†3† 酔いつぶれたトカゲ
男が出て行くと、急に静けさが気になった。鳥のさえずりも、風の音も、虫の声も、何もかも聞えない。
ソラはふと気付いた。こうしている今も、先ほどの事を忘れかかっている自分に。男の名は・・フィリヌバ、フィリヌバ、心の中で何度も呼ぶ。すると今度は女の名がするりと抜けてしまった。
「・・・何なんだよ・・これ・・・・・・・」
枕に顔を押し付けると、バランスを崩して寝具から落ちてしまった。ずん、と音がして、体に鈍い痛みが走る。
「いってぇ・・・・・」
椅子に座ろうと前を見ると、先ほど男が、いや、フィリヌバがぴったり閉じたはずのドアが開いている。その隙間から、巨大な目がこちらを見つめている。ソラはもう一つ気になることを見つけた。アルコールの臭いがする。
「お前は誰だっ」
ソラはすごんだ。しかしドアの向こうのそれはその反応を楽しんでいるようにしか見えなかった。
「悪魔、悪魔。人間じゃあない。ウック・・パナムが言った。人じゃない。人じゃない」
「黙れ!!」
ソラは立てかけてあった剣を抜いた。声はぴたりとやんだ。それでも面白がっているような目は消えない。
「悪魔、悪魔、悪魔の子。君はどこからやってきた?あの世?魔界?はたまた地獄?」
目がギョロギョロと動く。話すほどアルコールの臭いがツンと鼻につく。
「悪魔だ。悪魔」
「お前が何故ここにいる、ウリグラ」
ギョロギョロ動いていた目が引き離され、フィリヌバが変な形をした巨大なトカゲの首根っこを掴んで入ってきた。
「パナムは、どうだった?」
「まだ気を失ってる。それより、悪かったな。ソラ」
「ケッ悪魔なんかに謝る必要ありゃあせんって、フィリヌバさん」
ソラは挑発を無視して言った。
「大丈夫。平気だから」
「平気?剣を掴んだのにってか?え?」
「黙れ!」
フィリヌバがトカゲを睨んで言うと、それは子猫のようにおとなしくなった。
「ソラ、一応紹介しておくよ。このトカゲがウリグラ。酒を飲んでるというか、酒に呑まれてるようなヤツだ。・・どうやらお前のことを気に入ってないみたいだな」
「そうだな」
「とりあえず、これはちゃんとしつけておくから、気にしないでくれ」
そういうとフィリヌバはウリグラを引きずって出て行った。