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賢者の石を手に入れた在宅ワーカーだけど、神様って呼ばれてるっぽい  作者: パラレル・ゲーマー


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241/264

第218話

 イベント『占いカード収集祭ディヴィネーション・フェス』開幕。

 その合図と共に、世界中のダンジョンで、これまでにない質の「狩り」が始まった。


 東京・渋谷ダンジョン、C級エリア『鋼鉄の迷宮』最深部。

 そこは金属の冷たい輝きと、魔力の火花が散る過酷な戦場だった。


「――来るぞ! 『アイアン・コロッサス』の重撃だ!」


 “剣聖”ケンタの鋭い警告が響く。

 彼の目の前には、全長十メートルにも及ぶ鋼鉄の巨人、エリアボスが立ちはだかっていた。

 その巨大な拳が振り上げられ、空気を圧縮しながら振り下ろされる。

 直撃すれば、いかに耐性装備を固めた探索者といえども、ただでは済まない。


「『鉄壁アイアン・ウォール』! 全オーラ出力、最大!」


 パーティのタンク役が前に出る。

 彼の身体からは『ディターミネーション(防御)』と『元素の純度』のオーラが、眩いばかりの光となって噴出している。


 ドガァァァァァァン!!


 轟音。

 地面が陥没し、衝撃波が周囲を薙ぎ払う。

 だがタンクは、一歩も退かない。


「耐えた! 反撃開始!」


 その隙を見逃さず、ケンタが駆ける。

 彼の愛剣――度重なるクラフトと、そして先日手に入れたユニーク装備の補正によって極限まで強化された刃が、巨人の関節部装甲の継ぎ目へと吸い込まれるように突き刺さる。


「――断ち切れッ!」


 スキル『ダブルストライク』からの『マルチストライク』。

 神速の連撃が鋼鉄の巨体に致命的な亀裂を走らせる。

 同時に後衛の魔法使いたちが、一斉砲火を浴びせる。


 数分後。

 地響きと共に、巨人は崩れ落ちた。

 光の粒子となって消滅していくその巨体の跡に、ジャラジャラという音と共に大量のドロップ品が散らばる。

 C級魔石、レア装備、そして――。


「……落ちたぞ!」


 ケンタが駆け寄る。

 魔石の山の中に、一枚のカードが浮遊していた。

 闇色を背景に、五つの異なる色と大きさの宝石が、涙のように滴り落ちている。

 不吉で、美しい絵柄。


【占いカード:混沌の涙(Tears of Chaos)】

【必要枚数:5枚】

【報酬:魔石 × 5(ランクランダム)】


「……よし、確定ドロップだ!」


 ケンタはそのカードを手に取り、拳を握った。

 今回のイベントの最大の特徴、

 それは「ボスを倒せば必ずカードが落ちる」という点だ。


 確率に左右されない。

 倒せば手に入る。

 つまり周回数こそが正義。

 汗と時間は、確実に報われるのだ。


「一周目確保! あと4回倒せば、一回ガチャが引ける!

 次行くぞ、次! 休んでる暇はねえ!」


 彼らは休まない。

 カードをアイテムボックスに放り込むと、即座にポータルを開き、ダンジョンをリセットして再入場する。

 彼らトップランカーにとって、今のダンジョンは冒険の場ではない。

 確実な報酬が約束された、高効率の「収穫祭」だった。


 ***


 同じ頃、地上。

 日本探索者公式ギルドの本部ロビーは、異様なざわめきに包まれていた。


 壁一面に設置された巨大な電光掲示板。

 そこに表示された「魔石買取価格表」の更新が、探索者たちの度肝を抜いたからだ。


「おい……おい、見ろよあれ!」

「桁がおかしいぞ!? バグか!?」

「いや、KAMI様からの公式データ更新だ! マジだぞ!」


 人々が指差す先。

 そこには、これまで空欄、あるいは「測定不能」とされていた上位ランクの魔石の価格が、具体的な日本円として表示されていた。


魔石マナストーン公定買取レート表(改定版)】


 F級:10,000円

 E級:100,000円

 D級:150,000円

 C級:300,000円

 B級:5,000,000円

 A級:100,000,000円(1億円)

 S級:50,000,000,000円(500億円)

 SS級:500,000,000,000円(5000億円)

 SSS級:10,000,000,000,000円(10兆円)


「じゅ、じゅっちょうえん……!?」


 誰かの素っ頓狂な声が、ロビーの静寂を破った。

 10兆円。

 それは一個人の資産を遥かに超え、国家予算の領域に踏み込む数字だ。

 たった一個の石ころが、小国のGDPに匹敵する価値を持つ。


「SSS級ってなんだよ!? 規格外アーティファクトかよ!」

「『若返りのポーション』と同等って……これ一個で国が買えるじゃねーか!」


 騒然とするギルド内。

 だが衝撃は、それだけではなかった。


 この価格表の横に、今回のイベントの目玉である『混沌の涙』の報酬内容が、改めて大きく掲示されたのだ。


【カード報酬:魔石 × 5ランクランダム


「……おい、待て」


 一人の探索者が震える声で計算を始めた。


「報酬は魔石が5個だ。

 もし……もし万が一、そのランダムの中にSSS級が混じっていたら?」


 10兆円 × 5個 = 50兆円。


「ご、ごじゅっちょう……」


 その数字が脳裏に浮かんだ瞬間、探索者たちの目の色が、文字通り変わった。

 それはもはや「一攫千金」などという生易しい言葉では表現できない。

「世界の支配者になれる権利」が、カード5枚の先にぶら下がっているのだ。


 そして冷静な計算ができる者たちは、もう一つの事実に気づいて戦慄していた。


「最低保証(F級5個)でも5万円……。

 必要枚数は5枚だから、カード1枚あたりの最低価値は1万円。

 だが期待値を考えれば……」


 ***


 情報は光の速さで、ネットの海を駆け巡った。


【緊急速報】魔石買取表更新! SSS級は10兆円!

【悲報】俺たちの想像力が貧困すぎた件

【夢】混沌の涙の天井、50兆円確定www


 SNSは爆発した。

 トレンドワードは『10兆円』『SSS級』『混沌の涙』で埋め尽くされた。


『マジで言ってるのかこれ? インフレしすぎだろ』

『いや、KAMI様ならやりかねない』

『50兆あったら何ができる? 日本買える?』

『とりあえずAmazon全部買えるな』


 そしてその衝撃は、即座に『混沌の涙』のカード相場へと反映された。


 オークションサイト『ダンジョン・マーケット』。

 イベント開始直後、数千円で取引されていた『混沌の涙』の価格が垂直に跳ね上がった。


 1万円。

 2万円。

 3万円。


「上がる! まだ上がるぞ!」

「期待値がデカすぎる! 夢の値段だ!」

「ボス倒せば確定ドロップだぞ! F級でも落ちる!」


 そして価格は、一つのラインで均衡した。


【現在価格:50,000円】


 カード1枚、5万円。

 F級ボスを倒せば確定で5万円の金券が落ちる計算だ。

 これまでの魔石稼ぎ(1万円)とは比較にならない効率。


「ボス狩りだ! ボスを狩れえええ!」

「5万円拾い放題だぞ!」

「いや待て! 売るな! 自分で交換したほうが夢がある!」

「馬鹿野郎! 50兆円の宝くじを5万で売る奴がいるか!」


 投資家たちが、投機筋が、そして夢を追うギャンブラーたちが、このカードを求めて市場に殺到した。

 売るか、剥くか。

 究極の選択が、探索者たちに突きつけられた。


 ***


 そしてその夜。

 その選択に対する一つの「答え」を示そうとする男がいた。


 日本一の登録者数を誇る探索者系YouTuber『ガルド』だ。


 配信タイトル:【神回】総額2500万円!『混沌の涙』100連ガチャやってみた!【50兆円チャレンジ】

 視聴者数:500,000人(急上昇1位)


 画面の中、ガルドは大量のカードの束を前に、興奮気味に叫んでいた。


「はいどーもー! ガルドです!

 今日はね、視聴者の皆さんから『やってくれ』とリクエストが殺到していたアレをやります!

 そう、混沌の涙!

 これを100セット! つまりカード500枚!

 市場価格にして2500万円分を、自腹でかき集めてきました!!」


 コメント欄が滝のように流れる。

『うおおおおおお!』

『マジでやりやがった!』

『金持ちすげえ!』

『破産不可避』


「狙うはもちろんSSS級! 50兆円!

 もし当たったら……このチャンネルの視聴者全員に100万円ずつ配ります!」


『登録した!』

『頼む当たってくれ!』


「じゃあ、いきますよ! 最初の10連(10セット)!」


 ガルドはカードを交換していく。

 シュイン、シュイン、シュイン……。

 効果音と共に、魔石が表示される。


【結果】

 F級 × 5

 F級 × 5

 F級 × 5

 ……


「……はい、全部F級です! ゴミです!

 これだけで数百万円が飛びました!」


『知ってた』

『現実は非情』

『メシウマ』


 その後も20連、30連と爆死が続く。

 たまにE級(10万円)が出るが、2500万という投資額の前では焼け石に水だ。

 70連を超えたあたりで、ガルドの顔からは完全に血の気が引いていた。


「……え、待って。マジでヤバい。

 これ企画倒れとか、そういうレベルじゃない。

 2500万だぞ……?

 俺の貯金、ほぼ全部だぞ……?」


 コメント欄も、嘲笑から同情、そして恐怖へと変わっていく。

『これ放送事故だろ』

『顔色が土気色』

『やめとけって言ったのに……』


「くっそー! 渋い! 渋すぎるぞ、KAMI様!

 もう90連終わったけど、最高でD級とか……。

 これ本当に上位入ってるんですか!?

 俺、明日からどうすりゃいいんだよおおおおお!」


 ガルドは半泣きになりながら、最後の10セットを手に取った。

 震える指。

 人生を賭けたラストチャンス。


「頼む……! 何か出てくれ!

 せめてA級(1億)! 1億出てくれれば、なんとか……!

 ラスト交換ッ!!!」


 その時。


 カッッッ!!!


 モニターの輝度が自動調整されるほどの強烈な光のエフェクトが、画面を覆い尽くした。

 F級の白ではない。

 E級の緑でも、A級の金ですらない。


 それは神の領域に属する、目も眩むような「虹色プリズム」の輝きだった。


【獲得アイテム:S級魔石 × 5】


 一瞬、時が止まった。

 ガルドも、視聴者も、世界も、呼吸を忘れた。


 画面に表示された文字。

 S級。

 買取価格表を思い出す。


 S級 = 500億円。


 それが5個。


 500億 × 5 = 2500億円。


「………………………………………………」


 ガルドは叫ばなかった。

 椅子から崩れ落ち、床にへたり込んだまま、口をパクパクとさせていた。

 酸素が足りない。

 脳の処理が追いつかない。


 2500万が、2500億になった。

 1万倍のリターン。


「あ……あ……あが……」


 彼は獣のような唸り声を上げ、そして突然奇声を上げてのたうち回り始めた。


「ぎゃあああああああああああああああああッ!?!?!?

 え!? え!? え!?

 虹!? S!? え!?

 2500億!? にせんごひゃくおくううううう!?」


 彼はモニターに抱きついた。

 鼻水を垂らし、涙を流し、涎を垂らしながら、S級魔石を指でなぞる。


「夢じゃない! 夢じゃねえええええ!

 S級だ! S級が出たあああああ!

 おい、見たかお前ら! 見たかあああああ!」


 コメント欄が見たこともない速度で流れる。

 サーバーが悲鳴を上げ、YouTube全体が重くなる。


『!?!?!?!?!?』

『ファッ!?』

『2500億wwwwwwwww』

『国家予算かよwww』

『歴史的瞬間』

『もう一生遊んで暮らせるどころか国が買えるぞ』

『税金どうなんの!?』


「はぁ……はぁ……はぁ……」


 ガルドは過呼吸になりながら、狂ったように笑い出した。


「勝った……! 俺は勝ったんだ!

 人生に! 世界に! 全てに勝った!

 5億? 10億?

 そんな、はした金じゃねえ!

 2500億だぞ、オラァァァァァッ!!」


 彼はカメラに向かって中指を立て、そして泣き崩れた。


「もう働かねえ……!

 一生、南の島で毎日ステーキ食って暮らすんだ……!

 ありがとう、KAMI様! ありがとう、世界!

 俺は……俺は……神になったんだあああああああ!」


 その映像は瞬く間に切り抜かれ、拡散され、世界中の言語に翻訳された。

『日本のYouTuber、2500億円を当てる』。


 その事実は、世界中の人々の理性のタガを完全に外してしまった。


「当たる」。

 S級は実在する。

 たった5万円のカードが、2500億円に化ける。

 その確率はゼロではない。


 世界中の探索者たちが、投資家たちが、そして普通の市民たちが、目の色を変えてダンジョンへと走り出した。

 F級ボスを狩り、カードを集め、そして剥く。


 家を売り、借金をして、カードを買い漁る者たち。


『混沌の涙』は、単なるアイテムではなく、人類史上最大・最悪の、そして最も夢のある宝くじとなった。

 2500億円の夢。


 その熱狂はイベント終了のその瞬間まで、いや、人類の歴史が続く限り、決して冷めることはないだろう。

 ガルドの狂喜の絶叫は、ネットの海に永遠に刻まれる伝説となったのだ。



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― 新着の感想 ―
私は親が認めるほど幼い頃からくじ運悪いからダメだな〜w 100連で当たり引いたの普通にくじ運強すぎか確率かなり緩和されてるかだよねー いいなー
ガルドの配信をKAMI様がぽてち食べながら腹抱えて爆笑して 最後に可愛そうだからすこし当たりを・・・とかても驚かない幸運ですね しかしA級とかはワープや空間拡張につかえましたけどS級はまだ使い方でて…
どっかの宝くじよりよっぽど率が高いw
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