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不滅のデケムウィリ  作者: 山本
第一章 旅
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旅の始まり


 ある男がいた。男は幼いときに魔族の手によって両親を失い、兄と2人での生活が始まった。数年後には兄も病に倒れ、男はたった一人で生きることとなった。

 後に男には親友と愛する人、そして頼れる仲間ができた。男は仲間達と力を合わせ、魔族と戦った。そしてある戦いで、親友と愛する人の両方を失った。憎悪に狂い、心が影に溶けてしまった男は我を忘れ、ただひたすらに暴れ狂い、敵を殲滅した。

 いつからか魔族は劣勢になり、自分たちの世界、魔界へと撤退していった。

 跡にはうつろな目で涙を流しながら、ただ死体を眺める男の姿があった。

 世界は魔族が撤退したことに歓喜した。ただ、男たちは後にデケムウィリと呼ばれ世界中から賞賛されたが、男の溶けた心を治せるモノは、何もなかった。



 ある森に1人の老人が住んでいた。

 老人の名はバラン=グリムシェイド、数十年前の魔族の大侵攻でそこそこ名を挙げた戦士であった。

 終戦直後、世界各国から賞賛を受け、自国の王から直々に王宮で仕える気はないかとスカウトされたりもしたが、バランは全て断った。

 当時は色々あって、人と関わる事に消極的になっていたからだ。 

 当時のバランが人と関わらずにのんびり過ごせる場所はないかと探した結果見つけたのがここ、戦時中は嘆きの森と呼ばれ恐れられたエレボスの森であった。

 バランはエレボスの森に家を建て、孤独な生活をおよそ50年ほど続けてきた。

 特にやることはない。

 この森でやることといえば多少の家事と自然の生物を眺めるくらいである。

 人間と話すことも殆どない。あるとすれば、ごく稀に訪ねてくる戦友と茶を飲みながら世間話をするくらいだ。

 バランは今更になってこの退屈な日常に飽きがきていた。

 そんなときだった。家の扉を叩き、バランを呼ぶ声が聞こえた。戸を開くとそこには端正な顔立ちをした金髪の青年が笑顔を貼り付けて立っていた。

「や、久しぶりだねバラン。1年ぶりかな?」

「...2年だ。」

「あれ?もうそんなに立っていたのか。時の流れは早いものだね。ハッハッハ」

 アーサーはこの森に一人できてこんなにもふざけた態度を取っているが、かつて共に戦った戦友であり、一応、この国の王の座についている。

 人間であるにも関わらず姿が50年前と同じで若いままなのは、彼にエルフの血が流れているからだ。

「いやぁ、少し話したいことがあってね。魔族についてのことだ。」

 アーサーの表情が真面目なものに変わる。

「近頃、魔族の動きが活発になっている。また戦争が起こるかもしれない。だからバラン、君に調査をしてほしいんだ。」

 バランは黙ったままアーサーの言葉に耳を傾ける。

 魔族との戦争、それはつまり再び多くの人間が死に、多くの人間が涙を流すということだ。

 あの悲劇だけは絶対に繰り返してはならない。

 バランはアーサーの依頼を受けることにした。

「そうかい。助かるよ。では、私はこれでも忙しい身の上だからね、ここでお暇させてもらうよ。何かわかったら、私の元へ文鳥を飛ばしてくれればいい。」

 バランが依頼を受けたことに口元を緩ませ、アーサーは席から立ち上がって扉の前へ足を運ぶ。

「じゃあ、あとは頼んだよ。バラン。」

「あぁ。」

 アーサーがバランの元を後にする。

「...行くとするか。」

 そうと決まれば早速荷物を整えることにした。

 昔から愛用している古びた黒いローブを身に纏った後、食料と麻布で出来た寝袋を黒い球体のようなものにしまった。そして、かつてバランが愛したエルフからもらった翡翠のペンダントを首にかけ、親友の形見である一振の刀を腰に据える。

 準備万端だ。

 森の外に出ると、目の前に色鮮やかな世界が広がった。

  自然の力強い風が、バランを歓迎するように肌を撫でる。

  青い空、生命の息吹を強く感じる広大な大地、澄んだ空気。

  平和というのは素晴らしい。

  横を流れている川は、つい魅入ってしまうほど水が澄んでいる。

 戦時中は絶え間なく流れる血で紅に染まっていたのが、今は見る影もない。

 昔とは様変わりした景色を眺めながら己の足を前へと進め続ける。

 数十年ぶりに広い世界を見て、どこか高揚しているように感じる。

 この美しさを守るために、もう二度と大きな争いを生まないようにしなければなるまいー 




 エレボスの森を出てしばらく経った頃、バランの立つ場所は木々の集う林へと変わり、日もすっかり沈んでいた。 

 本来、このような場所の夜は獰猛な魔物が活動するため、老人の一人旅では避けるべきである。

 だがバランはそんなことは気にせず歩き続けていた。

 そうしていると、後ろから物音が聞こえた。

 後ろを振り返ると、そこはバランの倍はあるであろう巨大な体軀をし、皮膚がまるで鎧のように硬い魔物、鎧熊が立っていた。

 鎧熊は強く睨み、こちらを威嚇している。動けば殺す。と言った感じだ。

「...」

 目の前の巨大な獣肉を斬ろうと腰の刀に手を掛ける。

「まだ何匹かいるな。」

 周囲の植物からガサガサと音がし、さらに数匹鎧熊が出現する。内1匹は他の個体とは様子が違う。

 絶体絶命の状況だが、こういう状況には慣れている。バランは瞬時に先程まで向き合っていた鎧熊との間合いを詰め、その巨躯を一刀両断した。

 鎧熊の体が倒れる音と共に、もう2匹、鎧熊が背後からグオォと咆哮を上げながら迫ってくる。振り返り、刀が首を捉え、二匹もろとも首が飛んだ。

 上空から1匹が襲ってきた。するとバランは影の中に落ち、鎧熊はそのまま地を殴った。地面がひび割れ、鎧熊の足元の影からバランが顔を出す。

 そして鎧熊の両脚を切り、バランスを崩し地に倒れた鎧熊の首を斬り落とす。

 最後の1匹、一際大きく、禍々しい角が1本生えていて、他の鎧熊よりがっちりとしている個体、おそらくこいつが群れの首領だろう。

 バランの影から黒い鞭の様なものが現れる。うねり、鎧熊の体に巻き付き、体の自由を奪う。

 すぐさまバランは刀に黒を纏わせ、鞭の上を走って距離を詰め、鎧熊の首目掛け一閃。首を斬り落とした。

 魔物との戦闘の音で騒がしかった森に静寂が戻る。

 おかしい、鎧熊は本来、単体、もしくは番で行動する魔物であり、このように群れる魔物ではない。

 アーサーが言っていた通り、本当に戦争が起こってしまうのだろうか。なんとしても、なんとしてもそれだけは阻止しなければならない。

 そう考えていた矢先バランの目にあるものが映った。

 村だ。炎が燃え盛り、煙の立ち上った村。

 バランは駆け出した。嫌な予感がバランの脳内を巡る。

 村の前に着いた瞬間、五体のゴブリンに襲われた。一瞬で斬り殺し、続いて襲ってきた魔物たちを迎え撃つ。オークやゴーレム、ウォーウルフなど、数々の魔物がバランを襲った。襲いかかる魔物を全て退けた後、バランは呆然と立ち尽くした。手遅れだったのだ。村は荒野と化し、あちらこちらに人の死体が転がっている。

 子供に覆いかぶさって死んでいる者、下半身の無い者、逃げてるところをやられたのか、背中に酷い傷を負い息絶えている者。目を覆いたくなるほどの惨状である。

 その後も襲いかってくる魔物を殺しながら、バランは村を徘徊していた。

 すると、ある光景が目に入った。

 大きな杖を持った女と赤い髪の男の死体の近くで、少女が地に膝をつき、絶望した表情で涙を流していた。

 親子だったのだろうか。どことなく外見が似ている節がある。

「...なにがあった」


 少女はバランに気づき、顔をこちらに向けた。

 酷い目だ。絶望し、光を失っている。


「強欲の魔王とかいうのが魔物の大群を連れて来て...村を、村を壊して行った...母さんと父さんが戦ったけど、殺されて...」

 強欲の魔王。魔神に使える7人の魔王、七つの大罪の内の1人だ。だがおかしい。強欲の魔王は先の大戦で討伐されたはず...何故ここに?

 復活の線はないだろう。強欲の魔王は正々堂々の1体1の闘いを好んだと言われてる。別の魔族が新しく魔王

 の座に着いたのだろうか。

 いや、今はそんなことはどうでもいい。

 問題は、目の前の少女をどうするかだ。

「お前はどうしたいんだ?」

少女は動く気配がない。

「もうどうでもいいよ。自分の事も、他人の事も。」

口を開いたかと思えば、それは諦念の台詞だった。

ああ、この子はもう駄目だろう。完全に生きる気力を失っている。まるで、昔の自分を見ているようだ。


もう、このまま見て見ぬフリをして、この場から立ち去ってしまおうと思った。

 そもそもバランと何の関係もない人間だ。助けたところで何も生まない。仮に今ここで助けたとして、この先、彼女は足手まといになるだろう。少女1人のために手が遅れて、世界を大きな危険に晒してしまったとなってはいけない。

 だが、気づいたときには、バランは少女に手を差し伸べていた。

 なんとなく、放っておけなかった。大切な人を同時に2人も失い、絶望したかつての自分と、今目の前で絶望している少女の姿が重なって見えたから。

 それに声が聞こえたような気がした。昔、何度も聞いた声。生命を愛し、だれに対しても分け隔てなく救いを与えた優しいエルフの声が。

 その子を助けてあげて。と。


「いいか、鵜呑みにしなくてもいい。ただお前より何倍も長く生きた人間からの言葉だ、しっかり頭に入れておけ。絶望している暇があったら、前を向いて歩いた方がいいぞ。ロクな人間にならないからな。」

「...」

少女の反応は相変わらず何も無い。

「...仇を、取りたいとは思わないのか?」

少女の眉が微かに反応した。

「俺は十聖が1人、虚無のデケムウィリ、バラン=グリムシェイドだ。俺ならばお前をうんと強くすることが出来る、仇を取りたいというのなら、ついてこい。」

少女からは、動揺を感じる。仇を取るという言葉に彼女中で揺れているのだろう。

 しばらく待っていると少女が立ち上がり、バランの顔を見上げた。眼から涙が流れているままだが、そこには確かな決意が灯っている。

「そうか。名は?」

 「メイ。メイ=セリシア。」

 「メイか。これからよろしく頼む。」

 バランは少女と共に歩き始めた。

 独りの老人と少女の奇妙な旅が始まった。















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