シーン1
塩の街と想像する舞台が少し似ていますが、一応別物です。
インスパイアされたものだと思ってください。
パクりとは違うと思いたい。
ふと、目が覚めるとちょうど日が昇ってくるところだった。
ちょうどいい時間い起きたみたいで、僕は体を起こして背伸びをする。
固い地面の上で寝ていた体はそれでちょうどいい感じにほぐれる。
そしてビルの谷間から見える太陽を見た。
今日は晴れそうだ。
そこまで困るって程ではないんだけど、体が濡れると寒くなるからその日は旅を中断することを考えなくてはいけない。
幸い、屋根と食料ならいくらでもある。急ぎたい気持ちはあっても、それで僕自身が倒れてしまっては本末転倒だ。体調には気をつけなくてはならない。
僕は周りを見渡す。
そこに人影はなく、人の気配だけがわずかに残されていた。
誰かが住んでいたであろう家、店の前で立ち、声を張り上げて買い物客を呼び込んでいたであろう商店街。
それらが、まるでそこから人だけを取り除いたかのように並んでいた。
つい数分前まで人がいた。そう言われても不思議じゃないくらいにその光景は異様なほど日常そのものだった。むしろ、僕が立てたテントと、そのそばに作られたたき火の跡のほうがよほど非日常的に見える。
一週間ほど前、起きたらこうなっていたのだ。
理由は知らない。たぶん、記憶喪失か何かだと自分では思う。
知らない場所で寝ていて、妙に頭が痛かった。そして起きたら街に人が一人もいなくなっていた。
最初はただ絶望した。ただやみくもに人を探し回って、それでも見つからない。この世界に自分だけが取り残された孤独感。それはひどく冷たく僕をむしばんでいった。
それでも僕がこうして生きているのは希望を見つけたからだ。
テントを離れて、近くの民家へ入る。
鍵がかかっていることも多いが、運よくと言うか、べつにかかっていても窓を割って入ればいいだけの話なんだが、鍵は開いていた。
ざっと周りを見渡す。別に通帳の場所を探しているとかではない。お金があったって誰もいないこの世界じゃ意味がないし、そもそも、そのお金をおろすための銀行が機能しているとも思えない。
「お、いいのがあった」
ぼっちは独り言が多いとか言うが、本当の話だと僕は思う。実際にこの一週間ほどで事あるごとに独り言を言うようになった。そうすることで自分を保つ。それもこの変わってしまった世界で生きるための一つの方法なのかもしれない。
ダイニングであろう部屋、家族全員で集まるテーブル近くの椅子。そこに塩のような白い粉が山になっていた。
塩のような白い粉では不便なので、僕はそのまま『塩』と呼んでいる。
その塩の山の上のほうだけつまんで舌の上に載せる。
これは普通の塩とは違って色んな味がする。今回のはちょっぴり甘い味がした。そして飲み込むとあっという間に満腹感が出てくる。
このひとつまみで僕の朝ごはんは終了する。栄養学的に見たらありえないことだと自分でも思うが、これで本当に大丈夫なのだ。
それを教えてくれたカセットテープ。これが、僕の希望だ。
「祐樹」
再生したテープからイヤホンを通じて、女の子にしてもちょっと高くて、細い涼の声が聞こえてくる。幼馴染、そして僕の彼女だ。
「……駅で待ってるね」
どこの駅かは掠れて聞き取れなかった。
テントの片付けをしながら辿ってきた線路を見る。
こうして線路を辿って行けばいつか着けるはずだ。
彼女の待っている場所へ。
とりあえず、一章が終わるまでは一日一シーン掲載で行きます。
それ以降は執筆速度次第