第二九~三十章(第一部 完)
ここらで一度、登場人物を整理しておきます。
■ 主要メンバー(プロジェクト・ゼロ)
九条 新
本作の主人公(にいつのまにか昇格)。元・警視庁の伝説的プロファイラーで、現在は「何でも屋」のリーダー。常に沈着冷静。 心理学を極限まで応用した「暗示(新呪文)」を操り、強敵の脳内に「ありもしない絶望」や「マヌケな確信」を植え付ける。 ※小説を書き始めた頃は、章ごとに主要メンバーの誰から主役になるイメージを持っていましたが、成り行きで九条を真打的に描いていることに気が付きました。
神崎 リン(かんざき りん)
元・警視庁の若きエリート警部補。九条を監視する名目で出向しているが、今や唯一の常識人としてツッコミと始末書作成に追われる苦労人。
鷹見
元・警察の凄腕スナイパー。現在は「変態的執着」を持つカメラマン。 あらゆる事象を「現像」することに命を懸けており、エリカの「マヌケな表情」やリンの「不機嫌な曲線美」を狙う。
エリカ
巨大宗教団体「天啓の銀河」の元・聖女。究極の自意識過剰で、息を吸うように他者を顎で使う。 本人はポンコツだが、異常なまでの「強運」と「混沌」を撒き散らし、彼女の周りでは物理法則すら歪む。
霧隠 零士
霧隠一族の末弟。超一流の身のこなしを持つが、極度の対人恐怖症で、基本的には段ボールの中に住んでいる。小雪とは「戦友」として惹かれ合っている。
■ 暗殺者ファミリー
霧隠 真一
零士の兄。一族の次期当主にして「最強のストーカー」。 エリカのヒップドロップに魅了され、現在は事務所の「掃除係」として、トイレ掃除とエリカの警護に命を燃やす。
雪見 小雪
雪見家の令嬢。可憐な美少女だが、指先の鋼線で周囲をミクロン単位で刻む癖がある。 零士と「乾物(煮干し・イカ)」を通じて心を通わせ、現在は事務所に居候中。暗殺ドルとしてバズった過去を持つ。
源斎
エリカの祖父で「隠居した暗殺王」。圧倒的な殺気を持つが、九条の暗示により現在は代々木公園の「ゲートボール界のキャプテン」として余生を謳歌している。
吹雪& 雷鬼
小雪の兄たち。全身をサイボーグ化したハイテク暗殺者だったが、九条に「脳内アップデートのフリーズ」を植え付けられ、現在は事務所の「光るインテリア」と化している。
■ 教団・警察関係
マリア
教団が送り込んだ「偽・聖母」。エリート教育を受けた才女だったが、九条の暗示で「笑いの神」を降臨させてしまい破門。 現在はプロジェクト・ゼロで「メイド」として、執拗なまでに便器を磨き上げる修行に励んでいる。
ゼノン
教団「天啓の銀河」の最高幹部。エリカを連れ戻そうと画策するが、いつも散々な目に遭う中間管理職的な悲哀を持つ男。
鮫島
鷹見の警察時代の元相棒。汚職に手を染め、鷹見を脅迫したが、「相棒のドラマ撮影中」だと思い込まされ逮捕された。
柏木
警察庁の精鋭部隊「白蝮」の指揮官。九条をライバル視していたが、「社会の窓が全開で世界中から笑われている」という暗示により、現在は精神的ダメージで療養中。
第二十九章:代々木消滅!? 最終防衛ラインと九条の秘策
代々木の街から、雀の鳴き声すら消えた。
ビルを取り囲むのは、警察庁が極秘裏に組織した最終制圧軍。重装甲車が路地を埋め尽くし、空には熱源感知式の無人攻撃機が静止している。今回の目的は、もはや「逮捕」ではない。プロジェクト・ゼロという「国家の癌」を、ビルごと物理的に消去することであった。
「……リンさん。警察庁本部の緊急回線から通知が来たわ。あと三十分で、この区域を『原因不明のガス爆発』として処理するそうよ」
リンが、震える手で無線機を置いた。事務所内には、絶望的な重圧がのしかかる。しかし、そこにいる面々の中に、一人として戦意を失っている者はいなかった。
「おやおや。私を消すために、街一つを焼くとは。国家予算の無駄遣いも甚だしいですね」
九条は、いつものように静かに紅茶を啜り、窓の外の軍勢を見つめた。その隣では、エリカが豪華な宝石箱を抱えて仁王立ちしている。
「ふん! 私を消そうだなんて、神様が黙っていないわ! ほら、真一! 小雪! あんたたちの『殺意』を全部解放して、あの黒い車たちを鉄屑に変えてきなさい!」
「御意!! エリカ様の御心のままに!」
真一がモップを捨て、背中の銘刀を抜く。
「……ジョニー(零士)。……一緒に行きましょう。……煮干しの仇を……討つのです」
小雪もまた、指先の鋼線を光らせ、段ボールから這い出した零士の手を引いた。
「……ひっ! 国家権力……怖い……! でも、小雪さんが行くなら……俺、世界中の監視カメラを『猫の動画』に差し替えて、敵の目を潰してやる……!!」
戦闘が始まった。
真一は音速を超え、装甲車の砲身を次々と斬り裂く。小雪の鋼線は空中のドローンを網のように捕らえ、一瞬でスクラップに変えていく。さらに、隠居した暗殺王・源斎までもが「ゲートボールのフォーム」で手榴弾を打ち返し、敵陣を混乱に陥れた。
しかし、敵の数は無限だった。ついに重戦車の砲門が事務所の階層に照準を合わせ、発射のカウントダウンが始まった。
「……九条、もう限界よ! 暗示をかける距離じゃないわ!」
リンが叫ぶ。その時、九条がゆっくりと拡声器を手に取り、屋上の鷹見に合図を送った。
「鷹見殿、代々木中の全大型ビジョンと、SNSのトレンド枠をジャックしてください。……国家が『恐怖』で支配するなら、私は『恥』で世界を塗り替えましょう」
代々木中の全モニターに、九条の顔が映し出された。彼は優雅に微笑み、カメラに向かって、あるいは国家そのものに向かって、指を鳴らした。
「新呪文、その名も『全人類が、自分が今まさに、実は「裸の王様」の童話の主人公であり、自分だけが全裸であることに気づいていないのは周囲だけで、実は隠しカメラが自分の下半身の「あるはずのないタトゥー」を全世界にライブ配信していると確信してしまう』!」
瞬間、制圧軍の兵士たちだけでなく、警察庁本部で指揮を執っていた高官たちの指が止まった。
「……っ!? ……服を、着ているはずだ。……だが、なぜだ? この、全身を突き抜けるような冷気は……! 配信されている? 私の、この……恥ずかしいタトゥー(※妄想)が!?」
「いかん、隠せ! 全員、自分の股間と肩を隠せ!! カメラはどこだ! 宇宙から撮られているのか!?」
数百人の兵士たちが、一斉に武器を放り出し、自分たちの体を隠すために身を丸め、あるいは地面に伏せて号泣し始めた。指揮系統は完全に崩壊し、無敵の軍隊は「露出の恐怖」に震える迷子の集団へと成り下がった。
「……ふう。現像完了だ。国家の威信が全裸で逃げ出す決定的瞬間、最高の一枚が撮れたぜ」
屋上の鷹見が、満足げにシャッターを切る。 制圧部隊は蜘蛛の子を散らすように退却し、代々木には再び、少しだけ歪んだ静寂が戻ってきた。
「……九条。あんた、いつか本当に地獄に落ちるわよ」
リンが呆れながらも、安堵の溜息を漏らす。
「ふふ、地獄ならここ(代々木)にありますから。……さて、エリカ様。勝利の祝杯に、最高級のタピオカを用意しましたが、いかがですか?」
「当たり前じゃない! 私の勝利なんだから、3リットルくらい持っていらっしゃい!」
国家の危機すらも、九条の「マヌケな暗示」によって笑劇へと変わった。だが、九条の瞳はまだ、退却する軍勢の奥に潜む「真の影」を見つめていた。
第三十章:聖母教団・最終審判! 明かされる出生の秘密
代々木の空が、不気味な茜色に染まっていた。 地平線の彼方から、巨大な飛行船が姿を現す。それは「天啓の銀河」の移動要塞であり、教団が全財産を投じて建造した最終決戦兵器『アルマゲドン号』であった。
「不届き者たちよ、跪け! 今日、この地を聖なる炎で焼き払い、真の聖母を天へとお連れする!」
拡声器から響くのは、理性を失った聖父と聖母の狂気じみた声。飛行船の底部からは、かつてマリアが使っていた「奇跡の光(LED)」の数万倍の出力を誇る熱線砲が、代々木ビルをロックオンしていた。
「……おやおや。ついに『神』の名を借りた心中ですか。美しくありませんね」
九条は、激しく揺れる事務所の中で、ティーカップをソーサーに戻した。その隣で、エリカは珍しく震えることなく、窓の外の飛行船をじっと見つめていた。
「ねえ、九条。……お父様たち、あんなに必死になって。……私を、そんなに『兵器』として完成させたかったのかしら」
「エリカ様……?」
その時、飛行船のモニターに、教団の極秘アーカイブが九条のハッキングによって映し出された。そこには、赤ん坊のエリカを抱く、若き日の教祖夫妻と……白衣を着た九条の姿があった。
「……えっ!? 九条、あんた、若い頃のパパたちと知り合いだったの!?」
リンが叫ぶ。九条は悲しげに目を細め、隠されていた事実を語り始めた。
「……認めましょう。エリカ様、あなたは教祖夫妻の実の娘ではありません。あなたは、私がかつて警察庁の極秘プロジェクトで生み出した、『全人類のストレスを無自覚に吸収し、周囲に混沌を撒き散らすことで争いを無力化する』という、世界平和のための【概念的特異点】……人造の聖女なのです」
衝撃の事実が事務所を駆け抜ける。エリカの異常な強運も、周囲が勝手に自滅していく混沌も、すべては九条が設計した「究極の平和維持機能」であった。教団は、その実験体であった彼女を強奪し、聖母として祭り上げたに過ぎなかったのだ。
「……じゃあ、私は……人間ですらないってこと?」
「いいえ。あなたは、私がこの不条理な世界に放った、唯一の『希望』です。……さあ、源斎殿、小雪さん。彼女の、そしてこの街の未来を守るために、あの偽りの箱舟を墜としなさい」
九条の号令と共に、源斎が空を翔けた。 「……ゲートボールの極意、それは『一点突破』! 隠居爺の底力、見せてくれよう!」 源斎は、小雪が張り巡らせた鋼線を足場に跳躍し、飛行船のエンジン部へと家宝の刀を突き立てた。
さらに、家具と化していた吹雪と雷鬼が、九条の遠隔パッチによって再起動する。 「……妹を泣かせる親(教団)など、我らの回路には……登録されていない。……フルバースト!!」 最新兵器の火力が空を焼き、飛行船の防御バリアを粉砕した。
飛行船が火を吹き、代々木公園へと不時着しようとする。最期の足掻きとして、聖父が自爆スイッチを押そうとしたその時、九条が全通信回線を通じて最後の一撃を放った。
「新呪文、その名も『全人類が、自分が今まさに、神でも教祖でもなく、ただの「反抗期の娘に嫌われたくない、少し寂しいおじさんとおばさん」であると確信し、今すぐ娘に謝って夕飯の献立を相談したくてたまらなくなる』!」
「……っ!? ……わ、私は……神だ。……いや、違う。私は……私はただ、エリカと一緒に……オムライスが、食べたかっただけなのか……?」
爆破スイッチを握っていた聖父の指が止まり、彼は崩れ落ちて号泣し始めた。飛行船の火災は、真一の「消火器乱舞(霧隠流・消火術)」によって鎮火され、教団の最終審判は、ただの「壮大な親子喧嘩の終焉」へと姿を変えた。
夕焼けの中、ボロボロになった飛行船の横で、エリカは九条の胸ぐらを掴んでいた。
「九条! 私が人造だろうが概念だろうが、関係ないわ! 私は世界一の聖母で、あんたの飼い主なの! だから、明日からも三食昼寝付きで、最高のアイスを用意しなさいよね!」
「……ふふ。仰せのままに、エリカ様。あなたの混沌こそが、私の計算を超えた最高の現像結果です」
背後では、小雪と零士が並んで煮干しを齧り、マリアが焦げた飛行船の甲板を磨き始め、鷹見が「聖母の涙」と題してシャッターを切っていた。
こうして、代々木の空には再び、救いようのない、しかし暖かな日常が戻ってきた。
【第一部・完】
(第二部につづきます)




