むくれる魔道士
「魔道士と整理係」より:デルレイ&ナナオ
アイデアくださったユーザー様、ありがとうございました!
「ナナオ、今度叔父上のところに行くのだが一緒にどうだ?」
「ほんと?行く行く」
向こうに行くのは結婚してから初めてだ。私の生活基盤はもうどっぷりブレドン王国だけど、やっぱり育った場所だもの。特別な場所なのは間違いない。
どうやら扉のことでアレンさんと打合せがあるらしく、滞在は2日間。デルレイはアレンさんとともに忙しいらしいけど、私は時間がたっぷりある。
本当は史子や公子おば様に会いたいところだけど、なにせ2日間だ。「あんまり遠くに行かないように」とデルレイと約束したのと、一人であちこち出かけると王国へ戻ったあとが大変なので今回はアレンさんの家の近辺をぶらぶらしたり、久しぶりに書庫の掃除なんかをすることにした。
アレンさんに一声かけて、私は屋敷の外に出た。もともとアレンさんの家はにぎやかな地域に近いので(だけど屋敷の周辺は驚くほどに静か)、ぶらぶらするには格好の場所なのだ。
へー、コンビニが出来てる。なるほど新規オープンしたばかりでくじ引きをやってるのか。一等は・・・おお温泉旅行ペアご招待!!
王国に温泉はない。デルレイと温泉・・・・間違いなく「なんだこのにおいは?!」と言い出して、「どうしてこんな外にわざわざ風呂をつくるのだ」とか「この色は何なのだ」とか言いそう~・・・楽しそうじゃん。それにー、浴衣姿のデルレイもいいかも~・・・その前に合うサイズがあるかどうか疑問だけど。
「こりゃー、一発当てるしかないわね。」私はコンビニに足を踏み入れた。
中をうろうろしていると、スイーツコーナーにさしかかった。1年前もコンビニスイーツは豊富だったけど、今もどうやら進化中のようだ。
「初恋ショコラ?」
美味しそうだと手に取ったチョコレートケーキの名前を思わず二度見。さらに、商品のコピーを見て驚く。
“ケーキとぼくのキス、どっちがすき?”って・・・何このコピー。しかもどうやらこの7人組男性アイドルグループがそれぞれこのコピーをさまざまなシチュエーションで言ってるCMがあるらしく「CMが話題沸騰中!!あなたはだれのシチュエーションがすき?」とPOPが書いてある。
ちょっと異世界に行ってる間に、どうやら日本の芸能界はすごいことになっていた。でもこのケーキのCM見てみたいなあ・・・アレンさんの家に戻ったらちょっとパソコンで見てみようっと。
デルレイもアレンさんも甘いものが苦手だから、私の分だけでいいか・・・あら、カロリーも控えめなのね。
レジで購入し、そのままタッチパネル方式のスロットマシンみたいなくじをひくと「当たりました!“初恋ショコラ賞”」と画面が出てきた。
お店の人が「はい、こちらが商品です」と細長い筒状のものとティッシュをくれ、温泉じゃないのを残念に思いつつありがたくいただいて、屋敷にもどることにした。
屋敷に戻ると、アレンさんもデルレイも「クロスビー商会」の部屋から出てきていないようで、居間にはだれもいない。
私はコンビニの袋と景品を持ってもとの自分の部屋に向かった。まずは初恋ショコラを食べてみる。見た感じはガトーショコラ。しっとりしたスポンジとなめらかで濃厚なクリームの味が口の中に広がる。
「やだ、なにこれ。美味しい!うわー、エルシーやフローラ、ベルにも食べさせたいっ」特にベルは間違いなく探究心に火がついちゃいそう。
これ持っていって、王国でも同じようなものがベルカフェで食べられたら・・・まさに至福よね。でも生物って持ち込めるのかな。米と味噌はいけたけど、ケーキはどうだろう。
最後の一切れを口にいれるのがたまらなく惜しいわ~・・・。
ケーキを食べ終わると、今度はパソコンでCMを検索する。特設サイトがあるらしく簡単にヒットしたので迷わずクリック。
「きゃー。何これっ。ちょっとー、まじかー。え~、私に選べと?むり~。だけどこの男の子はちょっと好みかも・・・・」
「・・・何やってんだ、ナナオ」
いつのまにかデルレイが私の後ろに立っていた。
「うぉ!あ、あらデルレイ。仕事終わったの?」
「ああ。ナナオの気配を感じたので、部屋に入ってみたら・・・その物体を見てる自分の妻が妙なこと口走ってるじゃないか。何なのだ、それは」
「これは、パソコン。この世界で仕事をするときに使ったり探し物をするのに使ったり、こうやって画像を見たり・・・まあ、便利な機械なのよ」
「ナナオは何を・・・ん?だれだこの男たちは。まさかとは思うが、ナナオはこれを見て妙なことを口走ってたのか?」
「へっ?えーっと・・・はははははっ」
「ナナオ。これはお仕置きだな」
「えええっ。」
デルレイが実に嬉しそうな顔をした。
ちなみに、私が景品としてもらったのは例のCMに出ていた7人組男性アイドルグループの初恋ショコラ限定ポスターだった。
デルレイは「こんなもん、誰が持って帰るか!!」とぶうぶう言っていたけど、アレンさんが「芸能人に嫉妬するな、みっともない」と言ってくれたおかげで王国に持ち帰ることになった。その際、アレンさんに頼んで色あせ防止の魔法をかけてもらったのは言うまでもない。
さらに、このポスターは10年後、書庫に入れっぱなしだったのを娘のアオイが発見して「この方、エルに似てる・・・お母様、私はこの方が素敵だと思うわ」と言い、母娘で盛り上がってしまいデルレイがおおいにむくれたという後日談がついたのはまた別の話。
アオイが素敵だといったのは、メンバーのなかでも一番物静かな感じの男の子。確かにエルくんと雰囲気が似ていた。
読了ありがとうございました。
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お久しぶりの「魔道士と整理係」です。
この作品では異世界との行き来が可能なので
書いてみました。
ちなみにアオイはデルレイとナナオの間に産まれる末っ子で
番外編に登場しております。
エルはアオイの初恋相手です。
詳しくは「魔道士と整理係」を読んでいただけると
嬉しいです。(ちゃっかり宣伝)