁぁぁぁあ!」


狙いを定めて引き金を引く。銃の先端からまばゆい光を発し、燃焼ガスで押し出され銃身から放たれた鉛玉が害宙にめり込む。

命中はしているが一瞬のけぞるだけで歩みは止まらない。


次弾を装填して、また引き金を引く。


手応えはない。


手早く空薬莢を排莢して二発の弾を差し込んでレシーバーを閉じる。


二発くらってイラついたのか害宙は走り出した。

散弾銃は近ければ近づくほど威力が上がる。最後の一発はギリギリまで引き寄せてから撃つ。


二十メートルぐらいには迫ってきていた。まずは一発。

しかし今度はのけぞらず体重の慣性を使い突進してくる。


残り時間は1秒以下。間に合わない。

体に衝撃が走る、痛みはない。尋常じゃない量のアドレナリンが出ているようだ。


「お前は絶対にここで仕留める………」


目の前に広がる巨体に銃身をくっつけて。最後の弾を放つ。

小さい鉛球の群集が肉を裂き、害獣の胴体に大きな大穴をあける。


害宙は力なく崩れ落ちた。それにつられ自分の腹を害獣の腕が引っ張るので。それを引き抜く。


「はやく……あの子を病院に……」


視界の四角が白黒にぼやける。

頭がまわらない。

少女の元へと歩く。

グラグラと視界がブレる。

このこをもちあげ。あるく。

ころんだ。おきなきゃ。

でも………ねむい。




つちのにおいがする。

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