表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
賢者の石を手に入れた在宅ワーカーだけど、神様って呼ばれてるっぽい  作者: パラレル・ゲーマー


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

185/277

番外編 断章11話

 ワシントンD.C.ペンシルベニア大通り1600番地。

 かつて世界で最も有名だったその住所は、今や瓦礫と雑草、そして黒い煤に覆われた墓標と化していた。


 ホワイトハウス。アメリカ合衆国大統領官邸。

 その白亜の壁は崩れ落ち、象徴的だった円柱は折れ、屋根には巨大な穴が開いている。

 かつて手入れの行き届いていたローズガーデンは、変異した有毒植物が繁茂するジャングルとなっていた。


「……ひどいもんね」


 KAMIは瓦礫の山となった南庭サウスローンに立ち、腕組みをしてその惨状を見上げていた。

 彼女の背後には、地下壕から出てきたばかりのギャレット大統領代行とミラー、ヴァンス、そしてニューヨークから同行してきたミュータントの指導者ヴィンセントが控えている。


 彼らの表情は一様に暗い。

 この廃墟こそが、彼らの国家の現状そのものだったからだ。


「これじゃあ締まらない」

 KAMIは心底つまらなそうに言った。


「これから世界に向けて『アメリカ復活』を宣言しようって時に、背景が廃墟じゃ恰好がつかないでしょ?

 威厳が足りないわ、威厳が」


「……修復には数年はかかるだろう」

 ギャレットが力なく首を振った。


「資材も人手も重機も足りない。まずは住居の確保が先決だ。

 大統領官邸など後回しでいい」


「ダメよ」

 KAMIは即答した。


「シンボルは大事なの。人間は『形』を見る生き物だから。

 ボロボロのテントから演説する大統領と、輝くホワイトハウスから演説する大統領。

 どっちの言葉を信じると思う?

 ハッタリも実力のうちよ」


 彼女はふわりと空中に舞い上がった。

 そして崩れかけたドームの頂上付近で静止し、両手を広げた。


「――再構築リビルド


 彼女がそう呟いた瞬間、世界が反転した。


 空間に青白いグリッド線が走り、ホワイトハウス全体を包み込む。

 そして、まるで時間を巻き戻すかのように瓦礫が舞い上がり、元の位置へと戻っていく。


 煤けた壁は純白の輝きを取り戻し、折れた柱は修復され、割れた窓ガラスは再生される。

 庭園の有毒植物は光の粒子となって消え去り、代わりに青々とした芝生と色とりどりのバラが、瞬く間に咲き乱れる。


 ゴゴゴゴゴ……!


 地響きと共にホワイトハウスはその威容を取り戻していく。

 いや、ただ元に戻っただけではない。


 壁面には魔法防御のためのルーン文字が刻まれ、窓ガラスは防弾・防魔仕様のクリスタルに、屋根には対空迎撃用の魔導タレットが隠蔽設置された。


 それは「かつてのホワイトハウス」の皮を被った、難攻不落の魔導要塞だった。


「……ななんと……」


 ギャレットは杖を取り落としそうになった。

 目の前で起きた奇跡。五年間の喪失が、たった数分で埋め合わされたのだ。


「はい、完成!」


 KAMIは地上に降り立ち、パンパンと手を払った。


「内装もリフォームしておいたわよ。

 電気、水道、空調完備。ついでに地下には核シェルター直通の転移ゲートと、私の専用ルームも作っておいたわ。

 どう? これなら文句ないでしょ?」


 真っ白に輝くその建物は、灰色の廃墟の街にあってあまりにも異質で、そして神々しいまでの希望の光を放っていた。

 屋上のポールに、魔法で生成された真新しい星条旗が掲げられ、風にはためく。


「……神よ、感謝します」


 ヴァンス中佐が敬礼し、涙を流した。

 それは単なる建物の修復ではない。彼らの「誇り」の修復だった。


「さあ、入るわよ」


 KAMIは唖然とする男たちを促した。


「引越し祝いのパーティーの前に、大事な『作戦会議』をしなきゃいけないんだから」


 修復されたオーバルオフィス(大統領執務室)。

 その重厚なデスクに座ったのは、ギャレット大統領ではない。


 ゴスロリ姿のKAMIだった。


 彼女は革張りの椅子をくるくると回し、デスクの上に足を乗せて(行儀が悪いが誰も注意できない)、部屋に集まった「閣僚」たちを見回した。


 ギャレット大統領(代行から正式に就任することになった)。

 国務長官、国防長官といった地下政府の生き残り。

 フィラデルフィア軍司令官ミラー。

 そしてミュータント代表ヴィンセント。


 人間と異形、旧時代の政治家と新時代の戦士が同席する、奇妙なしかし強力な内閣の発足である。


「さて、大統領」


 KAMIはデスクの上の地球儀を指先で回した。


「これからの話をしましょうか。

 まずは現状確認。


 フィラデルフィア、ピッツバーグ、ニューヨーク、そしてワシントンD.C.。

 この東海岸の主要都市ゴールデン・トライアングルは、私たちの支配下に入ったわ。


 魔列車による物流網も確立しつつある。

 食料と安全は確保された。


 ……で? 次はどうするつもり?」


 ギャレットは咳払いをして答えた。


「当面の目標は、合衆国の再統一だ。

 西海岸、南部、中西部……。各地に孤立している州政府や軍部隊と連絡を取り、連邦政府への帰順を促す。

 そしてアメリカ合衆国の主権と領土を回復する。それが私の使命だ」


「ふーん。ま、優等生な答えね」


 KAMIは地球儀を止めた。


「でも、それじゃ足りないわ」


「足りない?」


「ええ。視座が低すぎるのよ」


 KAMIは立ち上がり、窓の外を指差した。


「アメリカだけ直してどうするの?

 この世界はもっと広いのよ。

 ヨーロッパもアジアもアフリカも。


 世界中がゾンビだらけで、文明が崩壊してるんでしょ?」


 彼女はとんでもないことを、さらりと言ってのけた。


「究極の目標は、アメリカ政府の再建じゃなくて……

 この荒廃した世界をまとめて統治する『世界政府』の樹立よ」


「……せ、世界政府!?」


 国務長官が素っ頓狂な声を上げた。


「馬鹿な! 夢物語にも程がある!

 我々は自国の再建で手一杯なのだぞ!?

 他国のことに構っている余裕など……」


「余裕がないからこそやるのよ」


 KAMIは冷徹に言い放った。


「考えてもみなさい。

 今、まともに機能している政府なんて、地球上にいくつあると思う?

 おそらくここ(アメリカ)だけよ。


 他の国は政府機能なんてとっくに崩壊して、群雄割拠の戦国時代か、あるいは全滅してるかどっちかだわ」


 KAMIは論理を展開した。


「もしアメリカだけ復興しても、周りがゾンビとミュータントだらけじゃ、いつまで経っても脅威は去らないわ。


 それに、私の目的(対価の回収)のためには、世界中のリソースを効率的に集める必要があるの。

 国境だの関税だの領空権だの……そんな面倒な旧時代のルールに縛られてたら、仕事にならないわ」


 彼女は瞳を怪しく輝かせた。


「だから、あなたがたが『世界の警察』……いいえ、『世界の管理者』になるの。


 生存者を保護し、資源を管理し、秩序をもたらす唯一の権力。


 誰も反対なんてしないわよ。

 だって、反対できるような組織なんて、もう残ってないんだから」


「……独裁ということか」


 ギャレットが呻いた。


「民主主義の守護者たるアメリカが、世界を支配する独裁者になれと?」


「『管理』と言ってちょうだい」


 KAMIは笑った。


「それに、誰も不幸にはならないわ。

 飢えた人々に食料を配り、怪我人を治し、安全な寝床を与える。

 その対価として主権と資源を預かるだけ。


 これ以上ないほど人道的で、ウィンウィンな取引じゃない?」


 室内に沈黙が落ちた。


 それは、あまりにも傲慢で帝国主義的な発想だった。

 だが現実を見れば、それ以外の選択肢がないことも事実だった。


 力なき正義は無力だ。

 そして今、圧倒的な力(KAMI)と資源を持っているのは、彼らだけなのだ。


「……分かった」


 ギャレットは、覚悟を決めたように顔を上げた。


「議論の余地はないな。

 世界が地獄である以上、誰かが鬼になって秩序を作らねばならん。

 その役目、アメリカ合衆国が引き受けよう」


「よし! 話が早くて助かるわ!」


 KAMIは手を叩いた。


「大変だけど頑張るわよ!

 まずは手始めに、アメリカ全土の奪還リコンキスタね!」


「作戦はどうする?」


 ミラーが地図を広げる。


「西海岸への遠征軍を編成するか?

 それとも空挺部隊で主要都市を制圧するか?」


「いいえ、違うわ」


 KAMIは首を振った。


「軍隊をあちこちに分散させるのは非効率よ。

 燃料も弾薬もかかるし、補給線が伸びきって危険だわ。


 私がやりたいのは『遠征』じゃない。『集約』よ」


 彼女は地図上のワシントン、ニューヨーク、フィラデルフィア、ピッツバーグの四都市を指で囲んだ。


「このエリアを『絶対安全圏サンクチュアリ』とするわ。

 そしてアメリカ中の生存者に呼びかけるの。

 『ここに来い』って」


「……来させるのか?」


「そう。

 あんた(ギャレット)がアメリカ全土を巡るわけじゃないわよ。

 大統領が先頭切ってゾンビ狩りなんてしてたら、いつか死ぬわ。


 あなたは玉座に座って、どっしりと構えていればいいの」


 KAMIは新しい戦略を提示した。


「魔列車網を拡張して、主要な州都までは線路を繋ぐ。

 でもそこから先は、生存者たちに自力で来てもらう。


 『ワシントンに行けば助かる』『ニューヨークには仕事がある』

 その希望を餌に人を集めるのよ」


「人間が集まれば労働力が生まれる。

 労働力が生まれれば生産力が上がり、さらに街が発展する。


 そうやって、この東海岸エリアを人類復興の巨大な『メガロポリス』にするの。

 他の地域は……まあ、資源採掘の出張所アウトポストくらいでいいわ」


 効率的で冷徹な都市計画。

 地方を見捨て、中央に集約する。


 非情なようだが、限られたリソースで文明を維持するには、それが最適解だった。


「そのためには」


 KAMIはギャレットを指差した。


「あなたの『言葉』が必要よ。

 ただの噂話じゃない。

 アメリカ合衆国大統領による、公式な力強い宣言が」


「……演説か」


「ええ。

 『独立宣言』をするわよ。

 イギリスからの独立じゃない。


 『絶望』からの独立宣言よ」


 KAMIは楽しそうに目を細めた。


「全世界に向けて放送するの。

 アメリカは死んでいない。政府はここにいる。

 そして我々は、世界を救う準備ができたと。


 世界中の生存者がその放送を聞いて涙を流し、希望を持って歩き出す……。


 ふふふ、最高のショーじゃない?

 楽しくなってきたわ!」


 放送の準備は、KAMIの魔術によって瞬く間に整えられた。


 ホワイトハウスの地下通信室。

 そこの機材は全てKAMIによって「魔改造」され、その出力はかつての放送網を遥かに凌駕していた。


 電離層反射、衛星ハッキング、さらにはマナによる思念波の増幅。

 物理的な受信機を持たない者でさえ、夢の中でその声を聞くことができるほどの、超常的な広域放送システム。


「――本番5分前。全システムオールグリーン」

「翻訳魔法起動。全言語同時通訳モードスタンバイ」


 ホワイトハウスのプレスルーム。

 かつて世界中の記者が詰めかけたその場所には、今は無人のカメラと、KAMIが生成した照明機材だけがある。


 演台の前に立つギャレット大統領は、真新しいスーツに身を包み、ヘアメイク(KAMIの魔法)によって地下生活のやつれを感じさせない、威厳ある指導者の顔を取り戻していた。


「……緊張するか? じいさん」


 カメラの横でKAMIが、ポップコーンを食べながら冷やかす。


「……武者震いだ」


 ギャレットは深呼吸をした。


「五年間沈黙していた。

 国民に、世界に詫びねばならん。そして誓わねばならん」


「いい顔よ。

 さあカマしてやりなさい。歴史に残る一世一代の大演説を」


「――3、2、1……オンエア!」


 赤いランプが点灯する。


 ギャレットはカメラのレンズを――その向こうにいる世界中の数億の生存者たちを――まっすぐに見据えた。


『――アメリカ合衆国国民ならびに、全世界の生存者の諸君』


 その声は、ノイズ混じりのラジオから、壊れかけたテレビから、あるいは避難所のスピーカーから、世界中に響き渡った。


 ロンドンの地下鉄跡で震える親子。

 北京の防空壕で身を寄せ合う人々。

 アマゾンの奥地で空を見上げる部族。


 全ての人が、その声を聞いた。


『私はアメリカ合衆国大統領、アーサー・ギャレットである。

 長きにわたる沈黙を破り、今、諸君に告げる。

 アメリカは生きている』


 画面に、復興したホワイトハウス、要塞化されたニューヨーク、そして豊かな物資を積んで走る魔導列車の映像がインサートされる。


『我々は地獄の淵から蘇った。

 我々は未知なる力と強力な同盟者を得て、秩序と繁栄を取り戻した。

 ここには法があり、正義があり、そして何より……明日への希望がある』


 ギャレットの声に、熱がこもる。


『我々は知っている。世界中で多くの人々が今なお、恐怖と飢えに苦しんでいることを。

 無法者が跋扈し、弱き者が虐げられていることを。

 だが、それも今日で終わりだ』


 彼は拳を握りしめた。


『我々は宣言する。

 本日をもって我々は国境を越え、人種を超え、全ての生存者を保護する「地球統一暫定政府」の樹立に向けて行動を開始する!』


『求める者は来たれ。

 我々の元へ集え。

 東海岸の聖域サンクチュアリは、全ての善良なる市民に開かれている。


 武器を捨て、共に働く意志のある者には、パンと安全を約束しよう』


『逆に、秩序を乱す者、弱きを挫く者には警告する。

 我々の目はどこにでも届く。我々のかいなはどこへでも届く。

 神の如き力をもって、悪を討つであろう』


 そして彼は、星条旗を背に最後の言葉を告げた。


『夜明けは来た。

 長い冬は終わり、人類の春が始まるのだ。


 神のご加護があらんことを(God bless you)。

 そして神のご加護が地球にあらんことを(God bless the Earth)』


 放送が終了する。


 数秒の静寂。


 そして世界中の避難所で、歓声が、慟哭が、祈りの声が爆発した。


「……アメリカが! アメリカが助けに来るぞ!」

「世界政府だって!? もう逃げなくていいんだ!」


 絶望に支配されていた世界に、強烈な楔が打ち込まれた瞬間だった。


「――カット! お疲れ様!」


 KAMIが手を叩いた。


「最高だったわよ、大統領。

 アカデミー賞ものね。


 これで世界中の人間が、あなたを『救世主』として崇めるわ」


 ギャレットは演台に手をついて、肩で息をしていた。

 全身びっしょりと汗をかいている。


「……とんでもない大風呂敷を広げてしまったな。

 世界政府だと? 私の代で実現できるとは思えんが」


「いいのよ、夢を見せることが大事なんだから」


 KAMIは窓の外を見た。


 ホワイトハウスの前庭には、放送を聞いて集まってきた兵士や市民たちが星条旗を振って歓声を上げている。


「それに、実現させるのはあなたじゃない。

 あなたの跡を継ぐ者たちと……そして私よ」


 KAMIは、空中に浮かぶシステムウィンドウを確認した。


『対価回収率:0.005%』

『人類生存率:2.1%(上昇傾向)』

『信仰心エネルギー:測定不能(急上昇中)』


「ふふふ……。

 信仰心エネルギーが集まってる。


 この世界の人々は単純で、純粋でいいわね。

 これなら本体への上納分を引いても、かなりのお釣りが出るわ」


 彼女は自分の掌を見つめた。

 そこには世界中から集まった「祈り」の力が、微かな光となって集束している。


「さて、大統領。

 宣言しちゃったからには忙しくなるわよ。


 西からは難民が押し寄せてくるし、海を越えて救助要請が殺到するでしょうね。

 魔列車の増便、農地の拡大、都市の建設……。

 やることは山積みよ」


「ああ。望むところだ」


 ギャレットは力強く顔を上げた。


「退屈な地下室で死ぬより、過労で死ぬ方がマシだ。

 付き合おう、神よ。この国の、いや、この星の最期までな」


「そうこなくっちゃ」


 KAMIはニヤリと笑った。


 廃墟の女神と老いた鷲。

 奇妙なコンビによる世界再建(と搾取)の物語は、ここから本当のスタートを切る。


「次は……そうね。

 カリフォルニアまで線路を伸ばしましょうか。

 ゴールデンゲートブリッジを金ピカに修復してあげるのも一興ね!」


 KAMIの笑い声が、再生されたホワイトハウスに響き渡った。


 人類の黄昏は終わり、神の気まぐれによる新しい、そして騒がしい夜明けが訪れていた。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
過労で死なせてくれると思っててかわいい
グッとくるねぇ。ダンジョンや宇宙開発もいいけど、荒廃したアメリカが舞台はグッとくるんだよなぁ。 フォールアウトが好きなのもあって余計にのめり込んじゃうねぇ。
やっぱりアメリカはゾンビアポカリプスが1番輝くね、
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ