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賢者の石を手に入れた在宅ワーカーだけど、神様って呼ばれてるっぽい  作者: パラレル・ゲーマー


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第200話

 未知の大陸ムー。

 その広大な草原の只中に鎮座する黄金のピラミッドの足元で、多国籍特別調査団(UN-MUE)は、人類の知性が初めて触れる「超古代のシステム」と対峙していた。


 太陽が傾き、ジャングルの彼方に沈もうとしている。

 夕闇が迫る中、ピラミッドの壁面は自ら淡い燐光を放ち始め、表面に刻まれた幾何学的な回路模様が、まるで呼吸するように明滅していた。

 その光景は美しく、そして底知れぬ威圧感を放っている。


 ピラミッドの入り口付近。

 そこには各国の言語学者、暗号解読のスペシャリスト、そして魔導工学の専門家たちが集まり、壁面に刻まれた文字の解読作業に没頭していた。

 彼らの中心にいるのは、サングラスをかけた異端の専門家、月刊『ムー』編集長の三神だ。


「……やはりベースはナーカル文字だ。だが、文法構造がまるで違う」


 三神はタブレット端末に表示された解析データと、壁面の文字を交互に見比べながら、独りごちた。


「チャーチワードが示した原始的な絵文字ではない。これは、魔術的な概念と論理回路の記述言語が高度に融合した、一種の『プログラム言語』です」


「プログラムですか?」


 隣で作業していたアメリカ軍の暗号解読官が、眉をひそめる。


「石に刻まれた文字が、ソフトウェアのコードだと?」


「ええ。見てください、この配列」


 三神は壁面の一部を指差した。


「ここにある文字列は、『座標』と『転送』、そして『接続』を意味するシンボルの繰り返しです。

 そして、その横にあるのはエネルギー流動の制御式。

 つまり、このピラミッドの主機能の一つは……」


 三神は確信を持って断言した。


「『移動装置』です。

 この巨大な建造物そのものが、大陸全土、あるいはそれ以外の場所へと瞬時に物質を送り込むための、巨大なターミナルハブとして機能している」


 その分析を聞きつけ、総指揮官のバーンズ大佐と、日本代表の小此木が歩み寄ってきた。


「移動装置……つまり、ワープ地点ということか?」


 バーンズが巨大なゲートを見上げながら尋ねる。


「そのようです」


 三神は頷いた。


「恐らく、これと同型のピラミッド、あるいは受信端末となる施設が、この広大なムー大陸の各地に点在しているのでしょう。

 ここのゲートを通ることで、ジャングルを超え、山脈を超え、瞬時に別の都市や拠点へと移動することができる」


「ワープか……」


 小此木が顎に手を当てて考え込む。


「アメリカや日本にある、あの『地脈利用のゲート』みたいなものですかね?

 KAMI様が設置してくださった、あの」


「そうですね。ニュアンス的には、それが近いです」


 三神は同意した。


「ただし、こちらのシステムはKAMI様のものとは系統が異なる。

 あちらが『神の奇跡』による強制的な空間連結だとしたら、こちらは『超古代科学』による論理的な空間折りたたみ技術の結晶。

 原理は違えど機能は同じ。

 なるほどな……これで広大なムー大陸中を、一瞬で移動出来るわけだ」


 大陸全土を網羅する転移ネットワーク。

 それが生きていれば、調査の効率は飛躍的に向上する。

 だが同時に、それは敵対勢力が神出鬼没に現れる可能性をも示唆していた。


「……移動してみますか?」


 ロシアの科学者が、好奇心を隠せない様子で提案した。


「座標のリストらしきものも、解読できています。

 一番上の項目は……『首都』、あるいは『中央管理区』と読めますが。

 そこに行けば、都市部に移動できるかもしれません」


「人がいるかも知れない?」


 小此木が、期待と不安の入り混じった声を出す。


「いや、危険だ」


 バーンズ大佐が即座に却下した。


「行先が安全である保証は、どこにもない。

 転送先がマグマの中かもしれないし、敵の要塞のど真ん中かもしれない。

 それに、一度飛んだら帰って来られるかどうかも分からん」


 バーンズは部隊の通信士の方を向いた。


「おい、通信はどうだ?

 アメリカと日本への通信は、繋がったか?」


 通信士の兵士が青ざめた顔でヘッドセットを外した。


「……ダメです、大佐。

 衛星通信、長距離無線、さらには魔導通信機に至るまで、全て不通です。

 この大陸全体を覆う強力な結界……あるいは、ジャミング・フィールドのようなものが、外部への電波を完全に遮断しています」


「……残念ながら、孤立無援というわけだ」


 バーンズが舌打ちをした。


「なるほど、完全に閉じ込められましたね」


 三神は、むしろ状況を楽しんでいるかのような口調で言った。


「KAMI様が『連絡するわ』と言っていましたが、彼女の通信だけは通じているのでしょうか?」


「KAMI様へのホットラインも沈黙しています」


 小此木が手元の専用端末――日本政府から支給された対KAMI用緊急通信機――を悲しげに見つめた。

 画面には『圏外(Out of Service)』の文字が、無情に表示されている。


「いざとなれば、KAMI様が助けてくれるかも?」


 誰かが希望的観測を口にした。


「いや、保証はない」


 バーンズが厳しく言い放つ。


「――あの御方は気まぐれだ。

 『自力で帰ってきなさい』と笑って見ている可能性の方が高い。

 我々は自分たちの力だけで、生き残る算段を立てねばならん」


 退路は断たれた。外部からの支援も期待できない。

 200名の調査団は、太平洋の空中に浮かぶ未知の大陸に、完全に取り残された形となった。


「……もしくは」


 三神がピラミッドのゲートを指差した。


「このピラミッドのワープ機能で、地球……地上の元の場所へ帰ることが出来るかも?

 『外部接続』のようなコードも見受けられます」


「なるほど……それも最終手段として考えておくか」


 バーンズは頷いた。


「だが解析が完了するまでは、不用意に触れるな。

 誤作動で宇宙の果てに飛ばされたら、笑えん」


 日は完全に落ちた。

 空には、見たことのない星空が広がっている。

 星座の配置が微妙に違う。

 やはりここは、地球上の通常の空間とは位相がズレているのかもしれない。


「……とりあえず、キャンプを設置する!」


 バーンズが号令をかけた。


「ピラミッドの前庭を拠点とする。

 防御結界を展開し、歩哨を立てろ。

 今夜はここで野営だ。本格的な調査は明日以降に行う!」


「イエッサー!」


 多国籍調査団は手際よく、野営の準備を始めた。

 空間折りたたみコンテナから、モジュール式の宿舎や発電機が取り出され、組み立てられていく。

 現代の科学技術と魔法技術が融合した堅牢な前線基地が、古代の遺跡の前に、瞬く間に築き上げられた。


 かがり火の代わりに、魔石ランタンの明かりが灯る。

 兵士たちは交代で休息を取り、科学者たちは採取したデータの整理に追われている。


 だが、その喧騒から離れたピラミッドの入り口付近では、まだ数名の学者たちが取り憑かれたように調査を続けていた。

 彼らにとって目の前の巨大な遺跡は、恐怖の対象ではなく、知的好奇心を満たすための無限の宝庫だったのだ。


「素晴らしい……この彫刻の精緻さ、ナノレベルの加工技術だ」

「エネルギー回路の効率が、理論値を遥かに超えている」

「この象形文字、アトランティス文明との関連性を示唆しているのでは?」


 ピラミッドで熱心に調べる学者チーム。

 その中に、フランスから派遣された考古学の権威、デュポン博士がいた。

 彼は老齢ながら、未知への探究心は誰よりも旺盛だった。

 彼はゲートの光が揺らめく境界線のギリギリまで近づき、手元のスキャナーをかざしていた。


「……美しい。なんて美しい光だ」


 デュポン博士は、夢うつつのような声で呟いた。

 ゲートの奥から漏れ出る光は、単なる物理現象ではなく、何か意味を持った情報の奔流のように見えた。

 それは彼に語りかけていた。

『ここに来い』『知識の源へ』『真理を見よ』と。


「……素晴らしい」


 彼はふらりと一歩を踏み出した。

 警告ラインを超えて。


「おい! デュポン博士! 止まれ!」


 近くで警備にあたっていたロシア兵が気づき、叫んだ。

 だが博士の耳には届いていないようだった。

 彼は吸い寄せられるように、光の渦へと近づいていく。


「いかん!」


 兵士が駆け出す。

 だが遅かった。


 そして思わず、ゲートに入る。


 博士の身体が光の膜に触れた瞬間。

 音もなく、抵抗もなく、彼はその向こう側へと吸い込まれた。


「――博士ッ!!」


 兵士の手が空を切る。

 まもなく消える学者。

 光の渦は何事もなかったかのように、静かに揺らめき続けるだけだった。


 ***


「……あー、報告します」


 数分後。

 緊急招集された作戦会議室テントに、気まずそうな空気が流れていた。

 ロシアのスペツナズ隊長が、渋い顔で報告する。


「フランスからの派遣団員、考古学者のデュポン博士1名が。

 先ほどピラミッドのゲートに入って、消失しました。

 どうぞ……」


「……はぁ?」


 バーンズ大佐が、信じられないという顔で聞き返した。

 そのこめかみに青筋が浮かぶ。


「止めなかったのか!?

 あれほど勝手な行動は慎めと言っておいただろう!」


「止めましたが、間に合いませんでした」


 隊長は弁明した。


「それに彼は、まるで……魅入られたように入って行きました。

 警告の声も聞こえていない様子で。

 精神干渉マインド・コントロールの魔法でも受けていたかのような……」


「精神干渉だと……?」


 小此木が青ざめる。


「この遺跡には、人を誘い込む罠があるというのですか?」


「あるいは、単なる学者の好奇心が暴走しただけかもしれません」


 三神が冷静に口を挟んだ。


「知識に飢えた人間にとって、あの光は抗いがたい誘惑だったのでしょう。

 『好奇心は猫を殺す』と言いますが、学者も殺すようですな」


「冗談を言っている場合ではない!」


 バーンズが机を叩いた。


「一人減った。しかも非戦闘員のVIPだ。

 これを見捨てて帰れば国際問題になる。フランス政府が黙っていないぞ」


 会議室は紛糾した。


「どうします? 二次被害を防ぐためにゲートを封鎖しますか?」

 中国の代表が提案する。


「いや、見殺しにはできん。捜索隊を出すべきだ」

 イギリスの代表が反論する。


「だが行き先も分からないのに飛び込むのは自殺行為だ」


 チームを分けて捜索するか、それとも全員で突入するか、あるいは放置するか。

 議論する声が飛び交う中、一人の技術者が手を挙げた。

『月読研究所』の天才プログラマー、佐伯だった。


「……あの、よろしいでしょうか」


 彼は端末の画面を全員に見せた。


「先ほどからピラミッドの制御コンソール……らしき部分と、こちらの解析機を接続してデータを吸い出していたのですが」


「何か分かったのか?」


「はい。

 博士が飛び込んだ瞬間のゲートの『転送ログ』が残っていました」


 佐山は画面を指差した。


「ゲートは博士の生体情報をスキャンし、特定の『アドレス』へと転送処理を行っています。

 そのアドレスは、この大陸内の物理的な座標ではなく……。

 どうやら内部の『サーバー』のような場所を指しているようです」


「サーバー?」


「はい。恐らく、飛んだ先はピラミッドのログに残ってるから、行き先は分かるという話になったのです。

 場所の名称は古代語で……三神さん、読めますか?」


 佐伯が解読した文字列を、三神が覗き込む。

 彼はサングラスをずらし、目を細めた。


「……『アカシック・レコード』?

 いや、『記憶の回廊』……あるいは『魂の保管所』とも読めますね」


「魂の保管所……」


 不吉な響きに、全員が息を呑む。


「とにかく行き先が特定できるなら、話は別だ」


 バーンズが決断した。


「放置はできない。

 彼を連れ戻すための救出部隊を編成する」


「では調査隊を出すか……」


 バーンズは即座に人選を行った。

 危険な任務だ。

 少人数で、かつ最高の能力を持つ者たちで行く必要がある。


「私が指揮を執る」


 とバーンズ。


「中国の『青龍』から魔導師を二名。

 ロシアのスペツナズから重装兵を二名。

 日本の自衛隊から近接戦闘のエキスパートを二名」


 そして彼は、三神と佐伯を見た。


「そして専門知識を持つ君たち二人も同行してもらう。

 『魂の保管所』とやらで何が起きているのか、解説が必要だ」


「やれやれ、現場仕事ですか」


 三神は肩をすくめたが、その顔は笑っていた。


「望むところです。伝説の深淵を覗けるチャンスですからね」


 調査隊を立てて、彼らは装備を整えた。

 最新鋭のパワードスーツ、魔力防御の護符、そして探索者用の帰還スクロール。

 万全の態勢で彼らは、再びピラミッドの入り口に立った。


 夜の闇の中で、ゲートの光は妖しく揺らめいている。


「――行くぞ。

 必ず全員で帰還する。

 突入!」


 バーンズの号令と共に、調査隊はピラミッドのゲートに入る。

 光が彼らを包み込む。

 木更津からの転送とは違う、もっと粒子レベルで分解されるような奇妙な浮遊感。

 肉体が溶け、意識だけが光のチューブの中を高速で滑走していくような感覚。


 そして。

 光が弾けた。


 彼らが目を開けた時、そこに広がっていたのは、ジャングルでもなければ、石造りの遺跡でもなかった。


「……な、なんだ、ここは?」


 飛んだ先は、電子空間のような箇所だった。

 上下左右の概念がない。

 見渡す限り、幾何学的な光のラインがグリッド状に走り、無限の彼方まで続いている。

 空には数式のような文字列がオーロラのように揺らめき、地面(と思われる場所)はガラスのように透き通り、その下を膨大な光の奔流データストリームが流れている。


 まるで巨大なコンピュータの中に入り込んだかのような光景。

 SF映画のサイバースペース、そのものだった。


「……どこだ、ここは?」


 ロシア兵が呆然と銃を構える。

 だがその銃も、自分の身体も、どこか半透明で輪郭が揺らめいているように見えた。


「いや、まさかと……」


 三神さんは言う。

 彼は周囲の光の回廊を見回し、そして自分の透き通った手を見つめた。


「伝説のムーの神殿……。

 古代の文献には『彼らの神殿は物質を超えた精神の世界にある』と記されていました。

 私はてっきり比喩表現だと思っていましたが……」


 三神は、戦慄と興奮の入り混じった声で結論を口にした。


「電子空間のようですが、恐らく私達は魂の状態です、と言うのが正しいでしょう。

 ここは物理的な肉体を捨て、精神データ(魂)だけが存在を許される、高次元の情報空間なのです」


「魂の状態……だと?」


 バーンズが自分の身体を触る。

 感触はある。だが、どこか希薄だ。


「見てください、あそこを」


 佐伯が指差した先。

 光のグリッドの向こう側に、先に入ったはずのデュポン博士が立っていた。

 だが博士は彼らに気づいていない。

 博士は空中に浮かぶ光の球体データ・アーカイブと、何やら楽しそうに会話をしているように見えた。


「……取り込まれているのか?

 それとも、この世界の住人と対話しているのか?」


 ここがムー大陸の真の中枢。

 失われた超古代文明の住人たちが肉体を捨てて移行した、永遠の精神の楽園(あるいは牢獄)。


 調査隊は理解を超えた世界に、足を踏み入れていた。

 ここで武器は通じるのか。

 魔法は使えるのか。

 そしてここから、生きて(肉体を持って)帰れるのか。


 未知との遭遇は、予想もしない形で幕を開けた。

 電子の風が吹き抜ける中、彼らは慎重に博士の元へと歩み出した。



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― 新着の感想 ―
み、三神さん凄い……胡散臭いオカルト編集者だと思ってたらガチの識者でしたか
データになって電脳空間で暮らせるなら不老不死も復活も思いのままなの分かりますね 住人が増えても物理的にはさほど変化が無いわけですし 食料問題も資源問題とも無縁で機械の維持に使うわずかな分だけでいいわけ…
この状況での勝手な行動は調査隊の指示に従わなかったとして その国へのペナルティになると思いますが
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