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ep.8 第五部 第五十章・五十一章

第五十章:月面基地・エリカのクレーター —— 宇宙そらに輝くわがままの星


 アメリカ大統領を「親戚のおじさん」に変え、ホワイトハウスを巨大なティーサロンに作り替えたエリカ帝国。しかし、地上を制圧しただけでは、エリカの底なしの自意識は満たされませんでした。


「九条! ニューヨークから見上げる月が、ただの黄色い岩石なんて地味すぎるわ! 私が夜空を見上げたとき、月が私の顔で微笑んでいないなんて、宇宙の設計ミスよ!」


「……おやおや。ついに重力という名の制約さえも、あなたのわがままで突破せよとのことですね。……承知しました。では、人類史上最も贅沢な『月面工事』を開始しましょう」


<アポロ以来の衝撃、エリカの月面着陸>


 数ヶ月後。ケネディ宇宙センターから、シャンパンゴールドに輝く巨大ロケット『スター・エリカ号』が打ち上げられました。船内では、宇宙服をフリル付きに改造したエリカが、無重力の中で浮遊するタピオカをストローで追いかけています。


「……九条さん、無重力だと……煮干しも……泳いでます。……ここは、俺の新しい……隠れ場所コスモ・ダンボールに最適です」


 零士が月面着陸船の隅で震える中、艦隊は月へと到達。かつてニール・アームストロングが降り立った静かの海に、マリアが真っ先に降り立ちました。


「……月面は、ルナダストだらけですわ! こんな不潔な天体、わたくしが隅々まで磨き上げて、地球から見てもピカピカの鏡にして差し上げますわ!」


 マリアが最新鋭の「宇宙真空掃除機」を振り回し、月の表面を研磨し始める傍ら、小雪が月面に超極細の鋼線を張り巡らせ、巨大な図形を描き出します。


<月に刻まれる「聖女の微笑み」>


 地球上の人々は、その夜、信じられない光景を目にしました。

 望遠鏡を覗くまでもなく、夜空に浮かぶ月が、刻一刻とその姿を変えていったのです。


新呪文:『コスモ・パレイドリア(宇宙の錯覚)』

「全世界の人間は、今まさに、月を眺めることが『エリカ女王様の美しさを称える儀式』であり、月のクレーターの影が、実は彼女の完璧なウィンクにしか見えないという強烈な視覚補完状態に陥る」


 九条が放った地球規模の暗示と、月面に設置された巨大な反射パネル、そして小雪の鋼線アートが組み合わさり、月面には直径三千キロメートルの「エリカの顔」が浮かび上がりました。


「Oh... ムーンが、エリカに笑いかけている……。なんてビューティフルなんだ……」


 大統領も、パリの市民も、北京の老人も、夜空を見上げて涙を流しました。もはやエリカ帝国は、地球上の物理的な領土を超え、人類の「視界」そのものを支配する宇宙帝国へと昇華したのです。



第五十一章:全人類タピオカ化計画・完結編 —— 幸福の最後の一滴


 宇宙を手中に収めたエリカ。しかし、ここで九条は、かつてない「究極の計画」を提案します。それは、第一部で彼がエリカを作った時の真の目的——『全人類の救済』を完結させるためのものでした。


「エリカ様。世界から争いをなくすための、最後の手順に入りましょう。……人類が互いに憎しみ合うのは、彼らの体内の水分が、冷たく乾いた『現実』で満たされているからです」


「……何が言いたいのよ、九条。まどろっこしいわね」


「世界の海、川、そして水道水。その全てを、あなたが吸い取ったストレスをエネルギーに変えて、『飲むだけで他人に優しくなれる究極のタピオカミルクティー』に変換します。……名付けて、全人類タピオカ化計画」


<代々木から宇宙へ、そして心の中へ>


 クリスタル・パレスのメインサーバーと、月面の反射パネルが共鳴を始めました。

 九条は、人類の集合無意識に直接アクセスし、最後の、そして最も巨大な「現像」を開始します。


「新呪文、その名も『全人類が、自分が今まさに、実は一粒の「タピオカ」であり、大きなティーカップ(地球)の中で、他のタピオカたちと仲良く寄り添って泳いでいるだけのかよわい存在であると確信し、隣の人間を「同じ味の仲間」として抱きしめたくなる』!」


 世界中の蛇口から、芳醇な茶の香りが漂うミルクティーが流れ出しました。

 戦場では兵士たちが銃を捨て、配給されたミルクティーを飲み交わし、「……俺たち、結局同じカップの中の具材じゃないか」と泣きながら和解。

 SNSでは誹謗中傷が消え、代わりに「今日の弾力」を称え合う平和な投稿だけが溢れました。


 エリカの「わがまま」という名の混沌が、九条の「暗示」という名の秩序によって、世界を一つの、甘く、丸く、少しだけマヌケな「楽園」へと作り替えたのです。


<エピローグ:現像所の日常は続く>


 それから数年後。

 北海道、エリカシティーのクリスタル・パレス。

 世界皇帝となったエリカは、依然としてソファに寝そべり、不機嫌そうにモニターを眺めていました。


「九条! 最近の火星の土の色、私の肌の色と合わないわ! もっとピンク色に染めなさい!」


「……やれやれ。火星のテラフォーミングならぬ、エリカフォーミングですか。……承知しました、エリカ様」


 九条は眼鏡を拭きながら、新しい紅茶を注ぎます。

 隣では、リンが「……もういいわ。私もこの生活、慣れちゃったしワン」と、すっかり暗示が定着した様子で書類を整理し、外では、真一と源斎が「どちらの火星焼きが美味しいか」を巡って、巨大な宇宙戦艦を調理器具にして戦っています。


 世界は、平和になりました。一人の聖女のわがままと、一人の詐欺師の知略。

 そして、彼らを信じた(あるいは暗示にかけられた)マヌケな仲間たちが作り上げた、この歪で完璧な物語。


 九条新の「現像所」には、今日も新しいカオスと、少しの幸せが持ち込まれます。


「……さて。次は、どこの次元を現像しましょうか?」

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