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実験 1

同じ事実、同じ結末で三稿作りました。どの型かは伏せています。まずは推理せず、読み上げでも聞いてみてください。


### 第一稿


昨夜、夫は衣類を詰めた鞄を持って家を出た。


「もう家族のふりをするのは疲れた」


玄関でそう言い、鍵を靴箱の上へ置いた。行き先は尋ねなかった。扉が閉まったあと、私は居間の照明を消し、寝室へ入った。


翌朝、冷蔵庫を開けた。上段に保存容器が一つ残っていた。中身は肉じゃがだった。夫が残業から帰ったときに食べられるよう、昨夜作っておいたものだ。


蓋に貼ったラベルには、作った日付が書いてある。賞味期限は明日までだった。


私は容器を取り出し、中身を生ごみ用の袋へ捨てた。じゃがいも、玉ねぎ、牛肉が袋の底へ落ちた。容器は流し台へ置き、洗剤をつけて洗った。


水気を拭き、食器棚へ戻そうとして手を止めた。棚には同じ大きさの容器が五つある。二人分の作り置きをするために買ったものだった。


一人なら、六つもいらない。


私は洗った容器を食器棚へ戻さず、不用品を入れる箱へ置いた。冷蔵庫へ戻ると、上段が空いていた。卵が六個、牛乳が一本、味噌の容器が一つ見える。


買い物へ行く前に、必要なものを紙へ書いた。


卵。豆腐。自分が食べたい魚。


二人分と書きかけた文字を消し、一人分と書き直した。


### 第二稿


昨夜、夫は紺色の旅行鞄へシャツと下着を押し込み、ファスナーを乱暴に閉めた。


「もう家族のふりをするのは疲れた」


低い声が玄関の壁に当たり、狭い廊下へ残った。靴箱の上へ置かれた鍵は木の天板を硬く打ち、夫の革靴が床をこする音に続いて、扉の蝶番がかすかに鳴った。外から入り込んだ九月の湿った空気には、雨に濡れたアスファルトの匂いが混じっていた。


翌朝、裸足で台所へ入ると、床の冷たさが足裏へ伝わった。冷蔵庫を開けた途端、白い冷気が手首の産毛を撫で、味噌と切った葱と冷えた金属の匂いが鼻へ届いた。


上段には、透明な保存容器が一つあった。曇った蓋の裏側に細かな水滴が並び、煮汁の脂が黄色く固まっている。蓋へ貼った白いラベルには、青いペンで昨日の日付が書かれていた。賞味期限は明日までだった。


爪を蓋の角へ差し込む。ぱき、と薄い音がして、甘辛い醤油と牛脂の匂いが冷気の中へ広がった。ラップは煮汁を吸って肉へ張り付き、剥がすたび、ぺり、ぺり、と湿った音を立てた。


容器を傾けると、煮崩れたじゃがいもが袋へ落ちた。続いて半透明の玉ねぎ、縮んだ牛肉、橙色の人参が、ぬるりと容器の角を滑った。袋の底で煮汁が跳ね、手の甲へ冷たい雫が一粒ついた。


蛇口をひねると、水音が空いた台所へ響いた。容器の内側には脂が残り、スポンジを何度滑らせても指先にぬめりが返ってきた。柑橘の香りの洗剤を足すと、白い泡が排水口へ流れた。


洗い終えた容器を持ち上げる。食器棚には同じものが五つ重なっていた。私は六つ目を重ねず、不用品を入れる段ボールへ置いた。


冷蔵庫の上段には白い棚板が広がっていた。その奥で、モーターの低い唸りだけが続いていた。


### 第三稿


昨夜、夫は旅行鞄を玄関へ運びながら言った。


「もう家族のふりをするのは疲れた」


私は台所に立ったまま、その言葉を聞いた。鍋の肉じゃがには、夫が好きな形を残したじゃがいもが入っていた。煮崩れたものは自分の皿へよそい、角の残ったものだけを保存容器へ詰めたばかりだった。


夫は靴箱の上へ鍵を置き、家を出た。容器は冷蔵庫へ入れた。長く置けば味が染みるから、明日の朝になれば今夜よりおいしくなるはずだった。


翌朝、冷蔵庫を開けると、肉じゃがは昨夜と同じ場所にあった。蓋に貼った日付は昨日、賞味期限は明日。まだ食べられる。悪くなったものは何もなかった。


容器を出し、蓋を開けた。冷えた煮汁の表面には、白い脂が薄く固まっていた。


今夜、夫は帰らない。


明日も帰らない。


味の染みたじゃがいもを喜ぶ人は、もうこの家にはいない。


私は生ごみ用の袋を広げた。しかし、容器を傾けても、最初のじゃがいもが角に引っかかって落ちなかった。流し台の上で二度振ると、形を残して煮たじゃがいもは、重い音を立てて袋の底へ落ちた。


容器を洗った。脂のぬめりが取れるまで、スポンジを何度も往復させた。洗剤を流し終えたあとも、指で内側を確かめた。


食器棚には、同じ保存容器が五つ並んでいた。休日に二人分の作り置きをして、平日の帰宅時間が違っても同じものを食べるために買った六個組だった。


私は洗った一つを重ねず、調理台に残した。


昼になったら、この容器へ自分のためのおかずを入れてもいい。捨てるのは肉じゃがだけでよかった。


冷蔵庫の空いた上段へ、昨夜は入らなかった麦茶の瓶を置いた。扉を閉める直前、瓶の取っ手がこちらを向くように少し回した。


### 判定項目


三稿を続けて読んだ直後に、次を選んでください。同じ稿を複数回選んでも構いません。


1. 最も読みやすい

2. 最も主人公のそばにいる感じがした

3. 最も場面が見えた

4. 最も続きを読みたい

5. 最も評価を押したい


その後、十分ほど別のことをしてから、本文を見ずに「覚えている物・音・動作」を挙げてください。そこまで終わったら、三稿の正体と、かおるこさんの反応から分かったことを開示します。


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