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賢者の石を手に入れた在宅ワーカーだけど、神様って呼ばれてるっぽい  作者: パラレル・ゲーマー


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第187話

 東京、ワシントン、北京、モスクワ。

 世界の運命を握る四つの首都を繋ぐ、最高機密のバーチャル会議室。


 そこにはいつものメンバー――沢村総理、九条官房長官、トンプソン大統領、王将軍、ヴォルコフ将軍――が顔を揃えていた。

 彼らの表情には、前回のイベント終了後の「祭りのあと」の倦怠感と、そして次なる動きへの警戒心が入り混じっていた。


「――定刻です。四カ国定例首脳会議を始めます」


 議長役の九条官房長官が、淡々と宣言した。

 議題は、停滞しつつあるダンジョン経済の活性化と、C級ダンジョンの攻略進捗についてだ。


「現在の市場は、『変化のオーブ』によるギャンブル・クラフトに疲弊しつつあります」

 九条が報告する。


「運良く強力な装備を手に入れた者と、資産を溶かして破産した者。

 その格差が極限まで広がり、中間層の装備更新が止まっています。

 確実性のない強化に、多くの探索者が二の足を踏んでいる状況です」


「うむ」


 トンプソン大統領が、葉巻を揺らした。


「我が軍のアークエンジェル部隊も同様だ。

 予算を投じても、成果が運任せでは議会への説明がつかん。

 そろそろ『確実な成果』が欲しいところだが……」


 彼らが求めているのは、計算できる強化。

 その願いに応えるかのように、円卓の中央にファンファーレのような電子音が鳴り響いた。


「――お待たせ!」


 ホログラムのノイズと共に現れたのは、いつものゴシック・ロリタ姿の少女、KAMI。

 今日の彼女は探検家の帽子を被り、手には虫取り網を持っている。


「KAMI様」


 沢村が身を乗り出す。


「そのお姿は……また何か新しいイベントですか?」


「ご名答!」


 KAMIは悪戯っぽく笑った。


「そろそろ、あなたたちも運任せのクラフトにうんざりしてる頃だと思ってね。

 次のイベントの告知に来たわよ!

 名付けて――『強敵を倒せ! エッセンス・ハンティング!』」


 エッセンス。

 聞き慣れない単語に、四人の指導者が顔を見合わせる。


「概要を説明するわね」


 KAMIは虫取り網を、指揮棒のように振った。


「期間は、イベント開始日から2ヶ月間。

 対象は全ダンジョン。

 期間中、ダンジョン内のあちこちに、青白く結晶化した奇妙なモンスター……『エッセンス・モンスター』が、必ず湧くようになるわ」


 彼女は空中に映像を投影した。


 ダンジョンの通路の真ん中に、氷の彫像のように静止した、青い結晶に覆われたモンスターが立っている。

 その周囲には数本の鎖のような魔力のラインが走り、彼らを現世に縛り付けているように見える。


「この結晶に触れると、封印が解けて襲いかかってくるの。

 こいつを倒せば勝利!

 イベント専用の『ポイント』と、そして新アイテム『エッセンス』をドロップするわ」


「……そのモンスターの強さは?」


 ヴォルコフ将軍が、軍人らしい質問を投げかける。


「F級はそこまで強くないわ。誰でも倒せるレベルね」


 KAMIは言った。


「でもE級、D級、C級と上がるにつれて、難易度は跳ね上がるわよ。

 エッセンス・モンスターは、同ランクのレアモンスターよりも、遥かに高いHPと攻撃力を持ってる。


 前回の『ミストウォーカー』は、大量の雑魚を範囲攻撃でなぎ払うイベントだったけど、今回は逆。

 たった一体の『強敵』を、いかに処理するか。


 だから今回は、範囲攻撃(AoE)よりも、『単体火力シングル・ターゲット・ダメージ』に特化したビルドが輝くはずよ」


「なるほど……」


 九条がメモを取る。


「個の武力が試されるわけですか。

 ボスキラー向けの構成が必要になりますな」


「で、肝心の報酬ですが」


 トンプソンが身を乗り出した。


「その『エッセンス』とは一体何なのですか?

 まさか、また単なる換金アイテムではあるまいな?」


「ふふふ。これこそが、あなたたちの悩みを解決する特効薬よ」


 KAMIは手のひらに、数種類の色とりどりの液体が入った、小瓶のようなアイコンを浮かべた。


「『エッセンス』はね、新しいクラフトアイテムよ。

 効果は単純。

 『ノーマルアイテムをレアアイテム(黄色)にアップグレードする』」


「レア化……ですか。『錬金術のオーブ』と同じでは?」


「違うわ。決定的な違いがあるの」


 KAMIはニヤリと笑った。


「エッセンスを使ってクラフトすると……

 『そのエッセンスに対応した特定の能力(MOD)が、必ず付与される』の」


 「――ッ!?」


 その言葉の意味を理解した瞬間、会議室に電流が走った。


「か、確定付与……ですか!?」


 麻生大臣オブザーバーが、計算高い目をカッと見開いた。


「そうよ。


 例えば『貪欲のエッセンス』を使えば、鎧に『最大ライフ+』が必ず付く。

 『軽蔑のエッセンス』を武器に使えば、『物理攻撃力+』が必ず付く。

 『悲哀のエッセンス』なら、『エナジーシールド(ES)+』が確定」


 彼女は続けた。


「今まで運任せで、何百回リロールしても付かなかった理想の能力が、このエッセンスを使えば一発で付くのよ。

 残りの枠はランダムだけど、少なくとも『一番欲しい能力』だけは確保できる。


 ……どう? これで装備作りが捗るでしょ?」


「……素晴らしい」


 トンプソンが、震える声で言った。


「それは……ギャンブルからの解放だ。

 『計算できる強化』だ。

 軍の装備調達計画が、これでようやくまともに機能する!」


 これまでのクラフトは、完全な運任せだった。

 だがエッセンスがあれば、「最低限この性能は保証される」というベースラインを作ることができる。


「しかも」


 KAMIは補足した。


「エッセンスには『ティア(Tier)』があるわ。

 今回はC級までだから、ドロップするのは『ティア3』相当までね。


 でも、同じティアのエッセンスを3つ集めて合成すれば、1つ上のティアに昇格できるわ。

 F級で落ちる安いエッセンスでも、大量に集めて合成していけば、C級相当、あるいはそれ以上の強力なエッセンスになる。

 上位エッセンスになるほど、取引価格は加速度的に高くなるでしょうね」


「なるほど……」


 九条が頷く。


「初心者でも数を集めれば一攫千金が狙える。

 F級ダンジョンの価値も維持されますな」


「ただし!」


 KAMIは釘を刺した。


「このエッセンスが使えるのは、『ダンジョンでドロップした装備品』だけよ。

 あなたたちが地上で作ったバットとか包丁とか、そういう『地上の物品』には使えないように制限をかけてあるわ」


「えっ? なぜですか?」


 麻生が、残念そうに尋ねる。


「バランス調整よ」


 KAMIは肩をすくめた。


「エッセンスが便利すぎて、既存の『錬金術のオーブ』や『変化のオーブ』が死んじゃったらつまらないでしょ?

 これは、あくまで既存のクラフト環境への『緩和措置』だから。


 地上のアイテムを強化したいなら、今まで通りオーブでギャンブルしなさい」


 なるほどと、全員が納得した。

 既存の経済圏を破壊せず、新たな選択肢を追加する。


「それと、大事なことだけど」


 KAMIは付け加えた。


「このエッセンスモンスター、イベント終了後も湧き続けるようにするわ」


「えっ?」


「ただし、出現率はイベント期間中の『3分の1』くらいに落とすけどね。

 期間限定の祭りじゃなくて、恒常的な『クラフト緩和措置』として定着させてあげる。

 だから、焦らなくても大丈夫よ」


 その言葉に、指導者たちは心底安堵した。

 一時的なバブルではなく、長期的なインフラとして機能する。

 これは国家戦略に組み込める。


「……さて」


 KAMIは、手に持っていた型抜きをパキッと割った。

 綺麗に傘の形が抜けたようだ。


「今回のイベントの『ショップ』についても説明しておくわね。

 今回もダンジョン内で『エッセンスショップ!』と叫べば、交換画面が開く仕様よ。

 いちいちギルドに戻らなくていいから、楽でしょ?」


 彼女は、交換ラインナップを表示した。


「目玉その1。

 『怪我治癒ポーション・改』。

 今回も10,000本限定で用意したわ。


 前回買えなかった人、使い切っちゃった人、転売したい人。

 みんな仲良く争奪戦しなさい」


「おお……!」


 沢村が安堵した。


「定期供給の約束は守られたわけですね。

 これで、医療現場のパニックも少しは収まるでしょう」


「そして……」


 KAMIの声色が急に変わった。

 これまでのゲームの説明をするような軽い調子ではない。

 どこか深淵を覗き込むような、妖しく、そして蠱惑的な響きを帯びていた。


「今回はもう一つ。

 とびっきりの『目玉商品』を用意したわ」


 彼女が指先で空中に描いたのは、一つの指輪のイメージだった。


 それは単純な金の指輪でも、宝石がついた指輪でもなかった。

 一本の白金の線と、一本の黒金の線。

 その二つが互いを求め、絡み合い、そして補い合うかのように、完璧な二重螺旋を描きながら、一つの円環を形成している。


 その表面には継ぎ目が一切存在しない。

 見る者を吸い込むような、完璧な円。


 モニターに、その詳細が表示される。


【アニマとアニムスの円環 (The Circlet of Anima and Animus)】


レアリティ:神話級 (Mythic-tier)

種別:アーティファクト / 変容の指輪


効果:

この指輪を身に着けた者は、自らの魂が持つ二つの側面……すなわち『男性性』と『女性性』を、完全に、そして自在にその肉体へと顕現させることができる。


術者の意志に応じて、その肉体は遺伝子レベルから完全に再構築される。

身長、骨格、声、そして全ての生殖機能に至るまで、その変化は神々の創造の御業と何ら変わるところのない、完璧なものとなる。


この変容は、術者が望む限り維持され、そしてまた、術者が望めば、いつでももう一つの性の姿へと瞬時に回帰することができる。


ただし、この変化は術者の魂の本質を変えるものではなく、あくまでその「器」としての肉体を、もう一つの可能性の姿へと変えるものに過ぎない。


【フレーバーテキスト】

英雄は男の目で世界を断罪し、

聖女は女の心で世界を憂いた。


だが彼らは、その半分の真実しか知ることはない。


この円環を指にはめた者だけが知る。

愛することの本当の意味を。

そして、愛されることの本当の痛みを。


 静寂。


 会議室の時間が止まった。


 四人の初老の男性指導者たちは、その指輪の説明文を読み、そしてその意味を理解しようと脳をフル回転させ、そしてフリーズした。


「……えーと」


 沢村総理が、乾いた笑みを浮かべた。


「つまり……これは……性転換ですか?」


「そうよ」


 KAMIは、こともなげに言った。


「完璧な性転換。

 手術もホルモン剤もいらない。

 指輪をはめて念じるだけで、男は女に、女は男になれる。


 DNAレベルで書き換わるから、子供も作れるわよ?

 元に戻りたければ、また念じればいい。

 完全なリバーシブルよ」


「…………」


 男たちは沈黙した。

 これまでの「強くなる」「速くなる」「死なない」といった、分かりやすい欲望に直結するアイテムとは、あまりにも毛色が違いすぎたからだ。


「……KAMI様」


 トンプソン大統領が、困惑気味に尋ねた。


「失礼ですが……そのアイテムに、ダンジョン攻略上のメリットはあるのですか?

 戦闘力が上がるとか……」


「ないわよ」


 KAMIは即答した。


「ステータス補正はゼロ。

 ただ性別が変わるだけ。

 趣味アイテムね」


「趣味……」


 ヴォルコフ将軍が、呆れたように呟いた。


「そんなもののために、誰が命がけでポイントを貯めるというのだ?」


「あら、分からない?」


 KAMIは、心外だと言わんばかりに眉を上げた。


「あなたたちみたいな権力欲の塊のおじさんには分からないかもしれないけど。


 世界にはね、『自分の性別に違和感を持っている人』とか、『一度でいいから異性になってみたい人』とか、山ほどいるのよ?


 トランスジェンダーの悩みもこれ一つで完全解決。

 あるいは、究極の変装道具としてスパイが欲しがるかもしれないわね」


 スパイ。


 その単語に、王将軍とヴォルコフ将軍の目が鋭くなった。


 確かに。

 性別、骨格、声紋、DNAまで変わるなら、それは完璧な別人への変身だ。

 セキュリティチェックをすり抜け、敵国の懐深くに潜入する……。

 あるいは暗殺後に性別を変えて逃走する。

 防ぎようがない。


「……危険すぎませんか?」


 九条が冷や汗を流した。


「戸籍制度が崩壊します。犯罪者の追跡も不可能になる」


「だから限定品よ」


 KAMIは指を立てた。


「この指輪、全世界で『10個』限定。

 再販の予定は今のところナシ。


 本来まだドロップさせるつもり無かったんだけど、今回のイベントの『超目玉』が欲しくてね」


 10個。


 70億人の中で、たったの10人だけが、この禁断の変身能力を手に入れられる。


「それにね」


 KAMIは、悪魔的な「おまけ」の情報を付け加えた。


「これ、ただ性別が変わるだけじゃないの。


 一応、性転換した後の体は『もう一人の別人格』扱いになるのよ。システム的に」


「……どういうことですか?」


「つまりね。


 男の時のレベルやスキルは、そのまま保存されるけど。

 女になった時の体は『レベル1』からのスタートになるの」


「……は?」


「副産物として、『サブキャラクター』を作れるってことよ!


 今の職業に行き詰まった人が、ステータスをリセットして、一から別のビルドを育て直すことができる。

 しかも元のレベルに戻りたければ、性別を戻せばいつでも戻れる。


 一人の人間が、二つの全く異なる『最強のキャラ』を持てるようになるのよ」


 その説明を聞いた瞬間。

 会議室の空気が、困惑から「戦慄」へと変わった。


 サブキャラクター。

 ステータスのリセット。


 それは、攻略に行き詰まったトップランカーたち、あるいはビルド(職業選び)を失敗して嘆いている探索者たちにとって、喉から手が出るほど欲しい「救済」であり、そして「最強への近道」だった。


「……なるほど」


 麻生大臣が唸った。


「性的な欲望だけではない。

 『やり直し』を求めるゲーマーたちの欲望をも、この指輪は満たすわけか。


 ……恐ろしい値がつきますぞ、これは」


「でしょ?」


 KAMIは満足げに笑った。


「ま、用途は薄いかなーとも思うけど。

 需要次第ね。


 世界中の人間が、この『究極の変身願望』に、どれだけの値を付けるか。


 ……見ものだと思わない?」


 彼女は、ホログラムの指輪を消した。


「じゃ、告知は任せたわよ。


 イベント開始は明日から。


 『強敵』と『確実な強化』、そして『禁断の変身』。

 たっぷりと楽しんでちょうだい」


 KAMIは姿を消した。


 後に残された四人の男たちは、深い沈黙に包まれていた。


 エッセンスによる確実な強化。それは良いニュースだ。

 ポーションの再来。それも良い。


 だが最後の指輪。

 あれは社会をどう変えるのか。


 たった10個とはいえ、その存在がもたらす波紋は計り知れない。


「……とりあえず」


 トンプソンが、疲れたように言った。


「我が国は全力でその指輪を確保しに行く。

 LGBTQ団体からの突き上げが予想されるし、何より……CIAが欲しがるだろう」


「我が国もだ」


 王将軍が頷く。


「工作員に使わせる。

 あるいは……党幹部の『若返り』の一種としても使えるかもしれん」


「日本は……」


 沢村は頭を抱えた。


「性別変更に関する法律の特例措置……また国会が荒れるな……」


 エッセンス・ハンティング。


 それは単なるモンスター狩りではない。


 「自分自身を作り変える」ための、新たな欲望の狩り場となることが確定した瞬間だった。


 ***


 翌日。


 世界中に、イベントの告知が流れた。


『強敵を倒せ! エッセンス・ハンティング開催!』

『確定クラフトアイテム「エッセンス」実装!』

『ポーション1万本再入荷!』


 そして最後に、小さく、しかし異様な存在感を放つ画像と共に。


『限定10個:神話級アーティファクト【アニマとアニムスの円環】』

『効果:完全なる性転換及び第二の人生(レベル1)の開始』


 その情報がネットの海に放たれた瞬間。


 世界はこれまでにない種類の、妖しく、そして熱狂的などよめきに包まれた。


 ある者は、理想の異性になれる夢を見て。

 ある者は、最強のビルドを作り直す夢を見て。

 そしてある者は、誰にも知られずに別人になりすます、闇の夢を見て。


 人々は再びダンジョンへと走り出した。

 新たな「本質エッセンス」を求めて。



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 ニッチとはいえ疑似的な性転換を研究している人はいて女形のように芝居で女性を演じている人は目線や嗜好や所作に女性らしさが出たりするゲームでネカマなんかしている人ものめり込み過ぎると言動に現れる、完全な…
品切がなさそうなリアルハクスラはいいね
KAMI様のイベントに臨む姿勢良いね(笑)トップ自ら衣装チェンジするなんてo(^o^)o
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