表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
賢者の石を手に入れた在宅ワーカーだけど、神様って呼ばれてるっぽい  作者: パラレル・ゲーマー


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

226/257

第203話

 地下迷宮の最深部。

 そこは、それまでの無機質な通路とは一線を画す、圧倒的な神聖さと、そして物理法則を超越したエネルギーの奔流に満ちた空間だった。


 バーンズ大佐率いる突入班は、最後の機械兵団を辛くも退け、巨大な扉の前に立っていた。

 装甲服は焦げ、弾薬は底をつきかけ、魔法使いたちのマナも枯渇寸前だ。

 だが彼らの瞳には、達成感と、そして未知への畏怖が宿っていた。


「……ここが心臓部か」


 バーンズが、焼け焦げた手で扉に触れる。

 重厚なオリハルコンの扉が、音もなく滑るように開いていく。


 その向こうに広がっていたのは、光の海だった。


 直径数百メートルはあろうかという巨大なドーム状の空間。

 その中央に、太陽の如き輝きを放つエネルギーの塊が鎮座している。

『太陽の心臓』。

 ムー文明を支えた無限動力炉。


 その光は眩しいが、決して目を射るような痛々しさはない。

 むしろ、母の胎内のような温かさと、絶対的な安心感を漂わせていた。


 そして、その光の炉心の上空に――それは浮かんでいた。


 人の形をしていない。

 立方体、正四面体、球体……。

 純粋な光で構成された幾何学図形が、高速で回転し、変形し、融合と分裂を繰り返している。

 それは実体を持たない、純粋な「知性」の輝きだった。


『――侵入者検知。脅威レベル測定不能。所属不明』


 空間そのものを震わせるような、性別も年齢も感じさせない、しかし絶対的な理知を感じさせる声が、隊員たちの脳内に直接響いた。


『警告する、野蛮なる者たちよ。

 ここは聖域である。直ちに退去せよ。

 さもなくば浄化システムを起動し、その存在原子を分解する』


 幾何学図形が赤く明滅し、鋭角的な攻撃形態へと変形する。

 空間の温度が急激に下がる。

 殺気などという生ぬるいものではない。

「消去」の意思だ。


「ま、待ってください!」


 三神編集長が、銃を構えようとする兵士たちを制して前に飛び出した。

 彼はサングラスを外し、その幾何学的な光に向かって両手を広げて叫んだ。


「我々は敵ではありません!

 我々は地上の……現代の人類です!

 貴方達が眠りについてから、一万年以上の時を経て、再びこの地を訪れた後継者です!」


『後継者……?』


 光の集合体が、一瞬回転を止めた。

 そして、まるで顕微鏡で微生物を観察するかのような冷徹な「視線」が、三神たちを貫いた。


『スキャン開始……。

 炭素ベースの有機生命体。遺伝子構造は、かつての「管理者」たちと99.9%一致。

 ……だが、その文明レベルは未熟。精神性は幼稚。

 所有している武器は、野蛮な火薬式投射機と、原始的な魔力制御技術の混合物。

 ……汚らわしい』


 光の図形が、軽蔑を表すように歪んだ。


『お前たちは継承者ではない。

 かつて我々が管理していた庭に勝手に湧いた「雑草」だ。

 しかも、この星を汚し、同族同士で殺し合い、あまつさえその汚れた足で、この聖域を踏み荒らす。

 ……排除が妥当である』


 冷酷な審判。

 ピラミッドの防衛システムが唸りを上げる。

 天井から無数の砲口がせり出し、エネルギーの充填音が響き渡る。

 全滅。

 その二文字が全員の脳裏をよぎった。


 その時。

 小此木が震える手で懐から「あるもの」を取り出し、高く掲げた。


「お、お待ちください!

 我々には後ろ盾がいます!

 この……KAMI様からの紹介状が!」


 彼が掲げたのは、KAMIから渡された(というより押し付けられた)一枚の奇妙な紋章が刻まれたプレートだった。

 そのプレートが動力炉の光を受けて、虹色に輝いた。


『……!』


 光の集合体が激しく明滅した。

 攻撃シークエンスが停止する。


『その波動……。その無秩序で混沌としていて、しかし絶対的な権限を持つコードは……。

管理者アドミニストレータ」……いや「創造主クリエイター」クラスのID?』


 AIの声に、初めて「動揺」の色が混じった。

 光の図形が困惑するように形を変える。


『まさか……上位存在が現世に降臨しているというのか……。

 お前たちのような未熟な種を、この場所へ導いたというのか?』


 どうやらこの厳格なAIにとって、KAMIという存在は「頭の痛い上司」のような認識らしい。


「そ、そうです!」


 小此木は必死に食い下がった。


「KAMI様は我々にチャンスを与えてくださいました!

 我々が貴国の遺産を受け継ぐ資格があるかどうか。

 それを確かめろと!」


『……あの御方が、そう仰ったのか』


 AIは深いため息のような波動を放った。

 光の図形がゆっくりと安定した球体へと戻っていく。


『理解した。

 上位権限者の意向を無視することは、我がプロトコルに反する。

 ……よかろう。排除は中止する。

 私はこの「ムー大陸中央管理システム」の統括AI。

 名は……お前たちの言語で言うなら「マザー・キーパー」とでも呼ぶがいい』


「マザー……!」


 三神が感嘆の声を上げる。


『だが、勘違いするな』


 マザーの声が、再び氷点下まで下がった。

 彼女(?)は調査団の面々を、汚物を見るかのような冷ややかな気配で見下ろした。


『排除はしない。だが歓迎もしない。

 お前たちの文明レベル、精神レベル、そして環境汚染の状況……。

 その全てをスキャンしたが、結論は「不合格」だ。

 お前たちは野蛮な猿に毛が生えた程度の存在に過ぎない。

 そのような未熟な種族に、我がムーの叡智の全てを渡せばどうなるか』


 マザーは断言した。


『自滅する。

 お前たちはその力で互いを殺し合い、この星を焦土と化すだろう。

 かつてのアトランティスのように。

 ……故にアクセス権限は認めない。即刻立ち去れ』


 拒絶。

 やはり人類には早すぎたのだ。


「そんな……!」


 バーンズ大佐が叫んだ。


「我々はここまで来たのだぞ!

 多くの危険を冒し、犠牲(負傷者)を出しながら!

 手ぶらで帰れというのか!」


『命があるだけ、マシだと思え』


 取り付く島もない。


 だがここで三神が一歩前に進み出た。

 彼はオカルト編集長としての情熱と、そして人類の代弁者としての矜持を込めて、マザーに対峙した。


「マザー・キーパーよ。

 貴女の懸念は、もっともです。

 我々は愚かで、争いを好む種族かもしれません。

 ですが……我々は変わりつつあるのです」


 彼はKAMIがもたらしたダンジョンのこと、

 それによって世界が一つになりつつあること、

 そして先日のポーションによる奇跡のことを語った。


「我々は力を独占するのではなく、分かち合うことを学び始めています。

 この調査団を見てください。

 かつては敵対していた国々が、手を取り合ってここまでたどり着いたのです。

 これは我々が進歩している証拠ではありませんか?」


『……ふん』


 マザーは鼻を鳴らした(ような音がした)。


『呉越同舟。利益のための一時的な協力に過ぎん。

 喉元過ぎれば、また殺し合うのがオチだ』


「かもしれませんが!」


 小此木も叫んだ。


「それでも我々は未来を信じたいのです!

 地球は今、限界を迎えています。

 環境汚染、エネルギー不足、水不足……。

 我々自身の過ちによって、この星は悲鳴を上げています。

 貴女が守ろうとした、この地球を我々自身の手で救うために……。

 どうか、その知恵の一部だけでも、お貸しいただけないでしょうか!」


 小此木の悲痛な訴え。

 マザーは沈黙した。

 光の図形が複雑に明滅を繰り返す。

 彼女は今、膨大な演算能力を使って人類の未来をシミュレートしているのだ。


 数分後。

 マザーは静かに告げた。


『……環境汚染。

 確かに、お前たちの星の汚染レベルは、看過できない水準にある。

 大気、海洋、土壌……。

 特に、あの「核」と呼ばれる原始的で汚らわしいエネルギーの残滓。

 あれは、この星の生命圏にとって害悪でしかない』


 彼女の「視線」が、少しだけ和らいだ。


『……よかろう。

 お前たちが「掃除」をするというのなら、掃除道具くらいは貸してやろう。

 ただし条件がある』


「条件……?」


『兵器技術は一切渡さない。

 攻撃的な魔法、破壊のための科学、戦略兵器の設計図。

 それらのアクセス権は永久にロックする。

 お前たちに渡すのは、あくまで「生きるため」「星を守るため」の、最低限の民生技術のみだ』


 彼女は厳格な教師のように告げた。


『それ以上を望むなら、今ここで焼き払う。

 ……どうだ?』


 バーンズと小此木は顔を見合わせた。

 軍人としては不満だが、人類としては十分すぎる成果だ。

 兵器は作れない。

 だが国力は劇的に上がる。


「……受け入れます」


 小此木が代表して答えた。


「我々は平和利用のために、その技術を使います」


『口約束など信じぬが……まあいい』


 マザーは光の触手を伸ばし、空中に五つの輝くデータ結晶を生成した。


『持って行け。

 これがお前たちへの「手切れ金」であり、そして「試練」だ』


 一つ目の結晶が、小此木の前に浮かぶ。

 中には銀色に輝く金属のインゴットの映像が見える。


『一つ目。新素材【オリハルコン】の採掘権と、その加工技術。

 これは魔力を通す最高の伝導体だ。

 お前たちの未熟な魔導機器も、これを使えば少しはマシになるだろう。

 ただし、採掘できる場所は私が指定したエリアのみ。乱獲は許さん』


 二つ目の結晶。

 中には透き通るような水の映像。


『二つ目。環境技術【超高効率・海水淡水化プラント】の設計図。

 魔石の力を利用し、海の水を瞬時に大量に、そして完全に浄化された真水に変える技術だ。

 これがあれば、水不足などという愚かな理由で争う必要もなくなるだろう』


 三つ目の結晶。

 中にはふわりと浮かぶ岩石の映像。


『三つ目。移動技術【汎用重力制御システム】の基礎理論。

 重力を操り、物体を浮遊させる技術だ。

 これを使えば、お前たちの不格好な車や飛行機も、少しはスマートに空を飛べるようになるだろう。

 物流の革命を起こせ。排気ガスを撒き散らすな』


 四つ目の結晶。

 中には光が闇を浄化する映像。


『四つ目。これが最も重要だ。【放射能汚染除去技術】。

 お前たちが撒き散らした核のゴミ、汚染された大地や海を、分子レベルで完全に無害化する技術だ。

 ……これは褒美ではない。

 自分たちの尻拭いをさせるための掃除用具だと思え。

 この星を、これ以上汚すな』


 そして五つ目の結晶。

 中には複雑な魔法陣と、数式が絡み合う映像。


『そして最後。【魔導工学基礎理論マギ・エンジニアリング・ベーシック】。

 これら全ての技術を、お前たちの未熟な科学レベルで理解し、再現するための「取扱説明書マニュアル」だ。

 電気と魔力を変換する回路、オリハルコンの精錬法、安全装置の組み方……。

 基礎から叩き込んでやる。よく勉強するのだな』


 五つの光が、調査団の持っていたデータストレージへと吸い込まれていく。

 それは人類の歴史を数百年分、一気に進めるほどの途方もない価値を持つデータだった。


「……感謝します、マザー」


 三神が震える声で礼を言った。


「これは我々にとって、最高の贈り物です」


『フン。感謝などいらん』


 マザーはそっぽを向いた。


『……だが、もう一つだけ。おまけだ』


 彼女は指先(のような光)を弾いた。

 すると三神と、そして救出されたデュポン博士の前に、小さな鍵穴のようなアイコンが浮かび上がった。


『お前たちの「知りたい」という欲求。

 その浅ましさは不愉快だが、その熱意だけは、かつてのムーの学者たちを思い出させる。

 ……特別に【アカシックレコード】への限定アクセス権を与えてやろう』


「本当ですか!?」


 デュポン博士が狂喜乱舞して飛びついた。


『ただし!』


 マザーは釘を刺した。


『閲覧できるのは「レベル1」の情報のみ。

 古代の農業、芸術、風俗、哲学……そういった害のない文化的な記録だけだ。

 兵器の設計図や、未来の予言、歴史の闇といった危険な情報には一切アクセスさせん。

 そして……』


 彼女の光が、監視カメラのように二人を見据えた。


『閲覧中は常に私が横で監視する。

 変な検索をしたり、禁止区域に入ろうとしたら、即座に接続を切断し、記憶を消去する。

 ……分かったな?』


 口うるさい管理者付きの限定図書館。

 だがそれでも学者たちにとっては天国だった。

 失われた歴史を知ることができる。

 それだけで十分だった。


「はい! 従います! 大人しく読みます!」


 デュポン博士が子供のように頷く。


『よろしい。

 では用は済んだ。

 とっとと出て行け』


 マザーの光が強く輝いた。

 空間転移の準備だ。


『大陸を浮上させる。

 これよりムー大陸は「フェーズ2」へと移行する。

 お前たちは地上に戻り、せいぜい与えられたおもちゃで遊んでいろ』


 ブォォォン……!


 強制転送の光が、調査団を包み込む。

 視界が白く染まる中、最後にマザーの声が響いた。


『次に会う時までに、少しはマシな文明になっていることを期待しているぞ。

 ……猿どもめ』


 ***


 シュンッ!


 次の瞬間、彼らは木更津の駐屯地に戻っていた。

 全員無事。

 そしてその手には、人類の未来を変える「五つの秘宝」と、そして「口うるさい家庭教師(AI)」とのコネクションが握られていた。


 そしてその直後。

 太平洋上で、世界を揺るがす地殻変動が起きた。


 ズズズズズズ……!


 海が割れ、空が震える。

 ハワイの南、何もない海域から巨大な影がせり上がってきた。

 海水が滝のように流れ落ち、虹がかかる。


 現れたのは、オーストラリア大陸に匹敵する広大な大地。

 緑のジャングル、黄金のピラミッド、そして白亜の未来都市の廃墟。


 ムー大陸が、一万年の眠りから覚め、浮上したのだ。

 だがそれは海面には止まらなかった。

 重力制御システムが稼働し、大陸そのものが、ゆっくりと、しかし確実に空へと昇り始めた。


 高度3000メートル。

 雲海の上に浮かぶ、天空の大地。


 世界中の衛星が、その姿を捉えた。

 ニュース速報が、地球全土を駆け巡る。


『速報:太平洋上に巨大な浮遊大陸が出現!』

『伝説のムー大陸か!?』

『国連調査団、無事帰還! 持ち帰ったのは「夢の技術」!』


 ***


 官邸地下。

 沢村と九条は、モニターに映る浮遊大陸の威容を見上げ、呆然としていた。


「……浮いたな」


 沢村が呟いた。


「本当に空に浮いている……」


「ええ。

 そして中身は『お説教好きなAI』でしたか」


 九条が現地からの報告書を読み、苦笑した。


「兵器はなし。

 あるのは、水を造り、空を飛び、そして地球を掃除する技術だけ。

 ……麻生大臣は『金になる!』と喜んでいますが、トンプソン大統領とヴォルコフ将軍は『ビームがない……』と肩を落としているそうです」


「ハハハ、最高じゃないか」


 沢村は、心の底から笑った。


「人類に一番必要なものを、あのAIは正確に理解していたようだ。

 武器ではなく、生活の糧を。

 破壊ではなく、再生の技術を」


 彼はモニターの中のピラミッドに向かって、心の中で敬礼した。


「感謝するよ、マザー・キーパー。

 君のおかげで我々は、また少しだけ、滅びから遠ざかることができたようだ」


 こうしてムー大陸騒動は、人類にとって「最高のハッピーエンド(ただし宿題付き)」という形で幕を閉じた。


 オリハルコンによる魔導産業革命。

 水不足の解消。

 放射能汚染の浄化。

 そして空飛ぶ車(重力制御)の実用化。


 世界は、SFとファンタジーが融合した新しい「魔科学マギテック」の時代へと突入していく。

 そしてその中心には、常にあの口うるさいAIがいて、

 人類が道を踏み外そうとするたびに「ダメです」「許可しません」と釘を刺し続けるのだ。


 それは人類にとって少し窮屈だが、この上なく安全で、そして進歩的な「管理社会」の始まりでもあった。


 東京のマンションでKAMIはニュースを見ながら、満足げにメロンパンをかじっていた。


「……ふふ。マザーったら、予想通り堅物なんだから。

 でもまあ、いい先生役にはなるでしょ。

 これで地球も、少しは綺麗になるかしらね。

 邪神も復活しなかったし120点ね!」


 彼女は窓の外の青い空を見上げた。

 その遥か向こう、太平洋の空に浮かぶ新しい隣人に、小さく手を振った。


「おかえり、ムー。

 さあ、ゲームの続きをしましょうか」



評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
えっ、海の底からせり上がって浮上したの?大陸がそんな勢いでせり上がったら世界規模で大津波が発生するんじゃ!?
なんと言うスケール感。 強すぎる主人公はつまらなさに直結するものですが、それがラスボスのような、ゲームマスターのような位置にするって上手さ。 面白いですね。
いあ!いあ!くとぅるふ ふたぐん!
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ