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このコーヒーを飲み終えたら  作者: 亨利(ヘンリー)


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10/10

エピローグ

********************


「このコーヒー美味しいな」


(そうだ。思い出した)

(これ、いつも母さんが淹れてたコーヒーだ)


(紗英と隆志なんて家族は、俺にはいないや)

(・・・二人は確か母さんの知り合いで、あの踏切で事故に遭った親子だったよな)


(・・・・・・本城奈美恵)

(・・・そうか覚えてるぞ。俺が中学の頃、同じあの踏切で自殺したクラスメイトだ)

(あの子は、いつも一人でいた。まるで“そこにいない人”みたいに)


(カウンセリングのメンバーも、俺に関係のある人たちだったのかな?)

(或いはその悩みが、俺に心理的な関係があったのか・・・?)

(なんでそんな赤の他人まで、俺の夢に出てくるんだ?)


(・・・まったくおかしな話じゃないか)


(俺? 俺は、下村達也だ。どうやら、これだけは間違いなさそうだ)

 達也は少し笑った。


********************


「まさか父さんまで、あの事故で亡くなってたなんて、知らなかったわよね。鉄道事故を無くそうと、そういう仕事に就いたのにね」

 松井かなみは、病室のベッドで沈黙を続ける達也に、そう話しかけた。

「達也さんの脳波は・・・もう」

 主治医の町田は、ベッドのそばの、松井かなみにそう告げた。

「既に三か月この状態が続いて、・・・・・・これ以上、辛いことを続けさせたくありません」

 そう言いながら、植物人間となった息子の手を握って、涙を流した。

「かなみさん、本当にいいんですね」

「はい、先生のカウンセリングの会に参加させていただいて、他の相談者さんのお姿を見たら、私はこの子の分まで、強く生きていかなくちゃと思ったんです」

「では、最後に、何かしてあげたいことはないですか?」

「ゆっくり、コーヒーを飲ませてやりたいです」

「コーヒーを?」

「この子が最後のコーヒーを飲み終えるまで、待ってやってください」

 町田医師は、ベッドサイドテーブルに置かれたコーヒーカップに目をやって、

「では、コーヒーが冷めましたら・・・」


 やがて生命維持装置は外された。


********************


(なんだか、眠い・・・)


 達也は深い意識の奥底で、母親の淹れたコーヒーを飲み終えた。


「おかわりはいいの?」

 どこかで、松井かなみの声がしたような気がしたが、達也は答えなかった。



 やがて、コーヒーの香りは、ゆっくりと遠ざかっていった。



          了

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