Operation chocolate cake
「Approach with one step ,two steps, three steps」より
苑子が長兄・伊織にばれないように初恋ショコラを食べる話。
その日、私はおりくんが家に来ないことと、そうくんも帰りが遅いことを確認したうえで温めていた計画を実行に移すことにした。
「よし。誰もいないわね」
人気の男子アイドルグループが宣伝してるチョコレートケーキ“初恋ショコラ”。一度食べてみたくて、私はお兄ちゃんたちが家にいない日を見計らって購入したのだった。
おととい、私は初恋ショコラを買う計画を親友の樹里ちゃんに打ち明けた。
「ただのケーキなんだからバレたってなんてことないって。だいたい苑子が食べてるのを見たって聡太くんはからかうだけだと思うけど?」
「そうくんは別にどうでもいいの。問題は、おりくんだよ」
「あ~~~。伊織さんがこっちに戻ってこない日ってあらかじめ分からないの?」
私の計画を聞いた樹里ちゃんは大げさだよと笑ったけど、おりくんの話をしたら納得したようだった。
「おりくんにさりげなく聞けば分かると思う」
「さりげなくって・・・・またハードルの高いこと。伊織さんって昔っから苑子の考え見抜く速さは世界一じゃん。」
「わ、私だって、昔よりは成長してるもん!!」
「そうだよねー。大学生の彼氏もできたし。」
樹里ちゃんにからかわれて、私は顔が真っ赤になる。
「彼氏といえば、私いつでも協力してあげるからね!」
「へ?何を?」
「・・・・それはボケ?・・・なわけないか。苑子に限って。」
「む。樹里ちゃん失礼な」
「うふふふ。でも事前に言ってくれればアリバイ作りに協力しちゃうからさ。」
「な、ないわよう!!そんなのぜんっぜん!!」
樹里ちゃんが言う“協力”の意味が分かって思わず声が大きくなってしまい、クラスの人たちの注目を浴びてしまった・・・・恥ずかしすぎる。
「もう、樹里ちゃんったら」
思わず、先週の教室でのやりとりを思い出して1人で顔を赤くしてしまう。
だ、だいたい・・・・キスだって・・・・つ、つい最近だっていうのに・・・・今思い出してもどきどきしちゃう。
そして、今私の目の前には透明なプラスチックの容器と黒色のフタに金のリボンがかけられた外見のチョコレートケーキが鎮座しているわけだ。
「今のうちに食べちゃお・・・いただきます」
紅茶をマグに入れてフォークを持って、いざ一口。
「おいし~~っ!何これっ」
ふんわりしたスポンジ、なめらかで濃厚なチョコレートクリーム・・・なのに全然しつこくなくて。
一口食べるごとに幸せな気分になるのは間違いないっ。
「・・・駿介くんにも食べてほしいな」
おりくんと同じ大学、同じ学部の内藤駿介くん・・・・最近になってようやく「駿介くん」と呼べるようになった私の彼氏。駿介くんのことを考えると顔がほころんでしまう。
「ただいまー。苑子、帰ってるんだろ?」
この声・・・・おりくんっ!どうしてええええっ?!私はあわててケーキのフタをコンビニの袋に捨てた。
「おかえりなさい。えっとー、お、おりくん?き、今日は帰ってこないって言ってなかった?」
「ちょっと家にある本が必要になって一度戻ってきたんだ。苑子。俺に隠れて何か・・・・なんだ、ケーキ食べてたのか」
「う、うんっ。そうだよ。自分しかいないと思って一個しか買ってこなかったから、おりくんの分ないの。ごめんね」
おりくんはテーブルの上のケーキをじっと見ている。まさか、ケーキの外見だけで名称まで分かるわけ?
「苑子、そのケーキうまそうだね。」
「う、うん。美味しいよ?一口食べる?」
私が進めると、おりくんは「いいのか?」といって一口食べた。
「美味いな。何て名前のケーキ?」
「え。えーっと、忘れちゃった~」
ケーキの名前を言ったら、絶対おりくんに尋問されちゃう。
「その袋にケーキのフタ入ってんでしょ。苑子の行動パターンなんてお見通しだよ?」
ほらさっさと出しなさい・・・おりくんのニコニコとした笑顔の裏に見える黒さに私は負けた・・・・。
数日後、駿介くんが不思議そうに私に言った。
「伊織さんが、内藤はチョコレートケーキとはまだ比較されてないようで安心したよって言ってたけどなんだったのかなあ。苑子ちゃん、意味分かる?」
おりくん・・・・なに駿介くんに言っちゃってるのよおおおっ!!
「え。さ、さあ?おりくん、ときおり意味不明なこと言うから」
「意味を知ってるなら教えてくれないかなあ、苑子ちゃん」
・・・・・ごまかすとすぐばれる自分の性格がこれほど恨めしいと思ったことはない。
私が“初恋ショコラ”のことを話すはめになったのは言うまでもない。
読了ありがとうございました。
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「Approach with one step ,two steps, three steps」について:
”泰斗高校恋愛事情シリーズ”の2作目にあたります。
登場人物
武内苑子 泰斗高校図書委員会1年生(この短編時は2年生です)
内藤駿介 苑子が片思いしている相手(この短編時は彼氏です)
武内伊織 苑子の長兄。妹に激甘で、駿介にとっては最強・最大の障壁。
武内聡太 苑子の次兄。駿介の部活での先輩にあたる。
樹里ちゃん 苑子の親友




