潤 ー花の光ー
この本は月下花物語の第1章です。この本の内容は登場する4人の物語で構成されています。ぜひ読んでみてください。(現時点、未公開)
「旅に出よ〜♪あの人に会いに行こ〜」
パフ色の髪、犬のしっぽのように飛び出たくせっ毛、暖かい目つき、潤は冒険者には向かないはずの泣き虫で優しい心の持ち主。それでもあの人に会いに行かなければならない。伝えなければならない。
一、仮面の少年
「準備完了!出発だ!」
潤は生きているかも分からない人を探して、たった一人で旅に出る。月海を目指して。
出発してから何回、季節が巡ったのだろうか。何度、花の芽吹くのを見て、何度、冷たくて気持ちのいい川を渡って、何度、秋の風に吹かれて、何度枯れ葉を踏みしめただろう。やっとの思いで最初に着いたのは色が消えた森。通称灰の森だ。ここは何百年も前に色が燃え尽きてしまったらしい。その時の火をつけた犯人である魔女がまだこの森に住み着いてるなんて噂もある。早く森を抜けようと足をはやめたその時、何かの気配がした。消えたり、現れたり、なんだか人じゃないような気がするくらいだ。
(振り返っちゃいけない気がする…、早く進もう)
「…バンッ」
謎の声が森に響いたが、潤の耳には届かなかった。
灰の森を抜けてから、旅はおかしいくらい順調に進んだ。獣の山に登り、氷の洞窟に入り、嵐の谷を渡った。それでも、獣の山に獣はおらず、嵐の谷の嵐は弱まっていた。怖くなるほどに旅は進んだ。
そんなある日、潤は不思議な少年に出会った。月の仮面を被った、6、7歳ぐらいの少年だ。髪は綺麗な紺色で星のようなピンがキラキラと光っていた。なんだか人を寄せつけないオーラがあったが、そんなことは気にせず潤は優しく話しかけた。
「どうしたの?君、迷子?」
少年は首を振って言った。
「お姉ちゃんを探してるの、家からいなくなっちゃって、、」
「それは大変だ、一緒に探そう。君の名前は?」
潤は少年と旅を続けた。少年の名はアザル。年齢は8らしい。背が小さくて、良く間違われるんだとか。
二、浮かんだ少女
あれから、もう季節は2週するほど、2人で旅を続けた。アザルは潤にとても楽しそうに話しかける。お姉ちゃんとの思い出やアザルの家から見えるとても綺麗な山桜、小さい頃見た不思議な夢を。だが、その2年間でアザルは一度も仮面を外さなかった。アザルはもう10歳になり、背も潤の方ほどまで伸びていた。
ある日、アザルは気まずそうに話し始めた。
それはずっと気になっていた仮面についてだった。「この仮面はお姉ちゃんが作ってくれたの。ごめんね、って言ってた。だから、返さないと」
「え?返すの?」
潤は不意に聞いてしまった。
「うん、返す、ごめんねでさよならは嫌だから」
アザルは真剣に言った。そんな会話をして、数週間たった日、2人は海の森にたどり着いた。そこにはクラゲのようにゆらゆらと浮かぶ少女がいた。ちょうどアザルのような綺麗な紺色のウルフカットの髪に、真っ黒のワンピース。そのワンピースには小さな星や雫が垂れていた。
「お、お姉ちゃん…?」
アザルが1歩前に出て言った。
その瞬間、その少女は逃げようとしたように見えた。
「お姉ちゃん!こんなところにいたの?帰ろ?」
というアザルの泣き出しそうな声で立ち止まった。
そして、潤を不思議そうに見てから
「私といちゃダメ、指だって私のせいなのに」
と。確かにアザルの中指は少し歪だ。それとお姉さんに何か関係があるみたいだ。
「違う!これはただの怪我だよ!」
とアザルが言った。そしてすぐに
「違うの、全部私のせいなの」
とお姉さんが言った。その瞬間、髪は舞い上がり、目は真っ黒になり、ワンピースは肩から透明になっていった。
潤は気づいた。このお姉さんはくらげの種族なのではないか。ずっと昔にあの人に読んでもらった、あの本に書いてあった、くらげ。くらげには能力がある。宙に浮くこと、消滅すること、そして無意識の毒。
そんなことを考えていた時、アザルが仮面をはずそうとしながら言った。
「これ、返す」
「だめ、外しちゃだめ、つけてて」
と焦ったように叫びながらお姉さんが言った。
「ううん、返すの」
とアザルは仮面を外してしまった。
そこには落ち着いた少年の顔があった。そして、次の瞬間、仮面からキラキラと光が出た。
光はアザルの手から肩へと広がり、風に流されていく。消えていく。
頭が追いつかなかった。
「い、いや、だめ、行っちゃだめ!」
崩れ落ち、涙を流しながらお姉さんが言った。
それを見てアザルは
「みずくねぇ、綺麗だね、あの時見た星空みたい」
といった。満面の笑みで。そして、尽きた。消えてしまったのだ。すると、むくりとお姉さんが立ち上がり、呟いた
「消えただけ、死んでない」
また、彼女の髪が舞い上がり、朝と夜を繰り返した。潤は怖がりながらも
「大丈夫?」
と声をかけた。すると、髪も時間も戻り、ハッとしたように言った。
「私の消える先にいるはず」
震える声で続けた
「行かなきゃ、迎えに」
そう言って、手をパパンと叩いた。その瞬間、彼女のワンピースからふわりふわりとアザミの花びらとくらげのようなものが舞い上がり、アザルのように消えていった。
三、不思議
「なん…で、どこに、き、消えた…?」
潤は悲しくはなかった。ただ怖かった、自分は幻覚を見ていたのだろうか、あの少年と旅した時間は確かに本物だった。では何故、いない?あの少女は?どこに消えた?
そこにバンッという声と共に青年が現れた。悪い目つき、濃い灰色のマッシュ、黒いマント。手には羊の杖を持った青年だ。その青年は、本当に小さな声で
「間に合わなかったか」
といった。このことを知っていた?そして
「みずく、アザル、待ってろ」
と言ったあと、潤を睨むようにに見つめた。まるであの少女みたいに。そして、スタスタと歩いていった。時々、後ろを振り向くものだから、潤に着いてきて欲しいのかと思うくらいだった。何となく、その青年に着いていった。すると、思い出の谷にたどり着いた。そこにはそこにいる生き物の記憶が浮かんでいる。そして、その中にさっきの少女の姿があった。とても綺麗に笑っている。誰の記憶なのだろうか。彼女よりも背が大きくて、髪が目にかかって…。
(もしかして、さっきの青年なのかな?)
そんなことを考えていると、ふわりと新たな記憶が舞い上がった。それは潤の記憶だった。ずっと昔、あの人と喧嘩したことだった。その喧嘩で、あの人は遊んでくれなくなった。そして、居なくなったんだった。いつか、忘れてしまっていた記憶。
思い出にふけっていると、いきなり、青年は谷に飛び込んだ。下も見えないほどに深い谷だ。落ちたら死んでしまう。その時、響いた声で
「来ないのか?」
と声が聞こえた。潤が怖がりながら、迷っていると、胸の辺りが引っ張られ、落ちてしまった。
もう何分落ちてるのだろう。まるで不思議の国のアリスの穴みたいだ。その谷の中は真っ暗で、ポツンといるくらげとひつじがほんのりと照らしていた。
「この谷に終わりはない。あるのは月海だけ」
「げ、月海?![#「?!」は縦中横]」
この谷の先にはあの人がいるはずの月海があるという。だが、月海は神話の世界に出てくるような場所だ。
「着地はどうするの?」
「…」
潤はどんどん不安になってきた。こんなに落ちて、着地で無事なはずがない。もう数分落ちていくと、花に囲まれた本があった。それが開くと地面が見えた。落ちると思った瞬間、青年の「アサ!」という声が聞こえ、ふんわりとした感触が背中に伝わった。
「ひ、ひつじ?」
潤はふわふわした羊の上にいたのだ。驚いているとその羊は「メェー!!」と怒ったように潤をどかした。
「痛っ」
下は水だった。ピチャピチャと進んでいくが、気づくと青年はいなかった。
四、再びの光
ずっと夜が続いてるようで、真っ暗だ。だが、気づいたことがある。それはここもくらげやクリオネ、ひつじが照らしているということと、人の周りにはその人に関係あるものが出てくること。さっきの青年だったら、ひつじ、潤なら山桜が咲いていた。
もし、ここから出れなかったらどうすれば…。潤は急に不安になってきた。それでもあの人を見つけなければならない。それは絶対に忘れていなかった。
またピチャリピチャリと進んでいくと、くらげがたくさん見えてきた。ここにさっきの少女がいたのかもしれない。
ずっと進んでいくと誰かの笑い声が聞こえた。弾んだ声も、がなり声も、煽り声も、泣き声も…。
そこは感情の行き着く先だった。思い出の谷の記憶には感情が織り込まれている。その感情はゆっくりと滴り落ち、この月海にたどり着くのだ。この感情が無くなればその人の記憶から無くなってしまう。
そんな感情の嵐を抜ける直前、しっかりと耳に響いた。
「もう、知らないから!#€*なんかいなくなっちゃえばいい!」
あの日、言ってしまった言葉。取り消せない言葉。後悔した言葉…。ごめんねって伝えたい。いなくなっちゃだめだよって言わなくちゃ。そして、すぐに新しい声が響いた。
「ごめんなさい…」
自分の掠れた声。戻ってきてと何回、何十回願っただろう。毎日、そのことで頭がいっぱいだった。旅に出て、ようやく、開放されたような気分になっていた。でも違う。あの人のことを体で考えてたから、頭に隙間が空いていたんだ。
そんな時、ほのかな光があった。とても大きく縁取られたその光はくらげでも、羊でもないなにかが放っていた。
「くじら…」
そういえばあの人もくじらだったな。種族って言ってたけど、くらげと同じなのかな。
(潤、僕だよ。やっときたんだな)
確かに聞き覚えがあった。優しくて、年齢の割には低くて、懐かしい声。あの人だ。
潤は笑顔を作り、呟くように言った。
「こんなところにいたの?イサナ、どうしてこんな姿なの?」
あの時のようにかすれている。視界がぼやけて見えなくなる。じんわりと暖かい涙が頬を伝っても、この声は届かない。ふと、イサナの周りに咲くアザミの花に気がついた。アザミの花、花言葉は孤立。
(あぁ、少し疲れちゃったな。)
アザルのように純粋な笑顔では居られない。いつしか、心を使い果たしたみたいだ。
(月海の光になるのも悪くはない。僕はずっと見てきた。あの日から。君の感情も、目に写ったものも、見ていた夢も。全部)
イサナはやけにゆっくりと潤に語りかけた。
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あなたは、この後の潤の言葉を選ぶことができる。あなたが読んできた潤を選んでください。
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「…光?」
1番、引かれた。心が吸い込まれるような感覚がした。もう、疲れてしまった。心が壊れかけている。それなら、最後に他の人のためになることを。そう、光になれれば。
(僕と月海を照らすかい?潤、君が決めなさい。)
イサナは潤の気持ちが全て見えているかのようにいう。
潤の頭は光になることの意味で埋まっていた。だが、ふと考えた。イザナと離れることは無い。誰にも嫌われない。悲しみを感じることもない。アザルがあの時話してくれたあの山桜のように咲き誇れたらどんなにいいことだろうか。
「たくさんお喋りができるな、イサナ。」
(そうか、ようこそ)
イサナはいつもの優しい声ではなく、低く、太い声で言った。潤はその声に不気味さを感じる気力もなかった。
「僕を、いや、俺を光にしてくれ。」
カスカスの声で呟いた。
イサナは潮を少し吹いて、潤の前で口を大きく開けた。
潤はとても綺麗な山桜の花を咲かせた。花は潤いを持ち、幹からはアザミの花が咲いた。キラキラと光っては来る感情たちを喜ばせた。イサナと、そしてアザルと眠りについた。
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「じゃあ、なんで居なくなったの」
アザミの花を横目に暖かい涙が頬をつたった時、残った心が溢れるように口から漏れるように潤は言った。
「そんな、あんな言葉本気にしないでよ。言った俺も悪いけど、本気にしたらダメだよ」
潤は泣き崩れながら自分を責めた。
「アザルのように純粋にも、少女のように優しくもできない。ねぇ、イサナ、なんで俺と遊んでくれたの?」
イサナは何も答えない。
「ねぇってば」
(潤、君の優しさは決して偽物なんかじゃない。)
「そんなこと聞いてない、答えてよ」
(ごめんな、潤)
そう言ったイサナは潮を吹いた。その瞬間、潤は気を失った。
懐かしい光景。イサナと読んだ本、内緒でイサナの隠れ家に泊まったんだっけ。イサナと遊んだボードゲーム、2人しかいないからつまらなかったな。
あれ?アザルだ。イサナ以外の夢を見るのは初めてだ。僕には大切な人が1人増えたんだな。アザルはどこに行ったんだろう。そういえば、イサナの周り、アザミの花が咲いていたな。アザルが通ったのだろうか。綺麗に光っていた。もしかして…
その瞬間、白い光が体を覆い、気が付けば家にたっていた。
「家だ、なんでだろう。久しぶりな気がする。昨日もいたのに」
潤にはイサナに会った記憶はなかった。記憶の奥底に微かに残るアザミの花はほんわりと光り、まるでアザルの笑っているようだった。
このシリーズは、3人の物語を出す予定です。
順番
第1章 花の光
第2章 少年の宝物
第3章 くらげの悲しみ
第4章 ひつじの恋




