陽だまりの未来
オリジナルです。
同期と付き合ってる前田小冬の話。
週末の居酒屋は混雑していて私たちは20分ほど待ってようやく席に座ることができた。
「なあ小冬」
「なに春哉」
「俺たち、もう付き合って3年だよな」
「あー、そうね。」
私は前田小冬。向かいで中ジョッキをごくごくと飲んで“ぷはー”と満足げにしているのは杉野春哉。私たちは共に30歳で、今年で付き合って3年目だ。
双方の親からも公認で、私なんてこのところずっと親(主に母親)から「いつお嫁に行くの?親戚にも話しておかなくちゃいけないんだから、さっさと決めてちょうだい」などと電話で締めの言葉として言われている。
確かに同期も結婚している人が増えてるし、そういえば今日は後輩の結婚式に招待されたっけ。「先輩よりぃー、お先に決まっちゃってすみませええ~ん」って満面の笑みで私に招待状を渡してくれたけど・・・あんたがウェディング・ハイ状態で仕事のミスを連発してくれたのを尻拭い残業をした私や同じ部署の人間は忘れない。
「彼がぁ、奥さんには家にいてもらいたいって言うんですう」と寿退社を匂わせてくれたときには、部で何人がひそかに「彼氏、グッジョブ!!」と心の中で親指をたてたことか(むろん、私もその1人)。
「あのさ・・・小冬」
「なに?」
「俺たち、付き合って3年たつよな」
「うん。さっきもそう言ってたね」
「俺けっこう貯金たまったんだよね」
「ほお~、そりゃよかったじゃないの。お金は大事よ。」
「俺、家事全般をすること苦じゃないの知ってるよね」
「うん。知ってる。春哉っていいダンナになると思うよ」
「じゃあ、俺と結婚しない?」
・・・・ハイボールを吹き出さなかった自分を褒めてあげたい。
「えーっと、春哉さん?今、ここで言うこと?」
「言いたくなったんだからしょうがないじゃないか。最近は、いつ言おうかずっと考えててタイミング計ってたんだけど、どうにも難しくて」
もしかして、それで最近何か言いたげな顔をしてたのか。この人。
互いになんだか無口になってしまい、ちょっと気まずい。
「・・・・あのさ、店出ようか」
「う、うん。出よう」
互いに黙ったまま駅までの道を並んで歩く。
ふと道沿いにあるコンビニが目に入った。窓には“初恋ショコラ”を宣伝するアイドルグループのポスターが貼られていた。
どうやら私はそのポスターをじっと見ていたらしく、隣にいた春哉もそれに気づいたらしい。
「初恋ショコラ買っていこうか。」
そういえば、私たちが付き合ったきっかけは“初恋ショコラ”だった・・・・。
同期が集まった飲み会で、偶然隣に座った春哉が私のケータイの待ち受けを目にして驚いた。
「前田、お前のケータイの待ち受け・・・」
「・・・・ファンなのよ」
私の携帯の待ち受けは人気男性アイドルグループの一人で、歌うときはわりとセンターが多いクールなキャラクターの彼だ。仕事で疲れ果てていたときに偶然テレビで目にして、すっかりはまってしまった。
アイドルのコンサートに行ったのも、うちわとペンライトをかってしまったのも彼らが初めて。ついでに言うなら週末の癒しは彼らのライブDVDを見て、ハイボール缶を飲みながらうっとりすることだ。
「このグループって“初恋ショコラ”のCMに出ているよな。前田は初恋ショコラをもう食べたのか?」
「当たり前。杉野、どうしてそんなこと聞くの?」
「・・・だ」
「は?」
「俺、結構甘いもの好きなんだけど、これだけは名前が恥ずかしくてどうしても買えないんだ」
「杉野、気にしすぎだよ~。コンビニの店員なんていちいち客の買ったものなんて覚えてないって」
「でも、恥ずかしいものは恥ずかしい。前田、頼む。お金はあとで払うから俺に“初恋ショコラ”を買ってきてくれ」
目の前で拝まれてしまい、私は次の日に杉野に“初恋ショコラ”を買ってきたのだった。
すると、お礼にとなぜか食事に誘われ「まるで“わらしべ長者”のようだ」と思いつつ、杉野は嫌いじゃないし、夕飯つくる手間が省けるからいいかと了解。
それから3年が経過し、春哉は「恋人」として隣にいるわけだ。
初恋ショコラを2つ買って、春哉の部屋で向かい合う。
「小冬は俺が甘いものが好きだと聞いても、けなさないし笑ったりしないだろ?」
「春哉だって、私がアイドル好きでもけなさないじゃない。同じよ。」
「そうだけど、小冬のそばは居心地がいいんだ。この先歳をとっても、小冬となら陽だまりで一緒にのんびりできるかなって思った。」
「なによそれー。」
私がぷっと吹き出すと、春哉も「なんか俺、変なこといってるよな」と吹き出す。
だけど、将来歳を取った私たちが陽だまりでのんびりしてる様は悪くない・・・・それは、確かにそう思う。
「小冬、さっきのアレ、やっぱりなし」
急に春哉が真面目な顔になる。
「はあ?!」
「素面のときに、ちゃんと言う。だから、さっきのは忘れろ」
「いーや、忘れない♪」
「忘れてください、小冬様。だけど、気持ちだけは変わらないから答えだけは考えておいて」
そういうと、春哉は私を引き寄せキスをした。
「そういえば、初恋ショコラのコピーは“ケーキとぼくのキス、どっちがすき?”だっけ。小冬はどっちが好き?」
どっちって・・・・私は返事の代わりに自分からキスを返した。
読了ありがとうございました。
誤字脱字、言葉使いの間違いなどがありましたら、お知らせください。
ちょっと感想でも書いちゃおうかなと思ったら、ぜひ書いていただけるとうれしいです!!
某ジャニーズのファンである私がコンサートで必ず買うのは
パンフとうちわです。
ペンライトもコンサートごとにデザインが違うので
ちょっと心が動くのですが、うちわとパンフは溜め込めても
ペンライトは・・・ちょっと無理。




