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賢者の石を手に入れた在宅ワーカーだけど、神様って呼ばれてるっぽい  作者: パラレル・ゲーマー


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第198話

 東京、ワシントン、北京、モスクワ。

 世界の運命を、その掌中で握りつぶしかねない四つの巨大な権力が、細く、しかし強固なデジタル回線で結ばれていた。

 最高機密バーチャル会議室。


 そこには、いつものメンバー――日本の沢村総理と九条官房長官、アメリカのトンプソン大統領、中国の王将軍、そしてロシアのヴォルコフ将軍が顔を揃えていた。

 だが今日の彼らの表情には、いつものような腹の探り合いや、抜け駆けを警戒するピリピリとした空気は薄い。

 代わりにあるのは、これから始まる人類史上最大級の「賭け」に対する奇妙な連帯感と、そして隠しきれない緊張だった。


「――では、確認させていただきます」


 議長役の九条官房長官が、静かに、しかし重々しく切り出した。

 彼の四つの身体は、それぞれが国連ニューヨーク本部からの報告書、各国軍の動員状況、そして予想されるリスクシナリオの分析に追われている。


「先日、国連緊急特別総会にて採択された決議案に基づき、『ムー大陸』への対応は、国連主導による多国籍特別調査団(UN-MUE)を編成し、まずは『偵察』を行うという方向で、国際的な合意が形成されました。

 参加国は、常任理事国である我々四カ国と英仏に加え、ドイツ、インド、ブラジル、オーストラリア等の主要国を含む、計15カ国。

 建前上は『人類の代表』ですが、実質的な指揮権と主力装備は、ダンジョン技術と魔導兵器を有する我々四カ国が握ることになります」


 九条は手元の端末を操作し、編成された調査団の組織図をモニターに映し出した。


「総員200名。

 内訳は、各国の特殊部隊員、魔導適性を持つ選抜兵士、科学者、考古学者、言語学者、そして……オカルト専門家。

 装備は最新鋭の科学兵器に加え、ダンジョン産の『マジックアイテム』、そして対魔法防御を施した装甲車やドローンを配備。

 人類が現在用意しうる、最強かつ最先端の混成部隊です」


 その報告に、トンプソン大統領が満足げに頷いた。


「うむ。悪くない。

 我が国からは『アークエンジェル』の精鋭と、エリア51の技術者たちを送り込んだ。

 リーダーは数々の修羅場をくぐり抜けてきた歴戦の勇士、バーンズ大佐だ。現場指揮は彼に任せておけば間違いない」


「我が国からも『青龍』の精鋭を派遣した」


 王将軍が、鋭い眼光で言った。


「武力だけでなく、古代文字の解読班も最高レベルの人間を揃えている。

 情報の解析において、後れを取るつもりはない」


「ロシアもだ」


 ヴォルコフ将軍が、ウォッカのグラスを置いた。


「極限環境でのサバイバルなら、スペツナズの右に出る者はいない。

 未知の大陸がどのような地獄であろうと、生き残ってみせるさ」


 四カ国の足並みは、表向きは揃っていた。

 国連という錦の御旗の下、実質的には彼らが主導権を握る。

 そのシナリオ通りに事は運んでいた。


「……というわけで」


 沢村総理が、恐る恐る天井を見上げた。


「我々の方針は固まりました。

 KAMI様。……いかがでしょうか?」


 その呼びかけに応えるように、会議室の空気が、ふわりと揺らいだ。

 電子音と共に現れたのは、いつものゴシック・ロリタ姿の少女。

 KAMIは今日はなぜか、探検家のようなベージュのベストを羽織り、首から双眼鏡をぶら下げていた。

 手には、日本のコンビニで買ったと思われる「チョコモナカジャンボ」が握られている。


「んー? もう決まったの?」


 KAMIはモナカをパリッとかじりながら、きょとんとした顔で四人の男たちを見回した。


「意外と早かったわね。

 もっと揉めるかと思ってたけど」


「揉めている時間などありませんよ」


 九条が苦笑した。


「貴女様がいつ『飽きたからやーめた』と言い出すか、あるいは勝手に大陸を浮上させてしまうか。

 それが怖くて、我々は不眠不休で調整したのです」


「失礼ねぇ。私はそこまで無責任じゃないわよ」


 KAMIは心外だと言わんばかりに頬を膨らませた。


「ちゃんと待っててあげたじゃない。

 で? 国連主導で、まずは偵察隊を送る。

 ……うん、良いんじゃない? 賢明な判断よ」


 彼女は指先についたチョコを舐めとりながら、ニヤリと笑った。


「いきなり軍艦を並べて包囲したりしたら、向こうの自動防衛システムが過剰反応して、太平洋が火の海になってたかもしれないしね。

 こっそりお邪魔して、様子を見る。

 古典的だけど、一番安全な攻略法だわ」


 さらりと恐ろしいことを言う。

 自動防衛システム。火の海。

 やはり、ただの遺跡ではないのだ。


「では、承認いただけるということで?」


 トンプソンが確認する。


「ええ、もちろんよ」


 KAMIは頷いた。


「あなたたちが一生懸命考えたプランだもの。尊重してあげるわ。

 それに、多国籍チームが未知の遺跡で右往左往する様子って、パニック映画みたいで面白そうだし」


 彼女は空中に、巨大な魔法陣のホログラムを描き出した。

 それはダンジョンのゲートよりも遥かに複雑で、そして強大な魔力を秘めた幾何学模様だった。


「移動手段は、これを使うわ。

 『長距離転移魔法陣テレポート・サークル』。

 飛行機や船で近づくと、結界に弾かれたり、迎撃されたりするリスクがあるからね。

 私の権限で、結界の内側に直接、安全な『橋頭堡』を作ってあげる」


「転移……ですか」


 王将軍が唸る。


「いきなり敵陣の真っ只中に放り込まれるわけではないのでしょうな?」


「大丈夫よ。

 スキャンした限り、大陸の端っこに手頃なジャングルがあったから。

 そこなら迎撃システムも手薄だし、身を隠すのにも丁度いいわ。

 まずはそこに転送してあげる」


 KAMIはウインクした。


「ゲート(転移陣)は日本の……そうね、千葉の木更津駐屯地あたりに設置するわ。あそこなら広くて使いやすいでしょ?

 座標データと起動コードは、あとで九条さんの端末に送っておくから」


「き、木更津ですか……」


 九条がメモを取る。


「承知いたしました。直ちに周辺の封鎖と、調査団の集結を手配いたします」


「じゃあ!」


 KAMIはチョコモナカジャンボの最後の一欠片を口に放り込んだ。


「たっぷりムー大陸を探索してきなさい。

 一万年の時を超えたロマンが、あなたたちを待ってるわよ。

 ……何が出てきても、泣かないことね」


 その不吉な励ましの言葉を残して、KAMIの姿はノイズと共に消え失せた。


 後に残された四人は、深いため息をついた。

 だがその目には、後戻りできない覚悟の色が宿っていた。


「……やるしかないな」


 沢村が言った。


「賽は投げられた。

 九条君、直ちに木更津へ。

 世界中の『探検家』たちを、あそこへ集めるんだ」


 ***


 数日後。

 千葉県・木更津駐屯地。

 東京湾に面した広大な滑走路の一角は、異様な熱気と、そして国際色豊かな喧騒に包まれていた。


 駐機場の中央には、KAMIによって設置された直径50メートルにも及ぶ巨大な魔法陣が、青白く、そして不気味に脈動している。

 その周囲を取り囲むのは、世界各国から集結した選りすぐりの精鋭たちだ。


 アメリカ軍の最新鋭パワードスーツ『パトリオット・プロトタイプ』を装着した特殊部隊。

 中国人民解放軍の魔導師部隊『龍牙』。

 ロシアのスペツナズ。

 そして日本の陸上自衛隊特殊作戦群と、『月読研究所』から派遣された魔法技術者たち。


 彼らの装備は、科学と魔法が融合した現代地球における最強の武装だった。

 アサルトライフルには魔石バッテリーが接続され、ボディアーマーには耐性強化のエンチャントが施されている。

 さらに大型のトレーラーや装甲車、偵察用ドローンの群れも待機していた。

 全て、空間折りたたみコンテナに収納可能なサイズに調整されている。


 その一団の中に、明らかに場違いな一人の男がいた。

 黒いジャケットにサングラス。首からは怪しげな水晶のペンダント。

 月刊『ムー』編集長、三神である。


「……素晴らしい」


 彼は目の前の転移魔法陣を見つめ、サングラスの奥の瞳を輝かせていた。


「この幾何学模様……チャーチワードが描いた『聖なる兄弟のシンボル』に酷似している。

 やはりKAMI様の技術体系と、ムーの文明には何らかの接点があるのか……?」


「三神先生、感心している場合ではありませんよ」


 隣に立つ小此木(今回は日本政府代表として同行する)が、緊張した面持ちで声をかけた。


「貴方は今回の調査の『頭脳』の一人です。

 未知の言語、未知の風習、そして未知の脅威。

 それらを解釈するのは、貴方の知識にかかっているのですから」


「ええ、分かっておりますとも」


 三神は不敵に笑った。


「私の頭の中には、過去50年分のオカルト知識が詰まっています。

 アトランティスだろうが、レムリアだろうが、何が来ても驚きませんよ。

 ……宇宙人以外はね」


 その時、調査団の総指揮を執るアメリカ軍のバーンズ大佐が、装甲車のハッチから身を乗り出し、拡声器で叫んだ。


「――総員注目!」


 ざわめきが消え、200名の視線が指揮官に集まる。

 バーンズ大佐は、歴戦の傷跡が残る顔を引き締め、鋭い眼光で隊員たちを見渡した。


「これより作戦『ロスト・ホライズン』を開始する!

 我々の任務は、浮上予定地点にある未知の大陸への潜入、および偵察だ!

 敵の規模、戦力、そして意図は不明。

 最悪の場合、敵地に孤立無援で放り出されることになる!」


 彼は腰の魔導拳銃を叩いた。


「だが恐れるな!

 我々は地球最強のチームだ!

 科学と魔法、そして結束の力がある!

 我々が持ち帰る情報が、人類の未来を決めるのだ!

 気をつけて、だが大胆に探索をお願いする!」


「「「イエッサー!!!」」」


 各国の言葉で力強い返答が響き渡る。

 政治的な対立はあれど、現場の兵士たちの間には、死地を共にする者同士の奇妙な連帯感が生まれていた。


「――了解しました」


 日本隊のリーダーを務める自衛隊の一佐が、バーンズに敬礼する。


「日本隊、準備完了です」


「よし」


 バーンズは頷いた。


「では全員、転送魔法陣に配置! 車両も入れろ!

 陣形を崩すなよ!

 向こうに着いた瞬間、戦闘になる可能性もある!」


 重厚なエンジン音と共に、装甲車列が魔法陣の上へと移動する。

 隊員たちがその周囲を固める。

 三神や科学者たちは装甲車の内部、最も安全な位置に収容された。


 準備が整った。


「――転送シークエンス起動!」


 九条(の分身)が管制室から、KAMIの起動コードを入力する。


 ブォォォン……!


 重低音が響き、魔法陣が眩い光を放ち始めた。

 光の柱が天を突き、空間が歪む。

 視界が白く染まり、重力が消失するような感覚。


「行くぞ! 歴史を変えにな!」


 誰かの叫び声が光の中に溶けていった。


 シュンッ!


 次の瞬間、木更津の滑走路から200名の人員と数台の車両が、忽然と姿を消した。


 ***


 感覚が戻った時、最初に彼らを迎えたのは、むせ返るような湿気と濃密な植物の匂いだった。


「……転送完了。各員、状況報告!」


 バーンズ大佐の声がインカムに響く。

 隊員たちが即座に周囲を警戒し、銃を構える。


「……ここは?」


 装甲車のハッチを開け、小此木が外を覗き込んだ。

 そこは鬱蒼としたジャングルの中だった。

 だが、地球のそれとは明らかに何かが違っていた。


 木々が巨大すぎる。

 数十メートルはある巨木が林立し、その幹は青白く発光する苔で覆われている。

 空を見上げても、重なり合う枝葉に遮られ、太陽の位置さえ確認できない。

 そして何より、空気が「濃い」。

 酸素濃度が高いのか、それともマナの濃度が高いのか。呼吸をするたびに、肺が熱くなるような感覚がある。


「さて、何が出るか……?」


 三神がサングラスを外し、周囲を見回した。


「……植生が古代のシダ植物に似ていますね。

 それに、あの木……。もしかして伝説の『神木』の亜種か?」


 科学者たちが携帯型の分析機をかざして騒ぎ始める。


「マナ濃度、計測不能! アステルガルド以上です!」

「重力は地球とほぼ同じ……いや、制御されています! 人工重力か!?」

「生物反応多数! 囲まれています!」


「敵襲か!?」


 兵士たちが緊張する。


「いや、動物だ」


 センサー担当の兵士が報告する。


「小型の……恐竜? いや、爬虫類型の生物が多数。

 こちらを警戒していますが、攻撃の兆候はありません」


 どうやら、いきなり戦闘状態には入っていないようだ。

 バーンズ大佐は少しだけ安堵の息をついた。


「よし、まずジャングルを抜けたいな。

 このままでは視界が悪すぎるし、車両の移動も困難だ。

 現在位置と周辺の地形を把握する必要がある」


 彼は通信士に命じた。


「ドローンを飛ばせ!

 上空からの映像を確保しろ! 敵の拠点はどこだ!」


「ラジャー! 偵察用ドローン『スカイ・アイ』射出!」


 装甲車の屋根から数機の小型ドローンが飛び立った。

 プロペラ音を響かせ、鬱蒼とした木々の隙間を縫って、上空へと舞い上がる。


 同時にバーンズは、地上部隊にも指示を出した。


「因果律改変能力者と、ダンジョンのレベル持ちで偵察隊を出せ!

 『気配察知』や『隠密』のスキルを持つ者が先行しろ!

 物理的な罠や魔法的な結界があるかもしれん。慎重に進め!」


「了解!」


 日本の『月読研究所』出身の探索者や、ロシアのスペツナズ(魔法強化兵)たちが、音もなくジャングルの奥へと消えていく。


「学者先生達は、ここで待機してください!

 安全が確保されるまで、装甲車から出ないように!」


 三神や小此木たちは車内でおとなしくモニターを見つめた。

 そこには上空に達したドローンからの映像が送られてきているはずだ。


 ザザッ……ザザッ……。


「……隊長! 映像、来ます!」


 ノイズ混じりの画面が鮮明になる。

 そこに映し出された光景に、全員が息を呑んだ。


「これは……」


 眼下に広がっていたのは、見渡す限りの緑の樹海。

 だがその樹海は、決して自然のものではなかった。

 木々が幾何学的なパターンを描いて並んでいる。

 まるで巨大な回路基板のように。


 そしてその樹海の先。

 北東の方角、約1キロメートル先に、森が不自然に途切れている場所があった。


「……草原だ」


 オペレーターが叫ぶ。


「広大な草原が広がっています!

 そしてその草原の中央に……何かあります!」


 カメラがズームする。

 草原の中に巨大な建造物らしき影が見える。

 白く輝くピラミッドのような、あるいは塔のような構造物。

 その頂点から、天に向かって一条の光が伸びている。


「ビンゴだ」


 バーンズが拳を握った。


「あれが何かの拠点、あるいは制御施設に違いない。

 よし、1キロほどでジャングルが途切れて草原らしいぞ。

 そこまで移動する!」


「車両は通れますか?」


「工兵部隊! 魔法で道を切り開け!

 『アース・シェイプ(地形操作)』と『伐採』スキルを持つ者は前へ!

 強行軍だ! 日没までに、あの草原へ出るぞ!」


「イエッサー!!」


 多国籍調査団が動き出す。

 魔法によって木々が左右に退き、即席の道が作られていく。

 その道をキャタピラとタイヤが踏みしめ、人類の足跡を刻んでいく。


 三神は揺れる車内で、モニターのピラミッドを見つめながら、興奮で身震いしていた。


「……あれはムーの『太陽の神殿』か?

 それともエネルギー・プラントか?

 どちらにせよ、あそこに『答え』がある」


 彼はペンダントを握りしめた。


「ついに来たぞ。伝説の地へ」


 ジャングルの湿った風が、彼らの頬を撫でる。

 その風の奥から、微かに、しかし確かに、何かが起動する低い駆動音が聞こえた気がした。


 人類はまだ気づいていない。

 自分たちが踏み込んだ場所が単なる遺跡などではなく、今なお生き続け、そして侵入者を静かに選別する巨大な「システム」の内部であることを。


 偵察隊の先頭を行く兵士が、ふと立ち止まった。


「……おい、何か聞こえないか?」

「鳥の声か?」

「いや……機械の音だ」


 木々のざわめきに混じって、金属が擦れるような音が近づいてくる。

 最初の接触ファースト・コンタクトは、もう目の前に迫っていた。



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― 新着の感想 ―
流石に未知の大陸はワクワクするね 鬼が出るか蛇が出るか
 木々が回路図を描いているなら伐採したら駄目でしょうに、重力を制御していたら空に落ちるかもしれないのに。
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