†2† フィリヌバ
意識を取り戻し、目を開けると藁のようなもので作られた寝具に横にされていた。
「起きたか?」
と、先ほどの声が言った。ソラはうぅっ、と呻きながら体を起こした。そして男を見た。灰色の髪を長く伸ばし、一つに束ねている。目も髪と同じ灰色だ。整った顔立ちをして、背には両手剣がある。
「・・時空の・・狭間・か・・・・?」
ソラは訊ねた。男は驚いたような表情をして言った。
「知っているのか?俺は始めてきたとき地獄かと思ったぞ」
そういって男は椅子を自分の方へ引き寄せると座った。
「自己紹介がまだだな。俺はフィリヌバ。お前と同じように時間も場所もある世界から来た。」
「ここは、時間も場所もない・・。ただ、点が在るだけ・・」
よく知っているんだな、とフィルヌバは言った。全て調べ上げたのだ。アリバンと一緒に。アリバンはどうしているのだろう?
「お前は?」
フィリヌバに言われて顔を上げた。
「俺はソラ。金貸しをやってた」
「金貸し?そんな仕事を何で?」
「父さんが・・」
一呼吸してまた話した。
「やってたんだ。金貸し。でも・・・・」
あの時のことを思い出すと、涙がこみ上げてくる。優しかった父。父が母と子を裏切ったなんて・・・。
「でも・・?」
「逃げたんだ。父さん。別の女の人と」
そうか、とフィリヌバが言った。奥の部屋から女の人が喚く声が聞えてきた。
なんだろう?と思っていると、フィリヌバがそれを察して苦笑しながら言った。
「パナムが悪魔が来たと思っていたんだよ。悪魔が恐ろしくて、よくああやって叫ぶんだ。でも、彼女は特別な力に恵まれている。・・何かあったら彼女に相談するのが無難だろう」
叫び声がぱったり途絶えて、木製のドアが開いた。
「パナム」
緑の瞳と青白い肌が隙間から見える。
「私は予知したの。ずっとずっと昔。悪魔がここに来るって」
「わかったよ、でもこいつは悪魔じゃない。だろ?紹介するよソラ。彼女がパナム」
パナムは恐る恐るというように部屋へ入ってきた。青白い肌とは対照的に燃えるような赤毛だ。
「はじめまして、パナム。俺はソラ。よろしく」
「・・・・。ない」
どうした?とフィリヌバが言った。しかしその声は、パナムに届いていなかった。
「何故?何故貴方には何も無いの?」
「どういうこと?」
パナムは目をかっと開いている。
「感じないの。何も。悪魔ならわかるわ。でも・・・・貴方は何も感じない。何故?貴方は何?」
パナムよせ、とフィリヌバが焦ったように言う。
「何?どういうこと?俺は人だ。人間だ」
「いいえ違うわ。人もわかるもの。違う、貴方は違う」
「パナム、やめろ!!」
フィリヌバが焦って叫ぶ。今のパナムは何も聞えていないし、見えてもいない。ソラは寒気に襲われた。
「貴方は、何?何故?貴方は・・・そう貴方は、そうよ、きっとそう!貴方は・・・……―――」
パナムががくりと崩れた。ソラが恐る恐る呼びかけた。
「パナム?」
ピクリとも動かず、倒れたままだ。
「すまない、ソラ。こういうことは滅多にないんだが・・・」
フィリヌバも動揺を隠せないようだった。
「俺は・・・人じゃないのか・・・?」
「ソラ、その質問はパナムしか答えられないだろう。・・・どちらにせよ、今は無理だ。ちょと待っていてくれ。パナムを寝かしておくから」
フィリヌバはそういうと、パナムを抱きかかえて出て行った。