明日のワタシのために
オリジナルです。
彼氏の浮気現場に出くわしてしまった栗原和の話。
恋人の部屋に行ったら、裸で違う女とベッドの上にいた。そのとき、あなたならどうする?
1.頭が真っ白になって部屋から出て行く。
2.部屋においてある私物を冷静に片付けて、彼氏だった男と別れる。
私、栗原和が選んだのは、2だった。
「こ、これには訳があるんだ」
「訳?まずは下着はきなさいよ。見苦しい」
私の言葉に、あわててトランクスをはく男・・・女のほうも急いで服を着始めた。
「ねえ」
「な、なに?」
私の冷静な態度が逆に怖いのか、元恋人(もう恋人なんて呼びたくない)と彼女はベッドで固まっている。
「私が貸してあげた黒のキャリーバッグはどこよ」
「それなら、物置にしてる部屋にあるけど」
「そう。あ、キャリーバッグ返してもらうからね」
「え!俺あさってから出張なのに」
「そんなもん知るかボケ」
私はそう答えると、物置からキャリーケースを転がしてくる。
本当はきれいに整理してすっきり収納したいけど、今はとにかくこの部屋から出たい。とりあえず自分の私物をポンポンと詰め込んでいく。
「和!?いったい何して」
「私物を片付けてるのよ。連絡もしないで驚かせようと思った私も悪かったけど、陳腐なドラマみたいなパターンの当事者になるとは思わなかったわ」
クローゼットの荷物を収納し終えると、今度は洗面所。Tシャツもはおった元恋人が追いかけてくる。
「待って、待ってくれって!!」
「うん待つわ、なんて誰が言うか馬鹿者。化粧品詰めるんだからどいて。邪魔」
本当は歯ブラシも、化粧品もヘアケア商品もみんな捨ててしまいたいけど、この男の部屋に自分の痕跡を残したくない。歯ブラシは家で捨てるとして、化粧品はこっちに置いてあったものを最優先に使ってやる。
キャリーバッグに荷物を詰め終えた私は、どうやら服を着たらしい2人の前に立った。そして元恋人に鍵を渡す。
「和?」
「私の部屋の鍵も返して。あなたの私物は着払いでここに送るから。受け取り拒否をしたらあなたの会社に送るから。さよなら」
鍵を受け取ると、元恋人の返事を聞かずに部屋を出た。
会社が違っても私たちは大丈夫だよね、なんて笑いあってた頃もあったのに。だけど、いつの間にかマンネリ化してたよなあ・・・いろいろと。
それで、今日のこれか。じわじわと壊れるんじゃなくて、一気にぶっ壊れた。
あーあ・・・かえって冷静になっちゃって涙も出てこない。
「とりあえず帰ろう・・・・。」私はキャリーバッグを転がして、駅に向かって歩き始めた。
「は?別れた?」
一週間後、同期で親友の実和子と夕食をとっているときに話す。
「うん。いろいろあってね」
さすがに親友でも、恋人が知らない女とベッドで寝てるところに出くわしました、なんて事は言えない。
「そっか・・・じゃあ、私が甘いものをおごってあげよう。甘いものには明日への活力を上げてくれる効果があるのよ。私の自説だけどね」
「何それ~」
「まあまあ。オススメのコンビニスイーツがあんのよ」
レストランを出て、一緒にコンビニに向かうと、店内で一つのチョコレートケーキを差し出した。
「初恋ショコラ?すごい名前・・・」
「和もテレビで見たことない?今人気のアイドルグループが“ケーキとぼくのキス、どっちがすき?”ってCM。ちなみに私はセクシー担当の男の子が好みだけど。」
「あー。あれか!」
思い出した。缶ハイボールで晩酌してるときにそのCMみて「おお~~。私ならどっちかなあ~」ってデヘデヘしながら見てたやつだ。
「これね、下手なケーキ屋のチョコケーキなんか吹っ飛ぶくらい美味しいわよお。一度食べてよ。絶対活力上がるから」
「ほんとに~?」
半信半疑だけど、親友が私のことをおもって勧めてくれるんだし・・・私は「初恋ショコラ」を手に取った。
これを食べるために、レストランでデザートを我慢したんだから・・・と自分に言い訳をして、まずは一口。
「おいしい・・・うわあ、おいしい。」
しっとりした食感のスポンジと、濃厚な味わいのチョコクリーム。コンビニスイーツ・・・あなどれない。今だったら、私は絶対元恋人のキスより、こっちをとる。
目撃した次の日、元恋人の荷物を全て着払いでおくってやった。追跡サービスで確認したら、どうやらちゃんと受け取ったようだ。そりゃそうよね~、思いっきり私物の着払いが会社に届いたら心証悪いもんね。
そして、メールアドレスは削除。着信拒否をした。あれから、あの2人どうしたんだろ・・・ま、もう関係ないか。美味しいケーキを食べているときに、つまらないことを考えてるとまずくなってしまう。
「栗原!」
社内で同期の樋口に呼び止められる。理系集団の開発部にいるこの同期は冷静な語り口と静かなたたずまいから同期の間で「学者」というあだ名がついているのだ。
あんまり話しかけられたことがないんだけど・・・いったい何の用だろう?
「何、樋口くん」
「あ、あのさ」いつも冷静な樋口くんが、なぜか焦ってる・・・珍しい。明日は雨だろうか。
「うん」
「あの・・・・」
「うん、なに?」
何がきっかけになるか分からない。私は、数年後に樋口和になっていた。
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