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残業の夜、そのひととき

天使の前髪より:課長&董子

 今日は課長が急な出張でいない。そして「明日の昼までに仕上げるように」と課長が置いていった資料はなかなかの量で、今日の残業が確定した。

 私はコンビニで残業おやつとして、ごひいきスイーツを購入した。誰もいない3課で、残業の合間に(しかも課長もいない!)ちょっとした楽しみを味わったっていいじゃない!


 いつも忙しい3課のはずなのに、なぜか皆仕事が早く終わったらしい。7時の時点で残っているのは私一人だ。

 仕事もメドがついたし、あとはざっと見直すだけ・・・・もしかして、今が食べ時?

 私はうきうきとコンビニの袋からプラスチックの容器を取り出す。「初恋ショコラ」という名前のこのチョコケーキ。

 課長と付き合う前、アイドルグループが「ケーキとぼくのキス、どっちがすき?」と語りかけてくるこのCMを見て、“私ならどっちだろう”と思わず妄想してしまったことは秘密である。

 名前はすごいけど、チョコケーキとしてはコンビニ物というイメージなど払拭するくらい濃厚でなめらかで風味も抜群だし、なんといってもカロリーが従来の商品よりも控えめというのが私のハートをわしづかみ状態だ。

 響子先輩や真生も、このケーキが好きで食べているらしく私達全員一致の意見は「この名前を見ると、男はまず引く」。さらに2人が言うには「自分のキスと比べたがる」らしい。

「一度、藤枝も宮本くんの前で黙って食べてみたら~?」と響子先輩は言うけど、どうしてわざわざ肉食獣のまえに餌をばらまかなきゃいけないのか、私にはさっぱり理解できません。

 ・・・でも、まあ・・・・課長のキスを思い出しながら食べてみてもいいわよね・・・・。

 私は、容器のフタをあけてフォークでチョコケーキを一口。・・・ああ、美味しい。これぞ至福の一口ってやつよね~。

「あー、やっぱり美味しい・・・」

「董子、何食べてるんだ?」

「?!」

 思わずチョコケーキをのどに詰まらせそうになり、慌てて紅茶を飲む。

 この声・・・・後ろを振り向くと、そこにはビジネスバッグを持った課長が立っていた。


「・・・か、課長??会社に戻ってきたんですか??」

「戻ってきてはまずいのか?」

「いえいえ、そういうわけでは。ただ、直帰だと聞いてましたので」

「その予定だったんだけど、ちょっと仕事を片付けてから帰ろうと思ってね・・・董子、2人きりのときの呼び方は?」

「そ、そうでした・・・和哉さん。」

「よくできました。ところで何食べてるの」

「え?こ、これは・・・」

 私が言い出す前に、課長は机の上にあるフタを手に取った。

 まずいっ!フタには商品名が書かれているんだああ!!しかし、時は既に遅し。

「初恋ショコラ?ああ・・・あのCMの。すごい名前だよね、これ」

「名前だけで、普通のカロリー控えめなチョコケーキなんですよっ。課長、フタ返して・・・」

 だけど課長はフタを手に持ったまま、私の机の上にある食べかけのチョコケーキに視線を移す。

「董子、食べさせて」

「は?」びっくりする私を気にすることなく課長が高橋くんの席に座って、私のまえにいる。

「ほら、はやく」

 ま、まじっすか・・・私に「あーん」をやれと?ううう・・・ここには私と課長しかいないし・・・い、いまだけよっ。恥ずかしいのはいまだけっ。

「・・・・どうぞ」

 私が差し出したケーキの一切れを、課長はにっこりわらって口に入れた。

「・・・へえ。これは濃厚な・・・」と味わう課長を見てドキドキする私は、変態なんだろうか。なんか、気持ち的に自分が食べられてるみたい・・・。


「それにしても濃厚なだけに口に残るな」

「そうですか?私はそんなこと・・・・んんんっ」

 後頭部を抑えられた私の口に課長の舌が入ってくる。ちょっとチョコレートの味がする・・・私の口の中を味わいつくすようなキスに、うっとり目を閉じてしまう。

 ここ会社なのに・・・・警備員の人がきたらばっちり見られちゃう・・・・だけど、気持ちよすぎて、終わってしまうのがイヤ。

「董子、仕事は終わってる?」

「は、はい。あとは見直すだけで・・・」

「それは明日でいい。・・・キスだけじゃ足りない。俺の部屋へいこう」

「え。で、でも。明日会社・・・」

「董子の着替えは置いてあるよね。じゃあ問題ない」

 こうなった課長に勝てる方法なんて私にはない。それにキスだけじゃ足りないのは私も同じだった。


読了ありがとうございました。

誤字脱字、言葉使いの間違いなどがありましたら、お知らせください。

ちょっと感想でも書いちゃおうかなと思ったら、ぜひ書いていただけるとうれしいです!!


現在連載中の「天使の前髪」・・・本編ちまちま作成中です。

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