私の姉はヒロインです
他のシリーズとは別世界です。
とある学園の、何もない空き教室。
教室内では泣き崩れる女子生徒を慰める男子生徒たちと、その男子生徒たちから鋭い目線を向けられている美人の女子生徒。
教室周りには大勢のギャラリーがいた。
「お前がやったんだろ!?」
「白々しい、よ」
「何故、私がそんなことを?」
「ハッ!そんなの会長との婚約破棄が嫌で彼女に当たった、そんなところでしょう」
「さっさと認めなよー」
「み、みんな、私が悪いんだよ。先輩を怒らないであげてっ」
泣いていた女子生徒がそういうと、男子生徒たちはデレデレになる。
その光景に辟易した様子を見せながらも、美人の女子生徒は口を開いた。
「婚約破棄が嫌?そんな訳がないじゃないですか。私、明日婚約発表するんですわよ?もちろん会長様とは別の方と」
「えっ?」
「前からお慕いしていた方に、婚約破棄されてすぐに婚約を申し込まれましたの。喜んでお受けしましたわ。ねぇ、前会長様」
「そうだ。コイツはもう俺のものだ」
美人の女子生徒がギャラリーの方に視線を向けると、美形の男子生徒が出てきて、女子生徒の腰に手を回した。
「な、何で隠しキャラの前会長が…、選択を間違えたの?まさか…、完璧だったはずよ、うそよ、バグよ、こんなのはバグだわ」
…あーあ、ホントにバカだなぁ。
「大体、婚約破棄は今日の朝されましたのよ?昇降口で。その日の放課後にこんなバカな行動するとかどこのバカですか」
…うちのです。すみません。
「ぅるさい、うるさいうるさいうるさいうるさいうるさいうるさいぃいいいいいいいッッ!!!悪役の分際で何を偉そうに私はこの世界のヒロインなのよアンタたちは私のお陰で生きてるの私を愛さないといけないのアンタたちはストーリー通りに動かな、ぎゃっ?!」
挽かれたカエルみたいな奇声を上げて泣いていた筈のソレは崩れ落ちた。
何て声出してんの…、逆ハー要員も引いてんじゃん。
けど。
「……ふぅ。コレの尻拭いも今日でおさらばか」
長かった…。生を受けてから16年間、ホントに長かった!
「どうも、みなさん、こんにちは。姉がご迷惑をお掛けしたようで、すみません」
「あ、あね…?」
「てことは、君…」
「コレの妹です」
私の姉は、物心ついた時から訳のわからないことを呟いていた。
乙女ゲーム、転生、ヒロイン、イケメンの攻略対象、逆ハー、玉の輿etc.
意味のわからないことをブツブツブツブツずっとと血走った目で言ってる姉を見て、幼かった私は、
ハッキリ言ってドン引いていた。
だってキチガイ怖い。
姉は確かに可愛らしい容姿をしていた。妹の私は平凡で、姉妹に見られたことはなかった。
けど、両親はどちらだけを優遇することなく、普通に優しいし、友人もいる、彼氏も出来た。
不満はない。
ただ姉を除いては。
姉は中学生の時に、私立学園へ通うと言った。
一般庶民であるうちに、そんな費用はない。奨学金を取れるほど姉が賢いならともかく、姉はバカだった。
そう説明すると、またキチガイなことを並べ立てた。両親の前で。
両親は精神病かと寝不足になるほど悩んでいた。
なのに、あのバカは理不尽だとか私はヒロインだからとか、ふざけたことばかり…っ!
ゴホン、失礼。
姉は両親が本気で行かす気がないことを渋々納得すると、驚異的な記憶力を発揮し奨学生を自力で取った。
この時ばかりは家族全員でお祝いした。スゴいよ、底辺の底辺から這い上がるなんて。
まぁその記憶力もその時のみだったらしいけど。
ちなみに。
何故、私も学園にいるかというと、姉が一年の時から起こす問題行動で度々両親が呼び出しを受け、それを見張るために私を送り出したのだ。
私は頭がいい方だったから奨学生にもなれたけど、本当ロクなことしないバカ姉だよ。
私はポケットから携帯を取り出し、ある人へかける。
『―もしもし?』
「父さん?私だけど」
『あぁ、どうかしたのか?』
「バカがやらかした。手配してあったアレ、使おう」
『…仕方、ないな。わかった。仕事が終わったら手続きをしておくよ。母さんには俺から言っておく』
「ん。私はこれ以上バカがバカしないように見とくよ」
『頼むな』
このバカに巻き込まれた可哀想な父さんと母さん…。
一番の被害者は両親です。
だから、私は絶対バカを許さない。
「っこの、何すんのよ!モブの分際、でっ?!」
「醜いよバカ。もう黙ろうかバカ。取り巻きも引いてるって何で気付かないのかなバカ。ああバカだからかバカ。だから嫌なんだよバカと関わるのはこのバカ。マジ救えねぇなバカ。こんなバカに引っかかるバカ共もバカだけど、バカが一番のバカだよ本当に。私や父さんたちにどれだけ迷惑かけたら済むわけ?マジ一度死ねよバカ」
長年の恨みつらみその他諸々を詰め込んで長々とバカを罵る。
「はい、行きまーす」
「なにすっ、ギャァアアアアアッ!!」
「ほらほらほらぁ〜、気張んないと死ぬよ〜」
「イヤァアアアアッ!!!」
バカで戯れていると、どこか引きつった顔の悪役お嬢さんと新婚約者さんが視界に入った。
「あ、すみませんね。先輩さんたち。でも私の方が恨みは深いんで譲ってもらえますよね」
有無は言わせません。
「それから、今日からバカは精神病院に入院させますんで、警戒は不要ですよ」
「精神病院!?」
「随分、準備がいいんだな」
「前々から予約はしてあったんで」
何せコレは生まれつきの中二病患者。
準備は万端ですとも!(超イイ笑顔)
「そこの取り巻き先輩たちも、現実が見えてきたでしょう。まぁ今更、目が覚めても遅いでしょうけど」
「どういう…?」
「どういうがどのこと指しているのか分からないんですけど。姉がキチガイだっていう現実のこと?先輩方が生徒会をリコールされるってこと?お家の方にも話は伝わっていて、跡取りじゃなくなったことですか?」
「「!?」」
「デタラメを…」
「彼女が言ってることは本当ですわよ」
「今じゃ学園中が知る事実なのに、知らなかったのか?馬鹿だな」
「そんなっ!?」
愕然としてるけど、当然ですよね。
「先輩たちが生徒会の仕事を放り出してキチガイを構っていた間、誰が仕事していたと思ってるんですか」
「そのことも生徒たちは知ってますわよ」
「お前らのリコールは、全校生徒が賛成した」
彼を倒れるまで働かせたくせに、コイツら何甘いこと抜かしてんの?
その面、殴って腫らしてやろうか。
「ねぇ、もうい〜い?」
と、のんびりした柔らかい声が耳に入ってきました。
「風紀か」
「珍しいですわね、委員長様が直々にお出ましだなんて」
「ボクに迷惑かけてくれたバカ共を連行しに来たんだよ〜、するのは部下だけど〜」
風紀委員長と呼ばれた、前会長先輩にも劣らない美形の男子生徒が、後ろに控えていた風紀委員の人たちに指示を出し、元生徒会の先輩たちと姉は連れて行かれた。
「ほらぁ〜、キミたちも戻りなよ〜」
ギャラリーも引いて行き、姉の被害にあった美人先輩と前会長先輩も2人の世界を作りながら去って行った。
「ふぅ」
息をついた。
終わったのだ。
ようやく、全て。
「…!」
後ろから、ギュッと抱き締められた。
「お疲れ様〜」
「うん、そっちもお疲れ様。体調は大丈夫?」
「大丈夫だよ〜、彼女ちゃんの献身的な看病でバッチリ〜」
「もう、あんなムリしないでよ?」
「キミもね~、まぁ原因もいなくなったことだし、これからは平和だよ~」
「そうだね」
抱き締められていた腕が解かれ、私の手を大きな彼の手が包む。
「じゃあ~、早速遊びに行こっか~」
「取り調べは?」
「副委員長たちがやっとくから、いいってさ~」
それは、後でお礼を言わないと。
肩の荷が下りた私は、大好きな彼と共に空き教室を出た。
妹「せんぱ〜い!」
美「あら、ご機嫌よう」
妹「おはようございます!先輩っ、私、遊園地の優待券持ってるんですけど、一緒に行きませんか?」
美「えぇ?」
妹「ダブルデートって夢だったんです!行きましょうよ!」
美「それは、彼にも予定を聞かなきゃ…」
妹「前会長先輩なら今週末なら空いているって」
美「…早いわね」
妹「ねっねっ、どうです?」
美「仕方ないですわね、宜しいですよ。行きましょう」
妹「やったぁ!」
風「楽しそうだなぁ、かぁわい〜」
前「(ダブルデート…、つまりコイツと一緒かよ)」
仲良くなった彼女2人と、彼女しか目に入ってない風紀委員長と、ちょっぴり風紀委員長が苦手な前会長。
☆★☆
・妹
平凡スペック。主に姉のせいで苦労を被る人生を送ってきた。
彼氏とは、姉の尻拭いに走っている時に知り合い、そのまま仲が進展。
現在、付き合って3ヶ月目。
・風紀委員長
特上の美形。ハイスペック。名家の跡取り。
緩い喋りでのんびりそうだが、その実とても真面目で厳しい性格。
生徒会の尻拭い中に倒れ、付きっきりで看病してくれた彼女に惚れる。
現在、ベタ惚れで溺愛している。
・美人先輩(悪役お嬢様)
美人。ハイスペック。
転生者でも何でもない、常識人。
家に決められた婚約者=生徒会長に恋愛感情も、それどころか1ミリの好意も抱いていない。
小さい頃から好きだった前会長とこの度晴れてお付き合いをすることに。
現在、とても幸せ。
・前生徒会長
特上の美形。ハイスペック。
悪役お嬢様のことが小さな頃からずっと好きだったが、その時はまだ家が大きくなかった。
彼女を手に入れる為に親を言いなりにし、事業に口を出し手を出して、彼女の家に釣り合うどころかその上に上り詰めた。
微ヤンデレ。
現在、超幸せ。手離す気は0。
・姉
この世界のことを前世の少女漫画の世界だと思っている転生者?
自覚した時からずっとキチガイ。
色々やらかした挙げ句、精神病院に送られた。
…妹に幸あれ。