第197話
東京、ワシントン、北京、モスクワ。
世界の運命を握る四つの首都を繋ぐ、最高機密のバーチャル会議室。
そこには、いつものメンバー――日本の沢村総理、九条官房長官、アメリカのトンプソン大統領、中国の王将軍、そしてロシアのヴォルコフ将軍が顔を揃えていた。
KAMIからの衝撃的な「ムー大陸浮上提案」から数日。各国の指導者たちは、それぞれの国内調整と腹芸を終え、再びこの円卓に戻ってきた。
彼らの表情には迷いはなかった。あるのは、未知なる巨万の富を前にした肉食獣のようなギラついた野心と、それを覆い隠すための政治家としての厚い仮面だけだった。
「――定刻です。緊急四カ国首脳会議を再開します」
議長役の九条官房長官が、静かに宣言した。
彼の四つの身体は、それぞれが膨大なシミュレーション結果と、想定されるリスクシナリオを表示したモニターに囲まれている。
「本日の議題はただ一つ。
KAMI様より提案された『ムー大陸浮上計画』に対する、我々四カ国の統一意思決定についてです。
……まずは各国の結論をお聞かせ願いたい」
最初に口を開いたのは、やはりアメリカのトンプソン大統領だった。
彼は満足げに葉巻の煙を吐き出しながら、力強く頷いた。
「アメリカ合衆国の答えは『YES』だ。
我々はフロンティアを恐れない。太平洋上に新たな大陸が出現する。これほど刺激的で、そしてチャンスに満ちた話はないだろう?
そこに眠るかもしれない超古代文明のテクノロジー、未知の資源、そして新たな領土。
全てがアメリカの国益、ひいては人類の進歩に資するものだ。
浮上させるべきだ。それも、可能な限り早急に」
トンプソンの言葉には、軍産複合体とエネルギー産業からの強力なプッシュを受けた自信が滲んでいた。
未知の兵器、未知のエネルギー。
それらはアメリカを再び偉大にするための、最強のカードになり得る。
「中国も同意する」
王将軍が、短く、しかし重々しく続いた。
「太平洋の要衝に巨大な陸地が出現する。これは地政学的にも極めて重要な意味を持つ。
我が国としては、その『管理』と『開発』に主導的な役割を果たす用意がある。
古代の叡智は、アジアの同胞である我々が継承すべきものだ」
その言葉の裏には、「南シナ海の次はムー大陸だ」という露骨な海洋進出の意図が見え隠れしていた。
「ロシアも異存はない」
ヴォルコフ将軍が、不敵な笑みを浮かべた。
「我が国の北極海航路開発と同様、極限環境での資源開発はロシアの得意分野だ。
空に浮かぶ大陸だろうが、深海だろうが、そこに資源があるなら掘り尽くすのみ。
皇帝陛下も『面白い、やれ』と仰せだ」
米中露、三つの超大国の意見は完全に一致していた。
「欲望」という名の共通言語によって。
リスクはある。だが、それ以上のリターンが、彼らの目を眩ませていた。
そして最後に、日本の番が回ってきた。
沢村総理は、三人の指導者たちの熱視線を受けながら、ゆっくりと口を開いた。
「……我が国、日本も基本的には『浮上容認』の立場をとります」
「おお!」
トンプソンが手を叩く。
「やはり、そうこなくてはな、総理!」
「ですが」
沢村は釘を刺すように、強い口調で続けた。
「無条件での賛成ではありません。
KAMI様も仰っていた通り、中の文明がどのような状態にあるのか、現時点では全くの不明です。
無人の廃墟ならば良い。
だが、もし高度な軍事力を持った敵対的な勢力が潜んでいた場合、大陸を浮上させた瞬間に地球規模の戦争が勃発するリスクがあります。
いきなりフルオープンにするのは、あまりにも危険すぎる」
沢村は九条に目配せをした。
九条が、あらかじめ用意していた「条件付き合意案」をスクリーンに投影する。
「そこで日本政府は、以下のプロセスを提案します。
第一段階としてKAMI様に依頼し、大陸を完全には浮上させず、限定的な『ゲート』、あるいは『転移魔法陣』を通じて、少人数の『偵察隊』を内部に送り込むこと。
まずは中の状況――住民の有無、文明レベル、敵対性の有無、環境データなどを詳細に調査する。
その上で、安全が確認された場合のみ、第二段階として大陸を物理的に浮上させる」
これが日本がひねり出した「安全策」であり、同時に「主導権を握るための布石」だった。
「偵察隊……か」
ヴォルコフが顎を撫でる。
「悪くない案だ。いきなり艦隊を送り込んで迎撃されるよりは、特殊部隊による隠密偵察の方がリスクは低い」
「だが、誰が行くのだ?」
王将軍が鋭く問う。
「まさか日本だけで行くつもりではあるまいな? 情報の独占は許さんぞ」
「もちろんです」
九条が即答する。
「偵察隊は多国籍による合同チームとすべきです。
ただし……」
九条はここで、この会議の最大のポイントとなるカードを切った。
「このプロジェクトを我々四カ国だけで進めるのは、政治的に『悪手』です」
「……何だと?」
トンプソンが眉をひそめる。
「考えてもみてください。
太平洋のど真ん中、公海上に新大陸が出現するのです。
これは国際法上、人類共有の財産と見なされる可能性が高い。
それを、ダンジョン利権を独占している我々四カ国だけで勝手に決めて、勝手に調査し、勝手に分割しようとすれば……世界はどう思いますか?」
九条は世界地図を表示させ、そこに無数の抗議デモのアイコンを重ねてみせた。
「『また四カ国か』『我々を仲間外れにするな』。
世界の不満は爆発寸前です。
ここで我々が独走すれば、EU、G77、アフリカ連合、南米諸国……全世界を敵に回すことになりかねない。
最悪の場合、反四カ国連合による経済制裁や、テロの激化を招きます」
沢村が引き取る。
「我々は、これ以上の敵を作るべきではない。
むしろ、このムー大陸という巨大なパイを、ガス抜きのために使うべきです。
『みんなで決めましょう』『みんなで分け合いましょう』というポーズを見せることで、世界の不満を逸らし、我々の主導権を正当化するのです」
そして沢村は、結論を告げた。
「よって我々は提案します。
この『ムー大陸浮上計画』、及び『偵察隊の派遣』を、四カ国の密室会議ではなく、国連の場に持ち込み、国際社会の総意として決定するのです!」
国連。
その言葉に三カ国の首脳たちは、一瞬顔を見合わせた。
面倒だ。時間がかかる。非効率だ。
それが彼らの国連に対する共通認識だった。
だが同時に、彼らは老獪な政治家でもあった。
九条の言う通り、今の世界情勢において「大義名分」がいかに重要か、痛いほど理解していた。
自分たちだけで肉を食らえば恨まれる。
だが「みんなで狩りに行こう」と呼びかけ、解体ショーを見せつければ、たとえ一番いい肉を自分たちが持っていったとしても、文句は出にくい。
「……なるほど」
トンプソンがニヤリと笑った。
「『民主主義的なプロセス』というやつだな。私は好きだよ、そういうショーは。
国連の場でお墨付きをもらえば、誰も我々の調査に文句は言えまい」
「国連か……」
王将軍も計算高い目で頷いた。
「我が国の影響力を、グローバルサウスに見せつける良い機会かもしれん。
途上国の代表たちを味方につければ、議論を有利に進められる」
「まあ、形式的なものだ」
ヴォルコフが肩をすくめる。
「実質的な力を持っているのは我々なのだから、どんな議論になろうと最終的に現場を動かすのは我々の軍隊だ。
ガス抜きに付き合ってやるのも、大国の余裕というものだろう」
合意は形成された。
四カ国は自らの野望を隠し、平和と協調の仮面を被って、ニューヨークの檜舞台へと乗り込むことを決めた。
「では決まりですね」
九条が締めくくった。
「直ちに国連事務総長に連絡を取り、緊急安全保障理事会および総会の招集を要請します。
議題は『未確認大陸の浮上に関する国際的対応』。
……世界がひっくり返るような会議になりますよ」
***
数日後。アメリカ、ニューヨーク。
イーストリバーのほとりにそびえ立つ国連本部ビル。
その大会議場は、創設以来最も奇妙で、そして最も熱気のある興奮に包まれていた。
全世界193カ国の代表団が席を埋め尽くしている。
傍聴席には世界中のメディア、科学者、そしてなぜかオカルト雑誌の記者たちまでもが詰めかけ、固唾を飲んで議長の宣言を待っていた。
演台に立ったのは国連事務総長だった。
彼は手元の原稿を持つ手が微かに震えているのを隠そうともせず、マイクに向かった。
その声は、歴史の重みに押しつぶされそうになりながらも、厳粛に響き渡った。
「――これより第X回緊急特別総会を開会いたします。
本日の議題は、日米中露四カ国より提出された共同決議案。
『太平洋上における超古代大陸ムーの浮上、およびその調査に関する国際協力について』であります」
ドッッッ!!
事務総長が議題を読み上げた瞬間、会場は爆発的なざわめきに包まれた。
事前に噂は流れていた。だが、実際に「ムー大陸」という単語が国連の公式な議題として読み上げられる衝撃は、外交官たちの理性を揺さぶるに十分すぎた。
「ムー大陸だと!? 正気か!?」
「アトランティスじゃなくてムーなのか?」
「オカルト雑誌の特集じゃないんだぞ!」
「これは高度な政治的ジョークか?」
困惑、失笑、そして恐怖。
だが、その喧騒を切り裂くように、日本の沢村総理が静かに、しかし堂々と演壇へと歩み出た。
彼の背後には巨大なスクリーンに、KAMIから提供された「浮上予想図」と「古代地図」が映し出されている。
「……静粛に願います」
沢村の声が、会場の空気を鎮めた。
「皆様の驚きはごもっともです。私自身、数日前まではこの話を信じておりませんでした。
ですが我々の世界は変わったのです。
ダンジョンが現れ、魔法が実在し、ロボットが心を持つ時代です。
かつて海に沈んだ大陸が、空に浮かんで帰ってくる。……それもまた、この新しい世界の『現実』なのです」
沢村はKAMIからの情報――太平洋の中央、高度3000メートルに、オーストラリア大陸に匹敵する質量の物体が出現する可能性があること。
そしてその内部に、未知の文明が眠っている可能性があることを、淡々と説明した。
「これは全人類にとっての危機であり、同時に最大の好機でもあります。
もし彼らが敵対的であれば、地球規模の防衛戦が必要になるでしょう。
もし彼らが友好的であれば、我々は失われた叡智と資源を手に入れることができるでしょう。
いずれにせよ、この問題は一国で抱え込めるものではありません。
全世界が結束し、知恵を出し合って対処すべき、人類共通の課題なのです!」
沢村の演説が終わると、会場は再びどよめきに包まれた。
だが今度は嘲笑ではない。
目の前に突きつけられた、あまりにも巨大な「現実」に対する、真剣な議論の熱気だった。
最初に発言を求めたのは、フランスの大統領だった。
彼はEUを代表し、鋭い視線で沢村を見据えた。
「……日本代表の言葉、理解はした。
だが一つ懸念がある。
この情報は全てKAMIという存在からもたらされたものだ。
そしてそのKAMIとのパイプを独占しているのは、貴国を含む四カ国だけだ。
これはあなた方が新たな利権を作り出すための、壮大なマッチポンプではないのかね?」
その指摘に、会場から「そうだ!」という同調の声が上がる。
ダンジョン利権を独占された恨みは、未だ根深い。
「もし大陸が浮上したとして、その領有権はどうなる?
公海上の上空だ。誰のものでもないはずだ。
まさか最初に見つけた(あるいは情報を握っていた)四カ国だけで、山分けにするつもりではあるまいな?」
フランス大統領の追求に、トンプソン大統領が席から立ち上がり、マイクを握った。
「誤解を招くような言い方はやめていただきたい、大統領。
我々は独占など考えていない。
だからこそこうして、国連の場に諮っているのだ」
トンプソンは両手を広げてアピールした。
「宇宙条約の精神に則り、ムー大陸は『全人類の共有財産』とすべきだ、というのが我々アメリカの考えだ。
領有権は主張しない。あくまで国際管理下に置く。
その上で、調査と開発にかかるコストとリスクを負担できる国が、相応の権利を得る。
至極公平な話ではないか?」
「コストとリスクを負担できる国……つまり金と軍事力のある国、すなわち貴国らということか?」
ブラジルの代表が、皮肉っぽく噛み付く。
「我々グローバルサウスの国々には、指をくわえて見ていろということですね?」
「そうは言っておらん!」
中国の王将軍(代理の大使)が反論する。
「我が国は発展途上国の皆様にも広く門戸を開く用意がある。
我が国の調査船団に、皆様の国の科学者を同乗させても良い。
利益はシェアする。それが『人類運命共同体』の精神だ」
「ロシアも同様だ」
ヴォルコフの代理大使も続く。
「寒冷地や高高度での活動ノウハウを提供する用意がある。
共にムーの謎を解き明かそうではないか」
各国がそれぞれの思惑で主導権を握ろうと、発言を繰り返す。
議論はムー大陸の「存在」そのものから、「誰がそのパイを切り分けるか」という利権争いへと急速にシフトしていった。
そこには古代文明へのロマンなど微塵もない。
あるのは、剥き出しの国家のエゴだけだ。
議論が膠着し始めた頃、インドの代表が静かに手を挙げた。
モディ首相の代理人である彼は、独特の抑揚のある英語で、しかし核心を突く提案を行った。
「……皆様。利益の分配について争うのは、まだ早いのではないでしょうか。
まだ大陸は浮上していないのです。
中に何があるのか、そもそも安全なのかさえ分かっていない。
毒ガスが充満しているかもしれない。殺人ロボットが徘徊しているかもしれない。
あるいはKAMI様の気まぐれで、開けた瞬間に爆発するかもしれない」
会場に緊張が走る。
「まずは『偵察』です。
日本が提案した通り、少人数のチームを送り込み、安全を確認するのが先決でしょう。
その結果を見てから、領有権や開発権の話をすべきです」
インド代表は四カ国の代表を見渡した。
「そこで提案がある。
その偵察隊のメンバーですが……。
まさか四カ国の軍人だけで構成するつもりではありませんよね?」
その言葉に沢村と九条は内心で「来たか」と思った。
予想通りの展開だ。
「もし四カ国だけで調査を行えば、都合の悪い情報を隠蔽し、美味しいところだけを独占する疑いが残ります。
国際的な信頼を得るためには、調査団は『多国籍』でなければならない。
透明性を担保するため、中立的な立場にある国々や専門家を含めるべきです」
「……具体的には?」
イギリスの代表が尋ねる。
「常任理事国(P5)である米英仏露中。これは外せないでしょう。責任がありますから。
それに加えて、地域バランスを考慮した非常任理事国および主要な関係国を加えた、拡大調査団を結成すべきです」
インド代表は指を折って数えた。
「例えばG4(日本、ドイツ、インド、ブラジル)の国々。
あるいは太平洋に面するオーストラリアやカナダ。
合計で……そうですね、『10カ国から15カ国』程度。
これくらいの規模で合同チームを編成し、国連の旗の下に派遣する。
これならば世界も納得するのではないでしょうか?」
その提案に、会場からは賛同の拍手が起こった。
「P5+10」。
大国の顔を立てつつ、その他の有力国も巻き込む、絶妙なバランス。
沢村は九条と目配せをした。
(……想定の範囲内だな)
(ええ。むしろインドが上手くまとめてくれました。これで四カ国独占という批判はかわせます)
沢村はマイクを取った。
「……インド代表のご提案、極めて建設的であると考えます。
日本政府としても、情報の透明性と国際協調を最優先したい。
『国連ムー大陸特別調査団(UN-MUE:United Nations Mu Exploration)』。
この枠組みで偵察隊を組織することに同意します」
トンプソンも渋々といった体で、しかし計算通りに頷いた。
「……よかろう。アメリカも異存はない。
ただし指揮権は、経験豊富な我が軍か、あるいは情報を持つ日本が取るべきだと主張しておくがね」
「指揮権については、追って調整しましょう」
九条がすかさずフォローする。
「まずは、この枠組みでの合意形成を優先します」
その後、議論は偵察隊の細かな構成や、費用負担、リスク管理についての泥臭い詰めに入った。
「費用の分担率はどうする? 国連分担金比率でいくか?」
「いや、技術を提供する日本とアメリカが多めに負担すべきだ」
「調査で得られたデータは即時公開か? それとも一定期間の秘匿を認めるか?」
「隊員の安全確保は? 万が一、未知の病原菌を持ち帰った場合の検疫体制は?」
「もし知的生命体と遭遇した場合の『ファーストコンタクト』の手順は? 誰が最初に話しかけるんだ?」
専門家たちが呼び入れられ、分厚い資料が飛び交う。
科学者、軍人、国際法学者。
そして、その中には日本政府団の末席に座るサングラスの男――『ムー』の三神編集長の姿もあった。
彼は各国の代表が「古代文字の解読はどうする」と頭を悩ませている時に、すっと手を挙げた。
「……失礼。古代ムー語の解読についてですが。
チャーチワードの資料に基づけば、彼らの言語は象形文字に近い性質を持っています。
我が編集部には、その解読を試みている言語学者がおります。
またテレパシーによる意思疎通の可能性も考慮し、能力者の動向も……」
「……君は誰だ?」
フランス代表が怪訝な顔をする。
「日本の……民間専門家です」
九条が真顔で紹介した。
「この分野における世界最高峰の知見をお持ちの方です」
会場の空気が、一瞬奇妙なものになった。
国連の場で、オカルト雑誌の編集長が大真面目に古代文明の言語についてレクチャーをしている。
だが誰も笑わなかった。
なぜなら、彼らが直面している現実そのものが、どんなオカルトよりも荒唐無稽なのだから。
今や彼の知識こそが、最も頼りになる「情報源」なのかもしれないのだ。
議論は深夜まで続いた。
コーヒーの空きカップが積み上がり、通訳たちの声が枯れ始めた頃。
ついに決議案がまとまった。
『国連決議20XX-Mu号』。
・ムー大陸の浮上を、条件付きで容認する。
・国連主導による多国籍特別調査団(UN-MUE)を設立し、日本、アメリカ、中国、ロシア、イギリス、フランス、インド、ドイツ、ブラジル、オーストラリア……計15カ国から選抜された要員を派遣する。
・調査団の任務は、住民の確認、敵対性の有無、環境調査に限定する。
・調査結果に基づき、第二段階の浮上プロセスを決定する。
「……採決に入ります」
議長が宣言する。
投票ボタンが押されていく。
緑色のランプがボードを埋め尽くす。
圧倒的多数による賛成。
木槌の音が高らかに響いた。
「――可決されました!」
ワァァァァァァッ!!
議場が拍手と歓声に包まれる。
それは人類が初めて、地球という惑星の「隠された歴史」に公的に手を伸ばすことを決めた瞬間だった。
沢村はトンプソンと握手を交わしながら、深く息を吐いた。
「……決まったな」
「ああ。これで後戻りはできない」
トンプソンがニヤリと笑う。
「さあ冒険の始まりだ。インディ・ジョーンズも真っ青の大冒険になるぞ」
九条は静かに手元の資料を閉じた。
彼の仕事は、ここからが本番だ。
15カ国の混成部隊。言葉も装備も指揮系統もバラバラな集団をまとめ上げ、未知の大陸へと送り込む。
その調整業務の膨大さを思うと、胃がキリキリと痛むようだった。
「……三神さん。頼みますよ」
彼は隣のサングラスの男に声をかけた。
「貴方の知識が頼りです」
「お任せを」
三神は不敵に笑った。
「ようやく我々の時代が来ましたね。
ムー大陸の謎、全て解き明かしてみせましょう。
……まあ、宇宙人が出てきても驚かないでくださいね?」
その言葉に、九条は苦笑した。
「……驚きませんよ。
もう何が起きても驚きません」
神の気まぐれ。
蘇る古代大陸。
そして欲望と好奇心に突き動かされた、人類の探検隊。
舞台は整った。
太平洋の真ん中、何もない海原の上空に、まもなく伝説が姿を現す。
その扉を開ける鍵は、今、人類の手に委ねられたのだ。




